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【連載ふくびと】第8話 N.ハリウッドと尾花大輔――朝起きて決意、アメリカへ

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第7話からつづく――

 東京で年2回のショーを続けてきた「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」は、コアなファンを増やし力をつけていた。2010年は、尾花大輔がミスターハリウッドを立ち上げてから10年の節目。3月17日に開催したショーは好きなミリタリーを思い切り表現し、ひとつの集大成となった。そして尾花はバックステージに呼び集めたジャーナリストらの前で、次の挑戦について明らかにする。――N.ハリの創業デザイナー尾花が半生を振り返る、連載「ふくびと」N.ハリウッドと尾花大輔・第8話

 

・朝起きてニューヨーク行きを決める

 東京では年2回のショーを続けて、毎シーズン違ったテーマで色々なことをやりました。2010年は一つの節目。とにかく一番好きなものを作ろうと思っていました。でもその頃、何をやっても「さすがN.ハリだよね」と言われて、それが評価なのか気遣いなのかわからなくなり、だんだんと違和感を感じるようにもなっていたんです。

 コレクション準備が進むショーの1ヶ月くらい前、何故だか突然、朝起きて「アメリカでやろう、ニューヨークだ」という思いに駆られました。時代はすごい勢いで移り変わっていて、コレクションの情報も一瞬で世界に発信できる時代に突入し始めた頃。だったらどこでやってもいいし、好きな場所でやらないと後悔するんじゃないか。そう考え始めたら止まらなくて。いつも石橋を叩きまくっている男が、初めてパッションだけで後先考えずに決断した瞬間だったかもしれません。1ヶ月後のショーを東京ラストにしようと、その場で気持ちを固めました。

 2010-11年秋冬コレクションのテーマは「COVERAGE」。イメージソースはベトナム戦争を舞台に戦争に向かったアメリカ軍兵士。自衛隊の協力を得てランウェイに土嚢を積んで、モデルは全員米軍従事者。東京のラストショーで、好きなミリタリーを真正面から見せることができたと思います。終わった後に、取材にきてくれていた記者さん達に決意を発表しました。「大好きなアメリカで挑もうと思う」と。

土嚢で囲んだランウェイ。
2010-11年秋冬コレクション「COVERAGE」全容はこちらから

 

・ウンベルト・レオンが助けてくれた

 パリで続けてきた「コンパイル」の展示会も止めることにしました。年2回のニューヨークコレクションに集約することで、奥行きのあるものにしたかったので。ただ具体的には何も決まっていなかったから無計画そのもの。現地に入ってコレクション発表の準備をしようにも、日本では信じられないようなことの連続でした。そこで助けてくれたのが、オープニングセレモニーのウンベルト・レオン(Humberto Leon)。当時からウンべルトはブランドを評価してくれていて、相談するとオープニングセレモニーがセールスを手掛けてくれたり、コレクションに必要なフィッティングの場所も「アクネの地下に広いスペースあるからそこ使いなよ」と手配してくれました。本当に恩人で、熱心にサポートしてくれたことを今でも感謝しています。

 初回は、東京コレクションから数ヶ月後。あまりにも時間が無かったんですが、日本で撮り下ろしたイメージをNYのギャラリーで展示し、それを現実として落とし込むという壮大なプレゼンテーションとなりました。

 ニューヨークでのランウェイは次のシーズンから。準備が本当にバタバタで、地獄のようだったと思い返します。ようやく少し落ち着いてきたのが、現地に事務所を借りた3シーズン目くらい。ランウェイには人種も性別も関係なく「とにかくかっこいい人を出したい」と思っていたので、現地のストリートで素人のモデルハントを、日本でやっていたのと同様に行いましました。日本はジェンダーレスやダイバーシティという認識が低かった頃でしたが、ニューヨークにはそもそも根底にあるので、ボーダーレスにかっこいい人が多くて。キャスティングがだんだんと評判になったのか、会場外でモデルエージェントが張っていて、うちのショーモデルに起用した一般の子に声を掛けてスカウトする、なんてことも毎度でした。

NY初のランウェイ 2011-12年秋冬コレクション「HALF DOME」全容はこちらから

 特にアメリカでは少数精鋭で作り上げていくのもあり、プロセスの途中に問題が起これば一気にグチャグチャになってしまう。なので一つだけ自分の中で決めていたのは、一緒に働いてくれる人がスムーズに仕事ができる環境づくりです。自分が販売としてお店に立っていた時のサービス精神と同じで、関わる人たちが大変な思いをしないように、とにかくインフラや環境を整えようと思いました。チームで作るものだから、共に仕事をするならフォローを忘れてはいけないし、全員でしっかり共有すれば一丸となってやれる。地道だけどそういうことを大事にしてきたから、長く続けられているんじゃないかなと。自分がというより、スタッフのみんなが作り上げてくれたと言った方が正しいかもしれません。振り返るとそう思います。

 

・テーマを決めないコレクションに

 転機になったのは2014年頃。納得した服と欲しい服、2つがリンクしないと感じる時がありました。歴史的な何かへのオマージュも、自分の中でやり尽くしたのか、魅力を感じるものが無くなっていって。難しいことだけがクリエイションじゃない。もっと自由に、開放的になれないか。もっと服と素直に向き合いたい。そう感じるようになりました。

 それでN.ハリのデザインアプローチを刷新し、テーマを決めずにコレクションを発表しています。自分もチームも知識や技術を蓄えていて、アンダーウェアからフォーマルまで各ラインが充実してきた。好きなミリタリーも別ラインで追求しています。だからこそメインの服は、何かに依存することなく今の感覚で、付加価値が高くコンフォータブルに。それが今、どんどん加速しています。――第9話につづく

2019年秋冬のショー会場にて、リハーサル待ちの尾花。ゴーストチェアで透明感ある演出。

 

文:小湊千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP.COM

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