AKIRANAKAのアトリエにて
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Fashion インタビュー・対談

【インタビュー】"クリエイションとはリスクを取ること" 創立10年「アキラナカ」が越えるデザイナーズの壁

デザイナー/クリエイティブディレクター 中章(ナカアキラ)
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 「コントラクト(契約)は向こうからやってくるものではない」。複雑な英文書類をまとめ上げ、弁護士を通した上で交渉。ファイナンス、ストラテジー、グローバライズ——「アキラナカ(AKIRANAKA)」を立ち上げた中章(ナカ アキラ)から飛び出す言葉は、デザイナーよりもマネジメント層の方が耳に馴染むだろう。徐々に変わっていったという自身の肩書きはチーフデザイナーからクリエイティブディレクターになり、「クリエイションでリスクを取れる」ビジネス体制のためチームを強化して10年。巨大メゾンと比肩するブランディングには何が必要か?50年以上続くブランドを視野に入れる、アキラナカ流のロジックを聞いた。

【変化が起き始めた前回のインタビュー】デザイナーAKIRA NAKA「デイリーウェアで世界展開へ」(2014年)

中章 AKIRANAKA クリエイティブディレクター:アメリカ滞在中にテーラーと出会いデザインを始める。アントワープ王立芸術アカデミー在学中にイェール国際モードフェスティバルに選出。その後アントワープにおいてニットデザイナーに師事し2006年に帰国。07年「POESIE」をスタート。21_21DESIGN SIGHTでの"ヨーロッパで出会った新人たち展"、ROCKET GALLERYでのエキシビジョン等インスタレーションで発表を開始。2009年春夏シーズンよりレーベル名を「AKIRANAKA」に変更し東京コレクションに参加。同年ベストデビュタントアワード受賞。テキスタイルの豊かさを強みとし、2016年スプリングコレクションより"attitudeを身に纏う"をコンセプトにコレクションを展開。2019年ジョージアのトビリシファッションウィークにゲストデザイナーとして招待されショーを開催。立体裁断による洗練されたシルエットのアイテムや、北欧と日本のハンドニット技術を掛け合わせたクチュールライクなニットなどに定評がある。

このアトリエは、まるで森の中のような環境ですね。

 そうなんです。5年ほど前に東京の羽根木に移りました。今の時期、窓の外は一面の新緑ですね。

5年前のインタビューのアトリエも、三重県の自然に囲まれた場所だったかと。

 のどかな田舎でした。田んぼ道の先の小高い場所にあって。そういえば、夜中に近くの森の奥からお囃子(おはやし)が聴こえてきたことがあったんですよ......あれはなんだったんだろう(笑)。

まるでジブリの世界ですね!

 なので東京でも本当はもっと郊外がよかったんですが、緑に囲まれて静かなここが気に入って。

【2014年のインタビューより】なぜ郊外を理想とするのか?

現在は何名が働いていますか?

 14人です。デザインチームは僕を合わせて4人。その他に、パターンチーム、生産チーム、マネージメント、ファイナンスなど。

今のナカさんのポジションはクリエイティブディレクターなんですね。以前はチーフデザイナーだったかと思いますが。

 変わってきたのは、ここに引っ越した頃からデザインチームがしっかりと機能するようになって、会社がきちんと組織化してからですね。それまでは僕がデザインを全て決め、出てきたアイデアも全て僕が絵にしていました。でも今はそれぞれのチームで動いていて、それぞれの部署にチーフを置いていますから、僕は全体を見てディレクションする立場になっています。

羽根木の森にある一軒家のアトリエ。デザインチームが働く3階の窓のすぐ外は新緑の木々。

 

「クリエイションとはリスクを取ること」

前身のブランド「ポエジー(POESIE)」からブランド名を「アキラナカ」に刷新したのが2009年春夏シーズンでした。それから今年で10年です。

 あっという間ですね。ある程度の規模になったらゆとりが出てくるのかなと思っていたんですが、そんなこともなく(笑)。結局ずっと走り続けていますから。

10年の歩みを振り返ると?

 区切りは特に意識していないんですよ。もちろん服作りとしては10年かけて積み重ねてきたものはあります。同時に課題も山積みですが。ただ、初期のピュアな部分を振り返ることはありますね。初心に返って気付かされることも多いというか。

初心とは?

 音楽だとファーストアルバムって超えるのが難しかったりするじゃないですか。力はついても、だんだんと色々なことを考えながら仕事を進めないといけないから、バイアスが掛かってピュアさがなくなることがある。例えば今、海外に出るとクリエイションについて「あなたが伝えたいことは何なのか」という芯の部分で問われます。しっかりとしたステートメントがあるかどうか。よりピュアな部分が、クライアントが求めていることなんだと感じることがありますね。

初期のアキラナカはどこかストイックで前衛的な作風の印象でした。以前インタビューした2013年からデイリーなプレタポルテにシフトし、2016年春からはさらにクオリティを高めて「attitude(姿勢・態度)を身にまとう」をブランドコンセプトに展開しています。

 "アティチュードをまとう"ということは僕の中で変わらない1つの定義なんです。一貫したリアリティで女性たちが自身を尊重したり、知的な気持ちになれたり。外見のわかりやすさではなく、「これはどういうこと?解いてみよう」と思わせるような内的なものを引き出せたら。

>>AKIRANAKA 2019-20年秋冬コレクション 全ルックを見る

「どう着ようか」と考えさせるほど惹きつける服ってありますね。

 僕は以前、「伝わるから価値なんだ」とよく言っていたんです。伝わらないものは、ただのデザイナーの思想であって、顧客の価値にはならないと。でも、時間をかけて伝わるものもあるんですよね。昔から持っていた服でも、だいぶ経ってから気に入ることもあるじゃないですか。インスタントは果たして親切なのか。もう少し時間をかけてもいいんじゃないかと。

服だけではなく、近年はジュエリーやシューズなど展開を広げています。

 将来的にはトータルで提案したいので、自分たちの求めているものや世界観を作っていく時に、周辺アイテムが必要でした。特にシューズには力を入れていますね。バッグやアイウェアなども展開しているブランドもありますが、僕らは徐々に広げていけたら。

2019-20年秋冬コレクションのシューズ

アキラナカというブランドを言葉で表現すると?

 僕のルーツでもある日本と、ファッションを学んだベルギー。それからリアリティとモダン。でも最近、自分の中で何をもってリアルなのか、本当のモダンはモダンとされないんじゃないか、といった疑問が湧いてきていて。デザイナーはそれぞれのステージで表現すべきものがあるので、キーワードに固執し過ぎるのは違うんじゃないか、とも考えていますね。何かもっと、違うものが求められているというか。

自身の中で変化が起きているんですね。

 その答えを求めるには、作り続けるしかないんですよ。いつも壁ばかりなんですが、課題があるからこそ創作できるのかもしれない。他と比較するよりも、自分たちができなかったことを次にどうクリアするか。マスでコマーシャルといった一般的なビジネスの見方では計れないこと、数字に置き換えられないこともあって、クリエイションとはリスクを取ることだとも感じますね。

リスクを取れるかどうか。

 そう。本当は経営の立場からすると、バランスの取れたブランド運営をしたい。でもデザイナーとしては、そのバランスを壊したいと思ったり(笑)。難しいんですが、クリエイションでリスクを取れる体制を整えたいと思っています。

 

「そんなチームでは勝てない」

近年のデザインだと、肩先が立ち上がった「ピークドショルダージャケット」のシルエットには驚きました。

 これは、新しいショルダーラインを作りたくて。このピークドショルダーのシリーズは、他のタイプだと1型で9回はトワルを含めサンプルを作って試行錯誤しましたね。ジャケットだと他に、ショルダーを首から浮かせたり、首元にパッドを入れてなだらかなラインを作ったり。

様々なショルダーライン(左から)2019年春夏、2018年春夏(ピークドショルダー)、2019年プレスプリング

新しいシルエットはどのようにして生まれますか?

 例えば、年に何回かパターンチームに特別なリサーチに出てもらう課題を設けています。色々なものを見たり新しいことを試しながら、クオリティのアップデートを意識しているんです。

国内の独立したデザイナーズブランドでは珍しく整ったチーム体制なのではないでしょうか。

 まだまだですが、理想には近づいていますね。means(=方法)とgoals(=ゴール、目標)の考え方でいうと、「ここにいこう」というゴールがあった時に、アキラナカというブランドが歩む方法をそれぞれのチームで考えて、僕が舵を取りながらゴールに向かう形です。目標さえ正しければ、少しづつでも成長していけると思っています。

2階で作業するパタンナーが着用しているのがピークドショルダージャケット。作業台の前にも緑が広がっている。

コレクションの制作プロセスは?

 僕が大きなテーマや方向性を打ち出しますが、デザインは4人で進めているので色々なものが混じり合います。それが、うちらしさだと思う。形にしていくパターンチームには「この絵をそのまま作らないで欲しい」と言っていますね。もう一度そこでデザインを練るというか、「こういう形にしたい」というパタンナーの思いが入るべきだと思うんですよ。もちろん僕から指摘などもありますが、彼らにゴールを導き出して欲しいんです。ベテランのパタンナーに難題を突きつけることもありますが、技術を高められると言ってくれていますね。

経営チームとの連携は。

 生産チームとセールス、そしてファイナンスの担当からは、膨大な数字の資料が上がってきます。過去のデータも踏まえて、理想的なMDマップなども上がってくる。それを知らずにクリエイションが進んでいくのと、知って進めるのとでは違うでしょう。当然シリアスな面もありますよ(笑)。だからデザイナーが数字を見すぎると萎縮してしまう、ということを経営の先輩に言われたこともあります。でも僕は、数字をきちんと見て、それでも強い線を描ける人を育てたいんです。でないと、クリエイションなのかコマーシャルなのか、という一本のベクトルでしか計れなくなってしまう。それらを両方から、もっと色々な視点から貫けるように。

窓から自然光が差し込むパタンナーの作業台。

チームによく伝えている言葉はありますか?

 今年だと「融和」ですね。例えば経営チームが出す数字って結構厳しいんです。ゆっくり右往左往していてはとても到達できない。それで直線的に走ろうとするじゃないですか。すると必ず摩擦が起きてくる。良いチームって外的な要素で壊れることはなくて、ほとんどが内的な要素。信頼を失ったりして、壊れてしまう。ロイヤリティーとエンゲージメントは正比例しない場合があって、「会社のために」と自己犠牲の上で業績が伸びても疲弊します。人と人、お互いをリスペクトする姿勢がないといけない。

なんだか「令和」と繋がっていますね。

 そう(笑)、偶然にも「和」なんです。今はまだ急激に大きくするつもりはありませんが、さらに次のステージに向けて成長期が来た時、社員が増えた時に、創業から10年やってきた今のメンバーが作る文化が指針になりますよね。どういうスタンスで、どういった価値観とエンゲージメントを持って働いているか。今それを間違ってしまうと、チームを忖度したり、数字のために部品のように働くスタッフと経営者になってしまうかもしれない。そんな半端なチームでは世界に勝てないでしょう。歴史的メゾンで働くことの喜び、安定的な収入が約束されている例えばディオールのようなところに日本の小さいブランドがぶつかっていこうと思うなら、1つに束ねられなければとても闘えませんから。

チーム体制の強化によって、ビジネス面も安定するようになったのでは。

 アメリカで同時期に勉強していた僕の幼馴染が参画してくれて、経営面も整ってきているかと思います。同じアメリカでも離れた街に住んでいたんですが、当時2人で古着を買い漁っていたんですよ。僕はそれをリメイクするためにテーラーに持っていき、デザインを学び始めた。彼はディーラーで働いて、オークションや貿易の仕事を経て、現地で会社を経営して。古着集めをきっかけに、全く違う方向に進んだんですね。5年ほど前に声を掛けて、彼は大きくなっていた会社を売却して帰国しました。

再び一緒に仕事をすることになったんですね。

 アキラナカでは組織としての動かし方から、独自のシステム作りと効率化、ファイナンス面を見てもらい、金融機関とビジネスプランを共有しながら以前と全く異なるフォーキャストを組んでいます。そのおかげで、僕はもっとクリエイティブ面にフォーカスできるようになりました。

実際に業績にも反映されていますか?

 そうですね。順調にきていて、セールスは1年の拡大ペースとして150%ほど。海外卸が増えてきているので、良いペースで伸ばせたらと考えています。

次のページは>>海外進出は「Do it yourself」?日本の問題点も

 

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