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「日本のファッションの武器は編集力と探究心」ファッション専門古書店「マグニフ」中武康法インタビュー

Image by: FASHIONSNAP

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 東京・神保町の古書店「マグニフ(magnif)」が、今年1月に移転オープンした。雑誌をはじめとするファッション関連書籍を専門に扱い、国内外の業界関係者やカルチャー好きから厚い支持を集める同店は、日本のファッション史を辿るうえで貴重なアーカイヴ拠点となっている。今回、同店店主の中武康法氏にインタビューを行い、移転の経緯や「世界で一番クールな街」に選ばれた神保町について、昨今のアーカイヴブーム、そして日本のファッションカルチャーの未来について話を聞いた。

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神保町は「このままでいい」と思っているところがクール

 移転のきっかけは、店舗が入居していた建物の建て替えだったが、そもそもマグニフが開店した2009年から建て替えの計画はあったという。3年間の定期借家という契約でオープンし、契約が切れるたびに再契約を繰り返しているうちに16年が経ってしまったそうだ。常に立ち退きの可能性を抱えていた中武氏は、代々木上原などを候補に物件を探し続けていたが、結果的に旧店舗と同じ通りに店を構える「東京堂書店 神田神保町店」の2階のカフェがあったスペースに移転した。オファーは東京堂書店からだったが、中武氏は「移転するならやはり神保町が良い」と考えていたという。

マグニフ外観

旧店舗の象徴だった黄色の本棚が目印

 その理由はやはり、神保町が古本の街だから。中武氏は神保町を、「専門性の高い古本屋が密集することで、街全体が古書のデパートとして機能している」と形容する。客が探している本が自分の店になかったときは、そのジャンルに強い他の店を紹介できる。デパートのように目当ての商品を求めて回遊ができる神保町は、やはり古本を扱ううえで魅力的な街のようだ。

マグニフ店内

 神保町は、今や「古本の街」に留まらない評価を受けるようになっている。英タイムアウト誌は、神保町を2025年度の「世界で最もクールな街」のランキング第1位に選出。中武氏に「神保町の“クールさ”とはどういうものだと思うか」という質問を投げかけると、「このままでいいと思っているところ」という答えが返ってきた。

マグニフ店内

 「このままでいい」とは、無理に今っぽくならず、昔ながらの良さも悪さも残していることだという。その例とした彼が挙げたのが、喫茶店だ。近年はたいていの喫茶店が全面禁煙になっているが、神保町には今も喫煙が可能な喫茶店が残っている。そういう、少し不便だったり、世の中の動きにあわせてアップデートしていないところも含めて「このままでいい」という神保町特有の雰囲気が、世界的にクールだと捉えられるようになったのでは、というのが中武氏の見立てだ。

マグニフ店内

あくまでも「古雑誌」であって「骨董品」ではない

 近年、「アーカイヴ」の注目度が非常に高まっている。高騰を続けるヴィンテージ古着はもちろんのこと、「平成女児」というキーワードに代表される平成ブームなど、ファッション以外のカルチャーでも、「過去」の存在感が以前よりも確実に増している。アーカイヴ人気の高まりは中武氏も肌で感じているそうで、以前訪れた大井競馬場のフリーマーケットで、ファッション誌「ポパイ(POPEYE)」を専門的に扱うブースを目にして驚いたそうだ。ちなみに、そこに並んでいたポパイは、マグニフで設定している価格よりもかなり高かったという。

マグニフ店内

 アーカイヴ人気の高まりは、市場価格の上昇を生み、それはマグニフの仕入れや販売にも強く影響する。中武氏は「古本を手放したい人が、少しでも高い金額で売りたいと思うのは当たり前のこと」と前置きしたうえで、「メルカリなどを見ていても、以前では考えられないような価格が付いている」と語る。1990年代の原宿ファッションを独自の視点で切り取ったストリートスナップ誌「フルーツ(FRUiTS)」は世界的に評価が高く、マグニフでも人気だが、最近大手古書店がフルーツを1万円前後で買取していることを知った中武氏は「信じられない。いったいいくらで売るつもりだろう」と思ったという。

 中武氏は、昔のファッション誌を楽しむカルチャーが広がることに嬉しさを感じてはいるものの、近年高騰している相場を見ていると、「何万円も出して購入したファッション誌をペラペラとめくって読めるのか?」と感じてしまうそうだ。彼にとってファッション誌はあくまでも骨董品ではなく古雑誌であって気軽に楽しんでもらいたいものだという。また、近年インバウンド客に日本のファッション誌が人気であることも「当然ありがたい」としながらも、一度国外に出てしまった雑誌は、不要になっても日本に戻ってくる可能性は非常に低いので、複雑な気持ちになるそうだ。

マグニフ店内

ネットで得た「答え」を元に深堀りする若者たち

 アーカイヴが人気を集めている要因として、中武氏はSNSの存在が大きいと考えている。SNSで拡散される昔のファッションやカルチャーは、若者たちにとっては当然「リバイバル」ではなく、かと言って「憧れの対象」でもない、「今の流行りのひとつ」と捉えられているのではないかと、中武氏は分析する。

マグニフ店内

 中武氏は、マグニフを訪れる若者たちと接していると「“結論ありき”で雑誌を探している人が多いように感じる」ことがあるという。彼らはインターネットやSNS、動画などで得た知識をもとに自分なりの「答え」を用意している。例えば、「1990年代の裏原系はこういうファッションだった」というようなイメージを既に持っており、マグニフで古雑誌を探すことでその答え合わせをしているというのだ。また、特定のファッションを深堀りする際に、「他のみんながそのファッションが好きだから、自分もそれが好きになった」と話す若者も少なくないという。いつでも好きなだけアクセスできるウェブから大量に情報を得て、自分の琴線に触れた情報をSNSなどで共有することで、知識やセンスの並列化が進んでいるようだ。

マグニフ店内

 1976年生まれの中武氏はティーンエイジャーの頃、好きだったロックの貴重な音源や映像を手に入れるために、家から遠くの店まで足を運んで海賊版のビデオをレンタルするなど、お金と時間を大量にかけていたという。苦労して手に入れた雑誌やレコードを何度も見て聴いた体験は、今も中武氏の体に染み付いているそうだ。手のひらに乗るデバイスでどこでも気軽に無限の情報が手に入れられる若者たちに対して中武氏は「羨ましい」と感じるものの、ひとつのことに夢中になってのめり込む経験ができなくなっているのでは、と危ぶむ気持ちもあるという。

マグニフ店内

日本のファッションの武器は編集力と探究心

 2024年6月に公開した中武氏のインタビュー記事でも触れた通り、マグニフはインバウンド客で賑わっている。今回取材を行った平日のオープン直後の時間帯でも、多くの外国人が店を訪れ、書籍を購入していった。現在、アニメをはじめ、J-POPや和食など、さまざまな日本のカルチャーが世界的な注目を集めるようになったが、マグニフを国際的な人気を集める店に育て上げた中武氏に、今後日本のファッションがさらに世界で存在感を高めるために必要なことを聞いてみた。

マグニフ店内

 その答えとして中武氏が挙げたのが、「編集力」と「探究心」だ。特にファッションの分野において、以前から日本人はそのふたつに優れていたと、中武氏は指摘する。例えば、今や世界中に通用するようになった「ヴィンテージ古着」というカルチャーも、日本人の編集力と探究心が生み出したものだ。また、マグニフにはトラッドスタイルを愛好する客が多いが、昔のファッション誌を深堀りすることで、独自のスタイルを創造する若者が少なくないという。ファッションはもともと西洋のものではあるが、「編集力」と「探究心」で進化をさせた日本ならではのファッションを逆輸出することは充分可能であると、中武氏は考えている。実際に、彼の知人が手掛ける「鎌倉シャツ」も、独自のトラッドスタイルを海外に逆輸出している。

マグニフ店内

 そして、もうひとつの武器として中武氏が挙げたのが、SNSでのこまめな発信だ。地道に発信を続けることで草の根的な繋がりを作り、着実にファンを増やしていけば、日本のファッションも面白くなるのではと、中武氏は話す。

マグニフ店内

ファッション業界人にも愛用者が多いオリジナルトートバッグ

マグニフで人気のファッション誌&オススメの書籍を紹介

 ここで、取材した時点でマグニフの店頭にあった商品のなかから、中武氏にオススメの雑誌や書籍をピックアップしてもらった。

今、マグニフで人気のファッション誌は?

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中武さん

ポパイは新旧を問わず人気ですね。今、たまたま店頭にまとまってあるので紹介しますが、「アサヤン(asayan)」も人気です。

マグニフ店内

1994年創刊のメンズストリートファッション誌ですね。1990年代後半から2000年代初頭を中心に人気を博しており、特に「裏原系」に強かった印象があります。

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中武さん

皆さん「裏原」というキーワードで探されているようで、アジア、欧米、年齢を問わずさまざまな方に人気です。ムラジュンさん(裏原系ブランドと縁の深かった俳優・モデルの村上淳氏)が表紙を飾っている号など、「いかにも」な方やブランドが掲載されているものから売れていきます。

マグニフ店内

日本の若者に人気の雑誌はありますか?

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中武さん

最近は「リラックス(relax)」を探している方が多い印象です。海外の方もよく探されていますね。特に、岡本仁さんが編集長だった時代の、アートっぽい表紙の号が人気です。

マグニフ店内

中武さんご自身が最近面白いと感じた雑誌はありますか?

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中武さん

雑誌ではないんですが、イタリアのカジュアルファッションブランド「ベネトン(BENETONN)」が独自に出していた「カラーズ(COLORS)」というブックは、商品の宣伝ではなく、人種差別や動物実験などの社会問題を、著名フォトグラファーのオリビエーロ・トスカーニ(Oliviero Toscani)さんが印象的な写真で切り取っていて、とてもインパクトがあります。

フルーツを想起させる1990年代の原宿のストリートファッションを特集した号もあるんですね。タイトルは「こけし」。

マグニフ店内
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中武さん

今店頭にないのが残念なんですが、「ブルータス(BRUTUS)」1999年3月15日号に、カラーズの原宿特集の撮影を終えたオリビエーロ・トスカーニさんのインタビューが掲載されているんです。撮影前の彼は原宿の若者達に対して「ファッションブランドに洗脳されているのでは」というようなネガティヴなイメージを持っており、皮肉を込めた撮影をする予定だったのですが、実際若者たちと接すると、純粋に「自分らしさ」を求めてそれぞれが好きな服装を楽しんでいることに気付かされたそうです。

マグニフ店内
マグニフ店内

吉本ばなな氏の詩も掲載されている

日本のファッションのクリエイティビティが垣間見える、素晴らしいエピソードですね。オススメの書籍はありますか?

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中武さん

去年発売した、ネクタイブランド「フェアファクス(FAIRFAX)」の創業者 慶伊道彦さんの書籍「“In love with IVY” 恋するアイビー」がオススメです。初版はすぐに完売してしまい、再販を求める声が多かったのですが、慶伊さんの「同じことは二度とやりたくない」というポリシーから、ページ数をかなり増やし、コラムや写真の内容も変えた増補改訂版です。オシャレの楽しさがわかる一冊です。

最後に、今後のマグニフの展望を教えてください。

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中武さん

これまで、目の前にある仕事にずっと追われていて、それをなんとかこなす、ということを繰り返してきました。なので、これからもそんなに変わらないんじゃないですかね(笑)。とはいえ、そういう活動でも長年続けてきたことで「マグニフが選んだもの」に対して信用していただけるようになったことも感じています。その信用は、これからも大事にしていきたいですね。


中武康法

FASHIONSNAP 記者

山田耕史

Koji Yamada

1980年神戸市生まれ。関西学院大学社会学部、エスモードインターナショナルパリ校卒。ファッション企画会社、ファッション系ITベンチャーを経て、フリーランスとして活動した後、FASHIONSNAPに参加。ファッションを歴史、文化、経済、世界情勢などの視点から分析し、知的好奇心を刺激する記事を執筆することが目標。3児の父。

最終更新日:

■マグニフ
所在地:東京都千代田区神田神保町1-17 東京堂神保町第1ビルディング2階
営業時間:12:00〜18:00

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