Culture キボウの消費

【連載:キボウの消費】03 ファンドマネージャー 藤野英人「社会は中和に向かう」

 新型コロナウィルス問題によって、ファッションを取り巻く環境が変化することは間違いありません。「キボウの消費」と題した本稿では、環境がどう変化していくかについて、さまざまな分野の人に聞いていきます。

 3回目は、レオス・キャピタルワークス代表取締役社長であり、最高投資責任者である藤野英人さんに登場いただきます。「ひふみ投信」をはじめとするアクティブファンドの運用責任者である一方、明治大学商学部兼任講師、JPXアカデミーフェローなど、投資にまつわる教育に力を注ぎ、幅広い活動を展開しています。(取材・文:ifs未来研究所所長 川島蓉子)

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今までの暮らしは何だったのか

 3年ほど前、最初にインタビューした時のこと。私が弱い分野だなあと、少し緊張してうかがったのですが、藤野さんが紡ぎ出す言葉は、世の中の動きを俯瞰し、これからを説く興味深いものばかり。しかも、随所に藤野流のユーモアが散りばめられていて、笑いに彩られたひとときになりました。そんな藤野さんが、今とこれからをどのように見ているのかを聞いてみました。

 リモートでのインタビューに現れた藤野さんは、逗子にあるご自宅からの登場でした。「今回のことを契機に、別宅がある逗子を本拠地と決め、住民票を移しました」というからびっくり。在宅ワークを中心とした暮らしへ舵を切ったというのです。犬を2匹を飼い始めて朝夕の散歩が日課になり、家庭菜園をスタートして、獲れたての野菜を使った料理で体調が良くなり、ダイエットもできたとか。

 会社の業績に影響を及ぼさず在宅ワークに移行でき「運用の仕事にも集中できる。今までの暮らしは何だったのか。自分では仕事していると思っていたのが、実はデブノミクスまっしぐらだったのでは」とにっこり。暮らしも食事もご自身の身体も、良い意味で引き締まった様子でした。とともに、会社を率いている経営トップの正直なコメントに、人となりが現れていると心動きます。

 世の中はどうなっていくのかと聞いたところ、「経済とライフのバランスをとる時代」という明快な答えが返ってきました。まさに自身が実践されている行動そのものです。なぜ藤野さんは、時代の動きをとらえて即実行できたのか――考えてみると、本来的な投資とは、成長性が見込める企業を見抜き、資金を出して応援することですから、時代の潮流を読む才がなければ務まらないと納得したのです。

 

経済>ライフ だったバランスを見直す

 藤野さんの話は続きます。コロナ問題により、"自分にとって何がハッピーか"を考える人は少なくなかった。経済優先、会社中心で動いてきたが、ハッピーはそこだけではなく、日常の暮らし=ライフがかけがえのないものと気づかされた。つまり、経済>ライフだった価値観のバランスを見直す、「中和化」する方向に向かうというのです。

 「中和」の方向は、さまざまな領域に及んでいくといいます。タテ社会による組織は、よりフラットな構造に。男性中心の社会は、女性がより前に出るように。持っているモノで差別化する消費は、自分が何をどう使うかで表現するように――今までゆっくり進んでいた流れが、コロナ問題によって一気に推し進められていくというのです。とともに、コロナ問題は、何かのせいにすることができないので受け容れざるを得ない、未曾有のことで先が見えない――心の平穏を得るには、「手のうちで判断できることを、まずはやってみるのが大事」とも。それなら誰もが、何かを実践できそうと希望が湧いてきます。

 

自分を客観視、他人を主観視

 一方、暮らしを変えたことで気づいたのは「自分はやはり、何かを"育てる"ことが好き」ということ。ペットや家庭菜園は、"育てる"ことに他ならないし、そもそも投資とは、その企業が成長していけるように、お金を出して応援することを意味しています。

 それに加え、「成長の対象に自分も含まれている」とも。誰もが成長したいと願っているのですが、思うようにいかないのが常。「主観と客観を行き来することが肝要です。自分を客観視すること、他人を主観視すること。双方の視点を大事にしています」と深いお話。自分のありようを客観的にとらえる一方で、他人のありようについて、自分事としてとらえる。「人はどういう人を好きになるのか考えてみると、たとえば自分のために喜んでくれる人、泣いてくれる人が入ってくる。つまり、他人事を自分事化できる人ということ」。人とのかかわりにおいて、そういう関係性を作ることが自分の成長につながるというのです。

 コロナ問題を経て、企業やビジネスのありようが大きく変わろうとする中、複眼的な視点を持つことが、自分がハッピーになれるかどうかを分けるのだと自戒を含めて思ったのです。

 最後に、いつも前向きで明るい藤野さんに、嫌になったり落ち込んだりすることはないのか聞いてみました。「日中は着ぐるみを被っていて、お風呂に入る時に、背中のジッパーを開けると、イケメンで細マッチョの藤野が出てくる。何を意味するかというと、例えば誰かが僕の悪口を言っていても、それは単なる外側の着ぐるみの話。着ぐるみが悪口を言われているから、中にいるイケメンの細マッチョは気にしません。そう思うと割合とへっちゃらなんです」という話に、インタビューの場は笑いの波。しんどさをユーモアに置き換えていく藤野流の発想に脱帽でした。

取材・文:川島蓉子
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』などがある。
1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
お話を聞いた人:藤野英人
レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役社長 最高投資責任者(CIO)
国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。主に日本の成長企業に投資する株式投資信託「ひふみ投信」シリーズを運用。投資啓発活動にも注力する。JPXアカデミーフェロー、明治大学商学部兼任講師。一般社団法人投資信託協会理事。近著に『お金を話そう。』(弘文堂)、『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)。

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