気になる化粧品の成分を解き明かす連載の第3回は、「ヒアルロン酸」にフォーカスします。保湿を担うとして数多くの化粧品に配合されているポピュラーな成分だけど、その働きとは本当に保湿だけ…? 花王のヒアルロン酸博士・吉田浩之研究員に聞きました。
花王生物科学研究所 主席研究員。1998年カネボウ化粧品入社と同時に、ヒアルロン酸の研究に従事。2013年に世界で初めて「真皮ヒアルロン酸の分解メカニズム」を解明し、日本結合組織学会大高賞を受賞する。皮膚におけるヒアルロン酸の働きや、ヒアルロン酸を用いた化粧品の開発ついての第一人者。
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人体でヒアルロン酸が最も多いのは「肌」
FASHIONSNAP
「ヒアルロン酸」ってすごく有名な成分ですよね。
美容成分としても有名ですが、ヒアルロン酸はもともと私たちの身体の中にある「糖 (高分子多糖)」の一種なんです。1934年に牛の眼球から発見されて、人体では軟骨や筋肉など、いたるところに存在しています。実は体にあるヒアルロン酸の半分以上が「皮膚」にあるんですよ。
吉田氏
FASHIONSNAP
皮膚が一番多いんですね…!「うるおい」に関係しているイメージがありますが、本当でしょうか?
本当です。ヒアルロン酸は「グルクロン酸」と「N-アセチルグルコサミン」という2つの糖が交互につながった、長い鎖のような構造をしています。この鎖が、多くの水を抱え込むことによって、肌内部にうるおいをキープできるんですね。
吉田氏
【ヒアルロン酸の構造と潤いを抱え込むイメージ】
2種類の糖が交互に並んだ長い鎖状の構造。その鎖が、大量の水を抱え込むことができる。出典:花王
「表皮」のヒアルロン酸は、細胞同士の隙間を埋めるように存在します。ヒアルロン酸を通じて、細胞に栄養を届けたり、老廃物を回収しているんですね。「真皮」のヒアルロン酸は、コラーゲン線維の隙間を埋めるように存在して、「ハリ」や「弾力」にも関係しています。
吉田氏
【表皮と真皮におけるヒアルロン酸の役割】
表皮のヒアルロン酸は、栄養分や老廃物の通り道。真皮ヒアルロン酸はハリや弾力にも関与。出典:花王
FASHIONSNAP
ハリと聞くと真っ先に「コラーゲン」が思い浮かぶけど、ヒアルロン酸も関係していたんですね。
その通りです。コラーゲンは真皮に張り巡らされた線維状の「タンパク質」で、肌を支える骨格のような働きをしているんですね。一方で、ヒアルロン酸は「糖」の一種で水を抱え込むことにより、非常に高い粘弾性を発揮します。そのようなヒアルロン酸水和ゲルが、コラーゲンの隙間を埋めることでふっくらとしたハリや弾力につながります。そのため、どちらも肌のハリ感には欠かせない存在です。
吉田氏
肌のヒアルロン酸は、たった1日で半分が壊される!?
FASHIONSNAP
ヒアルロン酸って、年齢とともに減ってしまうんですか?
皮膚のヒアルロン酸は、60代では30代の約半分に減少することが分かっています。そもそもヒアルロン酸の代謝自体がスピーディーで、たった1日で約半分が分解されてしまいます。
吉田氏
FASHIONSNAP
えっ、たった1日で「半分」が失われてしまうのですか!?
【皮膚のヒアルロン酸の消失率】
その分、毎日「生成」もされるので、「生成」と「分解」のバランスが取れていれば問題ありません。しかし年齢を重ねると、生成より分解のスピードのほうが上回り、長期間紫外線を浴び続けると分解のスピードが加速することも分かっています。
吉田氏
美容成分のヒアルロン酸にはいろいろな種類がある
FASHIONSNAp
だとしたら、化粧品でヒアルロン酸を補うべきですよね? でもヒアルロン酸って「肌に浸透していかない」と聞いたことが…。
【化粧品に配合されているさまざまなヒアルロン酸】
近年では分子量を小さくした「低分子ヒアルロン酸」など、浸透感に優れたヒアルロン酸もあります。こちらは糖の鎖が短いぶん、抱え込む水分量が少なくなる傾向がありますが、角層までうるおいを送り届けます。
吉田氏
どんなヒアルロン酸コスメを選ぶのが正解?
FASHIONSNAP
本当にいろいろな種類があるんですね。やはり1種類よりも、複数のヒアルロン酸を組み合わせたほうがいいんですか?
ヒアルロン酸単体で考えるなら、肌表面で保水膜を作るものと、角層に浸透するものを組み合わせたほうがいいでしょう。それぞれ特徴や働きを公式などで調べたうえで選ぶのも1つの方法です。
吉田氏
FASHIONSNAP
ニードルパッチなど、ヒアルロン酸を活用した機能的な製品が増えていますよね。
さらにもう一歩踏み込んで、肌の細胞自らが「ヒアルロン酸を作る力を高める」「過剰なヒアルロン酸の分解を抑制する」成分もあります。例えば、ヒアルロン酸の原料となる「N―アセチルグルコサミン」や、分解を抑制する「ワレモコウエキス」などがそうですね。ヒアルロン酸そのものではありませんが、肌のヒアルロン酸を育むという意味では、力を発揮すると考えられます。
吉田氏
FASHIONSNAP
ヒアルロン酸コスメは、どんな肌悩みの人が使うべきですか?
ヒアルロン酸の基本的な働きは「保湿」ですから、乾燥肌の方に適しています。もちろん「脂性肌」の方も使えます。ヒアルロン酸の特徴の1つに「粘弾性」があります。とろみやぷるんとした感触のことですが、オイル成分のベタつきが苦手な方には、適していると思います。
吉田氏
プチプラと高額コスメのヒアルロン酸は、効果が違う?
FASHIONSNAP
ドラッグストアや100円均一ショップにもヒアルロン酸コスメが売っている一方で、デパコスには高額な商品もありますよね。やはり値段が高いほうが“効く”のでしょうか?
ヒアルロン酸の「保水機能」自体は、どのコスメに配合しているヒアルロン酸も共通です。我々は、単に配合するだけではなくヒアルロン酸の保水機能を高める製剤研究もしています。ヒアルロン酸の保水性を高めることで、保湿効果の持続につなげているんです。
吉田氏
FASHIONSNAP
その分、値段も高くなりそうですね。
さらに「肌本来のヒアルロン酸を育む」成分の場合、基礎研究や成分の開発にやはりコストが生じます。このような機能性の違いが価格に影響する面はあるでしょう。
吉田氏
FASHIONSNAP
なるほど。ちなみに素朴なギモンですが、ヒアルロン酸がこれだけ多くの化粧品に使われるのはどうしてですか?
まず、発見以来100年近い歴史の中で、安全性が確認されている点があげられます。もともと身体にある糖の一種ですから、膝関節の病気の治療や美容目的でシワ部位への注入など、医療分野でも使われているんですね。またヒアルロン酸は構造がシンプルなため、先ほどお話ししたように「成分として加工しやすい」面もあります。
吉田氏
FASHIONSNAP
そうなんですね。多くのブランドからヒアルロン酸配合のアイテムが出ていて、どれを買えばいいのか迷ってしまいます。
シンプルに「乾燥を防ぎたい」のか、「エイジングケアまで視野に入れたい」のか。さらにヒアルロン酸特有の「とろみ感」がいいのか、低分子化した「浸透感」が欲しいのかーー。可能であればテスターを試して、ご自身にとって続けやすいものを選んで頂けたらと思います。
(編集:福崎明子)
日本大学芸術学部卒業後、女性誌の美容班アシスタントを経て独立。雑誌、広告、WEBなどで美容記事を執筆している。担当分野はスキンケア、メイク、ヘアケア、フレグランス、美容医療など幅広く、丹念な取材をもとにしたわかりやすい記事に定評がある。温泉や銭湯をこよなく愛する入浴Lover。
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