坂部三樹郎
Image by: FASHIONSNAP.COM

Fashion インタビュー・対談

バッグ、香水、下着の次はシューズが成功の秘訣?DMMが立ち上げた「GIDDY UP」デザイナーインタビュー

坂部三樹郎
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 「ミキオサカベ(MIKIO SAKABE)」のデザイナー坂部三樹郎とDMM.comの協業によるファッションブランド「ギディーアップ(GIDDY UP)」が現地時間9月25日、パリでデビューコレクションを発表する。テクノロジーを駆使したファッションへの新たなアプローチに挑み、「フットウェア」をキーアイテムにアジア発のメゾンを目指すという。ショー前にFASHIONSNAP.COMに先行公開されたアイテムの一部には3Dプリンタを使用。先端技術に触れた坂部は「ファッション産業のパラダイムシフトを起こせる」と確信したという。ギディーアップの正体とは?

 

始まりはpixiv創業者との雑談から

ー新ブランドの「GIDDY UP」はDMM.comとの協業なんですよね。

 はい、もともと3年くらい前からpixiv創業者の片桐孝憲さんと「何かファッションでやりたいね」という話をしていたんですけど、ずっとアイデア出しくらいの軽いものでした。その後2017年に片桐さんがDMM.com社長に就任したのをきっかけにモノづくりのプラットフォーム「DMM.make」を使ってファッションで何かできないかという話になり「ブランドを立ち上げよう」ということになりました。

ー同じアントワープ王立芸術アカデミー出身の中里唯馬さんもDMM.makeの協力のもとパリでコレクションを発表しましたが、それとはまた別のプロジェクトですか?

 そうですね。現在は法人化などもしていない一つのプロジェクトという位置づけです。

ーなるほど。坂部さんはデザイナーという立場?

 ギディーアップでの僕の肩書きはディレクターで、DMM.comから委託されてブランド運営を担当している形です。DMM.comがギディーアップの権利者ですが、すごく自由にやらせてもらっていますね。もちろん限度はありますが(笑)。

ーGIDDY UPというブランド名の由来は?

 GIDDY UPは、馬を走らせたりスピードアップさせる時に使う英語の慣用句で、「ファッションのあり方を加速させた未来のモデルケースを探る」という思いからこの名前にしました。あとはストリート的な名前というかカジュアルなものにしたくて。GIDDYには怠惰という意味もあるので、そこも気に入ったんです。

ーアイテムもカジュアルな感じになるのでしょうか。

 斬新で新しいことをやっても現実味がないものは作りたくないので、カジュアルさは意識しますね。最新のテクノロジーを使うとアート作品のようになりがちですけど、ギディーアップでは3Dプリンタを使ってスニーカーを作ったり、テクノロジーを日常着としてどう落とし込むかに取り組んでいます。

ー「ミキオサカベ」では日常性を意識しないコンセプトだったかと思うので、真逆ですね。

 そうですね(笑)。最新のテクノロジーを使うこともなかったですし、普通にある素材を使ってシェイプなどで新たな人間像を提示することに傾注してきました。そのため日常とは差異が生まれるんですが、ギディーアップでは身近ではない技術を使うので、逆にデザインをリアルにしたいという思いがあったんです。ミキオサカベは日常をズラす方を考えていたんですが、ギディーアップは日常を進化させるためのものと思っています。徐々に日常に浸透させて変化を生み出す、言うなれば日常のアップデートですね。

ウェアの解説をする坂部氏

ー具体的には?

 3Dプリンタで作ったジップと呼んでいるパーツがあります。まだ試作段階ですが、マグネットとゴムライクという柔らかい素材で作っていて、ジップ自体が体に沿う。ジップというかボタンというか、僕自身もまだ呼び方が定まっていないんですが、これも日常のアップデートの一部かと思います。

イチから勉強し直した

ー3Dプリンタを活用する上で難しかったことは?

 3Dプリンタで一番難しかったのが、兎にも角にも材料が高いことによるコスト調整。適正価格にするためには材料を減らすプログラムにしなければいけないので、切り替えなどを駆使してコストを下げていく必要があるんです。従来の服のパターン通りに作っても全くダメで新しい考え方でやっていかないと、変哲もないアイテムでもとてつもない予算が必要になります。なので、どうやってコストを減らすかの工夫が大変でした。

ー技術の理解も必要になりそうですね。

 コストの次に大変だったのが、技術用語の理解やどうやって議論を重ねるのかというコミュニケーションの部分でした。そもそも知識がないと、指示出しや改善部分の検討などができないんですよね。プログラミングの知識や使われているソフト、素材の種類とか。とにかく最初は苦労しました。

ー通常の服の設計とは、やはり勝手が違いましたか?

 そうですね。やはり基礎部分での知識がないと、どこから手をつけていいかもわからない。なので自分で勉強するのはもちろんですが、ミーティングを毎週やって教えてもらいながら徐々に学んでいったという感じです。例えば、3Dプリンタだと一つのパーツを素材の部分部分を柔らかくしたり固くしたりできるし、色も自由に変えられます。これまでの服ではありえない事が可能なんです。そのためファッションデザインやパターン、素材の知識など、今まで習ってきたことから離れて、イチから覚える必要がありましたね。

ーそこまで大変なのに、3Dプリンタで服を作るメリットはあるんですか?

 小ロット生産が可能で、人それぞれに合わせて一点物を作れるということが最大メリットですね。技術進歩のスピードを考えると将来的にはコストが大幅に削減できると思いますし、データさえ配布すればオーダー服が家で作れる、みたいなことも可能になります。オーダーメイドと3Dプリンタはとても相性が良くて、骨を3Dプリンタで出力したりとファッション以外の分野では既に様々なオーダーに答えている状態です。パーソナライズに適しているので、ファッションと3Dプリンタはすごく相性がいいんですよね。

パリで発表するウェアの一部

ーギディーアップでは「クラウドブランディング」という言葉を使っていますが、その意味は?

 今世界のデザイナーは誤差の勝負しかできなくなっていると思うんです。そうした中で、様々なデザイナーが参画して最新テクノロジーを使って新しいものがどんどん生まれてくるプラットフォームを作りたい、そう考えてクラウドブランディングという言葉を打ち出しました。ギディーアップという3Dプリンタのような生産背景を持つブランドの元で、様々なデザイナーたちがデザインしたものを商品化していく、そんなイメージです。長く続くパターンとミシンの世界から抜け出せる時代が来ているのに、投資資金がないという理由で作り手がテクノロジーと繋がる機会を失ってしまうのはもったいない。特にアイデアを持つデザイナーの方たちには、どんどん参加してもらいたいなと思っています。

ーブランドというよりもサービスのようにも聞こえますが。

 色々なデザイナーが作り出すものを一つの冠の下で取りまとめるのが、ギディーアップというブランドなんじゃないかなと考えています。グリム童話も一人の人が書いたものではなく、色々な人が書いてまとめられたものですよね。でも個々の話のテイストが統一されてグリム童話として成り立っている。そんなイメージです。

これからのブランドビジネスの必須アイテムは「フットウェア」


ーなぜパリで発表するんでしょうか。しかも初回からショー形式というのは珍しいかと。

 ファッションの王道で勝負していく必要があると思ったので、オフスケジュールですがパリでショーを決めました。モデルも約20人用意して、ランウェイショー形式で発表します。それからセールスエージェントをつけて、卸も戦略的に進めていく予定です。

ー販売は主にECなのかと思いましたが。

 ECはメインですが、卸にも力は入れます。まずはフットウェアを中心に展開していきたいので、スニーカーを扱うショップなどを探しているんです。店頭で商品を見てわくわくするような仕組みは考えていく必要があると思うので、届く時にサプライズがあったりだとか、商品との出会い方を変えていけるよう模索していきたいですね。

ーフットウェアに注力してる理由は?

 これまで、特に"メゾン"と呼ばれるブランドが成功するためのキーアイテムは、バッグとフレグランス、そしてアンダーウェアでした。でも今の時代、消費者はバッグではなくフットウェアに一番お金を使っていると思っていて、特にスニーカーはメンズとウィメンズ共に需要がある。バッグと違って消耗品ですし、「服が売れない」と言われているこの時代は、キーアイテムにフットウェアが入るんじゃないんかと思っています。それと、以前は3Dプリンタで硬いものしか作れなかったんですが、ちょうど今、丈夫で柔らかい素材を扱えるようになって、そのタイミングも大きいですね。あとはマーケット。技術的な問題から、ファストファッションを含めて多くのブランドが深く参入できていないジャンルの最たるものがスニーカーだと見ていて、焦点を当てています。

ーフットウェア作りでこだわったところは?

 機能性ですね。ソールの中にバネが入りクッション性があったりと、履き心地の良さを追求しました。履きやすいようにアッパーはニットで、且つホールガーメントを取り入れました。

ーそもそも今の3Dプリンタはどういう風に作っているんですか?

 液体や粉を入れたり機械によって様々で、そのため作り手には薬品レベルまでの知識が求められます。今回技術者は1人だったんですが、次からは4人位に増やして様々な視点から新しい試みに挑戦しようと考えています。

ー生産は日本なんでしょうか?

 一部に米国の3Dプリンタを使っていますが、そのほかは日本です。ナイロンやポリエステルといった化学繊維は日本企業が得意なので、それをどうやってラグジュアリーに仕上げるかというところは意識しています。あとフットウェアに取り入れたホールガーメントは日本の島精機製作所の技術ですね。ただ、特別メイドインジャパンにこだわっているわけではなくて。3Dプリンタの場合、どこで出力しようが同じなんですよ(笑)。これまで作った場所が重視されてきたファッション業界ですが、3Dプリンタが普及すればその認識も変わるんだと思います。

ーデザイナーは服そのものというよりも、よりデザインを売るという仕事になりそうですね。

 そうなると思います。プログラミングは日本、生産は米国でとなれば、関税もかからないでしょうし。ただそうなるために、まだまだ技術の革新が必要です。

ー今の時代は、3Dプリンタで作れば革新的、というわけでもなさそうですが。

 確かにマシン自体は前からあります。でも日常に浸透させるまでには至っていない。テクノロジーで革新性を追求しているというよりは、最先端技術を日常的にどう落とし込むかの関係性の革新が追求している部分ですね。いかに浸透させるかが大事なのかなと思います。

ー今後の展開は?

 まだそこまで考えられる状態ではないですね(笑)。まずは1月の発売までに靴の完成度をあげることに集中します。

ー売上目標は?

 数年で数十億の規模に垂直立ち上げしたいと思っています。ただスポーツブランドとしてやりたいわけではなく、あくまでファッションブランドとしてやっていこうと思っています。ゆくゆくはもっと大きい額を目指したいですね。

■GIDDY UP:公式サイト

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