
温泉宿の浴場で見かけることも多い“馬油コスメ”。植物由来のアイテムが“市民権”を得る市場で、昔ながらの動物性素材というイメージがありながらも、@cosmeでは代表格の「ソンバーユ」に1万件を超えるクチコミが集まり、2007年にはベストコスメアワードで殿堂入りを果たしたロングセラーでもある。顔、体、髪に使えるマルチユース性やシンプルな処方は、美容トレンドとも好相性。馬油コスメが世代を超えて支持される理由を、美容プラットフォームの@cosmeと、モノづくりのソンバーユに聞くとともに、歴史や製法、クチコミ傾向からひも解く。
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クチコミ1万件超え ベスコス殿堂入りの“馬油コスメ”

Image by: FASHIONSNAP
@cosmeを運営するアイスタイルのリサーチプランナーの原田彩子氏は、「特に注目度が高いのは、馬油コスメの先駆者である『ソンバーユ』で、現在クチコミが1万件を超えています。@cosmeベストコスメアワードでも、2007年に見事殿堂入りを果たしました」と話す。まだSNSが存在しなかった2000年代に、コスメ好きの人々が“有名ブランドではない知る人ぞ知る名品”や“意外な使い方のテクニック”を、こぞってクチコミしており、その代表例の1つが、馬油コスメだったという。

馬油は融点が低く、固形のバームも体温でなめらかにとろけていく。出典/薬師堂
固形タイプの馬油は、「オイルでありながらも浸透感に優れている」点が評価されていたことに加え、「洗顔後すぐに馬油を使ってから化粧水を重ねると、化粧水の浸透がよくなる」という、ブースター的な使い方も話題を集めていた。
「今ほど導入美容液が一般的ではない時代ですから、意外性があったのでしょう。加えて、コスパに優れていたことも、支持された理由の1つと言えます。現在でも20代から50代まで、幅広い年代からクチコミが寄せられています」(原田氏)。
肌なじみの秘密は、人の皮脂と似ているため
馬油に対して「オイルなのに肌なじみがよい」「ベタつかず浸透していく」という声が寄せられる理由は、ヒトの皮脂中にある脂肪酸と馬油の脂肪酸の組成が似ているためだ。

薬師堂が分析した、馬油とヒトの皮脂の脂肪酸組成の比較。出典/薬師堂
@cosmeから、馬油コスメの先駆者として名前が挙がった、ソンバーユの開発元である薬師堂の高橋光晴氏は、「馬油の脂肪酸にはオレイン酸や、必須脂肪酸の1種であるα-リノレン酸など、複数のオイル成分が含まれています。その組成のバランスが、ヒトの脂肪酸組成と似通っていることが、肌との親和性に優れる理由です」と説明。
ソンバーユでは、馬油が持つベストなバランスを維持するため、独自の製法を採用。原料となる馬の油を蒸気で溶かし、不純物を除去したオイルを、約2年間かけて専用のタンクで熟成するというものだ。
ソンバーユの加工過程

(1)冷凍された新鮮な状態の馬の油脂をミンチ状に挽き、加熱して溶かす。

(2)不純物を取り除いてろ過すると、澄んだ琥珀色のオイルになる。

(3)オイルを専用タンクで約2年間静置すると、自然と液体状と固形状に分離する。

(4)人の手で丁寧に取り分ける作業を、何度も繰り返す。
「温度をコントロールして、機械的に短期間で成分を分離する方法もありますが、そうすると脂肪酸の組成が変わってしまうんです。肌なじみや浸透感にこだわった結果、あえて時間をかけて自然に分離する方法を採用しています」。自然分離した固体と液体は、脂肪酸の組成自体に違いはなく、テクスチャーの好みやシーズンに合わせて使うことができる。
馬油の起源は、紀元前の騎馬民族?
そんな馬油の起源は、一説によると紀元前の中国の騎馬民族までさかのぼるという。5~6世紀ごろに中国で記された薬学書「名医別録(めいいべつろく)」には、「馬の油は髪を生ず」と記述されている。また、16世紀ごろに記された中国の著名な薬学書「本草綱目(ほんぞうこうもく)」にも、シミ・ソバカス、肌荒れ、筋肉の痙攣に対する、馬の油の効能が記されている。


16世紀に李時珍(りじちん)によって編纂された「本草綱目」は、医学・薬学だけでなく、植物学や動物学においても後世に影響を与えた。出典/『(重刊)本草綱目 52巻 (序目・図・巻1-52)』(京都大学附属図書館所蔵)部分
高橋氏は、「日本においても、馬は古くから農耕や移動の手段として、重要な役割を担っていました。馬の大きさは時代や品種によって異なりますが、貴重な資源であった馬は、その寿命が尽きた後も肉を食用にしたり、油をさまざまな用途に活用したりするなど、命を余すことなく生かしていたと考えられます」と話す。
福岡の筑紫地域では、もともと馬肉を食用とする習慣があり、馬油はやけどやケガの手当てに用いられていたという。実は薬師堂の創業者も、大やけどに対して馬油を用いたことが、馬油の研究を始めるきっかけだった。
「現在、当社で使用する原料は食用馬の油脂であり、食品グレードの素材をスキンケアに応用しています。それまで廃棄していた馬の油を、余すところなく活用することも、我々が大切にしていることの1つです」(高橋氏)。
「シンプルケア」&「マルチユース」馬油は近年の美容トレンドにも合致!
ソンバーユの誕生から38年、@cosmeベストコスメアワードで殿堂入りを果たしてから19年、ロングセラーの馬油コスメは、世代を超えて受け継がれている。原田氏は、「“母と一緒に使っています”という若年層のコメントもあり、世代を問わずリピート率も高い傾向にあります。個人的に、馬油は“現在の美容トレンド”とも合っていると感じています」と説明する。
近年は物価高の影響もあり、生活者の間でコスメの購入を厳選する動きがあるそう。1品で何役もこなす「マルチユースなコスメ」や「アレンジ幅が広いコスメ」への注目度が高まっており、まさに馬油はこのトレンドに合うコスメといえそうだ。

なめらかで伸びのよい馬油は、顔の保湿だけでなく、ボディやヘアケアにも使える。出典/北海道純馬油本舗
「デパコスに比べて手の届きやすい価格帯なので、SNSで気軽に情報をシェアできるのも利点でしょう。さらに、若年層の間に広がる“シンプルケア回帰”の潮流とも親和性があります。化粧品の高機能化が進み、成分も盛りだくさんな中で、“本当に必要なものだけを配合したコスメ”を求める人が増えています」(原田氏)。ロングセラーのリバイバルブームもあり、馬油がさらに注目を集める日が訪れるかもしれない。後編では、そんな馬油コスメの名品を編集部がセレクト。シンプルかつ長年愛されるアイテムを紹介する。
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