成分連載の第9回は「コラーゲン」。中編は、化粧品やサプリの「成分としてのコラーゲン」にフォーカスします。「肌に浸透する?」「飲んでも効く?」など素朴なギモンに、資生堂 みらい開発研究所の小倉有紀さんが答えてくれました。
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2001年資生堂入社。コラーゲンを中心とした真皮の研究に携わる過程で「イメージング技術」に関心を抱き、研究の傍ら大学で機械工学の博士号を取得。人の皮膚内のコラーゲンをリアルタイムで観察する技術の確立に尽力し、現在は精巧なコラーゲン構造の観察とシワの解明に取り組んでいる。コラーゲン研究歴20年以上のスペシャリスト。
化粧品原料のコラーゲン、動物性と植物性はどう違う?

FASHIONSNAP
コラーゲンコスメは沢山ありますが、配合されているコラーゲンに何か違いはあるの?
成分としてのコラーゲンには、「動物由来」と「植物由来」のものがあります。動物由来は、豚や鶏、魚などから抽出されたもの。植物由来は大豆などの植物エキスや、植物由来のたんぱく質が多いですね。ただし植物由来のものは、厳密にはコラーゲンではありません。

小倉氏

FASHIONSNAP
えっ、そうなんですか?
一般的にコラーゲンは、アミノ酸の鎖がつながった「3重らせん構造」をしています。植物由来のコラーゲンに、このような3重らせん構造を持つものはないんです。

小倉氏
【コラーゲンの3重らせん構造】

アミノ酸同士がつながって「3重らせん構造」を形成。さらにその線維同士が結合して、強固なコラーゲン線維束になる
あくまでコラーゲンの定義の問題で、植物性だからといって効果がないわけではありません。さらにもう1つ、近年では遺伝子組み換え技術を応用したコラーゲンも登場していますが、国内ではあまり使われていない印象です。

小倉氏

FASHIONSNAP
遺伝子組み換え…人工的に合成したコラーゲンということですか?
合成ではなく、発酵の技術を応用した成分ですね。人工的なコラーゲン合成もできなくはないですが…。アミノ酸を1つひとつつないで分子量の大きなコラーゲンを作るには、膨大なコストがかかります。

小倉氏

FASHIONSNAP
ということは、今ある化粧品に配合されているコラーゲンは、動物や植物から抽出したもの?
その通りです。抽出して不要なものを取り除き、精製したものがコラーゲン原料です。

小倉氏
コラーゲンは塗っても浸透しないって本当?

FASHIONSNAP
豚や鶏由来のコラーゲンと、魚由来のコラーゲンに違いはあるんですか?
魚由来のコラーゲンは、コラーゲン特有のアミノ酸である「ヒドロキシプロリン」が2割程度少ないことが分かっています。保湿力という意味では、大きな差はありません。

小倉氏

FASHIONSNAP
コラーゲンって分子量が大きくて、肌に浸透しないと聞いたことがありますが、本当ですか?
「コラーゲンそのもの」という意味では本当です。一般的に分子量500ダルトン以上のものは角層を通過できず、コラーゲンもその1つです。

小倉氏

FASHIONSNAP
じゃあ、コラーゲンを肌に塗っても意味がない?
浸透はしませんが、逆に肌表面に留まるので、保湿をしてくれます。ヘアケアにおいては、トリートメント効果を発揮します。

小倉氏

FASHIONSNAP
肌や髪をしっとり保つんですね。でもハリや弾力が欲しい場合、肌の奥まで浸透してくれたらなと思ってしまいます。
そこで、浸透性を向上させるために分子量を小さくした成分が「コラーゲンペプチド」です。ちなみに細胞の培養実験では、コラーゲンペプチド、さらにコラーゲンそのものにも、細胞間の情報伝達を高め、コラーゲンやヒアルロン酸の産生を促す働きが認められています。

小倉氏

FASHIONSNAP
それはコラーゲンがあると、肌にハリやうるおいが生まれる…というイメージで合ってますか?
その通りです。前編でお話しした通り、コラーゲンは細胞間コミュニケーションの要です。そのため、肌本来のコラーゲンを健やかに保つことはとても重要です。

小倉氏
コラーゲンの産生を促すにはどうしたらいい?

FASHIONSNAP
肌本来のコラーゲンを健やかに保つには、どうしたらいいんでしょう?
コラーゲンは保湿効果を持つものの、真皮までは浸透していきません。ですので、肌が本来持っている「コラーゲン産生力を促す成分」を取り入れていただけたらと思います。

小倉氏

FASHIONSNAP
えっ、知りたい! どんな成分があるのですか?
代表的なものは「レチノール」や「ナイアシンアミド」ですね。資生堂の研究では、レチノールに真皮コラーゲンの産生を促し、肌の弾力を高める働きが確認されています。

小倉氏
【レチノールによるコラーゲンなど真皮線維の増加(連用データ)】

レチノールを塗布することで、グリーンで示された真皮線維(コラーゲンがメイン)の強度が高まることが判明している 出典/資生堂

FASHIONSNAP
この連載でも、過去に取り上げた成分たちですね。
コラーゲンの産生を促す一方で、「過剰な分解の抑制」も必要です。このような働きを持つ成分として、オリーブ葉エキス、ワイルドタイムエキスなどが知られています。また、コラーゲンを太く丈夫な線維に成長させる成分として、セイヨウバラエキスがあります。

小倉氏
コラーゲンは飲んでも美肌効果がある?

FASHIONSNAP
ちなみに、コラーゲンドリンクやサプリってどうなんでしょう? 飲んで美肌になれるもの?
我々も同じ疑問を持って、100人規模の調査を行いました。ドリンクやサプリの原料となるコラーゲンペプチドを12週間摂取してもらい、肌状態を測定したんです。

小倉氏
結果は、まず角層の水分量が優位に向上しました。コラーゲンを摂取すると、NMFが増加するためと考えられます。ところが「ハリ」や「肌の厚み」に関しては、残念ながら変化が見られませんでした。

小倉氏

FASHIONSNAP
えっ、それってコラーゲンを飲んでも、コラーゲンは増えないということですか?
我々の研究では、そのような結果となりました。一方で水分量が上がると、肌にぷるんとした感覚が生じるんです。煮こごりやコラーゲン鍋を食べた翌日、肌がぷるぷるになった経験はありませんか?

小倉氏

FASHION NAP
あります、あります。あれって一時的に肌の水分量が増えたからなんですね。ちなみに、飲んでコラーゲンを増やす成分はありますか?
資生堂の研究では、「コケモモエキス」と「アムラ果実エキス」の組み合わせに、コラーゲン産生量を高める働きが認められました。他にもこのような成分が見出されるかもしれません。

小倉氏
【コケモモエキスとアムラ果実エキスのコラーゲン産生効果】

細胞培養実験では「コケモモ」由来のエキスと東南アジアで育つ植物「アムラ」果実由来のエキスを組み合わせると、それぞれ単体の時よりもコラーゲン産生量が高まる効果が認められた 出典/資生堂
コラーゲン配合コスメはどう選ぶべき?

FASHIONSNAP
コラーゲンコスメは、どのような肌タイプの人におすすめですか?
「コラーゲン本来の働き」から考えると、年齢と共に減少して、ハリや弾力の低下、シワの原因になりますから、このような肌悩みを持つ方におすすめです。

小倉氏

FASHIONSNAP
大人世代のお悩みですよね。20代には必要なさそう?
一方で「成分としてのコラーゲン」には保湿効果がありますから、若い世代の方にも取り入れて頂きたいですね。さらに、実は「基底膜」のコラーゲンは、20代からダメージが進行し、人によっては30代で構造が劣化するケースもあるんです。

小倉氏

FASHIONSNAP
そんな若いうちから!?
そうなんです。20代からコラーゲンの生涯サイクルを整えるスキンケアが大切なんですね。

小倉氏

FASHIONSNAP
コラーゲン配合コスメって、沢山ありますが、どんなものを選ぶべきですか?
保水力を高めるコラーゲンやコラーゲンペプチドに加え、レチノールやナイアシンアミドなど、コラーゲンの産生を促す成分を組み合わせたものがいいでしょう。顔全体のハリを強化するなら、化粧水、乳液、クリームなどのベーシックケアを。目元や口元のシワには、専用のリンクルケアが使いやすいと思います。

小倉氏

FASHIONSNAP
前編では、UVケアが大切というお話しもありましたね。
そうですね。コラーゲンのダメージを防ぐには、年齢に関係なく紫外線対策が欠かせません。コラーゲンは皮膚の大部分を占める上に、肌内部のコミュニケーションの要でもありますから、ぜひ若いうちからケアして頂けたらと思います。

小倉氏
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日本大学芸術学部卒業後、女性誌の美容班アシスタントを経て独立。雑誌、広告、WEBなどで美容記事を執筆している。担当分野はスキンケア、メイク、ヘアケア、フレグランス、美容医療など幅広く、丹念な取材をもとにしたわかりやすい記事に定評がある。温泉や銭湯をこよなく愛する入浴Lover。
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