CELINE 10 WOMEN WINTER 21ムービーより
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Fashion注目コレクション

おとぎ話なエディ文学で綴る「セリーヌ」ウィメンズ2021年ウィンターコレクション

 「パラード(PARADE)」の謎解きは、残酷なる仏文学のテーゼ。“芸術に最も近いデザイナー”と称されるエディ・スリマン(Hedi Slimane)から、これほどまでに難解かつ深淵をえぐるインスピレーションを投げ掛けられたシーズンは、過去に例を見ない。

 希望とクラフツマンシップへの誇りがメッセージとして込められた件の最新コレクションは、「Fairy Tale(おとぎ話)」と表現されている。

 ゼロ年代の初期、編集記者の松方弘子は「一生懸命」よりも「一所懸命」のほうが意味合いが深いと校正していたが、おとぎ話な本コレクションを読み解くには、服飾・文学・政治・叡智、どれか一ヵ所のみの見識では到底足りないのだ。

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 19世紀末、ロマン主義を経て(故にロマンティックなるコトバは使わず)高踏派から象徴主義へと行き着いたフランス近代文学と「セリーヌ(CELINE)」2021年ウィンターコレクション(10 WOMEN WINTER 21)との邂逅~などと自己満足に筆を進めてしまえば、世俗媒体として記事は無価値極まるだろう。が、エリート養成所のパリ政治学院とルーブル美術学校を卒業した高等遊民、エディの脳内に近付きたいならば、上田敏の訳詩集「海潮音」(1905)ぐらいの義務教育は思い出しておいて損はない。逆に言うならば、ファッションではその程度の理解力で十分だ。

 これは、読み解けるか否か、エディからファッションジャーナリズムへの挑戦なのだ。公式リリースにあるから仕方がないのだ。ただ1点、「PARADE」のテーマから9つ(正確には11)のフレグランスシリーズに思いを馳せてしまったならば、それは三毛猫ホームズ並みに偶によって満ちた手掛かりになる。学者よりも編集者よりも、「セリーヌ」ファンのほうが偉い。

10 WOMEN WINTER 21

 ざっと海外ウェブ媒体を見渡しても、出典情報以外は無邪気にシャネルジャケットがどうのこうのと綴られているだけで、テーマ性と詩歌に言及している媒体は皆無である。むしろシャネルジャケット云々に言及する掟破りにこそ驚くが、編集者としては限界灘なカテゴリであることは明らか。

 そう、エディが「セリーヌ」で手掛けた過去9回のコレクションショーでは置かれることがなかった補足情報として、2021年冬コレのテーマであり命題でもある「PARADE」には3つの副題、端的に言うと気分、具体的には19世紀後半のフランス近代文学の旗手による3篇の「詩歌」がオフィシャルに付随しているのだった。

 今更ながら、2020年2月にフィジカル開催された2020年ウィンターコレクションはウィメンズとメンズの合同型式だったことを思い出した。1年後はセパレートし、双方ともに人文学にテーマ性を寄せてきたエディ。おそらく、興味のタガが外れた映像表現でのコレクション発表において、彼の世界観に勝るデザイナーはいないだろう。

セリーヌ オム

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10 WOMEN WINTER 21

 さて、4月14日に全世界にライブ配信されたウィメンズの「セリーヌ」2021年ウィンターコレクションの舞台は、パリ南東に位置するヴォー=ル=ヴィコント城が保有する広大な庭園の敷地内だった。今や暗黒大陸への手引き書のようにさえ思える「地球の歩き方」によると、17世紀フランスバロック庭園の傑作とのこと。

 そもそも副題となる3篇の詩歌こそがぶっ飛んでおり、ジャーナリスティックな考察飛躍は語るに落ちるだけかもしれない。変形ブラトップを触媒にエルボーパッチ付きツイードジャケットとアンクル丈のストーンウォッシュデニムを絡めたファーストルックを説明するよりも、韻律の美しさが際立つ詩歌の日本語訳がありさえすれば、デザイナーの気分を語るうえでは十分なのである。

"SON REGARD EST PAREIL AU REGARD DES STATUES.
"PAUL VERLAINE
MON REVE FAMILIER

"MA JEUNESSE NE FUT QU’UN TENEBREUX ORAGE, TRAVERSE
CA ET LA PAR DE BRILLANTS SOLEILS."
CHARLES BAUDELAIRE
L’ENNEMI

"J’AI SEUL LA CLEF DE CETTE PARADE SAUVAGE."
ARTHUR RIMBAUD
PARADE

10 WOMEN WINTER 21

「SON REGARD EST PAREIL AU REGARD DES STATUES.」(PAUL VERLAINE:「MON REVE FAMILIER」)

意訳:その眼差しはさも彫刻のようであった/「よく見る夢」より/ポール・ヴェルレーヌ(1844~1896年)

 フランス人アーティストのレジーナ・デミナ(Regina Demina)が奏でる「UN DAYDREAM」に乗せて。“SON”は“彼女の”でもあり“彼の”とも解釈できる。

 コレクションムービーのキッカケに発露を見出したその彫刻美は、文学的背景と思想的ダイナミズムをも巻き込んだ思想的コレクションのエントランスとして機能する。半面、ランウェイに登場するアイテムはどれもがリアリティに満ちたもの。そのギャップは表面張力ギリギリの安定感だ。

 日本における能面のごとく無表情になった女性美は、過去の遺物とさえ言えるマスキュリンやフェミニンら片方向の常套句を善しとしない。セクシー文脈で語られるはずのカットオフされたブラトップの隙や抜け感は、肩や脇腹に限られ、ヘソさえ見せず抵抗感は少ない。シックスパックにすら陥らぬ、無頓着な肌の露出は、ユニークなデザインインナーへと帰結。春夏に続き人気を博すだろう。死語となったボーイフレンドデニムを軽く凌駕する土管シルエットの存在感にも注目したい。

 ちなみにヴェルレーヌの「よく見る夢」とは、破滅的な生涯を送ることになる前哨戦、1866年に上梓された現代高踏詩集(Le Parnasse contemporain)に寄稿した7篇のうちの1つだ。10代の頃は次に紹介するシャルル・ボードレールの「悪の華」を乱読していたというヴェルレーヌ、これまた次の次に紹介するアルチュール・ランボーとの実年期での共同生活でも悪名高い。

10 WOMEN WINTER 21

「MA JEUNESSE NE FUT QU’UN TENEBREUX ORAGE, TRAVERSE CA ET LA PAR DE BRILLANTS SOLEILS.」(CHARLES BAUDELAIRE:「L'ENNEMI」)

意訳:私の青春は暗い嵐のようなものだった。時に一筋の太陽が差し込みはしたが。/「仇敵」より/シャルル・ボードレール(1821~1867年)

 これぞ象徴主義詩の始まり。詩人の生誕から死までを退廃的かつ官能的に表現する、ボードレール唯一の韻文詩集「悪の華(Les Fleurs du mal)」より。「苦しや!時が命を食いつぶす」の結びも有名だ。

 科学の発展の陰で振り子のように精神世界への関心が高まり、フロイトやユングが脚光を浴びた19世紀中頃。目に見えない精神的世界を表現しようとした象徴主義は、心の抒情性を批判の焦点へと解放した。ファッションにおいて、この詩は青春を蔑ろにされ袋小路となった禍々しき時代を書き殴ったかのようでもある。退廃美と反逆への情熱は、それらデカダンに通ずる進撃のパワールックへと昇華した。

 コレクションは全体的に、オフバランスの妙をキャップで締めた前夏を踏襲しつつ、秋冬ならではのアイテムバリエーションが増えた。ビッグシルエットのヘリンボーンコート、カバーオール、トレンチ、ミリタリーモチーフ、ボアジャケット、タキシードのパンツスーツなど、アウターのラインナップはメンズ畑からエッセンスを抽出している。編み上げブーツやベコスブーツ、無骨なビットローファーまで登場し、どちらかというと2月に発表されたメンズのほうが柔和な印象さえある。

 90年代グランジを浅く広く反映しつつ、スタイリングは商品の組み合わせによる至ってミニマルなものであり、視覚的に物欲を喚起するワザは、さすがエディだ。見逃してはいけないアイテムとして、上下のオフバランスを更にアンバランスに補った、前夏からトレンドになりつつあるマイクロアクセサリーを改めて強調しておきたい。セクシャルなムードを縦横無人に闊歩するエディ文学、その行間を埋めていた。

10 WOMEN WINTER 21

「J'AI SEUL LA CLEF DE CETTE PARADE SAUVAGE.」(ARTHUR RIMBAUD:「PARADE」)

意訳:私だけがこの野蛮な道化芝居の鍵を持っている/「客寄せ道化」より/アルチュール・ランボー(1854~1891年)

 初稿には1852年の日付が記されている。権力者の乱痴気ぶりのメタファーだと解釈する向きもあるが、これは直接的に、コレクションムービーのラストに打ち上げられる彼岸の花火を指すのだろう。

 革命自治体のパリ・コミューンを支持して支配的政治権力に屈さず、ブルジョワ階層の道徳秩序に唾を吐き、韻文詩から散文詩さらには自由詩へと続く文学の伝統に反抗し、革命の精神を生きたランボー。「客寄せ道化」が収められた未完の散文詩集「イリュミナシオン(Les Illuminations)」には、前述したポール・ヴェルレーヌとの恋愛模様が綴られているが、両性具有も本作を貫く重要なテーマの1つである。

 ランボーら象徴主義が隆盛を極めた1850年代後半に誕生したクチュールアイテムとして、ラスト数ルックを飾ったキラびやかなクリノリンスカートが、まるで読後感のごとく重くのしかかる。ほか、ラメ入りパンツやスパンコール使いのボトムスが散見し、ショーの大半をデニムが占めた前夏を上位互換した。原著の「イリュミナシオン」は日本語での「イルミネーション」だが、これは個人的なこじつけなので失念して結構。

CELINE 10 WOMEN WINTER 21ムービーより Image by ©CELINE
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 以上、「セリーヌ」2021年ウィンターコレクションのテーマ「PARADE」に付随する3篇のフランス象徴主義詩を恣意的に追ってみたが、もっと簡単に考察する方法がある。こじつけでもなんら構わないが、これぞ、識者お手上げのファッション実存主義だ。

 今から1年半前、2019年10月にリリースされた香水シリーズである「セリーヌ オート パフューマリー コレクション(CELINE HAUTE PARFUMERIE COLLECTION)」、その商品情報に示唆的だったのだ。ラインナップの1本に、そのままズバリ「パラード(PARADE)」を冠した香りがある。

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 フレグランスコレクションは全11ラインナップ(現状9本)が用意され、従来のマスキュリンなノートやフェミニンなノートに区分されないダイバーシティな芳香。フレグランスまでブランディングは徹底しているようである。是非とも、2021年ウィンターコレクションとのマリアージュを楽しみたいところだ。

10 WOMEN WINTER 21 Image by ©CELINE
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 「日常的なドレスアップを軸としたパフュームを作りたいと考えました。特に、パリのグラン・ブルヴァール沿いの陽気なダンディズム、ボードレール、ゲンスブールあるいはデュトロン、ボウイのシン・ホワイト・デューク、そして再びウォーホルについて考えていました。身近なところでは、ゴールドのライトの下でパレードしている男性・女性モデルたちの華やかなバレエを想像して。『パラード』は、新たなツイストを加えた表現コードの魅惑的な変容とソフィスティケーションとエレガンスとデカダンスの探求から生まれました。」とコロナ禍前、2019年10月のエディは珍しく饒舌に語っている。

 ムービーでは決して伝わらない至高のリアル・嗅覚。インスピレーションの謎を解く鍵として、パフュームを纏わない「セリーヌ」ウーマンは、画竜点睛を欠くということか。加えて、2021年4月現在、発売が待たれる残り2本のうちの1本が、まさに「ランボー(RIMBAUD)」のネーミングだったのである。夢がある。おとぎ話がある。

 エディ文学の広がり、1年半越しの伏線回収はまだ続く。嗚呼、苦しや!愉しや!

(文責:北條貴文)

CELINE 2021年ウィンター

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北條貴文(Takafumi Hojoh)
UOMO編集部web担当

大橋巨泉に憧れ早大政経学部で新聞学とジャーナリズム論を学ぶ。コム デ ギャルソンに新卒入社し、販売と本社営業部勤務。退社し、WWDジャパンで海外メンズコレクションと裏表紙とメモ担当。その後、メンズノンノ編集部web担当を経て、現在はUOMO編集部web担当。

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