Fashion ふくびと

連載「ふくびと」sacai デザイナー阿部千登勢

人生の転機、「sacai」立ち上げ

 仕事に没頭する毎日に変化が訪れたのは1997年。妊娠をきっかけに、このまま仕事を続けるか、出産・子育てに専念するかの分岐点に立った阿部。しかし、迷った末に退社の道を選ぶ。「自分が本当に必要とされるなら、どんな状況でも仕事は出来る」と考えた末の決断だ。出産後まもなく、再出発の時が訪れた。

【阿部】自分の全てだった仕事を辞めて、娘を産んで、生活がガラリと変わりました。正直、仕事を離れたことに少し寂しさが残っていたかもしれません。でも、そのわずかな期間で自分自身をリセットすることが出来ました。それまで考えていたファッションブランドの姿は、1シーズンに何十型、時には何百型をデザインし、ファッションショーで大々的に発表し、そのすべてに全身全霊を注ぐものだと思っていました。でも、それが全てではないと考えたんです。

 例えば3型くらいなら、子育ての合間に特別なものが作れるかもしれない。そういう小さくてスペシャルなブランドって、きっとどこにもない。そんな思いで子育ての傍ら、自分にとってスペシャルなニットを編み始めました。材料費は数千円。たった3型ですが、大事なのはオリジナルの価値観なんです。


sacaiが導く新しいスタンダード

 「sacai」といえば、ニットと布帛などといった異素材の組み合わせや、立体的なフォルムが魅力のひとつ。360度、どこから見ても表情豊かで洗練された佇まいが思わず目を奪われる。コンセプトは一環して「日常の上に成り立つデザイン」。シンプルなアイテムにひねりを加え、細部まで拘り抜いて作リ上げることで、「sacai」の考えるニュースタンダードを表現している。

「sacai」ファーストコレクション

fukubito_sacai_01.jpg【阿部】最初に作った3型は、手編みのセーターを基本にして内側にブラウスの生地がついていたり、後ろにゴムがついていたりといったものでした。ニットと布帛のミックスという考え方は、その時に生まれました。「sacai」の服は、普通にたためないことも特徴です。パターンを使った立体的なニットや、異なる素材の組み合わせといった他にはないアプローチ。そこに新しさを感じて作りました。その最初の3型を見て気に入ってくださったバイヤーさんから要望があって2型を追加し、合計で5型がファーストコレクションになりました。これが「sacai」のスタートです。

 服作りを初めて3シーズン目くらいから、自宅のリビングで小さい展示会を開催し、少しずつ見に来る方が増えていきました。作っていたのは、基本的に自分が着たいもの。そして他にはないもの。今でも1シーズンで150型以上ある全てのサンプルに袖を通しますし、自分が好むものでないと商品にしません。「日常の上に成り立つデザイン」というコンセプトも最初から。 子供の事や家の事、生きていく上で大切なことがたくさんあって、日々変化する日常を過ごしている私たちが作る服。これこそが「sacai」なんです。

 例えば、シャツやVネックカーディガンといった普遍的なアイテムがあって、それに何かを加えたり少しだけひねりを効かせたり・・・。スタンダードなものに「sacai」の考えるエレガンスをプラスしてドレスアップさせる。どんなシーンでも心地よく着られ、いつも日常の延長線上にある服。その価値観そのものが新しいデザインで、「sacai」の提案する新しいスタンダード。この考えは、ブランドのスタートから12年経った今でも変わっていません。


>>次のページは、なぜ「sacai」はファッションショーを行わないのか?

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