フン・ラとレア・ディッキリー
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Fashion インタビュー・対談

【インタビュー】"怪談"好きのデザイナー夫妻手掛ける「KWAIDAN EDITIONS」とは?

フン・ラとレア・ディッキリー
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 ベルギーの名門アントワープ王立芸術アカデミーで出会い、そして結婚したレア・ディッキリー(Lea Dickely)とフン・ラ(Hung La)夫妻。2人が手掛ける「カイダン エディションズ(KWAIDAN EDITIONS)」は、"怪談"がブランド名の由来だという。正反対のような環境で育ちファッションエリートと言える経歴の持ち主である2人が、なぜ日本のオカルト的な言葉に惹かれたのだろうか?過去の名だたるブランドでの経験と共に、2人が紡ぐ"カイダン話"を聞いた。

【カイダン エディションズ】フランス人デザイナーのレア・ディッキリー(Lea Dickely)とベトナム系アメリカ人デザイナーのフン・ラ(Hung La)によって2016年に設立されたブランド。2人はアントワープ王立芸術アカデミーで出会い、2008年から2009年にかけて卒業。卒業後、レア・ディッキリーはプリントスペシャリストとして「リック・オウエンス(Rick Owens)」や「アレキサンダー マックイーン(Alexander McQueen)」、フン・ラはウィメンズデザイナーとしてニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquière)率いる「バレンシアガ(BALENCIAGA)」やフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)率いる「セリーヌ(CELINE)」でそれぞれ経験を積んだ。パリに4年滞在したのち、現在はロンドンを拠点に活動している。2018年にはLVMHプライズのファイナリストに選出され、2019年秋冬シーズンでは初のショーをパリで開催した。 

― お二人は夫妻とのことですが、出会いは?

レア・ディッキリー:アントワープ王立芸術アカデミーで出会って、もう15年間一緒にいます。結婚したのは10年前。私が学校を卒業してすぐの頃でした。

フン・ラ:でも結婚した当初は、一緒にブランドを始めるなんて思ってもみなくて。

― お互いの共通点は?

レア・ディッキリー:違いのほうが多いと思います。私はフランスの観光業が盛んな小さい村出身。ワイン作りで知られていて、カラフルな家が並んでいるような。一方で彼は、同じ見た目のような家が建ち並んでいるアメリカの郊外出身ですから。

フン・ラ:教育一つをとっても正反対のような環境で育ちましたね。でも、好きなテイストや趣味に共通点がありました。お互いに一貫性のあるオーセンティックなものや、ダークでミステリアスなものに惹かれるんです。

(左から)フン・ラ、レア・ディッキリー

― 「カイダン エディションズ」というブランド名の由来は、日本の「怪談」だそうですね。

フン・ラ:子どもの名前を決めるくらいの気持ちだったので、ブランド名にふさわしい言葉を見つけるのに半年がかりでした。立ち上げに際して一番大変だったことかも。具体的に由来となったのは、小林正樹監督の映画「怪談」です。奥行きや詩的な要素がある作品だと感じますね。ホラーというより、奇妙だったり不可思議な部分にも惹かれたんです。

レア・ディッキリー:作品が持つ、怖さに由来しない"暗さ"にも惹かれました。説明できない、目でも見えないものを理解しようとする行為にも。

フン・ラ:「怪談」はもともと中国からきている言葉だと聞きました。それがやがて日本に伝わって文化の一部になった。そして、日本文化に惚れ込んだギリシャ出身のラフカディオ・ハーン(Lafcadio Hearn、小泉八雲の名でも知られる)という作家が、怪談をまとめた本を作って西洋にも広めたんです。そうやって怪談には、人から人へと受け継がれてきた歴史がある。私達もこうしてブランドを通じて、怪談文化の長い歴史の一部になるのが面白いと感じています。

― 他にも好きな映画はありますか?

レア・ディッキリー:ヴィム・ヴェンダース監督の「パリ、テキサス」は大好き。あとキューブリック監督の作品はどれも好きですね。

フン・ラ:「アイス・ストーム」(アン・リー監督)、それからコーエン兄弟の作品も好きですね。僕達が映画に惹かれる理由は、その奥行きとレイヤリングにあります。

―ブランドを形容する言葉を3つ選ぶとしたら?

フン・ラ:意外性があること(Unexpected)。

レア・ディッキリー:誠実さ(Integrity)、好奇心をそそる(Intriguing)でしょうか。

― デザインはどのように進めていますか?それぞれの役割は。

レア・ディッキリー:私が全体的なクリエイティブイメージを担当しています。フンはビジネス面と、ディテールやフィニッシングなど服の仕上がりの細かい部分を見ていますね。

フン・ラ:最初のインプットはレアから始まって、スケッチも全て彼女が描いています。でもそれが服としてリアルに存在するものになる時に、僕はその良さを十分に理解する必要がある。「カイダン エディションズ」は僕達2人の対話のようなものですが、時に言葉で説明することで変わってしまったり、浅くなってしまうこともあると思うんです。なので言葉にしなくても理解できる関係性は、とても特別なことだと思っています。言葉だけではない理解は日本の文化にも通じるものがあると、今回の来日で実感しましたね。

― ブランドを立ち上げる前は「セリーヌ」や「リック・オウエンス」など名だたるメゾンで働いてきましたが、その経験から何を学びましたか?

フン・ラ:ビッグブランドでの経験は、僕にとって第二の教育のようなものでした。あらゆる物事がどのように遂行され、またなぜ遂行される必要があるのか。たくさんのデザイナーやパタンナー、その他多くの人が関わって一つのコレクションが作られる過程。そういったことを身をもって学べましたから。

レア・ディッキリー:私の経験はフンとは少し違うんです。フンはクリエイティブディレクターとの仕事を楽しんだと思うんですが、私にとっては容易ではありませんでした。最終的に感じたことは、ファッションハウスでは働きたくないということだったんです。私には合っていない。だったら自分のビジネスを始めたほうが良いなと。リック・オウエンスなど素晴らしい人々と会う機会に恵まれ、沢山インスピレーションを受けたのは間違いありません。でももっとインディペンデントになりたかったし、仕事に関する全てのプロセスの理解をさらに深めたかったんです。

― "燃え尽き症候群"が独立してブランドを立ち上げたきっかけだったと、過去のインタビューで話していましたね。

フン・ラ:自分の仕事がランウェイに現れるのは素晴らしい経験ですし、気分も良い。でもファッション業界では、これは得に大きなブランドに顕著ですが「十分だ」という状況になることがなく、いつも何かしらに追われているような気持ちになる。勤務時間もとても長く、多くを求められますから。ブランドのために頑張り続けて、成功して、より格好の良い肩書きになるかもしれません。でも、その分ストレスも大きくなり続ける。もちろん独立してブランドを持てば、また異なるチャレンジが毎日ありますが、僕達2人が一緒に経験を積んでいけることが今は嬉しいです。自分のビジョンや重きをおいている価値に時間も労力も投資できますから。

レア・ディッキリー:ルールを自分で決められるようになったのは大きいですね。毎日ひたすら走り続けるのではなく、自分たちのための目標をずっと作りたかったので。

フン・ラ:ファッション業界ではみなサステナビリティについて話していますが、大きなブランドで働くことは個人としてはサステナブル(持続可能)じゃないのかもしれない(笑)。多くを求められるし、できる限り貢献したい。でも最終的には、正当な対価ではないと思ったんです。

― ファッション業界の問題点は何だと思いますか?

レア・ディッキリー:たくさんありますが、特に思うのはブランドが多すぎること。私達のような若いブランドに注目してもらうのはとても困難です。特に「カイダン エディションズ」は声の大きい派手なブランドでもないので、さらに難しいですね。

フン・ラ:スピードが加速し続けているのが怖いと感じます。コンテンツをたくさん持っていなきゃいけないし、それもできるだけ早く提供するのが良しとされている。例えばNetflixは選択肢がたくさんあるし、私達の生活の仕方を変えていると思います。すごくクリエイティブなものがたくさんあるけど、たまに本当に重要なことが見失われているんじゃないかと心配になることがあるんです。私達が注目して欲しいと思う物事に目を向けてもらえるスペースはあるのか?それとも、単純に声が一番大きくて、スピードが一番早いものが大事なのか?ブランドとしての発信の仕方についても、とても難しく感じています。

― 市場にブランドが飽和するなかで「カイダン エディションズ」の強みは何だと思いますか?

フン・ラ:レアがいることですね(笑)。

レア・ディッキリー:(笑)。

フン・ラ:常に珍しい存在でいたいとは思っています。私達は、デジタルが普及する前の時代を知っています。過去にハイファッションのキャリアでバーンアウトを経験しただけに、今は自分たちにとってやりがいのあることを見つけて集中するのみ。ただ単に服を作り続けても、マーケットは常に「もっと」を求めて消費し続けるので、ハイファッションでそうだったように燃え尽きてしまうかもしれませんから。自分たちにとってやりがいのあることが大事で、それが今はブランドの仕事を通して人に出会ったり、コラボレーションしたりすることになっています。

― 今年3月にはパリファッションウィークで初のショーを開催しました。続けていきますか?

レア・ディッキリー:そうですね。現状だと一番ブランドに適したフォーマットだと思っています。

フン・ラ:機能していないと感じるようになるまでは。初回のショーをやって、すごく良い気分でした。大きなチャレンジでしたが、結果には満足しています。ライブ感があってエネルギーに溢れたショーという形で、ブランドを体験してもらえたので。

パリ市内の地下駐車場で開催した2019-20年秋冬コレクションショー

― 次のステップは?

レア・ディッキリー:カテゴリーを充実させたい。メンズウェアやジュエリーなど。コラボももっとやりたいですね。でもまだ5人体制の小さなブランドなので、一度に多くは進められません。多くのお客さんが「カイダン エディションズ」と関わるきっかけになるようなものごとを、少しずつ増やしていきたいと考えています。

― メンズウェアを始めるんですね。

レア・ディッキリー:すでに仕事は始めていますよ。具体的な時期は明かせませんが、近々ということで(笑)。

― 最後に、2人で長く1つのことを続けるのに必要なことは?

レア・ディッキリー:コミュニケーションをしっかりとって、常に誠実でいることかな?例え簡単じゃなくても。

フン・ラ:こだわりが強く妥協できない2人なので衝突もありますが、それがクリエイティブなアウトプットに繋がることもあったり。根底にはお互いへの信頼がある。2人の間に長い歴史があって、最終的に叶えたいものは同じだから前に進めるのだと思います。

レア・ディッキリー:まだお互いについて知らないことがたくさんありますね。15年間一緒にいますが、毎日フンの新しい一面を見つけていますから。これからも新しい発見があるのは、エキサイティングなことだと感じています。

(聞き手:谷桃子)

■カイダン エディションズ:公式サイト

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