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“削ぎ落とす”。これが、「ロエベ(LOEWE)」のクリエイティブ・ディレクター、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)の現在の焦点のようだ。先日ロンドンで行われた「JW アンダーソン(JW Anderson)」の2025年春夏ウィメンズコレクションで彼は、カシミアニット、スパンコール、レザー、シルクのみを原材料として使用し、削ぎ落とすことで本質にフォーカスすることの重要性を語っていた。
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今回の「ロエベ」でも、“削ぎ落とす”ことは大きなキーワードとなった。前シーズン同様、パリ郊外にあるヴァンセーヌ城の中庭に会場を作り、その外壁にはバッハ(Bach)による「Violina Sonata in G Minor」の楽譜がプリントされている。中に入ると、イギリスのアーティスト、トレイシー・エミンによる彫刻作品「The only place you came to me was in my sleep」(2017)が空間の中央に佇んでいる。ブロンズで鋳造された柱の上に小さな鳥がとまっているこの作品は、空間の広さに対してはスケールが小さく、それゆえに異様な存在感を放っていた。高い位置から周囲を見渡す鳥は、今にも飛び立ってしまいそうで、控えめながら雄弁に空間へ叙情を添える。アート作品を大胆に取り入れるのは「ロエベ」のショー演出の定番だが、今回はかつてないほどミニマルな空間へと削ぎ落とされていた。
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観客が入場する間はノイズミュージック(不快なものではない)が流れ続け、ショー開始を告げる重低音が鳴り響くと、その重さとは正反対とも言える、弾むように軽やかなファーストルックが飛び出してきた。今回ジョナサンが着目したのは、クリノリン(スカートを膨らませるために1850年代後半に発明された下着)だ。本来、このクリノリンは表から見えるべきものではないが、透けるほど薄い生地を載せることで、その骨組みは明らかにされた。骨組みの下端が膝あたりの位置にくることで、歩くたびにそこからはみ出した生地が空中で踊り、まるで宙に浮かび上がるような軽さを生み出している。さらに、無地ではなく、クラシックな印象派の花柄生地を使うことで、イメージと意味合いのレイヤーを軽妙に重ねていた。
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トランペットのベルを連想させる末広がりのシルエットは、レザーのバイカージャケットから、コート、ミニ丈のドレスやスカートまで、あらゆるアイテムに応用されていた。ときには裾に仕込まれたワイヤーが厳格にシェイプを維持し、うねり、捲れ上がっていることもあった。シルエットが研ぎ澄まされるほどに、素材の存在感が際立つ。真珠層を繋ぎ合わせたショート丈のコート、ニットを覆うスパンコール、手作業で割かれたシルクのドレスなど、「ロエベ」が得意とする驚きに満ちたクラフツマンシップは、今回も存分に発揮された。
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「美術館やコンサートに行った時に感じる、体験そのものを記念に持ち帰りたいという感覚が好き」と語ったジョナサンは、モーツァルト、ショパン、バッハといったクラシックの巨匠の肖像画や、ゴッホやエドゥアール・マネの絵画で、スーベニア風アイテムを作るというポップなアプローチも取り入れたが、コットンのボディではなく、純白のフェザーの上にプリントすることで奥行きを出した。スリムなノータックのスラックスと合わせている点も、とても新鮮に映る。そして奇しくも、ショーの4日前にドイツで未発表のモーツァルトの楽譜が発見されたというニュースが、興味深いコンテクストを加えていた。
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バルーンシルエットのトラウザーズや、ピンストライプのセットアップなど、ロエベらしいボリューム感で作られたウエアラブルなルックも負けじと印象的であり、ジャンルや時代を超えた巧みな編集力によって、ランウェイで他のルックとシームレスに融合している。今回のショーで、ジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」は10年の節目を迎えたが、その勢いは衰えるどころか、むしろショーを重ねるごとに凄みを増している。次なる10年は、どんなファッションの喜びをもたらしてくれるのだろうか、楽しみである。
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