Image by: Pickyou
リアリティを伴う言葉が消費者の購買意欲を左右する時代に、企業の発信以上に影響力を持つ「インフルエンサー」。彼らの口コミ効果は絶大で、即完売するケースも多々ある。その影響力から、企業が秘密裏に販売促進活動を依頼し発信する「ステルスマーケティング」は規制され、発信者の言葉が「真実であるか」を判断する一般消費者からの目も厳しくなっている。近年のファッションショーも同様だ。服以上に来場したセレブやインフルエンサーたちに注目が集まる一方で、その影響力が果たして真にファッション業界を盛り上げることに繋がっているのかと疑問を呈する声もある。
よりリアリティを求める声が高まる中で、インフルエンサービジネスで高い支持を集めているのがフリマサービス「ピックユー(Pickyou)」だ。インフルエンサーやモデルの私物のファッションアイテムを購入できるという、いたって目新しいビジネスではないが、若いユーザーを夢中にさせているのは「ストリートスナップ動画」。かつて一世を風靡したスナップ文化がSNSで再燃しているのだ。
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“憧れ”への原体験がサービスの着想源に
ピックユーは2022年11月にサービスを始動し、2023年11月に本格展開を開始した。立ち上げたのは、冨田理央氏と河合航大氏。2人は今年で25歳を迎える高校時代の同級生でもある。ビジネス面は冨田氏が、クリエイティブ面は個人でアーティストとしても活動する河合氏がそれぞれ担っている。
2人とも学生時代のアルバイト代は全て服につぎ込んでいたほどの服好き。サービスの着想源は、学生時代から冨田氏が河合氏の服装やスタイルを憧れて真似たり、実際に私物を譲り受けていた原体験にあるという。「自分で買った服は結局2、3回着ると飽きてしまいました。でも(河合)航大から貰ったものは長く着用しています」(冨田氏)。信頼する、または憧れの人が着ていた、おすすめしていた服が手に入るという付加価値をピックユーにも落とし込んだ。
出品した私物はすべてピックユー側が管理。採寸や発送も手掛けているため、出品者・購入者ともにやり取りする負担がないのが特長の一つだ。
ストリートスナップを取り巻く新たな熱狂
ピックユーに出品する“主役”は、まだ無名のファッション好きたち。インスタグラムでのDMでのハンティングや紹介のほか、専用フォームからの応募も受け付けており、いずれもマイクロインフルエンサーをメインとしている。知名度の高い人物を起用し、そのフォロワーにリーチできた方が認知は広まりやすいが、冨田氏が河合氏の服装やスタイルを憧れて真似たり、実際に私物を譲り受けていたという原体験にあるように、雲の上の存在ではなく、身近な距離感を大切にしているという。
しかし、大きな特徴がなければサービスの認知は上がりにくい。そこで活用したのが、ストリートスナップ動画を活用したプロモーション。出品者として参加しているインフルエンサーにその日の私服を聞く「今日なに着てますか?」というショート動画は、昨年9月に始動してから約半年間でTikTokやInstagramの総再生回数2300万回以上を達成し、キラーコンテンツ化。同様のコンテンツの中でも先駆け的存在となり、このスナップ動画を本格ローンチに先行して9月から投稿を開始したことを機にSNSのフォロワーは急増した。本格始動から約3ヶ月で多くの出品者が登録し、ユーザー数も日々拡大を続けている。
ストリートスナップといえば、「ストリート(STREET)」「フルーツ(FRUiTS)」をはじめとするメディアが台頭し、1990年代後半から2000年代にかけて全盛期を迎えた。ストリートスナップに声を掛けてもらうために多くのファッション好き達が“勝負服“を着て原宿の街に繰り出していた。
スナップ媒体に共通するのは「リアリティ」。フェイク情報が氾濫する現代において今の若者が求めているのは、リアルなファッション好きが集まる“箱”だ。「スナップ媒体にはおしゃれな人が集まっている」「この人たちのようになりたい」「憧れの存在に近づきたい」──マイクロインフルエンサー×スナップという掛け合わせは、そのリアリティを演出する要素の一つになっている。
「そのブランドが本当に好きなのかわからないインフルエンサーを招待してばかりのファッションショーには興味が持てません」と河合氏。ファッションの面白さとは何か、その面白さはどこにあるのか。いま若者からスナップが人気を集めているのは、「本質的なファッション」の面白さがストリートに存在しているから、ということだけではなく、服やブランド以上にセレブたちが露出する現在のファッションウィークに、業界人だけではなく服好きたちも内心辟易としていることの表れなのかもしれない。
マイクロインフルエンサーが持つ新たな影響力
ピックユーが例外ではなく、マイクロインフルエンサーは近年、存在感を高めている。資生堂やユナイテッドアローズなどの企業がショップ販売員や美容部員のインフルエンサー化を促進。アダストリアが自社ECサイトで展開しているコーディネート投稿コンテンツ「スタッフボード」では地方店の販売員が人気スタッフになり、来店イベントに多くのファンが駆けつけるなど、新たなムーブメントが生まれている。
ピックユーのスナップ動画「今日なに着てますか?」には、まだ知名度が低い人物とパリのファッションウィークでランウェイを歩く人気モデルが同列で登場するが、“おしゃれな人が登場する”という期待値がサービス自体にあることで、出演者の知名度を問わずフラットな視点で閲覧されるため、無名の一般人も注目されるチャンスがある。つまり、「無名でもインフルエンサーとして成長できる」という可能性を秘めているのだ。
「すでに影響力を持つインフルエンサーに依存するビジネスではダメ。出演者の持つ数字の上下に左右されない世界観を作り上げることで、インフルエンサーを起用したコンテンツは自走できる」と河合氏。金銭を渡して有名人を起用するのではなく、熱量の高い出品者と購入者が自然と集まり、無名の出演者がインフルエンサーとして成長する。ピックユーはその成長と共に、アイテムの売上も伸長するという好循環を作り上げている。
コミュニティから、カルチャーを生む
昨年12月にはプレローンチから1周年を記念した初のリアルイベントと題し、出品者だけではなくユーザーも招いたDJイベントを開催。会場には出品者であるインフルエンサーやYouTuber、モデルたちとサービスのユーザーたちがごった返し、実際に購入したアイテムを着てそのアイテムの出品者とコミュニケーションを取る購入者や、直接会わないと気が付かない細やかなスタイリングをお互いに褒め合う来場者たちの姿が見られ、会場のキャパシティを超えて警察が規制に入るほどの賑わいを見せた。冨田氏と河合氏は「誰もが“自分が考える一番オシャレな服”で集まる空間の熱量は凄まじかった」と振り返った。
ピックユーは今後、前述のDJイベントのように、サービスだけではなくコミュニティとしても機能させ、新たなカルチャーづくりを目指していく。その目指す先は海外進出。日本発の「カワイイ」が海外にまで浸透するカルチャーになったのも、ストリートに溢れる原宿系やロリータたちがきっかけだったように、新たな日本発のファッションアイコンをピックユーが発掘し、スナップコンテンツを通して「日本の服好きはイケてる」というイメージを世界規模で作り出すことができれば、世界でムーブメントを起こす新たなカルチャーを日本のストリートから再度発信できるだろうという考えだ。
お気に入りの服を着て、誰かに見てほしいという気概を持つ人は、誰しもがインフルエンサーになり得る。そういった熱量の高い服好きを紹介するスナップコンテンツの再燃が、日本のファッション業界を盛り上げる新たなエンジンの一つになるかもしれない。
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