
「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」が、2025年秋冬オートクチュールファッションウィーク期間中、2025年「アーティザナル」コレクションを発表した。2024年に退任したジョン・ガリアーノ(John Galliano)の後を継ぎ、新たにクリエイティブディレクターに就任したグレン・マーティンス(Glenn Martens)による初のコレクション。鮮烈なデビューを果たした。
アーティザナルはクリエイティブな実験場
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創設者マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)と同じくベルギー出身のグレンは、11年にわたりクリエイティブディレクターを務めた「ワイプロジェクト(Y/Project)」時代から、マルタンを想起させる実験的なアプローチで知られてきた。そのため、就任発表時からブランドとの親和性は高いと予想されていた。
一方で、前任のジョン・ガリアーノ(John Galliano)は10年にわたりメゾン マルジェラの輪郭を大きく書き換えるような仕事を果たしており、その強烈なヴィジョンの後をどう引き継ぐのかが注目されていたが、その答えは、「アーティザナル」(=職人の手仕事によるライン、オートクチュールに相当)というクリエイティブな実験場で明かされた。



会場は、パリ19区にある文化施設「サンキャトル(The Centquatre Paris)」。2008年にマルタン本人が最後のコレクションを発表した場所だ。地下に降りると小部屋が連なり、壁や床は宮殿風インテリアの写真をコラージュした紙で覆われ、今にも剥がれ落ちそうな状態。亡霊が現れそうな薄暗く湿り気のあるムードが漂っていた。
PVCドレスで幕開け 顔にはマスク
ショーは透明PVCのドレスで幕を開け、全49ルックが登場。主なインスピレーションは、中世のフランドルおよびオランダ建築だった。ゴシック建築の構造や彫像のフォルムを取り入れつつ、花柄の壁紙や狩猟鳥獣を描いた静物画のコラージュ、象徴主義の画家ギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau)の筆致をキャンバス地への手描きとして再解釈するなど、マルタンのDNAを感じさせるシャビーな質感に溢れていた。






ヴィンテージのレザーやビジューのアップサイクル、ビクトリアンジャケット、エプロン、PVC、タビブーツの進化形やアクリルヒールなど、マルタン時代への明確なオマージュも随所に見られた。ブリキ缶を潰して作られたマスクなど、全ルックが顔を覆っていたのも象徴的だ。





素材には、ペンキ、プラスチック、紙といった"贅沢とは言いがたい"ものが多く用いられていた。華麗な仕立てや高級素材で競い合うクチュール界へのカウンターとしての姿勢もまた、マルジェラ的である。
だまし絵、アップサイクル、禍々しくも美しい造形
トロンプルイユ(だまし絵)も健在で、花柄プリントの上に同じモチーフでカットされたチュールやPVCを重ねるなど、三次元的な錯視効果を生み出していた。ニットには、ひび割れたプリントや剥がれかけた紙を貼り、風化というテーマも強く表現されている。





グレンらしさが最も強く感じられたのは、金属糸を織り込んだダッチェスサテンで仕立てられた、禍々しくも美しい造形のドレス群だ。ドレスに仕込まれたアワーグラスシルエットをかたちづくるコルセットは、グラマラスさを排した造形ながら、どこか"ガリアーノ的記憶"を宿している。アップサイクルのレザージャケットには、彼が兼任する「ディーゼル(DIESEL)」を想起させるロゴを潜ませるなど、ユーモアと皮肉も随所に散りばめられていた。





ショーの音楽には、グレンらしいテクノではなく、感情に訴えかけるスマッシング・パンプキンズ(The Smashing Pumpkins)の「Disarm」が使用された(このバンドといえば、同じくベルギー出身のラフ・シモンズ(Raf Simons)を想起させることでも知られる)。
次はプレタポルテ ディーゼルとの兼任も
ディストピア的ムードに包まれたショーの後は、白衣姿のアトリエスタッフが観客を拍手で送り出す(この温かな空気感も、マルジェラでは新鮮だ)。さらに上階へと進むと、山のようにカラフルな風船が敷き詰められた空間でアフターパーティーが開催され、暗く重厚な世界観から一転、軽やかでポップな後味が演出された。この仕掛けもまた、マルタンの"遊び"の精神を現代的にアップデートしたものだろう。
「2025年のメゾン マルジェラとは何か?」── その問いに、グレンはメゾンの精神とアティチュードに敬意を払いながらも、自身の語彙で誠実に応えた。そして今回のアーティザナルは、メゾン史上初めて顧客向けに販売されるという(なんと2012年のランウェイ開始から今まで売っていなかった!)。今後控えるプレタポルテコレクションにも期待が高まる。そしてディーゼルのアーティスティックディレクターを兼任するグレンが、両ブランドにどんな異なる声を響かせていくのか、目が離せない。
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