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「ラッシュ」創立者が語る 30年変わらない"We Believe"の哲学

聞き手&文・木村耀

Image by: FASHIONSNAP

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 ナチュラルコスメブランド「ラッシュ(LUSH)」は、1995年の創業以来、動物実験への反対や環境負荷の低減、原材料の透明な調達など、独自の倫理観をものづくりに反映してきた。現在では世界52ヶ国・870店舗を展開するまでに成長したが、規模が大きくなっても変わらないのが、ブランドの核となる「We Believe」だ。

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 エシックス(倫理)とビジネスの関係、「サステナブル」の先にある「リジェネラティブ」という考え方、科学への投資、そして商品開発の源泉となる旅と好奇心 ⎯⎯ 創立者の一人であるロウィーナ・バード(Rowena Bird)氏に、30年以上にわたり受け継がれてきたラッシュのものづくりについて聞いた。

◾️ロウィーナ・バード|ラッシュ共同創業者。美容セラピストとしての経験を生かして商品開発に携わり、原料調達から環境・倫理に配慮したものづくりまで幅広く手掛ける。

We Believe ⎯⎯ LUSH(ラッシュの信念)

・We believe in making effective products from fresh, organic fruit and vegetables, the finest essential oils and safe synthetics.
私たちは、フレッシュでオーガニックなフルーツや野菜、高品質のエッセンシャルオイル、そして安全性の確認された合成物質から効果的な商品を作ることを信じています。

・We invent our own products and fragrances. We make them fresh by hand using little or no preservative or packaging, using only vegetarian ingredients, and tell you when they were made.
私たちは、自社で商品と香りを開発しています。 私たちは、フレッシュにこだわり、ハンドメイドで製造します。 合成保存料やパッケージは、可能な限り使用せず、使用する場合も最小限にとどめます。原材料は全てベジタリアン対応のもののみを使い、商品そのものに製造年月日を明記しています。

・We believe in buying ingredients only from companies that do not commission tests on animals and in testing our products on humans.
私たちは、動物実験をしていないことを確認できた会社からのみ、原材料や資材を買い付け、またその安全性は人間の肌の上で確認することが重要であると信じています。

・We believe in happy people making happy soap, putting our faces on our products and making our mums proud.
私たちは、ハッピーな人がハッピーなソープを作ることを信じています。 そして、私たちの商品に記された作り手の顔が、彼らの母親を誇らしい気分にさせると信じています。

・We believe in long candlelit baths, sharing showers, massage, filling the world with perfume and in the right to make mistakes, lose everything and start again.
私たちは、キャンドルを灯しながらお風呂でくつろぎ、シャワーを誰かと一緒に浴びたり、マッサージをしたり、心地よい香りで世界をいっぱいにすることと同時に、たとえ失敗して全てを失ったとしても、再びやり直す権利があると信じています。

・We believe that all people should enjoy freedom of movement across the world.
私たちは、誰もが世界を自由に行き来し、その自由を楽しむべきであると信じています。

・We believe our products are good value, that we should make a profit and that the customer is always right.
私たちは、商品が価値あるものであると信じています。そして適正な利益を得ること、常にお客様の価値観を尊重することを大切にしています。

* We also believe words like fresh and organic have honest meaning beyond marketing
私たちはまた、フレッシュ(flesh)、オーガニック(organic)という言葉が、単なるマーケティングの領域を超えて、実際に「新鮮」であり、「有機」であるという本来の言葉のもつ意味を信じています。

⎯⎯ ラッシュでは「We Believe」という形で、ブランドの考え方を明文化しています。こうした理念は、日々のビジネスにどのように生かされているのでしょうか。

 私たちが大切にしているのは、理念を掲げることだけではなく、それを実際の選択に反映させることです。例えば、原料をどこから買うのか、どのような方法で商品を作るのか、パッケージを使うのか、動物実験をどう考えるのか。そうした一つひとつの判断の中で「We Believe」に書かれていることを基準にしています。

 もちろん、ビジネスである以上、利益を出すことが必要です。ただ、それだけを判断基準にするのではなく、利益と同じように倫理も大切なものとして考える。そこは創業当初から変わっていません。

⎯⎯ そうした考え方が、店舗で働くスタッフにも共有されているように感じます。理念に共感し、自分の言葉で商品を伝えられるスタッフが多いのはなぜでしょうか。

 ラッシュでは、スタッフ自身が「この商品を売っていいのだろうか」と疑問を持ったときに、それを会社に問いかけることができます。例えば、原料の調達方法や商品の作り方について「本当に私たちが掲げている考え方と合っているのか」と考えることもある。その問いに対しては私たち創業者を含めて、会社からのフィードバックをお返しします。そうした声を上げられる環境があることは、とても重要だと思うのです。単にスタッフに「これが会社の理念です」と伝えるのではなく、自分自身が納得できるものを作り、販売できることが大切です。

 その結果として、スタッフが商品について自分の言葉で話せるようになる。お客さまから質問された時にも、用意されたセールストークではなく、自分が信じていることを伝えられる。それがラッシュという会社の強さにつながっているのだと思います。

 私自身、ブランドの信念が商品展開のどのフローにおいても一貫して守られていることをとても大切にしています。それが崩れると、眠れなくなってしまうほどです(笑)。

「サステナブル」の先にある「リジェネラティブ」

⎯⎯ 今でこそ多くのブランドがサステナブルを意識するようになりました。創業から環境や倫理に向き合ってきたラッシュとして、現在はどのような考え方を重視していますか。

 サステナブルという言葉は、ここ数年で非常に広く使われるようになりました。私たちはその先にある考え方として、「リジェネラティブ(regenerative)」という言葉を使っています。

 サステナブルは「持続可能」という意味ですが、必ずしも今より良い状態を作ることを意味するわけではありません。一方、リジェネラティブには、「ものごとを始めた時よりも良い状態にして未来に残す」、という考え方があります。

 だからこそ、私たちはどうすれば今の状態を維持できるか、だけではなく、「どうすれば、そこに何かをプラスして次の世代に渡せるか」を考えたいのです。

⎯⎯ その考え方は、原材料の調達にも表れていますね。

 できる限り、商品を製造する地域の農家や生産者から直接買い付けています。そうすることで品質を確認できることはもちろん、その生産者がどのような農法を行い、どのように人と関わり、環境と向き合っているのかまで知ることができます。原料の、その背景まで知ることが重要なんです。

ネイキッドから再生素材まで。パッケージも「選択」の一つ

⎯⎯ 商品開発では、パッケージについても独自の考え方を持っています。

 できる限りネイキッド(包装なし)で販売することを考えています。ただ、すべての商品をパッケージなしにできるわけではありません。そこで、どうしてもパッケージが必要な場合には、できるだけリサイクル素材を使い、使い終わった後に私たちが買い戻して再び循環させる仕組みも作っています。

 透明なボトルには海洋由来のプラスチック、黒いポットには再生プラスチックを使い、紙や段ボールにも再生紙を使用しています。じゃがいもやお米を素材にしたパッケージ、オーガニックコットンやリサイクルペットボトルから作ったラッピングなどもあります。

Image by: LUSH

 パッケージは、商品を守ったり、使いやすくしたりするために必要なものでもあります。一方で、それが環境に与える影響も考えなければならない。だからこそ「必要だから使う」で終わらず、使った後にどうなるのかまで考えることが大切だと思っています。

 私たちの商品には、鮮やかな色や豊かな香り、フレッシュさを重視するからこその短い使用期限など、一見すると環境への配慮と相反するように感じられる特徴もあります。だからこそ、何を優先し、どこで折り合いをつけるのかという判断が、商品開発では常に必要になります。

倫理はビジネスと切り離されたものではない

⎯⎯ ラッシュは環境問題だけでなく、人権問題や社会課題についても積極的に発信してきました。ブランドが社会課題に向き合う責任については、どのように考えていますか。

 私たちは「見つけたときよりも豊かな世界を残す」という目標を掲げています。そう考えれば、社会や環境について考えることは、ビジネスとは別の活動ではありません。どんな原料を買うのか、誰と仕事をするのか、どのような商品を作るのかという、日々のビジネスそのものにつながっています。

 もちろん、すべてを一度に変えることはできません。でも、私たちができることから始めることはできる。30年以上ビジネスを続けてきたからこそ、その積み重ねが大切だと感じています。

⎯⎯ 創業から30年以上が経ちました。貫いてきた考え方がある一方で、時代に合わせて変えてきたことはありますか?

 私たちは常に変化しています。ただ、「We Believe」に書かれているブランドの核となる倫理観は、創業以来変わっていません。

 1店舗から870店舗へ、1ヶ国から52ヶ国へとビジネスは拡大しました。ネイキッド商品とパッケージ商品の割合が変わる時期もありましたし、セルフプリザービング(合成保存料に頼らず、自然由来の成分や水分の調整によって商品の新鮮さや品質を保つ処方技術)という新しい考え方も生まれました。最近ではAIのような新しい技術もあります。これから単純作業をAIに任せるなど、仕事の方法も変わっていくでしょう。

 しかし変わっていくことを恐れる必要はありません。大切なのは、変化する方法の中でも「お客さまのために良いことをしたい」という気持ちを失わないこと。その部分は、これからも変わりません。

動物実験への反対から、科学そのものへの投資まで

⎯⎯ 創業当初から続けている動物実験の反対運動についても、活動方法に変化があるそうですね。

 近年、ただ声を上げてキャンペーンをするだけでは十分ではないと感じるようになりました。本当の変化を起こすためには、法や条例など、根本にあるルールそのものを変えていく必要があります。

 私たちがどれだけ声を上げても、動物実験の廃止が「任意」である限り、目標を達成したとは言えません。考え方は変わらなくても、それを実現する方法については変化していく必要があります。

2024年の動物愛護週間に行われたキャンペーンのメインヴィジュアル

Image by: LUSH

⎯⎯ 2012年に開始した賞金基金「ラッシュプライズ」では、AIや臓器チップなど、先端技術の研究も支援しています。自然派ブランドというイメージからすると、少し意外に感じる人もいるかもしれません。

 常に時代に合った存在であり続けることは大切です。考え方が古くなってしまえば、やがて誰からも関心を持たれなくなってしまうでしょう。

 私たち創業者自身は年を取りましたが、社内には若いスタッフがたくさんいます。彼らの声に耳を傾け、お客さまが今何を求め、何を期待しているのかにアンテナを張る。その中で、必要な技術には投資していきます。

 ラッシュプライズで科学者を支援するのも、その一つです。資金不足によって研究を続けられない研究者をサポートすることで、動物を使わずに、より安全な化粧品を作るための技術を前進させたいと考えています。

2026年度の「ラッシュプライズ サイエンス部門」(動物を使用しない代替法の研究開発に従事する研究者及び研究機関が対象)は、女性の生殖器機能をマイクロチップ上に再現した世界初の子宮頸部・膣チップを開発した、ハーバード大学のゾーレ・イザディファール博士が受賞

Image by: LUSH

⎯⎯ その活動が、お客さまに直接伝わるのは難しい部分もありそうです。

 研究が進めば、商品開発のプロセスにも大きな影響が出ます。例えば人工皮膚などを使えば、人間にとって本当に安全かどうかを、動物実験とは別の方法で科学的に検証できるようになる。

 そうした技術が発展することで、最終的にはお客さまが使う商品そのものにつながっていきます。商品を手に取ったときに、その背景にある活動まで思い出してもらえるような伝え方ができればと思っています。

⎯⎯ 一つひとつの活動を丁寧に伝えているからこそ、ラッシュには熱心なファンが多いのでしょうか?

 私たちが大切にしているのは、正直さと透明性です。何でも良く見せようとするのではなく、できていること、できていないことを含めて伝える。そうすることで、お客さまとの間に信頼関係が生まれるのだと思います。

 そして、それはスタッフにとっても大切なことです。自分が本当に信じている商品について、自分の言葉で話せる。嘘をつかなくていいということは、働くうえでも大きな意味を持つと思います。

旅先での「偶然」が商品を生む

⎯⎯ 商品を考えるときのインスピレーションは何ですか。

 開発者によってアプローチはそれぞれ違います。私の場合は、旅が大きなインスピレーションの源です。旅先では、普段の生活では出合わないものをたくさん目にします。植物や食材、香り、気候、人々の暮らし方。そうしたものを見たり、触れたり、実際に使ったりする中で、「これは商品にできるかもしれない」と突然アイデアが生まれることがあります。

 例えば、その土地でしか出合えない植物を見て、これまで考えたことのなかった香りやテクスチャーを思いつくこともある。最初から「新商品を考えよう」と思って旅をしているわけではないんです。むしろ、何気なく見たものがきっかけになって、そこから考えが広がっていく。

 共同創業者のマーク・コンスタンティン(Mark Constantine)は音楽からインスピレーションを受けます。ラボが私の隣にあるので、彼が大音量でかけている音楽がしょっちゅう聞こえてくるんです(笑)。コンセプト開発を担当するエマ・ヴィンセント(Emma Vincent)は「味」が出発点で、いろいろな食べ物を試しながら発想を得ています。

 どんな方法であっても、発明に魔法はありません。アイデアが出てこない日もありますし、そういうときには刺激を探しに出かける必要がありますね。「いちごの香りのバスボムを作ろう」というアイデア自体は、誰でも思いつくかもしれません。でも、そこから香りや色、使用感、ストーリーなどを重ねていくことで、初めてラッシュらしい商品になっていく。ベストセラーは、そうした幾重にも重なった思考のレイヤーから生まれるものだと思います。

⎯⎯ 今後の目標を教えてください。

 これまでに135ヶ国を訪れ、アフリカのサファリには28回ほど出かけました。次の目標は、地球上のすべての国を訪れることです。

ロウィーナ氏アフリカ滞在中の様子

Image by: Rowena Bird

 旅をしている間も、植物や食材を眺めながら「これを商品に使えないかしら」と考えています。ラッシュの商品を使いながら、「この環境なら、もっと違う処方がいいかもしれない」と気づくこともある。世界中を旅し、そこで見たものや感じたことが、また新しい商品につながっていく。これからも、そうやって好奇心を持ち続けながら、ものづくりを続けていきたいですね。

photography: Hikaru Nagumo(FASHIONSNAP)

聞き手&文・木村耀

Hikaru Kimura

FASHIONSNAP 編集記者

学生時代に外資系ファッションメディアでアシスタントを務めたのち、大学卒業後、ファッション誌で編集として従事。2025年12月からレコオーランド「FASHIONSNAP」でビューティエディターとして幅広い分野を取材・執筆。プライベートでは坂本裕二や今泉力哉などの脚本家が描く日本語表現が好きで、彼らの作品を何度も見返すオタク気質。趣味は作詞作曲。公私問わず言葉を綴っている。

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