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フレグランスの魅力とは、単に“匂い”だけじゃない。どんな思いがどのような香料やボトルに託されているのか…そんな奥深さを解き明かすフレグランス連載。
今回は、和木の香りで人気の「キトワ(KITOWA)」などの調香と香りの開発を手掛ける日本香堂の女性調香師、平野奈緒美さんにインタビュー。
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香十 銀座本店。地下1階の店内には多種多彩なお香や匂袋、フレグランスなどが揃うほか、カフェのようなカウンターで聞香体験もできる(要予約)
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「香十(こうじゅう)」と聞いてピンとくる人はかなりの通だろう。1575年京都に誕生し、御所御用を務めた御香所。その薫香技法は代々継承され、現在は線香・お香の最大手「日本香堂」がその名跡を受け継ぎ、「香十」という名は1969年に銀座に設立された香り専門店の名称として引き継がれている。
その香十のオリジナルフレグランス「ジュエモン(JUEMON)」が全8種の香りを揃えて刷新した。調香を手掛けたのは日本香堂の調香師、平野奈緒美さん。ヒバやヒノキなど和木の香りのアルコールフリー香水やバスエッセンスが人気のキトワをはじめ、日本香堂グループ全般の香り作りを手掛けている。

平野奈緒美:調香師。大学卒業後、渡仏。ISIPCAのパフューマリーコースを卒業後、高砂香料工業で23年間調香師として勤務した後、同フレグランス研究所の管理者を務め、2023年退社。現在は日本香堂の調香師を務める
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「ジュエモンというブランドはフランスのエスプリを加えた日本発信のブランドということで、香りの名前をフランス語の色名にしつつ、季節感、奥ゆかしさ、上品さといった和のニュアンスを大切にしています」
「JAUNE(黄)は今までになかったシトラスフローラルムスク、BLANC(白)は早春に咲く沈丁花の香り、BLEU(青)は透明感のあるホワイトムスク、VERT(緑)はフローラルの甘さが加わった森林の香り、ROUGE(赤)はアヤメをイメージしたアイリスにベチバーを加えたフローラルウッディ、OR(金)は温かみのあるサンダルウッド、VERT FEUILLE(若葉)はトップにフィグを据えたグリーンフルーティ、VIOLET(すみれ)はローズとバイオレットをメインにした優しく上品な香り。気軽にまとっていただけるよう、30mLサイズのオードトワレに仕上げています」

「高井十右衛門なら現代にどのような香りを提示したか?」というコンセプトで1970年代に誕生、今回が2度目のリニューアル。「JUEMON オードトワレ」(全8種、各30mL 9680円 OR、VERT FEUILLE、VIOLETは店舗限定)
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ところでこのジュエモンという名前は、香十第8代高井十右衛門に由来する。「香十 高井十右衛門 薫物家傳調合覚書」を書き遺し、代々の香十主人である十右衛門に受け継がれることになる。

江戸時代に名跡香十第8代を継承した高井十右衛門は、香具師十右衛門として茶道界にも名の知れた香の名人。その創香における理念と技術が書き遺された「香十 高井十右衛門 薫物家傳調合覚書」
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「お香づくりのスペシャリストを香司(こうし)といいますが、高井十右衛門は素晴らしい香司だったようです。その書は私も拝見したことがあり、読む人が読めばわかる内容で、いわゆるレシピですね。当時の香りを再現したお香『高井十右衛門 1575』は、そのレシピに基づいて作られています。創業450年を記念した『高井十右衛門 2025』は私が手掛けたのですが、クチナシとバラの香りを加えています」

「香十 高井十右衛門 薫物家傳調合覚書」に基づき1575年に作られた銘香を現代の香原料を用いて再現。「高井十右衛門 1575 JUEMON NO.1」(50本入り 香立付き 3300円)
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「お香の原料も奥が深くて、組み合わせ次第で煙の立ち方とか、灰の長さといったところまで関わっていて、うまく空気を取り込んで燃えるようになっています。そのノウハウは、ただ作れば燃えるという簡単なものではないんですよ。香りも立つように香料を組み合わせるから、さらに難しい。うまくいけばふくよかな香り立ちのお香ができますが、本当に香水とは別物です。日本香堂に入って初めてそういうことがわかり、とても勉強になっています。香老舗と呼ばれるところにはそれぞれのレシピがちゃんとあるし、原料もまた異なっているなど、まさにノウハウですね」

創業450年記念商品として平野さんが創香。クチナシ、バラ、白檀、乳香を使った柔らかな香り。「高井十右衛門 2025 JUEMON NO.4」(50本入り 香立付き 3300円)
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平野さんは、フランス・ヴェルサイユに本拠を置くISIPCA(香水・化粧品・食品香料国際高等学院)を卒業。ゲランの3代目調香師ジャック・ゲラン(Jacques Guerlain)が1970年に設立した教育機関で、ドミニク・ロピオン(Dominique Ropion)、フランシス・クルジャン(Francis Kurkdjian)、セリーヌ・エレナ(Celine Ellena)、アン・フリッポ(Anne Flipo)などスター調香師を多数輩出している名門校だ。本場で香りの教育を受けた平野さんは、現在の香りのトレンドをどう見ている?
「いわゆるスターパフューマーには60代オーバーな方がたくさんいらっしゃって、その一方で若手の方も増えてきています。経験というところを考えると、やはり香りの構成は変わってきている気がしますね。それに素材が今恐ろしく高騰しているので、昔のように高品質の原料をふんだんに使うというわけにはいかない。さらに、嗜好がちょっと変わってきているようにも思います。今までのスターパフューマーの方たちが作られてきたいわゆるオーセンティックなところから、あえてちょっとずらしてるっていうか。そもそもいいと思っている概念が違う、それがジェネレーションギャップ、もしくは時代性かもしれないですね」

平野奈緒美さんの著書『香りのチカラ』(笠間書院)。嗅覚の謎、調香師という仕事、香料原料、日用品も含めた商品としての香り、お香から広がった日本の香り文化など、平野さんのキャリアならではの多角的な視点で綴られた香りの本
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今までになくフレグランス市場が成長している日本では、アジアも含めた海外ブランドの上陸が相次ぐ一方、この流れの乗じた日本ブランドも急増中だ。
「香料会社の数は限られているし狭い業界なので、業界に属してない方、訓練を受けたかどうかもわからないような方が調香師と名乗って商品を作っているという情報は入ってきます。資格制度はないので、名乗ろうと思えば誰でも名乗れるんです。そういう方が自分のブランドとして出している小さな雑貨のようなものが今、すごく増えているようで心配しています。香料の配合量がそんなに多くはないものでも、フレグランス製品を扱う大手企業はIFRA(国際香粧品香料協会)の自主規制を遵守した香料を使用しています。また、化学品の危険有害性をピクトグラムで表示する『GHSラベル』というものがあり、ヨーロッパでは非常に厳しく、フランスでは全製品に表示しなければならないのですが、日本ではそれがなくても製品化できる。薬機法は厳しい一方で、透明性という点ではグローバル基準に合っていないように感じます」
「フレグランス業界において、やはり調香師というタイトルは特別。トレーニングを積んでから仕事を始めるわけですが、ほぼコンペティションなので、香りを作ってそれが商品になるというのは並大抵なことではありません。企業には属してますが、特別な技能を持つ職人のようなものです。そういう特殊な職業なので、調香師というタイトルは慎重に扱っていただきたいのです。また、お客様自身もただ安いからという理由で選ぶのではなく、香りをじっくりと嗅いで自分に合うかどうか、安全性は大丈夫なのかという視点で選んでいただくことも大切だと思います」
最終更新日:
ビューティ・ジャーナリスト
大学卒業後、航空会社、化粧品会社AD/PR勤務を経て編集者に転身。VOGUE、marie claire、Harper’s BAZAARにてビューティを担当し、2023年独立。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修了、経営管理修士(MBA)。専門職学位論文のテーマは「化粧品ビジネスにおけるラグジュアリーブランド戦略の考察—プロダクトにみるラグジュアリー構成因子—」。
◾️問い合わせ先
香十:公式サイト
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