IMAGE by: FASHIONSNAP
本来ならば、服のディテールやデザイナーが伝えたいことを代弁するのが私の仕事であるが、自由な言論の場をもらっているという大義名分に甘え、私的な解釈を記録する。今日私は「バルムング(BALMUNG)」のショーを拝見し初期衝動を抑えきれず執筆を進めている。私がとてもシリアスに捉えすぎているのかもしれないが、ファッションショーで心を痛めたのは初めてだ。誤解を恐れずにいうならば、美術館で現代アート・アクティビストアートを見ているようなショックを受けた。
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そう感じたきっかけは、以前から「トー横界隈でBALMUNGっぽいものが流行っている」という噂を耳にし、私は事実確認のため向かうと歌舞伎町でブランドの象徴である身体を包むほどの大きなパーカーに"似た服”を着ている女の子を数名見かけた。さらに決定打はフジテレビドラマ「新宿野戦病院」で、トー横界隈を象徴する女の子が登場するのだが、真似たそれを着ている。テレビドラマというわかりやすさが正義である故にステレオタイプしか映さない特性があっても、模倣されたモノが採用される。そして昨年BALMUNGは、新宿にある「WHITEHOUSE」で新宿や大久保という街の特性をブランドなりに解釈した2024年春夏コレクションを発表と、BALMUNGとトー横界隈に接点ができている。これは一種のムーブメントである。
前情報があった上で本コレクションに戻ると、会場は鉄パイプで作られた二階構造。円形のランウェイをモデルが上下に交差し、観客の間近でモデルが飛び込むという危険性を帯びた緊張感が漂っていた。モデルは寝癖頭で着崩したスタイリング、浮かない表情のまま階段を登り、躊躇いもなく「飛び降りる」よりも「飛び降りちゃった」という少しシリアスな空気感を醸し出していた。浮かない表情、飛び降りる行動で私はトー横界隈で起きているオーバードーズや飛び降り事件とシンクロするパフォーマンスだと感じ取った。また会場とリンクしたテーマ「circle」から「飛び降りる=脱却」と解釈するならば、ポジティブな側面だとより良い環境に変えるための脱却、ネガティブな側面はこの世を去る。どちらにしても、現状から抜け出したい人の「救い」となるような服を提案しているようにも伺える。ブランドのアイコニックなグレーカラーと、いつも以上に鮮やかな生地やグラフィック、それと対象的な迷彩柄やボーダーなど普遍的な生地を混ぜている点においても、着る人の生活空間に入り込みやすいようあえて情報量を多くし、さまざまな事情で脱却または逸脱したいと考えている若者への受け皿を作っているように感じとった。
抜け出したい若者という点においてトー横界隈とリンクするのは、彼・彼女らを不良やヤンチャといった簡単な言葉で片付けられない複雑な家庭環境、親からの暴力、いじめ、売春など狭い環境の悪循環が絡み合った現状から脱却する場所が必要があったのだ。その行き着く先が、コロナパンデミックで大人がいなくなった歌舞伎町の広場である。無論、特殊な生活環境であるものの、新宿に屯する若者のリアルである。
トー横界隈の服装は、BALMUNGが長年継続し進化させてきたクリエイションを大きな資本が搾取するという残念な結果であるものの、デザイナー・ハチ氏は一度この現象を受け入れ新宿で生きる若者のリアルをファッションショーに昇華し、私たちへ伝えているのではないか。
ブランドが長年観察し続けているユースカルチャー、サブカルチャー、若手アーティストをフックアップするというBALMUNGのクリエイションと、ランウェイというモデルの動くなかで「飛び降りる」行為をプラスさせることで昨今東京で起きている現象や人間模様など奥行きをもって捉えることができた。ファッションウィークを世界に発信できる「メインストリーム」だとしっかり理解しているからこそ、ブランドが大切にしているさまざまなカルチャーと東京ならではの土着的なリアルを全て詰め込んだものと察する。
またBALMUNGのクリエイションはインターネットやアニメ、ゲーム、現代アーティスト、ストリートカルチャー、さまざまな要素の集合体であるため特殊かつ複雑である。故に唯一無二の存在感を放っているが、時を経て、影響力に感づいた企業が旨味だけ模倣し経済力のない若者にも届くということは、ある種ブランドの遺伝子が受け継がれるという意味において「ムーブメントの先駆者」だと我々は認識すべきであろう
私は日本の社会構造や現象は記録として残しておくべきだと考えており、ファッションと結びつきがあるのならなおのこと。今回はトー横界隈とBALMUNGを少しの接点から手繰り寄せて少々強引に紐付けたが、現在どういう特性を持った人間が、どのような環境にいてどういう生活をしているのか、またどんな服を着ていてどんな服を当事者に提案したいか、という問題提示することも重要なポイントだと私は感じている。
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