それは果たして本当に現実か?「レシス」が現代の表裏一体を突く
フロットサムブックスでの写真展開催

Image by: Photo: Kazuyoshi Usui / Courtesy of LES SIX

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それは果たして本当に現実か?「レシス」が現代の表裏一体を突く
フロットサムブックスでの写真展開催

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ファッションが随分と現実的になった。昨今の東京を見ていると、特に感じる。身近なデザインというのとは少し違ったニュアンスは異なるが、リアリティを拠り所の如く尊重する傾向は強まるばかりである。「建築家が建築を通して行うことは、建築家が今、世界をどう見ているか、彼の洞察を表現することなのです」。以前、「プラダ(Prada)」のミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)はそういっていた。もちろん、ファッションにおいても然り、と言外に匂わせているのだろう。「リアリティ」は歴としたファッションの物差しである。従って、現実を蔑ろにしたデザインは、絵空事の如きものとなろう。しかし、現代に蔓延る「リアリティ」 には、日常の現実に固執するあまり、安全圏に留まってしまい、それに紐付いた物語性や生々しさがなく、想像力や知性を閉め出した面白味のない作に陥るという落とし穴がある。「リアリティ」の意は「現実的」というだけではない筈だ。
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そのような視座で「レシス(LES SIX)」の創作を展望すると、皮肉を顧みない悠然とした小気味良さがある。2026年春夏は、2024年春夏より続いていた現代の米国をファッションという写し鏡に、生々しく描く試作の最終章となっており、表現方法としてランウェイショーではなく、写真を選択している。写真はルックブック、キャンペーン、イメージビジュアル(2026年春夏のデリバリー時期に公開)という3つのセクションに分けられ、9月18日(木)より代田橋にあるアートブック書店、フロットサムブックス(flotsam books)にてキャンペーンヴィジュアルを展示する写真展を開催。レシスを手掛ける川西遼平は「今では、ブランドはそのシーズンに関連する題材を下地にセレブリティをモデルとして起用した広告写真が主流となっていて、そこに映し出される写真もコレクションの内容がわかりやすく、直接的になっている。ただ1990年代は雑誌の影響力が強かったこともあり、スティーブン・マイゼル(Steven Meisel)、ピーター・リンドバーグ(Peter Lindbergh)、ティム・ウォーカー(Tim Walker)といった写真家の写真はコレクションの内容問わず強さがあって、1枚に懸ける情熱も尋常ではなかった。1枚の写真で世界を変えると本気で思っていたと思う。実際に広告写真は時代を写し出す鏡として創作と結実していた。今回のキャンペーンのように、1枚の写真に10人以上が映し出されているなんてことも今はほとんどないし、そもそもそれに意味がない。愚にもつかないが、それを全力でやると強さが出るし、生々しさも出る」と語る。
現代において、ブランド、コレクション、プロダクト、セレブリティ、そしてSNSの距離は最短が求められる。それは売上に関わるため、わかりやすいキャンペーンを提示することは当然であるが、その価値は変わってきている。モノの価値が変わるのと付随して、それに纏わるプロモーションの手法も変わるのは自明の理である。ただし人の視界に変化はない。「例えば、タクシーとか電車に乗っていて、キャンペーンやティザー映像が眼に入る。薄っすらとしているかもしれないが、人の記憶に残ることは重要で。面倒だと思いながらも精魂詰めてやっているならば、アーカイヴ化されたいという思いがある。プロダクション的にはランウェイショーをやるのとほとんど変わらない予算を注いでいる。馬鹿馬鹿しいかもしれないけれど、それを本気でやる」というように、現代風刺の根幹はそこにあるのかもしれない。

Image by: Photo: Kazuyoshi Usui / Courtesy of LES SIX
先述したように、レシスは此処2年ほど、あらゆる題材を引用して現代の米国社会をファッションの目線で切り取っている。今回は主題にあるように「キリストの裏切り(The betrayal of Christ)」がモチーフとなっている。聖書における「キス・オブ・ジューダス(Kiss of Judas)」はあらゆる芸術作品の主題になっており、米国建国の1776年から現在の2025年までの洋服で一つのコレクションに落とし込んでいる。「『ユダの裏切り』のユダはイエス・キリストの12使徒の一人であるイスカリオテのユダの話であって、ユダヤ人のことを指しているわけではない。ただ、これを現代社会と現代アメリカに転換した時に、裏切り者は誰?となる」。「キリストの裏切り」は、宗教的なテーマとして、美術作品にも描かれており、今回のキャンペーンのインスピレーション源となったバロック期のイタリア人画家、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ(Michelangelo Merisi da Caravaggio)やフランドル派のベルギーの画家、アンソニー・ヴァン・ダイク(Anthony van Dyck)らが取り上げている。「それらと今季の服に特別な関連はないが、今季は主題が最初に決まってからコレクション製作を進めた。タイトルに関してはデザインを出し切った後か、アウトプットが決まってからか、とにかく全体像を見て決定する。アシスタントにリサーチや方針案を広げさせているが、彼はファッションデザインをやったことがないためルールがない。そこが面白い。例えば、リサーチ1つとっても、パソコンの画面から画像を保存する行為だとか、ファッションの本からスキャンする行為をだけではなくて、日本の場合は希少なアメリカの古着がマーケットに落ちているため、それを探しに行く。宝探し感覚ではないが、当時実際に切られていた軍服や労働着を拾ってそこから文献を掘っていく」。

Image by: Photo: Kazuyoshi Usui / Courtesy of LES SIX
レイヤードされた世界観を写真集「マカロニキリシタン」や「showa」シリーズなどの代表作のある写真家、薄井一議が12枚の写真に収めている。薄井はこれまでもレシスのコレクションを撮影しており、薄井の写真が展示されるフロットサムブックスも、川西曰く「何でも揃っている」ため、頻繁に出向くこの書店で開催することが即決された。「印刷、サイズ感などは薄井さんに任せている。展示のレイアウトも当日決める」という川西は自身を「モノがないと判断ができない」というが、逆手に取れば、モノが揃えば全体像が即座に決まっていく。昨季のショーも音楽や照明なども当日現場で判断していった。そういう意味ではデザイナーというよりもどこまでもディレクター気質。「薄井さんだけではなく、ヘアメイクやスタイリスト、モデルにもこのテーマに関しては入念に話をした。なんせ、プロダクション、写真やヘアメイクのイメージのミーティングだけではなく、フィッティング、キャスティングを一つの部屋でやるわけだから、多くの時間をかけて話さなくとも自然と共有されていく」ともいう。

Image by: Photo: Kazuyoshi Usui / Courtesy of LES SIX
主題の本質にあるテーマの最終章ということで、次回からはブランドの体制やシステムが変わるよう。「2026-27年秋冬は久しぶりに起点から着地まで、すべて自分で手掛けることになる。プロダクトベースでの協業はあるが、そこまで自らの手が加わるのは学生以来。あの時も現代社会をファッションで表現していた」と語るように、セントラル・セント・マーチンズの卒業コレクションは名物教授であるルイーズ・ウィルソン(Louise Wilson)に絶賛され、今も尚関係者の記憶に刻まれている。その時のようなムードが戻ってくるかもしれない。だが、それがプロダクトに直接的な影響を及ぼすかは定かではない。本人はこうも語っている。「ヴィジュアルとプロダクトのコンセプトが離れているように見えるかもしれないが、結局はどちらも精緻に人が作ったものは何かしらどこかで連鎖している。確かに体制やシステムは変わるかもしれないけれど、自分が手を入れているわけだから、そこは変わらない。面倒だけれど」。
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