デビューシーズンとなった「コミッション」2019年春夏コレクション
デビューシーズンとなった「コミッション」2019年春夏コレクション

Fashion インタビュー・対談

【インタビュー】80〜90年代の働く母の服にインスパイア アジア人トリオ手掛ける「コミッション」とは?

 3人のアジア人が手掛けるニューヨーク発の若手ブランド「コミッション(COMMISSION)」が、2020年秋冬ファッションウィーク期間中の3月にパリで初となる展示会を開催した。ブランドを手掛けるのは、名門校パーソンズでファッションを学んだジン・ケイ(Jin Kay)、ディラン・カオ(Dylan Cao)、フイ・ルオン(Huy Luong)の3人。企業で働く母、医師の母、レストランを経営する母――。それぞれのパーソナルな母の記憶から生まれる服は、西洋の影響を受けながら発展してきたリアルな「アジアンカルチャー」を表している。今年度のLVMHプライズ ショートリストに選出されるなど注目を集める彼らにインタビュー。

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(左から)ジン・ケイ、ディラン・カオ、フイ・ルオン

【コミッション】
パーソンズ美術大学出身の3人のアジア人 ジン・ケイ、ディラン・カオ、フイ・ルオンが2019年春夏シーズンに立ち上げたニューヨーク拠点のウィメンズブランド。レディ・トゥ・ウェアを展開し、2020年秋冬コレクションからバッグをローンチ。現在「ネッタポルテ(NET-A-PORTER)」と「エッセンス(SSENSE)」「ブラウンズ(BROWNS)」などで取り扱いがある。2020年には「LVMH Young Fashion Designers Prize(LVMHプライズ)」のセミファイナリストに選出された。

― 現在の拠点はニューヨーク。幼少期はアジアで過ごしたのでしょうか?

ディラン・カオ 僕とフイはベトナム、ジンは韓国で育ちました。僕がアメリカに来たのは高校生の頃で、他の皆も大体同じくらいじゃないかな。

― トリオで展開しているブランドは珍しいですが、それぞれの役割は?

フイ・ルオン 僕がアートディレクターとして、アイテムに使うプリントやグラフィックをはじめ、キャンペーンヴィジュアルを含むフォトグラフィーやブランディングを担当しています。ディランはシューズ&アクセサリーデザインの背景を持っていて、彼は2014年にパーソンズでアクセサリー デザイナー オブ・ザ・イヤーを受賞しているんです。そしてジンがウィメンズウェアのメインデザイナー。ジンも、2012年にパーソンズでウィメンズウェア デザイナー オブ・ザ・イヤーを受賞していますね。

― 卒業後はそれぞれどこで経験を積んだのでしょうか?

フイ・ルオン ジンはパーソンズの最終学年でケリングアワード(※1)を受賞したことから、卒業後は「グッチ(GUCCI)」のウィメンズウェアデザイナーとして経験を積んで、その後はニューヨークに戻って「ナルシソ ロドリゲス(Narciso Rodriguez)」と「プラバル・グルン(Prabal Gurung)」で働きました。ディランは「3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)」と「アール サーティーン(R13)」のアクセサリーデザイン部門、僕は「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」や「オスカー デ ラ レンタ(Oscar de la Renta)」など複数ブランドのインブランディングにそれぞれ携わりました。

※1 2012年にパーソンズとケリングが共同で始めたEmpowering Imagination コンペティション。パーソンズのBFA Fashion Design科の学生を対象にした大会で、受賞者はケリンググループ傘下のブランドでインターンシップが経験できる取り組み。ジン・ケイは初代受賞者。

ディラン・カオ 各々のブランドでの経験は「コミッション」というブランド名の由来にもなっています。僕たちが出会った頃、それぞれが誰かの下で働いていたので、「◯◯にコミッション(仕事を依頼)されて」なんていう会話が多かったんです。だから、今度は僕たちが自分たち自身にコミッションするときだ、という思いを込めてつけました。

― 3人ともパーソンズ出身ですが、出会いは卒業後だったんですね。

ジン・ケイ そうなんです。3年前くらいに、共通の友人のバースデーパーティーで知り合いました。

フイ・ルオン 出会った当時、3人ともファッションブランドをやりたいという気持ちを共通して持っていました。それで、それぞれの育ったバックグラウンドについて語っていくうちに、「母親」という一つのテーマが浮かび上がってきて。お互いの母親の写真をシェアしていくと、ベトナムと韓国と場所は違えど80〜90年代のアジアの女性たちは服の着こなし方がどこか似ているということに気がつき始めたんです。

― 3人のルーツでもあるアジアがインスピレーション源に。

ディラン・カオ グローバルにおけるアジアのカルチャーについての表現は、とても一般化された、わかりやすいものがほとんどだと感じていました。アジアのカルチャーといえば中国に由来するドラゴンのモチーフだったり、お箸を髪飾りに使うような固定化した表現を目にすることがほとんど。日本やベトナム、タイ、韓国など、それぞれの国が持つニュアンスの違いについて語られることはあまりないのが現状です。「コミッション」では、僕たちの経験からくるよりパーソナルなストーリーと80〜90年代のアジアに関するリサーチを組み合わせることで、アジアの描写や、アジアに向けられる視点を変えていきたいという思いもブランド立ち上げの背景にあるんです。

ジン・ケイ だから、自分たちの母親だけじゃなくて日本の写真もたくさんリサーチしましたね。

ディラン・カオ 北島敬三、ジョージ・ハシグチ、荒木経惟……。 彼らの写真はどれも当時(80〜90年代)の日本人のエッセンスを捉えていますよね。

ジン・ケイ 荒木経惟はアジア中を旅して、香港や台湾のあらゆる場所を同時期に撮影していて面白いです。

― デビューシーズンでもある2019年春夏のルックブックは、日本人の私もどこかノスタルジックな感覚を覚えます。

ディラン・カオ このルックブックは、僕たちの母親が仕事に行く準備をしていた姿にインスパイアされて、モダンにアップデートしたものなんです。

― 3人のお母さんはどんな人だったんでしょうか?

ディラン・カオ 僕の母は企業で働いていて、毎日オフィスに通っていました。とてもスタイリッシュな人で、ロシアに留学した経験からか、西洋とアジアをミックスした着こなしをしていました。ジンのお母さんはお医者さんだよね。

ジン・ケイ そう。彼女はペンシルスカートにドクターコートをあわせたりしていて。でも、お出かけするときはすごい派手に着飾るんです。「コミッション」でも用意しているような大胆な柄のドレスを着たり。

フイ・ルオン 僕の母はレストランを経営していました。レストランの真ん中にはステージがあって、母が歌ったり、お客さんにスピーチをする姿を見ながら育ちました。その記憶は2020年秋冬コレクションのインスピレーション源になっています。ルックブックはステージをイメージしたセットで撮影していますし、コレクションもイブニングルックから、仕事場で着られるオフィスウェアのような服まで揃います。母のレストランでは、企業の飲み会もよくやっていたので、ディランやジンの母のようなオフィスで働く人達も仕事終わりによく訪れていたんですよ。

ジン・ケイ 当時は企業の飲み会や集まりでスピーチをすることが多かったみたいで。そこからアイデアを得て、2020年秋冬コレクションは「CLOSING SPEECH」というタイトルになっているんです。

「CLOSING SPEECH」と題した2020-21年秋冬コレクション。初のバッグも登場。全ルックはこちら

 

ディラン・カオ 今回のコレクションのヴィジュアルでは、企業の飲み会や打ち上げを記録した土田ヒロミによる写真集「宴 / Party」もイメージソースの一つになっていますね。

ジン・ケイ スーツを着ている人もいれば、ドレスで着飾っている人もいる。とても折衷主義な当時の雰囲気がコレクションにも反映されていると思います。

― 80〜90年代の母親の服装というインスピレーション源は、どのように服に落とし込まれているのでしょうか?

フイ・ルオン 例えば、スカートのサイドに、ドローコードをつけていて丈を調節して履けるようになっています。ベトナムではバイクで通勤することが多いので、バイクに乗りやすいように。あと、「ファニーシェイプ」と呼んでいるシルエットが多くのボトムスに取り入れられています。アジアのお母さんってよく腰にファニーパックを着けていて、それをイメージしたものです。

ジン・ケイ 2019年春夏で登場したイヤリングは、父親が着けていたベルトから着想したもの。「ダンヒル(dunhill)」などのブランドのベルトをつけていた記憶があって、そのスピリットをジュエリーに転換したんです。このモチーフは定番のロゴとして今季のニット等にも使用しています。

デビューシーズンとなった2019年春夏コレクション。全ルックはこちら

― ブランドとして、今後アーティストやクリエイターに「コミッション」していく予定も?

ディラン・カオ 「コミッション」の在り方は、まさにそういう考え方。コミッションではファッションブランドの枠を超えたプロジェクトやジャンルにも、ブランチアウトしていきたいと思っています。だからブランディングやエディトリアルはとっても重要なんです。

フイ・ルオン 僕がブランドのヴィジュアルを撮ることも多いけど、他のフォトグラファーにアジア人モデルを起用してヴィジュアルを撮ってもらうこともあります。例えば、韓国人のフォトグラファ―とスタイリストにコミッションして、韓国でキャンペーンを撮影したり。

― コラボレーターはアジア人が多い?

フイ・ルオン 現状はアジアにルーツを持つ人と積極的に仕事できたらと思っています。パタンナーは日本人だし、ニューヨークで中国人や韓国人が運営している工場に生産をお願いしています。単純に、アジアの人が僕たちのストーリーに共感して協力してくれるというのもあるんですけどね。ただ、アジア人に限らず、誰とコラボするかに関して僕たち自身はとてもオープンです。

― ブランドのインスタとは別で運用しているアカウント「COMMISSION FEMMES」の活動ついて教えてください。

フイ・ルオン 継続的なプロジェクトで、友人やコラボレーターなど僕たちをインスパイアする女性のポートレートを撮影しています。ニューヨークのオフィスに招待して、コミッションの服を着てもらって撮影しているんです。このプロジェクトの目的は、コミュニティを作ること、そしてアジアンビューティーの描写をより拡張すること。

ディラン・カオ このプロジェクトに参加してくれる女性はファッション業界外の人が多くて、彼女たちからもらうフィードバックとして、とてもスペシャルな気持ちになったと言われることが多いんです。このプロジェクトを通して、アジアの女性によりスポットライトが当たって欲しい。面白いのが、スカウトやモデル事務所から「COMMISSION FEMMES」を見て連絡が来たりするんですよね。

インスタグラムアカウント「@commissionfemmes」より

 

― 今回のパリコレ期間中はLVMHプライズ セミファイナリストのプレビューが行われました。興味深いフィードバックはありましたか?

ジン・ケイ もともとパリで展示会を開催する予定があって、LVMHプライズが同じタイミングで起こったのはラッキーでしたね。プレビューで興味深かったのは、僕たちのブースに来たイタリアやフランスの業界人の何人かが「イタリア/フランスっぽさの中に、さりげないアジアらしさが潜んでいるね」と感想を言ってくれたこと。珍しいコンビネーションだと思うので、僕は素晴らしい褒め言葉だと思って受けとっています。

― 今後ショーやインスタレーションをパリでやる予定は?

ディラン・カオ ファッションショーをやるのは夢の一つで、僕たちの間で話題にあがるトピックの一つ。ただ、周りの状況の変化や、ショーをやる目的についてはちゃんと考えなくちゃいけないと思っています。現時点では、今回のような小規模のショールームや、ルックブックといった形で、とてもパーソナルなレベルでブランドのメッセージを伝えることができています。もし経済的にショーが実現できるとなったら、必ず良いファーストショーである必要がある。やりたいことの一つではあるけど、最も優先順位の高いものではない。ショーをやるとしたら、プレゼンテーションとかではなくランウェイショーになると思います。ショールームのように近距離でエンゲージするか、もっと大規模な場合はインパクトのあるものにする必要があるから。プレゼンテーションだと、常に人が出入りしていて、話すタイミングも難しいですから。

ジン・ケイ あとは、「COMMISSION FEMMES」のアーカイブが溜まったら、エキシビションを行うか本として出版したいという目標もあるね。

フイ・ルオン インターナショナルのバイヤーやプレスにコレクションを見せようと今回パリに来ましたが、ニューヨークは僕たちが学校に通った場所で、過去10年間経験を積んだ場所でもある。だから、ニューヨークの工場やローカルの人々に恩を返すことも今後のゴールの一つです。

― 最後に、ブランドについて3人のお母さんはどう思っているんでしょうか?

ジン・ケイ とても嬉しそうだし、誇らしく思ってくれています。ブランドを始めてから母親との距離が近くなりましたね。当時の写真をお願いして見せてもらったり、着ていた服や写真の背景について説明してもらったり。昔はそんなこと聞くことなんてなかったから。ただ、デザインに関しては母親たちが関与しすぎないように注意しているんですよ(笑)。

■これまでのコレクション一覧:2019年春夏2019年秋冬2020年春夏2020年秋冬
■コミッション:公式サイト公式インスタグラム

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