取材に応じたバニッシュ・スタンダード 小野里寧晃社長
Image by: FASHIONSNAP
渋谷109を中心に「カリスマショップ店員ブーム」が到来し、一世を風靡した1990年代。あれから20年以上の時が過ぎ、平成から令和へと移行した今、再びショップ定員が脚光を浴びている。背景にあるのはSNSやECを介したデジタル接客の浸透。それを下支えするのが、コーディネート投稿機能を中心とした販促支援サービス「スタッフスタート(STAFF START)」だ。同じカリスマ店員ブームでもどのような違いが見られるのか。運営会社バニッシュ・スタンダードの小野里寧晃社長に見解を語ってもらった。
バニッシュ・スタンダードは2011年3月に創業。当初はECサイトの受託業務をメインとしていたが、友人から「ECが存在することで店舗の売上が落ち、リソースも削減され苦しい」というアパレル販売員の厳しい現実を聞かされたことを機に、スタッフスタートを開発した。
ADVERTISING
スタッフスタートでは、販売員が専用アプリ上にコーディネートなどを投稿し、投稿したコンテンツ経由で得た個人売上を算出することで評価を数値化。“リアル店舗至上主義”のアパレル業界にデジタル接客という新たな手段を提供し、販売員の活動の場をオンラインに広げるきっかけにもなった。
コーディネートアプリとしては後発だった。2016年9月のサービス開始時は他社の既存サービスとの違いを説明しても理解されず、また、販売員の地位を低く捉える風潮も色濃く残っていたことから契約に至らず、数字が伸び悩んだ。しかし小野里社長は前向きだった。「たしかに他社のコーディネートアプリと見え方は似ているが、我々は“人”にフォーカスを当てた。スタッフスタートはエンプロイーエクスペリエンス(従業員が働くことを通じて得るあらゆる経験価値)にもアプローチし、消費者だけではなく双方が幸せになれるサービスを作った。他社との差異化はできているし、勝算はあった」。
スタッフスタートの理念に賛同する企業が徐々に増え、導入ブランドも拡大。現在はアダストリアやベイクルーズといった大手企業が活用するほか、飲食やインテリア、家電量販店業界などにも利用企業が広がっている。今年9月時点の契約ブランド数は1600以上にのぼり、利用スタッフは10万人に到達。年間流通額も倍増で推移し、2020年9月から2021年8月までの1年間は1200億円を超え、スタッフ1人あたりの最高月間売上は1億円を突破した。個人売上が可視化されることで、販売員のモチベーションに変化が見られた企業も多いという。
ほとんどの導入ブランドで成果があらわれているが、うまくいかなかった企業もゼロではなかったという。成果が出た企業とそうでない企業の違いとは何か。「僕らが提供しているのはあくまでもツールであって、発信するのは販売員本人。発信する目的を企業側からスタッフに伝えずにマインドセットしないままでは意味がない。むしろ本社よりも販売員の方が意欲的だったりもする。導入を決める企業側の意識も重要だ」。
スタッフスタートの直近のデータ
Image by: バニッシュ・スタンダード
◇「憧れ」から「共感」の時代に
近年はSNSの普及を背景に生き方や働き方の多様化が進んでいることから「個の時代」とも呼ばれる。SNSで人気を集める販売員に会うために所属店舗まで足を運ぶ客も多く、1990年代に続く「カリスマ店員ブームの再来」という見方もある。1990年代のカリスマ店員ブームとはどのような違いがあるのか。小野里社長は“令和のカリスマ店員”をこう定義する。「1990年代のカリスマ店員はギャルブームも背景にあり、ギャルであることが強みとなっていた。今の販売員はそういったカテゴライズがなくなり、営業力から商品知識、気持ちを汲み取る力までプロフェッショナルな技術力に加えて、人間力を持つ人が支持される。平成のカリスマ店員を“憧れ”の存在と定義するなら、令和のカリスマ店員は“共感”できる対象になっているのではないか」。インフルエンサーマーケティングも現在は主流となったが、小野里社長は「インフルエンサーは自分自身の生活のために深く知らない商品でも売ることがあるが、販売員は商品をよく理解した上で、愛を持って売っている」とし、インフルエンサーと販売員には情報の質に大きな差があると指摘する。
今年9月に初開催した7万人の店舗スタッフから日本一を決めるコンテスト「STAFF OF THE YEAR」では、9万票に近いオンライン投票から「リエンダ(rienda)」福岡ソラリアプラザ店の販売員がグランプリに選ばれた。都心ではなく地方都市の販売員が頂点に立ったことから、「個人というものに生まれ育った場所や住んでる場所、働いている場所は関係ない。“個人”としての人間力があるかどうかが求められる時代になった」と小野里社長は見解を示す。
◇次は「リアル店舗に送客へ」 LINEとの協業も
「販売員に再び注目が集まるようになったきっかけを作ったことは褒めてほしい」と語る小野里社長。次に目指すのは、コロナ禍で客足が遠のいたリアル店舗や商業施設を復活させることだという。
その施策の一つとなりうるのがLINEとの協業だ。今秋にスタート予定の「LINE STAFF START」では、LINEでスタッフがユーザーと直接コミュニケーションが図れる仕組みを導入し、情報配信やオンライン接客などを通してスタッフの売上を可視化する。販売員と顧客の距離が縮まれば来店の動機にもつながる。今後の施策では来店検知できるような新機能の導入も検討し、販売員と顧客のつながりをさらに強化する狙いだ。
国内ではコロナの感染縮小とともに消費の場はECからリアルに再び戻りつつあるが、スタッフスタートの収益への懸念については「ECは伸び続けると思っているから売上への影響は心配していない」という。なお、事業の多角化は検討せず、今後もスタッフスタートを軸とした派生サービスの展開に留める方針。IPOも現時点では視野に入れていないという。
ADVERTISING
RELATED ARTICLE
関連記事
READ ALSO
あわせて読みたい
RANKING TOP 10
アクセスランキング
MM6 Maison Margiela 2025 Spring Summer