フレグランスの魅力とは、単に“匂い”だけじゃない。どんな思いがどのような香料やボトルに託されているのか…そんな奥深さを解き明かすフレグランス連載。
第25回は、英国人女性で初めて伝統的なトレーニングを受けた調香師リン・ハリス(Lyn Harris)にインタビュー。10周年を迎えた自身のブランド「パフューマー・エイチ(Perfumer H)」について、さらに自身の調香スタイルや新作の魅力を明かしてくれた。

ショップではウッドシェルフにダスティカラーのパッケージが並ぶミニマルシックな内装が印象的だ
Image by: João Sousa
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リン・ハリスといえばメゾンフレグランス「ミラー ハリス(Miller Harris)」の創設者として広く知られているが、実は2013年にブランドを離れている。そして2年の準備期間を経て創業したのが、自身の名を冠した新たなメゾン、パフューマー・エイチだ。
「ミラー ハリスは、私がグラースから英国に戻って調香師として独立したばかりの20代に立ち上げたブランド。調香師としては基盤形成の段階、人間としても成長段階にあり、感情の変化に富んだ時期。今思えばトゥーマッチな感じでしたね。製品名がすべてフランス語だったことにも表れています。そういう意味では、パフューマー・エイチはより自分自身であるといえるでしょう。香料パレットには心地よさが漂い、調香師としての余裕も知識もある。私ならではの香りの言語で表現できていると思います」

創業者のリン・ハリス。イングランド北部に生まれ、モニーク・シュランジェのもとで調香を学んだのちグラースに移り、香料会社ロベルテに在籍後、独立
Image by: João Sousa
パフューマー・エイチは現在、シトラス、フローラル、ウッディ、フゼア、アンバーの5種のファミリーから成る全36種(日本での展開は28種)のオードパルファンを発売している。が、全体を括っているのは英国的ともいえるアーシーな香り。どのファミリーの香りにも苔やお香といったスモーキーなニュアンスが加わって、シームレスな世界観を醸し出している。
「それは、私の調香の師モニーク・シュランジェ(Monique Schlienger)のメンターであり、ジボダン調香学校の創設者でもあるジャン・カール(Jean Carles)が編み出したメソッドの影響を受けていると思います。すべてはハーモニーとバランス。そして完成するフレグランスは調香師のスタイル、あるいは哲学そのものですね」
香料のなかでも特にお気に入りは「ウッドや苔、フランキンセンス、デューイでウェットなグリーンの香り」というリンだが、最新作はお茶の香りをテーマにした「スティーム(STEAM)」だ。

シダー、サイプレス、ジュニパーウッドにプラムとマンダリンが響き合う、穏やかで静寂の香り。「オードパルファン スティーム」(50mL 2万6400円)
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「私はお茶が大好き。この美しい香りをどうやったら肌の上で美しく香らせることができるだろう、とずっと考えていて結局10年かかりました。3年ほど前の雨季の終わりに台湾に行った時に、そのカギが湿度にあるということに気づいたんです。それを意識しながらブラジリアンティーやマグノリア、ホワイトウッド、ムスクなどを重ね、アーシーでウッディで透明感のあるデューイフルーティノートが完成しました」

ガラス作家マイケル・ルーによるハンドブロウボトルとキャンドル。オードパルファンは100mLサイズの好きな香り1種とセットでのみ購入可能。10万4170円から
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日本のフレグランス市場はコロナ禍のおかげで思いのほか伸長し、多くのブランドが上陸。パフューマー・エイチも初店舗を伊勢丹新宿本店に昨年11月にオープンした。コロナ禍のフレグランス市場をリンはどう見ている?
「パンデミックはフレグランス業界にとってユニークな時期でしたね。ステイホームを強いられたことで、多くの人が香りの重要性に気づいたのです。私のところにも感動的なメッセージが数々届き、逆にクリエイションのヒントになりました。フレグランスは単に商業的なものではなく、生活を明るく元気にするものです。パフューマー・エイチも目指すところは生活を前向きに、豊かに彩るフレグランスであること。日常のリチュアルとして生活の一部に取り入れてもらえたら嬉しいです」

ハンドブロウキャンドルは325gで5種のカラーバリエーション、全15種の香りをラインナップ。3万5200円から
Image by: João Sousa
生活を豊かに彩るという意味では、サステナビリティにも抜かりはない。手吹きガラスの香水瓶とキャンドルポットは、英国のリサイクルガラス作家マイケル・ルー(Michael Ruh)によるもの。そして「美しいものを大切に長く愛用してほしい」というリンの思いから、リフィルサービスを実施している。
海外直営店ではリフィルステーションでキャンドル充填サービスを行っているが、日本では使用済み容器を店頭に持参すると2個目を半額で購入できるという仕組みに変え、伊勢丹新宿本店で実施している。また7月以降には、フレグランスとキャンドルのハンドブロウボトルにイニシャル刻印サービスを実施予定というから、要チェックだ。
最終更新日:
ビューティ・ジャーナリスト
大学卒業後、航空会社、化粧品会社AD/PR勤務を経て編集者に転身。VOGUE、marie claire、Harper’s BAZAARにてビューティを担当し、2023年独立。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修了、経営管理修士(MBA)。専門職学位論文のテーマは「化粧品ビジネスにおけるラグジュアリーブランド戦略の考察—プロダクトにみるラグジュアリー構成因子—」。
◾️問い合わせ先
パフューマー・エイチ:公式サイト
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