
シャネル 2026年春夏コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight

シャネル 2026年春夏コレクション
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ファッションショーの起源は意外にも古く、その始まりは「オートクチュールの父」シャルル・フレデリック・ウォルト(1825-95年)にまで遡る。ウォルトは初めてハウスモデルを導入し、モデルに着せて作品を提案することで、それまでの注文服の慣習に一石を投じた。この精神は後にプレタポルテへと引き継がれていくが、ここで問いたいのは「ファッションショーは誰のためのものか」という根本的な問いである。
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この原点に立ち返れば、ファッションショーとは本来、デザイナーの創造性を表現する場であり、デザイナー自身のためのものだったと言える。しかし現代においては、その様相が変容していることは、ファッション界の識者にとって明白な事実である。

「COMME des GARÇONS」2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

「COMME des GARÇONS」2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
近年のミラノ、パリファッションウィークでは、BTSやBLACKPINKといったK-POPアイドルをはじめとした著名人がフロントロウを埋め、国内外のメディアがこぞって彼らを撮影し、SNSを通じて瞬時に世界へ配信する光景は既に常態化している。会場外にはアイドルのファンが横断幕を掲げて集結するなど、かつてない熱狂の様相を呈している。
この背景には、従来のメディアやバイヤー向けの閉鎖的なファッションショーでは、一般消費者への訴求力に限界があるという構造的課題があった。事実、コラボレーションなどの商品発表記事と比較して、コレクションレポート記事のページビューは低い。このような状況下で、ブランドのマーケティング担当者が見出した戦略が、著名人を招待し、SNSでの情報拡散を促進すると同時に、彼らの来場自体をメディアに報道させ、話題性を創出するという手法である。
さらに近年、ラグジュアリーブランドにおけるもう一つのトピックが、デザイナーの交代劇だ。大手メゾンは続々とクリエイティブディレクターを入れ替え、「鮮度」を保とうとしており、「グッチ(GUCCI)」のデムナ(Demna)や「シャネル(CHANEL)」のマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)など、2026年春夏ウィメンズシーズンは新ディレクターの話題で盛り上がりをみせた。ただ、ブランドのDNAを深く理解し、それを進化させていくには時間が必要である。短期間で成果を求めることは、デザイナーの創造性を毀損することにもつながる。

バレンシアガ 2026年春夏コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
歴史を振り返れば、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)がシャネルで36年、ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)が自身のブランドで約半世紀にわたり指揮を執ってきた事実がある。彼らの長期的関与があったからこそ、ブランドの哲学は深化し、独自の美学が確立された。だからこそブランドは腰を据え、既存顧客と新規顧客に対する適切なアプローチを熟考すべきである。
販売実績に加え、ソーシャルメディアでの「いいね」の数など、定量化された時代において反響に基づいて評価される傾向は強まっている。クリエイションの評価が高かったにも関わらず、グッチのサバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)がわずか4シーズンで退任することになったことは、その象徴的な出来事と言えるだろう。まだ41歳と若いマチュー・ブレイジーを起用したシャネルはもちろん長期の雇用を考えているだろうが、万が一売り上げが低迷したとしても、腰を据え、10年、20年とクリエイティブディレクターを続けてもらいたいところだ。
つまるところ、現代のラグジュアリーファッション界は、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)が提唱した概念である「ツーリスト(観光客)」と「ピュリスト(純粋主義者)」という二項対立的概念で象徴される状況にある。KOLを活用した戦略はまさにツーリストを集客し、インプレッション数の向上を図る施策と言える。しかしながら、KOLにブランドの服を着てもらい、リーチを拡大させたとしても、ラグジュアリーブランドの高価格設定を鑑みれば、実際の購買行動への転換率については懐疑的にならざるを得ない。むしろ「推し」が着用する映像の視認自体が、一種の消費行為として成立している可能性も考慮すべきである。こうした状況を踏まえ、一部のブランドでは単に話題性を創出する著名人ではなく、実質的な顧客となり得る富裕層のセレブリティをショーに招待する傾向も顕著になりつつある。

ヴァージル・アブロー
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かつて一時的に流行した「シーナウ・バイナウ(see now buy now)」が過去のものとなり、効果的な購買誘導手法が模索される現代において、ラグジュアリーメゾンがショーをブランド価値を毀損しない範囲でのリーチ拡大手段と位置づける理屈には一定の合理性が認められるが、ピュリスト、すなわち本質的なファッション愛好家に対するブランドのアプローチも再考すべき時期に来ているようにも思う。純粋にクリエイションを享受する層は、潜在的には高い購買意欲を有しているはずだからだ。現状パリファッションウィークにおいて、本当の意味でピュリストに向けてファッションショーを開催しているのは「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」社のブランドや「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」などに限られている。
ヴァージル・アブローはツーリストとピュリストの中間地点、あるいは両者の統合を理想としていたが、現代においてファッションショーというフォーマットは、ピュリスト志向からツーリスト志向へと明確にシフトしており、この傾向は今後も続くことが予測される。かつてミウッチャ・プラダやラフ・シモンズが、ジャーナリストによる批評が創造性を研磨する糧になると述べ、またジャーナリズムによって発掘されたマルタン・マルジェラの存在など、欧米のファッションシステムにおいてジャーナリズムは重要な役割を果たしてきた。しかし、インフルエンサーの台頭によりジャーナリストの影響力が相対的に低下する中、限られたショーの招待席をどのように配分するか、ショーを実施する本質的意義を再検討する必要性に迫られている。
そうした中で、今ブランドに最も求められているのは、忍耐と確固たる意思ではないだろうか。SNSの「いいね」数やバズに躍らされることなく、ブランドの本質的価値や長期的ヴィジョンを守る忍耐。そして、デザイナーに十分な時間と創造的自由を与え、真のクリエイションを育む確固たる意思。短期的な話題性や数値に翻弄されず、ブランドの核心を守り抜く強靭さこそが、この混迷の時代における真の差別化要因となるのではないだろうか。業績も好調で、若手デザイナーであるグレース・ウェールズ・ボナー(Grace Wales Bonner)を起用した「エルメス(HERMÈS)」やシャネルのように、独自の道を静かに、しかし力強く歩み続けるブランドの姿勢は、一つの模範となるだろう。

HERMÈS 2026年春夏ウィメンズコレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
また消費者の側も、SNSを通じた瞬間的な快楽に一喜一憂するのではなく、ブランドの本質と向き合う姿勢が肝要である。ファッションが単なる「見せびらかし」の対象や一過性の話題ではなく、文化的価値や美学的深淵を有するものとして再認識されることが、業界全体の健全な発展には不可欠だからだ。消費者一人ひとりが「ツーリスト」から「ピュリスト」へと意識を高め、真のファッション理解を深めることで、業界全体の質的向上が図られるのではないだろうか。
ファッションショーが単なるマーケティングツールとなるのか、あるいは創造性を表現する舞台としての役割を取り戻すのか。同様に、デザイナー交代が表層的な話題性創出の手段になるのか、それともブランドの真の革新を促す戦略的決断たり得るのか。これらの選択は、ファッション産業の将来を左右する重大な岐路と言える。真に価値あるファッションは、一時的な流行や話題性ではなく、デザイナーの情熱と創造性が結実して生まれるものだという原点を、業界全体が再認識すべき時が来ている。セレブリティ文化とデザイナー交代の加速化が進む現代において、ファッションの文化的・芸術的価値を保全し、次世代に継承していくための新たなバランスの模索が、喫緊の課題となっている。
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