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【香水連載 vol.29】イソップ最新作で調香師が挑んだ、アンバーの脱構築

Image by: Aēsop

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【香水連載 vol.29】イソップ最新作で調香師が挑んだ、アンバーの脱構築

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 フレグランスの魅力とは、単に“匂い”だけじゃない。どんな思いがどのような香料やボトルに託されているのか…そんな奥深さを解き明かすフレグランス連載。

 今回取り上げるのは、「イソップ(Aēsop)」の最新作「アバヴ アス、ステオーラ オードパルファム(Above Us, Steorra Eau de Parfum)」。クリエイションを手掛けたセリーヌ・バレル(Céline Barel)に、創作の裏側を語ってもらった。

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「アバヴ アス、ステオーラ オードパルファム」(50mL 2万3870円)

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 「イソップから“アンバーの香りを作ってほしい”と言われた時は驚きました。なぜならいつものイソップとは違うから」と、調香師セリーヌ・バレルはイソップの最新フレグランス「アバヴ アス、ステオーラ」について振り返る。

 「アンバーアコードを特徴づけるのは、甘くパウダリーな香り。だからどうすれば伝統的なものとは異なる、イソップ的なアンバーを作ることができるのかがテーマだったんです」

セリーヌ・バレル(Céline Barel):フランス・グラース出身。IFF所属。イソップでは2015年に第1作「タシット」、今年2月に発売した第2作「オルナー」を手掛ける

 そこでバレルは“アンバー83”として知られる、アンバーアコードを代表するベース素材を研究し直したという。

 「それは主にバニラビーンの香りの主成分であるバニリン、トンカビーンから抽出されるクマリン、パチョリ、ラブダナム、そしてとてもパウダリーなムスクで構成されていますが、そこから“脱構築”を考えました。甘さとパウダリーさを極限まで取り除き、ウッドや樹脂を最大化することで甘さの幻影を創る。これを私たちは“ファブリストアコード(Fabulist Accord)”、つまり寓話的アコードと呼んでいて、ラブダナムとバニラビーンアブソリュート、フランキンセンスの3種でバルサミックに香らせています」

「アバヴ アス、ステオーラ」の発表会会場にディスプレイされたキー香料

Image by: Aēsop

 「クラシックなアンバー系フレグランスは通常、非常に甘く濃厚なグルマン系で、トップにレモンやベルガモットの柑橘系が香ります。でもイソップにおいては、あえて甘さを排したアンバーを作りたかった。トップのフレッシュさもまた、スパイスが引き起こす錯覚。カルダモンとペッパー、そしてレモンのようなファセットを持つインセンスを使うことで、シトラスをほとんど用いていないのに柑橘を錯覚させ、弾けるような力強さを感じさせています」

商品名の「ステオーラ(Steh-O-rah)」とは古英語で「星」の意。頭上に広がる満点の星空がテーマだ

 「このフレグランスは“二面性”を軸に構築しています。流れ星が駆ける天空と、やがて着地する地球。宇宙の光と闇、そのはざまに漂う香り。まとう人を未知の世界に誘います。今回のアンバーの鍵を握るバニラビーンアブソリュートは、別名“ブラックゴールド”とも呼ばれる希少な香料で、ウイスキー風味がありつつレザーのようで、クローヴのようなスパイシーさもある。とても複雑でとてもセンシュアル。甘さや装飾を削ぎ落とし、なめらかに仕立てたミニマリスト・オピュレンス。これこそがイソップのアンバーなのです」

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 アバヴ アス、ステオーラでは、黛まどかの俳句「流れ星 行方知らずの 恋をして」をインスピレーションソースのひとつとしている。

 「今回、俳句はとても重要な意味を持っています。俳句は非常に短い文章で強く心に迫ってきます。そこで私も俳句同様にシンプルなフォーミュラを書き上げ、強いメッセージが醸し出されるようにしました。そうしてアンバーの異なる色合いが、明と暗、繊細さと力強さという二面性を映し出す表現へと昇華したのです」

セリーヌ・バレルが調香するうえでヒントを得たというメルボルンのコリンズ ストリート店の外観

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 「さらに、イソップのアンバーボトルも着想源となっています。メルボルンのコリンズ ストリート店では丸天井がまるで星屑のようで、そのマットエフェクトがとても美しいので、ストアマネジャーになぜそのように見えるのかと尋ねたら、アンバーボトルを砕いてそのガラス破片をコンクリートに混ぜて天井に施している、と。そのマットな表情をアンバーフレグランスに加えたいと思ったのです。ラスベガス的なギラギラしたゴールド感ではなく、シックでなめらかで抑制されたテクスチャー、それが実にイソップ的だと思うのです」

第2作ではフローラルフレグランスにおける反逆性を表現。「オルナー オードパルファム」(50mL 2万3870円)

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 前作の「オルナー」、そして第1作「タシット」の時もそうだったが、バレルに創作プロセスや香りの着想源について聞くと、あらゆる方向に話が広がり止まらなくなる。これはバレルのスタイル?イソップのスタイル?

 「確かにブレインストーミングは好きで、何か新しいものを作るときには欠かせませんが、イソップは特別かもしれません。創業者のデニス・パフィティス(Dennis Paphitis)に初めて会ったのは2006年、まだ私が20代の時でしたが、彼は私の芸術的感性を育て、新たな視野、新たな美意識を開いてくれました。彼に教わった東洋のデザインや建築、中でもよりミニマルな日本の様式は今なお、私のクリエイションの礎になっていると言えます」

 日本の美意識が潜むバレルのクリエイションに今後も目が離せない。

最終更新日:

ビューティ・ジャーナリスト

木津由美子

大学卒業後、航空会社、化粧品会社AD/PR勤務を経て編集者に転身。VOGUE、marie claire、Harper’s BAZAARにてビューティを担当し、2023年独立。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修了、経営管理修士(MBA)。専門職学位論文のテーマは「化粧品ビジネスにおけるラグジュアリーブランド戦略の考察—プロダクトにみるラグジュアリー構成因子—」。

◾️問い合わせ先
イソップ:公式サイト

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