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ビューティ研究員「美をつくる人」 美容師免許も持つ、自立式スパチュラ格納容器を開発した資生堂・小橋佳彦の場合

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ビューティ研究員「美をつくる人」 美容師免許も持つ、自立式スパチュラ格納容器を開発した資生堂・小橋佳彦の場合

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 普段あまりスポットが当たることのない、化粧品開発の裏で奮闘する研究員にフォーカスするインタビュー連載。第3回は、自立式スパチュラ格納容器を開発した資生堂ブランド価値開発研究所で化粧品容器の研究開発に携わる小橋佳彦氏。クリームやジャータイプのクリームファンデーションなどの容器に付いてくるスパチュラは便利だが、その一方でマイナス面も。「保管の仕方がわからない」「いつの間にか紛失している」といった声も多く、モヤモヤしながら使っているという人もいるのでは?そんな消費者の“悩み”を解決する、自立式スパチュラ格納容器を開発、9月21日にベネフィーク リュクス リブルームナイトクリーム(医薬部外品)として発売した。化粧品容器の歴史を大きく変えてしまうかもしれない、その開発の指揮をとった小橋氏とはどんな人物なのか?実は美容師免許も持つという、小橋さんに迫ったーー。

小橋佳彦(資生堂ブランド価値開発研究所)
石川県出身。高等専門学校卒業後、宇都宮大学で修士課程修了後、医療機器メーカーと文具メーカーでの開発を経て、2017年に資生堂に入社。容器の新規開発に従事する。

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小学校の夏休みの自由研究は、毎年「からくり貯金箱」

ーまず幼少期についてお聞きしたく、どんな子どもだったのでしょうか?小学生のころからモノ作りは好きでしたか?

 はい、壁にNHKの教育テレビに出てくるような、“ピタゴラスイッチ”とかを作って飾っていました。小学生の夏休みの自由研究は、毎年「からくり貯金箱」を作っていて。高学年になるにつれ、自分なりの高度な技術も採り入れたりしてました。友達や友達の親御さんから、「今年はどんなの作るの?」って期待されたりしてましたね(笑)。

ー例えば、小学校高学年ではどんな貯金箱を作ったんですか?どのような仕掛けを?

 木と釘とダンボールを使った貯金箱で1つの入り口から、10円、50円、100円と硬貨別に振り分けられて出てくるんです。これで賞ももらったんですよ。

ー小学生でそれを作ったとはすごいですね!そのまま高校、大学でもモノ作りに没頭したのですか?

 モノ作りは好きでしたね。高専に進学し、その後、大学・大学院と機械科、主に設計の勉強をしていました。完成形をイメージしてモノを作ったり、構造を一から作るというのが好きなんです。今、思い返すと幼いころにすでに自分のやりたいことが何となく決まっていたような気もします。勉強に明け暮れる日々、と言いたいところですが、普通に部活もしていました。

ー部活は当然モノ作り系ですか?

 いえ、野球部です(笑)。体を動かすのが好きだったので、結構真面目にやっていました。自分で言うのもなんですが、足も速いほうでしたし。

社会人になってから夜間で美容専門学校に

ー化学系の人は体育は苦手って勝手なイメージがありましたが、運動も得意だったんですね。そうなると他にも何かハマったこと、特技があったりしませんか?

 特技というわけではありませんが、高校生の時は友人の髪を切っていました。もちろんお遊び的に切っていたのですが、完成形をイメージしながら(髪を)切っていくのが楽しかったんですよね。仕上がりもそこそこ良かったので、友人から頼まれることが多かったです。大学生のころは、友人の知り合いの髪も切っていたこともありました。余談ですが、今後何かの役に立つかもしれないと社会人になってから仕事と並行して夜間の美容学校に行って美容師免許も取得しているんですよ。好きなことにはとことんハマってしまうのかもしれません。

ー美容師免許持ってるんですか!それはちょっとびっくりです。卒業後の進路についてはすぐに決まりましたか?

 子どものころからの「モノ作り好き」がブレることはありませんでした。大学・大学院で担当してくださった教授が医療系やバイオメーカー研究に強かったということもあり、自然とその道で働くことになるだろうと感じていましたし。なので卒業後に就職したのは医療機器メーカーで、5年ほど働きました。

ー医療機器メーカー、それはとても難しそうな響きです。

 医療機器メーカーの仕事ってある意味、プロ仕様なんですよね。病院や専門施設で高度な技術が求められるんです。それはそれで働き甲斐はありましたが、その一方で、コンシューマー向けのモノ作りをしてみたいという気持ちがフツフツとわいてきたんです。それで退職しました。

ーそれで次はどこにいかれたのですか?

 文具メーカーに転職しました。

ー医療系から文具メーカーとは思い切った選択ですね。ジャンルが真逆のように感じますが、どのような仕事をされていたのでしょうか?

 医療機器メーカーでも文具メーカーでも設計士のやることは基本、変わりません。ターゲットと作るモノが異なるくらいで、設計理論や構造自体はそれほど変わらないんです。だから、180度別世界に来たわけでもないんです。ただかなりコンシューマーに寄り添うことになったことは大きく違いますね。

文具メーカーで「テープのり」を開発

ー文具メーカーでは何を設計していたのでしょうか?

 いろいろな文具の開発を担当しましたが、中でも「テープのり」の開発を担当することが多かったです。今でも店頭で見かけると、嬉しいですよ。お客さまの声を元に、もっと機能的にもっと便利なモノを追い求めていたと思います。

ー資生堂への転職はいつごろですか? きっかけは何だったのでしょうか?

 文具メーカーで経験を積み重ね、さらなる高みを目指したくなったんです。設計士という仕事がどこまで通用するか、他業種で挑戦したいと考えるようになって。そんな矢先に化粧品が目に止まったんです。化粧品の容器ってポテンシャルが高く、「もっと良いものができるんじゃないか」と感じたんですよね。これが転職のきっかけだったと思います。

資生堂入社後の試練…

ー今までのキャリアを考えると、すぐに大きな仕事を任された感じがします。

 資生堂に入社したのは2017年。もちろん、化粧品業界は初めてです。そのころは化粧品のことを何も知らなかったので、生意気だったと思います…。「ひと花咲かせてやろう!」と息巻いていました。でも、そんな簡単な話ではありませんでした。皆さんの想像通り、その後、ボコボコに打ちのめされるんですけどね(笑)。入社してから3年ほどの間は結果を出せず、正直、苦しかったです。この業界の難しさを痛感しました。

ー化粧品業界の難しさ。外から見て思っていたことと、実際に中の人になってからの違いは何だったのでしょうか?

 今までの仕事内容と圧倒的な違いというのがあって、化粧品容器は「機能」が全面に立ってはいけないんです。主役はあくまでも「中味」なんですよ。容器は中味を守るためのもの。密封性がしっかりしていることが大前提なんです。

ー確かに。安全·安心あっての化粧品ですからね。

 そうなんです。中味の品質を守ること、そのための容器なんだって。また、香りやデザインなど五感を大切にすることも化粧品では求められていて、ある意味、メカメカしいモノもNGなんです。前職の文具メーカーは使い勝手や機能性を形にして表現していたので、当初はこの差に驚きました。そもそものスタンスが違うんですよね。

ー社内にはデザイナーさんもいらっしゃいますよね? 設計士とデザイナーの仕事の違いは何でしょうか?

 ざっくりとですが、僕たち設計士は容器の構造を考える人で、デザイナーはその容器のデザインをする人という感じです。例えば、化粧水やクリームなど限定パッケージが登場しますよね。容器自体の変更がなければ僕たちの出番はなく、デザイナーの仕事になります。新ブランドなどの新規事業やサステナブルへの取り組みで容器自体を見直す場合には、設計士とデザイナーの共創になります。

ー今回の新しい容器の開発経緯についても教えてください。自立式スパチュラの容器を開発しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

 入社してから3年間、デザイナーの方と幾度ぶつかったことでしょうか(笑)。意見が合わず、何度も何度もぶつかりましたから。すっごく良いものが作れる、そのアイデア、設計はできるのに、デザイン的には違うとなる。その良さを全面に出しても作れないなんて、「一体、何をすればいいんだ?」と。「どうして(自分の)意見が通らないんだろう」とモヤモヤする日が続きました。

ー転職につきまとうジレンマ、しかも根本的にやることは同じでも、異業種であるために実は考え方が違う。そのモヤモヤも大きかったのですね。

 不思議なことにその時に冷静になれた自分がいたのは良かったと思います。意見が通らないのはツラかったけど、どうしたら通るのか考え直す必要もあるのではないかと。そこで、打ち合わせの時に何度も出ていた「化粧品らしさ」についてもう一度、考え直してみようと、既存商品を一から見直してみることにしたんです。

大事なのは「使って楽しいこと」

ー何か、気づいたことはありましたか?

 自分で試したり、友人や知人の声を聞いてみて感じたのは、化粧品って「中味も大事だけど、使っていて楽しくなければ手に取らない」ということだったんです。使い勝手の良さや心地よさをお手入れする楽しさに結びつける、そのひとつに容器もあるんだってこと。皆さんの悩みやもっとこうしてほしいというニーズ、楽しいと思ってもらえること、それを形にすることで、新たな価値を生み出すことはできないかな、と。そこで生まれたのが自立式スパチュラの容器でした。

ースパチュラに着目した理由を教えてください。

 実は誰もが感じているのではないかと思いますが、スパチュラって気づくと無くなっているんですよね。実際、口コミサイトなどでもスパチュラについての声は多数ありました。スパチュラの取り付け・取り外しの操作は正直、面倒と感じている人も多いと思います。この操作数を少なくすれば使い勝手は格段によくなり、同時にお手入れも楽しくなるだろうな、と考えたのです。

ースパチュラの不便さは実際感じていました。衛生面も気になるアイテムなので、ものすごく興味深いですね。

 使い勝手がよくなるためにはどうしたらいいのか。それで考えたのは、スパチュラの保管の仕方でした。まずは、すぐ使える自立式の状態であること。もうひとつは、立てた状態で容器の中に収められること、でした。

ー実際、完成するまでにどれくらいの時間がかかりましたか? 

 構想自体は2020年には提案していました。それから半年くらいの間で試作を作りながら完成形を目指した感じですね。

スパチュラ内蔵で容器の構造を変更

ー苦労したところは?

 何よりも容器全体の構造を大幅に変更する必要がありました。スパチュラを立てた状態で密封するには、中味の容器の位置を変更しなければならなかったのです。通常、中味を入れる内側の容器は真ん中に配置されていますが、これだと蓋を閉めた時にスパチュラが蓋の内側に当ってしまうんです。さらには中味容器の中心が外側の蓋の中心とズレているため、密閉できないということがわかり、「さて、困ったぞ」と(笑)。

ー素人の考えだと、入れるスペースを作るだけのように思いますが、スパチュラを立てて格納することって大変なことなんですね。

 簡単だったら他社さんもやっていますよね。今までこういう容器が世の中に生まれていないのですから、そんな簡単なことではないな、とは感じていました。だからこそ、やりがいもあったのですが。

ー新しく開発したのは「自動回転制御メカニズム」ですね。素人でもわかる内容でご説明いただけますか?

 蓋の内側に搭載した「自動回転制御メカニズム」は格納したスパチュラが蓋の上部に触れることなく、中味を密閉・保存できる機能です。蓋を閉める水平方向の回転動作に合わせて内部のパーツも同時に水平方向に回転するのですが……まぁ、簡単にいうと、内側の蓋が所定の位置になるとパーツの回転が止まり、ストンと蓋全体が落ちて密閉するという仕組みです。その一方で外側の蓋はそのまま回転しつづけ、最後は容器全体を閉めることに。外側と内側の蓋の役割を明確にし、ひとつにまとめた感じですね。

スパチュラは「長さ」にこだわり

ースパチュラについて工夫したことはありますか?

 スパチュラにおいても、いろいろな課題がありました。例えば、スパチュラの「長さ」。短すぎると使い勝手が悪く、容器の中に落ち込んじゃうし、長すぎると容器に収まらないため、スタンドからちょっとだけ頭が出て、つまみやすい長さに調整しました。他にも、スパチュラがしっかりと自立できるように底部分に受け皿を設けて、グラつきを無くしたり…容器の中を見ることはないですが、実は細かな仕事をしているんですよ。

ーデザイン的に、中にスパチュラが納められているようには思わない、スッキリしている印象です。

 もちろん、見た目の美しさを損なわないことは注力したことです。普通に考えると、内蔵すると、その分、横に膨れたり縦に大きくなったり、ボリューム感が出てしまいます。その数ミリ単位で少しずつ変更して今の形になりました。

ー一つひとつクリアしていくことでスムーズな仕様が可能に。まさに機能性とデザイン性を両立させた容器ですね。

 スパチュラを清潔に保管できますし、何よりもスパチュラを紛失してしまうこともなくなりますからね(笑)。社内でも「便利すぎてもう手放せない!」と嬉しい声をいただきました。ストレスなく使い続けられるって実はすごいことで、その開発に携えたことは嬉しかったですね。自分で悩んで答えを求め続けた結果、「化粧品らしさ」を理解できたのかな、と。この容器は自分にとっても価値のあるものだったと実感しています。

今回開発したスパチュラ自立格納容器は、9月21日に発売された「ベネフィーク リュクス リブルームナイトクリーム」に活用

Imaged by 資生堂

ーでは最後に、今後の展望についてお聞かせください。

 今回の容器の開発は、他の美容用具にも応用が可能なんです。もっと便利に、もっと機能的に、化粧品業界を容器から盛り上げていきたいですね。ユーザビリティを追求したモノ作りはこれからも続けていこうと思います。

(文:長谷川真弓、企画・編集:福崎明子)

美容エディター・ライター

長谷川真弓

編集プロダクションを経て、広告代理店で化粧品メーカーの営業を7年半担当。化粧品のおもしろさに目覚め、2009年INFASパブリケーションズに入社。美容週刊紙「WWDビューティ」の編集を担当し、2014年にフリーに転身。ビューティにまつわるヒト・コト・モノを精力的に取材している。

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