FASHIONSNAPの新春恒例企画、経営展望を聞く「トップに聞く 2024」。本格的なアフターコロナを迎えた一方で、物価上昇や値上げラッシュが続き、以前にも増して企業の変革が求められている。本企画では、これまで以上に速いスピードで変化する社会の中で各企業が取り組んでいるイノベーション像を深掘りしていく。
第9回は、I-ne 大西洋平社長。ビジネスの成長と組織づくりに力を入れた2023年は、上場来4期連続で過去最高の増収増益と、その旋風の勢いは止まることを知らない。業績が良いからこそ、「健全な危機感」と「違和感を持つこと」を徹底する。業績だけでなく、組織、人財、そしてフィロソフィーも盤石に作り上げる大西社長に、I-neらしさにこだわる戦略を聞いた。
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■大西洋平(おおにし ようへい)
2005年立命館大学在学中に 個人事業主として Y.B.Oを設立。当時のモバイル通販市場場の拡大に着目し、アパレルモバイル通販事業で起業。その後、次々に新規事業を考案するなかで、「デジタルでトライアルと認知を獲得し、リアルに流通する”ビューティ領域のOMOモデル”」を確立。2007年3月、株式会社Iーneとして法人を設立。デジタルを中心とするマーケティング戦略が奏功し、ボタニカルライフスタイルブランド「ボタニスト(BOTANIST)」、ミニマル美容家電ブランド「サロニア(SALONIA)」が大ヒット。2020年9月25 日に、東証マザーズ市場(現・グロース市場 )へ上場。2023年9月東証プライム市場に移行した。
ー2023年を振り返って一言で表すと。
ビジネスの成長と組織づくり、両方を強くできた年だったと思います。
ービジネスの成長で言えば、2023年12月期業績結果において、上場来4年連続の売上高・営業利益で過去最高を更新しました。
2023年12月期連結決算
売上高:416億4300万円(前期比18.1%増)
営業利益:43億7900万円(同35.3%増)
経常利益:43億3700万円(同25.0%増)
親会社株主に帰属する当期純利益:39億5400万円(同105.2%増)
※売上高および営業利益は上場来4期連続の過去最高
カテゴリー別売上高
ヘアケア事業:303億円(同28.9%増)
美容家電事業:92億円(同0.6%減)
グローバル:11億円(同28.8%増)
昨年は引き続き、ヘアケアと美容家電、スキンケア事業を推進し、またグローバル展開に力を入れた年でした。ヘアケアは「ヨル(YOLU)」の躍進もあり好調でしたし、美容家電は価格改定を行ったことで粗利率が上がりました。温めていたスキンケアは、数ブランドを発表しこれから育てていくことになると思います。
ーひとつずつお聞きしたいのですが、まずヘアケアについてですが、大きく成長しています。
まず「ボタニスト(BOTANIST)」は9月にフルリニューアルし、確実に成長しています。リニューアルはある程度成功し順調だと思います。ヨルは既存に加え、新製品の発売も奏功し急成長と言えますね。
ボタニスト:2023年12月期売上高139億円(同9.2%増)、第4四半期単体売上高は前期比18.5%増
ヨル:2023年12月期売上高136億円(93.0%増)、発売から2年で累計販売数2500万個(ヨル全カテゴリの累計販売数実績、2021年8月~2023年6月26日、同社調べ)
そのほか「ドロアス(DROAS)」は横ばいですが、3月に発売した洗顔が好調に推移しています。泥のコンセプトと洗顔がマッチしていることから、今後はもう少しスキンケアにも力を入れていきたいですね。
ーブランドの統廃合などは視野にあるのでしょうか?
事業戦略として、ブランドマネジメントシステム「IPTOS」に基づいた新規ブランドを次々に誕生させ、その中で成長軌道に乗ったブランドをさらに成長させていくことをセオリーとしており、その考えは継続させていきます。
ブランドマネジメントシステム「IPTOS」とは
I-neが生み出した、Idea(アイデア)、Plan(企画)、Test(検証/需要予測)、Online/Offline(テスト販売)、Scale(ECスケール/小売拡大)の各フェーズの頭文字を取った、商品開発におけるフレームワーク。このフレームワークに沿って開発を進めた上で、テストのフェーズをクリアしたものは、実際にある程度売れる見込みが立ちやすく、かつフレームワーク自体の再現性が高いという特徴があるという。
ーでは美容家電事業はいかがでしょうか?サロニアでは1万円を超えるプレミアムラインのヘアアイロンを発売しました。低価格でスタイリッシュを得意とするサロニアの新戦略だと思いますが。
戦略的には、低価格でおしゃれで使いやすいヘアアイロンの位置付けは変わりません。例えば、9月に発売したEMSリフトブラシは、市場では10万円以上の商品もある中で、サロニアは2万円台と、サロニアらしい価格帯で販売できたと思っています。つまり、サロニアで10万円以上のアイテムを出すといった考えではなく、あくまでブランドコンセプトに合った、高い機能性でおしゃれ、そして手に取りやすい価格帯のアイテムを出し続けていきたい。また、中高価格帯の可能性はあると感じており、違ったブランドを出しても良いのではないかと思っています。
ー最後にスキンケアについて。2023年は子会社からも含め新ブランドを矢継ぎ早に発表しました。進捗はいかがでしょうか?
これまで同様に、Eコマースで売る力と、デジタルマーケティングで流行らせる力、そしてオフラインを持ってるのがI-neの強みです。半歩先ゆくコンセプトは、「デジタル上でバズりそうで、オフラインでもEコマースでも売れそう」という、絶妙なところを突く、「コンセプトの設計力」。その目標をこれまで“見える化”してヘアケア、美容家電は成長してきました。この戦略でスキンケアもやっていきます。
その中で、スキンケアでは先行してスタートした炭酸とビタミンに着目した新スキンケアブランド「ドクターシュワン(Dr.SYUWAN)」は絶妙なコンセプトで好調に推移しています。
ーとはいえ、“炭酸”コンセプトは他社商品でも珍しくありません。ドクターシュワンの差別化ポイント、強みは何でしょうか?
なぜ好調なのかーー。高濃度の「炭酸」と「ビタミンC」といった、トレンドのかけ合わせであることだと思います。また実際使った時の体感も含め、評価してくれていると思っています。その体感が分かるよう映像を制作し、デジタルで発信することで拡散につなげる。一方でリアルの店舗でも手に取ってもらえるような、パッケージもそうですが、POP然り。そういったことも逆算して設計した結果だと思います。
ー昨年は医薬品の目薬「ティアラル(Tearal)」を発売したことも話題になりました。
目薬はサッポロドラッグストアーさんからイノベーションを起こしてほしいという話からスタートしたものです。新規参入があまりないところに、イノベーションを起こしたいという思いがあります。コンセプトやクリエイティブを新たに打ち出すことは、われわれの得意とするところなので、はまりますよね。実際、目薬も売れてます。
ーそういった総合的な力は他社に真似できないところだと思います。
先ほどもお伝えしたIPTOSについても、単なるデータを集めているというのではなく、その仕組み自体もI-ne独自のものですし、その中に蓄積したデータは、われわれならではのデータです。またIPTOSをうまく活用し商品をヒットさせようと思うと、例えばですが、新しいことにチャレンジするマインドや、何かを徹底的にやり遂げても、その都度、都度で振り返る文化や、また実行すると決定したことをやり切る文化など、さまざまな文化も必要だと思います。だから我が社以外が、IPTOSと全く同じものを作ったからといって、全く同じことはできない。IPTSの仕組みと、蓄積したデータ、そして企業カルチャーの総合力によりヒットが生まれていると思います。
ーそうなると、カルチャーが大事ですし、それを理解して動かしていく人財が重要になりますね。
もちろん商品開発で言えば、アートとサイエンスのバランスの話をこれまでもしてきたかと思いますが、調査も徹底的にしますし、数字に基づいたさまざまなノウハウを貯めていっていますが、それをそのまま活用するのはわれわれのやり方ではありません。常にI-neらしいコンセプトであるのか?と問いかけますし、至る場面で定性的な判断を入れています。この絶妙なバランスが強みではないかと思いますね。
9月に東証プライム市場に移行
ー2023年9月に東証プライム市場に移行しました。その狙いは?
長いスパンでしっかり見てもらうために海外投資家に入っていただき、株価を安定させ伸ばしていくという目的がありました。多くの上場時に海外投資家に強みについてプレゼンさせていただきましたし、実際に移行後、海外投資家の方が増えました。それによりもちろん業績や経営レベルの向上から中長期的な株価上昇につなげていきたいですし、またM&Aも積極的に実施したい。より経営の選択肢を増やすためには株価は高い方が良いですし、もちろんグローバル市場で成長させていくために、海外投資家の方々から応援とさまざまなフィードバックを頂戴できていると思います。
ーグローバル戦略も今後の成長の鍵のひとつだと思いますが、重点市場は?
現在、中国、台湾、香港をメイン地域とし、一部アメリカにテスト導入しています。これまで中国に大きくリソース振っていましたが、やはりALPS処理水問題を鑑みても、中国集中はリスクを伴います。幅広い視野でさまざまな国や地域を見ていきたい。台湾などはまだまだ伸び代があると思っており、今期は伸ばしていけるのではないでしょうか。
ーアジア以外、テスト販売をしているアメリカの状況はいかがでしょうか?
実はアメリカでヨルの評価がとても高い。グラデーションのデザインもそうですが、コンセプトにも共感を得てくれています。意外にもアジア人ならではの、「夜に髪を洗う」ことに興味を持ってくれていますし、寝ている間にケアする、スキンケアのようにヘアケアをする、という発想を受け入れてくれているようです。
そういったことを考えると、日本の独自性を生かしながら、海外でも求められるコンセプトを打ち出せれば、アメリカでもどこの国であれ難しいわけではないと感じています。
ー海外で展開するブランドやターゲット層、チャネルでの戦略は?また海外事業は将来的にどれぐらいを想定していますか?
やはりボタニストとヨルを中心に、ドクターシュワンなどは中国やインドネシア、東南アジアでも可能性があると考えていますし、富裕層に向けた戦略が良いのか、よりマスにリーチする大型スーパーのようなところが良いのか、検証を続けていきたいと思います。
現状売上に占める海外比率は数%と、まだ小さい規模ですが、グローバルカンパニーを目指す以上、最低でも30%以上は海外比率であるべきだと思っていますし、長期で考えると半分以上か、それ以上になっていかないとダメでしょうね。
機能別の組織から、事業部制に
ーでは2023年を振り返り、「組織づくり」に力を入れた年だとおっしゃいましたが、どんなことをされたのでしょうか?
たくさんのことをやってきましたが、ひとつは教育プログラムの充実です。I-neに入ったら、どういう道を進み将来を見据えられるのか。例えば、OMOマーケッターになるまでのプログラムを用意するなど細かく作り込んだことで、人も強くなったと思います。またフィロソフィー経営、経営理念を大事にしているのですが、リスペクト・コミット・イノベート、この3つの価値観を基準に採用や評価を決定しますし、表彰もします。これによるカルチャーを作ることを全方位で行っています。
実はカルチャーサーベイといった、社内組織の“健康診断”を長く実施しているのですが、その診断結果が年々高まっています。2023年の上期で3.7だったのが、下期では3.93なのですが、数字で言うとわかりにくいかもしれませんが、要するにどんどん組織が健康的になっていると言うことです。こういったことから、離職率もかなり低くなってきました。高い時から10%ほど下がっています。
ー具体的な組織改革も行なったのでしょうか?
大きく変更したのが、機能別の組織から、事業部制に移行したことです。機能別では決裁者が多くなったり、さまざまなところに承諾を得ないと進められなかったりとスピードが遅くなってしまっていました。それにより、“I-neらしくない”ところが見えてくるようになった…。事業部制としたことで、例えばボタニストやヨルなどを1つの“会社”とみなし権限を渡し、その中で決裁をさせるように変更しました。そのほかにも、優秀な人材の積極的なマネージャー職への昇格も、昨年は過去最大に行いました。ただ単にマネージャーにしただけでは、部下がついていかないケースも出てきますよね。マネージャーの研修プログラムもたくさん用意し、レベルアップにも努めてきました。
ー数字で結果がわかると嬉しいものですよね。モチベーションにもつながります。
そうですよね。ただ数字、数字と突き詰めると、本当にしんどくなってしまう可能性もあります。だからこそ、その数字の延長上に何があるか、といった話は、とにかく多く発信していると思います。 会社のフィロソフィー、ミッション、チームハピネスとはーーと。
定量を可視化し、社員のモチベーションアップ
ー具体的には?
われわれのミッションは、「We are Social Beauty Innovators for Chain of Happiness」。ビューティ業界でイノベーターとしてさまざまなイノベーションを起こしながら、お客さまや取引先さまといった、自分たちの周りの人々を幸せにしていこうっていうプロジェクトです。
だからどれだけのお客さまにどんなハピネスを届けることができたのかといったことを、お客さまからビデオレターを送っていただき見られるようにしたり、取引先さまにもどんな影響を与えることができたのかをインタビューしたり。社長の私からも、数字のその先の、自分たちが仕事を与えている良い影響の部分を可視化し、毎月のように話をするようにしています。
ー社長から発信されると理解が深まりますね。
また「KPIに縛られると、本来の目的からブレが出てきているかもしれない」と、いちいち違和感を持つことも大事だと思っていて。例えば定期的に幹部合宿をするのですが、1月にも1泊2日で行ってきて、本部長以上十数名が集まり、さまざまな話をします。そこで「定量が強くなってきているから、こんなページが出ているとか、こんなコンセプトになっているよ」とファクトで集めて、見直すことで、「ぼくららしくないよね」と少し定性的な話をする…。そうすると、じゃあこの仕組みはこうやってみようと、その都度その都度でハンドリングをしていくことが重要になってきています。そして随時、リアルタイムで発信することで社員も納得してくれるのではないでしょうか。
ーサステナビリティ活動にも力を入れていますが、2023年に行ったことは?
社員のボランティア休暇取得率は77.4%で、エシカルコンシェルジュ取得率95.5パーセントと、社員のサステナビリティへの意識は確実に高まっていると思います。さらに昨年は乙武洋匡さんやさまざまな有識者のもとで、障害者雇用を含めLGBTQについて、どんな課題があるかなど、まずは本部長以上に向けに勉強会を実施し、全社員へと受講を拡大社しました。
結局のところ、サステナブルな経営や社会課題解決と事業成長の両立は、会社の、上層部だけが考えているだけではうまくいかない。社員一人ひとりのリテラシーを高め続けることが大事で、そのためには勉強し続けることが大切なんです。頭では偏見は良くないとか、それは理解していると思っていても、実際に勉強会で学ぶことで心に響くんです。実際、勉強会後に「ここはLGBTQの人たちに、対応できていなかったから変えよう」とアクションが次々と起こっていたり。さらに社長以下、社員全員を巻き込んで学んでいることで、「I-neはそう言うことをきちんとやろうとしている会社である」という認知が広がりつつあり、それも一歩、よかったことだと思います。多様性ですよね。だから本当いろんな人が活躍できる組織を作ることも仕事だと思っています。
2024年もヘアケア、美容家電、スキンケア、グローバルを推進
ーでは2024年の戦略を教えてください。
昨年の延長上ですが、ヘアケア、美容家電、スキンケア、 グローバル、この4つを伸ばしていくことです。ヘアケアは引き続きわれわれが戦っている中高価格帯の市場が活況を呈していますし、まだまだ伸ばしていけると思っています。美容家電は高価格帯の市場トレンドに対して、サロニアではなく違うブランドで攻めていきたいですね。
ー新ブランドを出すということですか?
そうですね。これまでヘアケアに集中していたところから、美容家電では中高価格帯を出していきたい。スキンケアカテゴリは2025年までに約10の新規ブランドの立ち上げを発表していますが、テストフェーズなのでどんどん出していき、ノウハウを蓄積させていきたいと思っています。
ー一昨年、「リンクフェード(WRINKFADE)」を買収しています。今後もM&Aでブランド数を増やすという考え方もありますか?
リンクフェードに関しては、ここへきて利益体質に向かって良い状態になってきているので、今年さらに伸ばしていきます。他M&Aも積極的に考えていますが、これは縁なので、われわれが成長させられると思うブランドしか絶対にM&Aしません。強みを生かして伸ばせるブランドや会社さんを見ています。カテゴリー的には、今後の成長ドライブとして重要なスキンケアが多く見ていると言えますが、もちろんヘアケアや他も視野に入れています。
ー最後に、2024年はどんな年にしていきますか?一言で表すと。
「健全な危機感」でしょうか。1月の初めに全社総会で集まって話したのですが、良い業績が続いていると、どうしても気が緩みがちになってしまう。調子が良い時だからこそ褌を締め直そう、じゃないですが、緩まないように高い目標を掲げたり、リスクを洗い出したり、健全な危機感を持つことが大事だと伝えました。
(聞き手:福崎明子)
◾️I-ne:公式サイト
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