「バルムング(BALMUNG)」が2021年秋冬コレクションをショー形式で発表した。会場に入るとすぐに手渡された正方形の用紙にびっしりと文字が書かれた1枚の紙。アーティスト鈴木操によって書かれた「ファッションの様相についての覚書、BALMUNGからはじまる」と題されたテキストは、以下の様な文章から始まる。
BALMUNGが、現在の複雑なファッション体系を独自に更新する稀有なファッションブランドであることを、語らずにはいられないのです。
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会場は雑居ビルの6階。30人程度の収容がやっとのスペースに入ると、そこには無造作に置かれた「取扱注意」のシールが貼られた段ボールの数々。段ボールの中には、トラックロープ1本と大きさの異なる布が詰め込まれた圧縮袋が複数梱包されていた。ショーが始まると段ボールの中身は、モデルたちの手によってソフト・スカルプチュアへと変貌。鈴木操が手掛けたという彫刻作品は、埴輪のような人の形にも、未知の植物のようにも見える。圧縮袋の中身は生活用品が包まれている布だと、デザイナーHachiは説明する。
「段ボールというモチーフは『解体』『組み立て』という動作を経て『輸送』という形に辿り着きます。輸送された段ボールはその後再び解体され、組み立て直し、新たな場所に輸送する可能性を孕んでいます。段ボールにまつわる一連の動作はすべて地続きでグラデーションの様に感じませんか?僕は、自分が所属しているコミュニティやジャンル、肩書きなどの隔たりもなければ、衣服と身体の間に垣根はないと考えています、既存のモノを規格外の形や、歪なスカルプチャーに変形させることで『物事には垣根ではなくグラデーションが存在するのみ』ということが表現できればと思いました」(Hachi)
今回のショーBGMは「ルヌルヌ(runurunu)」のデザイナー 川邊靖芳が担当。会場にはTwitterのスワイプ音や、iPhoneのビデオ録画音、SMSの受信音など、スマートフォンにまつわる効果音がリミックスされた音楽が鳴り響いた。
鈴木は「ファッションの様相についての覚書、BALMUNGからはじまる」で、『ファッションには「概念のファッション」と「着衣のファッション」が存在し、着衣のファッションは「身体的な着衣」と「彫刻的な着衣」に更に細分化される』と定義。「彫刻的な着衣」を製作したデザイナーの代表例として、フセイン・チャラヤン(Hussein Chalayan)や、アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)、川久保玲、山本耀司らの名前を挙げ『与えられた身体性を排除して製作されたモノが「彫刻的な着衣」である』と結論づけている。ここからは筆者の解釈に過ぎないが、デザイナーが作り出した彫刻的な衣服はデザイナー主導のモノであることに変わりはなく、消費者(着用者)は「デザイナーが考えた最強のデザイン」をただ着させられているに過ぎなかった。そんな中、ストリートスナップの聖地として原宿の街がフォーカスされたのは90年代後半のこと。原宿文化は、スナップやカスタマイズに代表される様な、デザイナーではなく着用者が主体となる実験の場として機能した。消費者が着用したいように服を着ることで、彫刻的な服はデザイナーにも着用者にも従属しない半彫刻的で曖昧な「Greyの衣服(質量としての衣服)」へと変化したのだろう。
バルムング デザイナーのHachi自身は「2000年代のファッション青春感覚みたいなものを、原宿中心に吸収してきた」と自認するように、バルムングと原宿文化の親和性は高い。繰り返しになるが、原宿文化が可能にしたのは、身体的な着衣と彫刻的な着衣の二項対立からの脱却である。その先には「Greyの衣服」が存在するのみ。今回発表されたバルムングの新作は、鍋つかみを彷彿とさせるキルティング素材のグローブや、白いキャンバスの様な装飾品がデザインされたトップスをはじめ、ショートパンツに付属するポケットやリュックなど、モデルの身体からはみ出した大きなアイテムが目立った。圧縮袋で組み立てられたスカルプチャーと、極端なほど大きいアイテムの数々の対比は、ファッションにおける身体性と彫刻性の二項対立や、規定概念からはみ出そうとする意思表明の様にも感じる。
「コンセプトを自分自身で明確に自覚したシーズンになった」と話すHachi。コラージュという手法を用いて圧縮と拡張を繰り返し続けたバルムングは、各シーズンごとに異なるテーマとしてではなく、「Greyの衣服」というブランドとしてのスタイルを積み上げ始めている。
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