成分連載の第9回は、肌のハリや弾力のカギを握る「コラーゲン」を、全3編の拡大版でお届けします。前編は「体内におけるコラーゲンの働き」を深掘り。資生堂 みらい開発研究所の小倉有紀さんに、意外と知られていないコラーゲンの働きを教えてもらいました。
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2001年資生堂入社。コラーゲンを中心とした真皮の研究に携わる過程で「イメージング技術」に関心を抱き、研究の傍ら大学で機械工学の博士号を取得。人の皮膚内のコラーゲンをリアルタイムで観察する技術の確立に尽力し、現在は精巧なコラーゲン構造の観察とシワの解明に取り組んでいる。コラーゲン研究歴20年以上のスペシャリスト。
身体を構成するタンパク質の約30%はコラーゲン

FASHIONSNAP
コラーゲンって、誰でも一度は聞いたことがあると思いますが、とっても有名な成分ですよね。肌の弾力に欠かせないイメージがあります。
おっしゃる通り「コラーゲン=肌」の印象が強いのですが、実は全身に存在しています。血管や骨、軟骨、肺や心臓にもあって、身体を構成するたんぱく質の実に30%はコラーゲンなんです。

小倉氏
【全身のコラーゲン量】

コラーゲンは全身のタンパク質の約3割を占め、体重53kgの人だと、コラーゲンの総量は約3kgに及ぶ 出典/資生堂

FASHIONSNAP
骨にもコラーゲンがあるんですね。カルシウムなのかと…。
カルシウムなどの無機物は除くと、実は骨の約90%はコラーゲンなんです。脊椎動物が身体を支えて、柔軟に動かすために、必ずコラーゲンが必要なんですね。なので人だけでなく、牛や豚、魚類など、脊椎動物の身体には必ずコラーゲンが存在します。血管内にもコラーゲンは存在して、強度や柔軟性を保ち、血流をサポートしています。

小倉氏
【血管内に存在するコラーゲン】

血管壁の主成分はコラーゲンであり、血管をしなやかに保つ 出典/資生堂
骨や血管内を含めコラーゲンは、全身に存在しますが、特に多いのは「皮膚」です。皮膚全体の約70%以上をコラーゲンが占めています。

小倉氏
コラーゲンは現在までに28種が見つかっているのですが、人の皮膚にはそのうちの18種類が存在します。

小倉氏

FASHIONSNAP
そんなに沢山あるんですね。それぞれ働きも違うんですか?
違います。例えば「Ⅲ型」と呼ばれるコラーゲンは細くて繊細な線維で、赤ちゃんに多いです。「Ⅴ型」はコラーゲン線維の太さをコントロールする働きがあります。実は18種類のうち13種類については、まだよく分かっていないんです。つまりは、役割や働きが解明されているものは、5種類ほどで、残りはまだ研究の途中になります。

小倉氏
人の皮膚に重要な役割を果たす5種類のコラーゲン

FASHIONSNAP
やっぱりコラーゲンは、ハリや弾力のカギなんでしょうか?
そうですね。皮膚組織の下層にある真皮に多いのが、「Ⅰ型」と呼ばれるコラーゲンです。太くてしっかりした線維で、肌の土台となり、皮膚全体を支えています。真皮と表皮の間にある基底膜の直下には「Ⅴ型」コラーゲンが多いです。細く繊細な線維を形成し、クッションのように表情の動きを吸収してくれます。我々の研究では、その他「Ⅲ型」、「Ⅳ型」、「Ⅶ型」と5種類のコラーゲンが、重要な役割を果たしていることがわかっています。

小倉氏
【肌に重要なコラーゲンとその働き】

出典/資生堂

FASHIONSNAP
それぞれ、皮膚のコラーゲンにも個性があるんですね。
コラーゲンは肌内部における「情報伝達」の要
長年の間、コラーゲンは身体や皮膚の形を維持する、「構造物」と考えられてきました。しかし近年では、身体の「機能」にも関係することが分かってきたんです。

小倉氏

FASHIONSNAP
例えばどんな働きですか?
コラーゲンの構造がしっかりしていると、そこを足場として線維芽細胞が活発に活動できるようになります。線維芽細胞はコラーゲンを生み出す細胞なので、活性化するとコラーゲンの生成につながります。その他にも、免疫細胞の一種であるマクロファージや、体内の情報伝達を担うシグナル因子とも、コラーゲンは密接に関係しています。

小倉氏

FASHIONSNAP
ちょっと難しい用語が並びましたが…、つまりはコラーゲンがあると、肌内部の環境が健やかに整う、というイメージですか?
その通りです。コラーゲンは細胞同士のネットワークの要なんです。

小倉氏
【コラーゲンは皮膚ネットワークの要】

コラーゲンは肌を土台として支えるだけでなく、健やかに保つためにさまざまな細胞と連携している 出典/資生堂
体内のコラーゲンは、年に1%ずつ減少していく

FASHIONSNAP
コラーゲンは、やはり年齢とともに減ってしまうんでしょうか。
残念ながら皮膚中のコラーゲン量のピークは20代で、その後は1年に約1%ずつ減少していくといわれています。

小倉氏
【加齢によるコラーゲン量の変化】

体内のコラーゲンは20年で約20%減少し、80代を越える頃には、20代の約3割程度まで減ってしまう 出典/資生堂

FASHIONSNAP
だから、シワやたるみが発生しちゃうんですね。
肌の土台である真皮の大部分がコラーゲンですから、量が減ると弾力が低下して、シワやたるみの原因になります。また、コラーゲン線維が細かく空間を満たしていた、繊細な線維が減少することも、同じくハリ低下の要因です。

小倉氏
【ハリがある肌とない肌のコラーゲン状態】

SHG顕微鏡で肌内部を観察すると、ハリのある肌はコラーゲン量が多く密な状態を保ち、ハリのない肌はコラーゲン量が少なく空洞が目立つ 出典/資生堂
資生堂と大阪大学※が共同で、生きたヒトの皮膚内部のコラーゲンをリアルタイムで解析できる技術を開発しているのですが、SHG顕微鏡で50代の皮膚を観察したところ、紫外線もコラーゲンの状態に大きく影響することが分かりました。
※現在、徳島大学に移設

小倉氏

FASHIONSNAP
どちらも同じ50代の肌なのに、全然違いますね。これが実際に肌内部で起こっていると思うと、対策しなきゃって思います。
肌のコラーゲンを健やかに保つには?

FASHIONSNAP
肌のコラーゲンを健やかに保つには、どうすればいいんでしょう?
やはりUVケアは有効です。このほかにも、コラーゲンの「量と質」を保つスキンケアを取り入れていただけたらと思います。その際に注目したいのは「コラーゲンの生涯サイクル」を健全に保つことですね。

小倉氏

FASHIONSNAP
単に与えたり、増やせばいいわけではないんですね。
コラーゲンを増やすことと同じくらい、過剰な分解を抑制することも大切です。古くなったコラーゲンは分解されますが、このサイクルが肌の中でうまく循環することが大切なんです。

小倉氏

FASHIONSNAP
そのためには、コラーゲン配合の化粧品を使うべき? それとも飲んだり食べたりすることも必要でしょうか?
いい質問ですね。化粧品やインナーケアの「成分としてのコラーゲン」については、次の中編で詳しくご紹介したいと思います。

小倉氏
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日本大学芸術学部卒業後、女性誌の美容班アシスタントを経て独立。雑誌、広告、WEBなどで美容記事を執筆している。担当分野はスキンケア、メイク、ヘアケア、フレグランス、美容医療など幅広く、丹念な取材をもとにしたわかりやすい記事に定評がある。温泉や銭湯をこよなく愛する入浴Lover。
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