ロロ、1117を手掛ける菅原美裕
Image by: FASHIONSNAP
菅原美裕が手掛けるジュエリーブランド「ロロ(LORO)」と「イチイチイチナナ(1117)」が人気を集めている。2016年、オンラインを軸にスタートし、シンプルで手に取りやすいデザインは幅広い世代に支持され、2020年には青山に直営店をオープン。今年11月には、同店のリニューアルを果たした。ブランドのみならず、デザイナーの菅原自身もSNSやYouTubeで発信するライフスタイルが注目を集め、インスタグラムのフォロワーは23万人を超える。その一方で、これまでは自身やブランドについて話すことに抵抗があり「インタビューは断ってきた」という。そんな菅原がメディアに初めて打ち明ける、ブランド立ち上げの経緯から2つのブランドを手掛ける上でのインスピレーション源、今後の展望とは。
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「売れそうなもの」ではなく「自分が良いと思うもの」を届けたい
─ジュエリーにはいつから興味を?
母がジュエリー好きで、幼少期の頃から実家にあるジュエリーに触れる機会が多く、憧れがありました。ジュエリーが載っている雑誌やチラシを切り抜いて、スクラップブックを作ったりしていましたね。大学卒業後は、大手の総合アパレル商社に就職したんですが、就職して2年が経った頃、マスのお客様に向けた商品作りに違和感を感じ始めて。デザイン性や使い心地など、作り手が良いと思っているものでも「これは売れないからやめよう」と、本当の思いを無視したやり方に対するモヤモヤが募っていって、「本当に自分が良いと思うものを届けたい」と思い独立を決めました。その後、会社に通いながら彫金の学校に通い始めて、仕事終わりや有給を使いながら、4年ほど通って卒業した後、ブランドを立ち上げました。
─ジュエリーデザイナーになるために、最初に選んだ道は彫金学校に通うことだったんですね。
本来、ジュエリーのデザイナーを志す場合は、コンピューター上で組み立ての知識を勉強するのが一般的で、彫金の知識がなくてもデザインしている方は沢山います。それでもはじめに彫金を学ぶことを選んだのは、コンピューター上のデータだけでは、デザインを形にするためにどれほどの技術が必要なのかわからず、職人さんへのリスペクトがないまま指示をすることになると思ったからです。私が作るジュエリーは全て付け心地にこだわっているんですが、どのように内側を処理すれば良いかなど、彫金の知識があるからこその提案ができるようになったと感じています。
─ブランド名の由来は?
ロロは、イタリア語で「金色に光る」という意味と、英語の「回す(roll)」という単語をかけ合わせました。購入したお客様からそのお子様など、世代を超えて長く愛してほしいという思いを込めています。
1117は、エンジェルナンバー(※天使からのメッセージを表すとされている数字の組み合わせ)から来ています。彫金学校に通っていた頃、ブライダルリングはベーシックなデザインしか作れない、という固定観念から多くの生徒が専門的に学びたがらなかったんですが、4年前にニューヨークでロロの展示会を開いた際に世界中のさまざまなジュエリーに触れて「ファッション性の高い婚約指輪やオーダーリングをやってみたら面白いかもしれない」と思い、スタートに至りました。エンジェルナンバーは数字の組み合わせによって意味合いが違い、1117は「背中を押す」「今、あなたのいる場所は間違っていませんよ」という励ましのニュアンスがあるんですが、ちょうどニューヨークでさまざまなブランドのジュエリーを見たばかりで「自分のデザインは世界では通用しないかもしれない」と自信を失っていた時期でもあったので、自分のやっていることに自信を持つためにそのナンバーを名付けました。
─2つのブランドを手掛ける上で、それぞれどんなインスピレーションをもとに制作を行っていますか?
1117は、自分が育った故郷の記憶をベースに作っています。祖母の家が和歌山の田舎だったんですが、たとえばダイヤを使用する際には、秋の稲穂が垂れているようなイメージを落とし込んだり。それに対して、ロロは、東京に出てきてからの自分を反映したような都会的なイメージで作っていますね。
─ジュエリーをデザインする上で、一貫して大切にしていることは?
「売れそうなものを作る」という考えを捨てること。ブランドの規模が大きくなると、どうしても売り上げを意識したものづくりになってしまうと思うんですが、これまでも、自分が本当に作りたいものだけを作るという理念を大切にしてきたので、それはこれからも変わらないと思います。
─菅原さんはファッションとジュエリーの関係性について、どう考えていますか?
実は、ジュエリーをデザインするときには、ファッションとの組み合わせを考えすぎないようにしています。ファッションとジュエリーを繋げて考えるのって、いわゆるピラミッドの一番上というか、本当にファッション感度の高い人たちだけだと思うんです。ファッションに興味がなくても、ジュエリーだけを集める人は沢山いて、美術品を集める感覚で細かいディテールを見て選ぶ人も多いので、どんな人でも楽しめるようなジュエリーブランドでありたいと考えて、日々デザインしています。
─菅原さんのクリエイションに影響を与えているものは?
建築様式やインテリアからインスピレーションを受けることが多いんですが、特にアール・ヌーヴォーからアール・デコへのデザインの移り変わりの時代が好きで。同じ柄の連続や曲線など、デコラティブすぎずシンプルなアール・デコのデザインからよくインスピレーションを受けます。あと、東京都庭園美術館にはアール・デコの様式が取り入れられているので、よく訪れています。
目標は緩やかな成長、リニューアル後もブレないブランドの指針
─ブランド設立から4年後の2020年、青山に直営店をオープンしています。順風満帆のように見えますが、その理由はどう捉えていますか?
設立当初は、こんなに立派な場所でお店を持てるとは思っていませんでした。支持してもらえている理由は「これ」と断言はできませんが、挙げるとすれば、前職の経験もありお客様一人一人に寄り添うよう丁寧な対応を心がけたことなのかなと考えています。
─このタイミングで店舗のリニューアルに至ったのはなぜでしょうか?
実は、私の他にもう1人、ディレクターが入って、ブランドの方向性を変えていくことになったからです。 新しいディレクターは元々友人で、これまで会社の数字を見るのも、デザインも生産管理も、ほとんど私1人でやっていたのを知っていて、「アイテムのラインナップを変えていきたい」という相談もしていたので、よりデザインに注力できるようサポートしてもらうことになりました。そこで、ブランドを変えていくための決意表明の意味を込めて、このタイミングでのリニューアルを決めました。
─リニューアルした青山店の設計は、二俣公一さんが手掛けていますね。
以前、ジュエリーデザインに悩んでいた時期に二俣さんが設計を手掛けた「イソップ(Aesop)」の新宿店に伺ったんですが、左官壁にステンレスの什器を組み合わせていることに衝撃を受けて。壁面に合わせて温かみのあるデザインで統一するのではなく、無機質な什器を組み合わせるやり方を面白いと感じました。元々、二俣さんのことは存じ上げていたんですが、ちょうど自分自身がデザインに悩んでいたというタイミングも相まって、今回、オファーさせて頂きました。
─ブランドは、具体的にどういった部分が変わっていくんでしょうか?
これまでは、地金を中心にデザインをしてきたんですが、これからはジルコニアや、ストーンを取り入れたアイテムを展開予定です。ヴィンテージのファインジュエリーをデザインソースに、おもちゃっぽいデザインで付けやすい価格帯のトラベルジュエリーなども作っていきたいと考えています。シンプルなだけではなく、遊び心を入れたようなイメージですね。
─リニューアル後の店内でこだわったところは?
全てです。1117のスペースは、私の地元の和歌山だったり、日本の伝統的な要素を入れて作ってもらいました。ブランドらしさを形作る上で、パッと見たときに日本発のブランドだとわかるスタイルでありたくて、自分のルーツである日本らしさを演出するために、日本製の素材や家具だけを使うようにしました。
ロロのスペースは、1117との差別化として、モダンで高級感のあるイメージを中心に、有機的なジュエリーデザインに合わせて、丸みのある空間にしました。今回、2つのブランドを1つの空間で表現するために壁を設けているんですが、客層が異なるのと、1117はオーダージュエリーでマンツーマンでの接客になるので、しっかりとヒアリングするため、営業時間や定休日も変えています。
─以前ニューヨークで展示会を行ったとのことですが、リニューアルに伴う海外展開は視野に入れていますか?
挑戦してみたいです。台湾では、すでに2年前から展開をしていて好調なのと、青山の店舗も、ご来店のうち2割がインバウンドによるもので台湾や中国、韓国のお客様が多いので、今後、展開を広げるとしたらアジア圏からになると思います。
─今後の目標は?
少しずつ、緩やかに成長できればいいと考えています。ロロは、社内のスタッフの人数に合わせて販売数を決めていて、コロナ禍含めこの3〜4年は制作個数を変えていないので、ロロだけだと売上はほとんど横ばいです。今年は、昨年対比で売上は2倍に伸長していますが、それはコロナ禍が明けて1117のオーダー数が増えたのが主な理由ですね。先ほどもお伝えしましたが、やはり自分が作りたいものから遠のいてしまうことだけは避けたいので、売り上げを上げるためのものづくりではなく、自分らしいデザインを中心に据えながら、色々な人にジュエリーを届けていきたいです。
「LORO」「1117」ディレクター、デザイナー
菅原美裕
Mihiro Sugawara
1989年、和歌山生まれ。都会的でスタイリッシュなエッセンスをベースとしながら、自身のルーツに深く横たわる自然への敬意から、自然の風景をモチーフとしたデザインを多く手掛けている。
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