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ファッションショーは総合芸術、マラミュートが提示したフィジカルショーの醍醐味

IMAGE by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

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ファッションショーは総合芸術、マラミュートが提示したフィジカルショーの醍醐味

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 会場に設置されていたのは、青色の積み木のようなものと金色の球体が組み合わさったオブジェ。ラメ糸が編み込まれることで繊細に輝くシルバーのニットドレスをまとったモデルが、球体の合間を縫うように歩く。球体のオブジェが遮蔽物となり観賞者からモデルが見え隠れする光景は、プリーツがほどこされたニットドレス特有の不規則でゆらゆらとした動きも相まって幻影をみてしまったかのような感覚、あるいは誰かの記憶や思い出深いシーンを覗き見しているような感覚に襲われた。会場である渋谷ヒカリエ ホールAは、東京のコレクションウィーク中に最も足を運んだ場所であるはずなのに、「マラミュート(malamute)」が発表した2022年秋冬コレクションを通して観た15分間は、慣れ親しんだ現実の空間とは思えず、デザイナー小高真理の記憶を追体験する巨大な装置として機能していた。

 展示会やヴィジュアルだけではないリアルな服の見せ方の追求としてショーを開催した2019年のコレクションから3年。今回のコレクションでは、イメージソースとしてフランスのアーティスト イブ・クライン(Yves Klein)をあげ、青色を好んだ彼が独自に作り出した「インターナショナル・クライン・ブルー」をキーカラーにアイテムを展開したという。

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 今回のコレクションの大きなキーワードとして「光」がある。コレクションノートであげられたウォン・カーウァイ監督の映画「恋する惑星」は、香港の雑多な町並みと幻想的なネオンが、ジム・ジャームッシュ監督作品の「ナイト・オン・ザ・プラネット」はタクシーのハザードランプが印象的な作品で、いずれも光の明滅や大都市のネオンサインが記憶に残る。あわせて小高は今回のインスピレーション源に草間弥生やオノヨーコに並ぶ女性アーティストとして知られている田中敦子の代表作「電気服」をあげた。

 田中の電気服は、塗料で彩色された蛍光灯や電球を組み合わせ明滅する光の服に見立てた作品。電球が不規則なタイミングで点滅することで、作品は静的なオブジェから動的な彫刻作品へと変化し、陰と陽の変換を繰り返す。小高はコレクションノートで電気服を初めてみた時のことを「消灯された電気服に対峙した。原色で塗り上げられた電球と蛍光灯が重なっており、これは服なのか?と思った」と回想し「気になりつつも会場を回遊しているとふいに遠くの方から明滅の気配を感じ、振り向くと、街のネオンをまとったようなドレスのオブジェに見えた」と続ける。そうして生み出されたコレクションは白や青、ピンク、緑、シルバーなどの明るい色彩のアイテムと、黒やブラウン、カーキなどの彩度が抑えられたものがほとんど交互に登場し、ショッキングピンクに黒い影のようなものがデザインされたジャカードニットは、カメラのフラッシュなどの強い光を直視した後に見える陽性残像を彷彿とさせる。残像を思わせるジャカードニットやラメ糸で編まれたニットは、繁華街の猥雑なネオンサインではなく、大都市の人工的でありながら洗練された美しいイルミネーションを思わせ、幻想的な光を連想させるアイテムを着用したモデルが、遮蔽物に見え隠れすることで「記憶の追体験」や「幻影」という言葉が頭をよぎるのも頷ける。

Imaged by FASHIONSNAP(Koji Hirano)

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 一方で小高の知性と緻密な作業を通して作り出されたアイテムは、温かみがありながらも、恐怖心や孤独感も抱かせる。彩度の高い服から一変、ショー終盤で登場した黒いルック4体がその最たるものだろう。どんな色でも塗りつぶすことができる黒色のルックを、鮮やかな服が続いたショーの1番最後に配置した事実が、思い出したくても思い出せない記憶や漠然とした恐怖など、人が心の何処かで常に抱えている不安感を思わせる。小高は黒い服について「黒は強い色かつ、誰にでも似合う服」と説明した。

Imaged by FASHIONSNAP(Koji Hirano)

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 小高は「コロナ禍により行動を制限された2年間を経て、人は行動制限を工夫したり応用したりすることで外に出るようになってきた」とし、その上で襟の変化でがらりと印象を変えることができるハーフジップのコットンシャツなど、様々なシーンを意識してスタイリングできるものを目指したという。行動制限の応用を行う世間に呼応するように、マラミュートが得意とするニットアイテムにもアップデートが見られた。ニットとジップを組み合わせたアプローチや、体勢の違いで印象が変わるウエストにタックの入ったニット地のコートなど、布帛でできることをニットで応用する姿勢は、あくまでもニットにこだわりる小高の頑固さを感じさせる。客入れBGMにベック(Beck)の「ルーザー」やザ・フー(The Who)の「マイ・ジェネレーション」など往年のロック音楽が流れていたことが更にそう思わせたのかも知れないが、テーマやインスピレーション源の表層をただなぞるだけではなく、真摯に服と向き合うことで生まれた小高のこだわりは服に適切な深度を与え、観客に更なるニットの可能性を感じさせた。

Imaged by FASHIONSNAP(Koji Hirano)

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 コレクションノートで小高は田中の電気服を「時間の経過、場所と自分の関係性、変化する作品と観賞者。そのすべての調和にパフォーマンスアートの真髄があるように見えた」と記した。この日、マラミュートと同じくニットを得意とする村上亮太による「ピリングス(pillings)」も同じ会場でショーを開催。「理想と現実の間にいる人間像」をテーマに据え、蟻や昆虫をモチーフに用いることで社会における協調性を、昆虫におけるサナギや殻を彷彿とさせるような可動域が異様に狭いタイトなボトムスで社会での生き辛さを、登場するモデルが着用しているメガネで見なくてもいいことまで見てしまう人間の性を、会場天井に逆さまで吊り下げられたピアノで少しもズレることができない世間の目や規律などを表現した。現実という社会と理想の間で葛藤する人間をファッションショーを用いて見事に具現化したピリングスの村上と、アプローチは異なりながらもニットを通して自身のクリエイティビティを表現した小高は、ファッションショーを時間の経過や場所、自分の関係性、変化する作品と観賞者が調和したパファーマンスアートとして成立させていたように思う。

 ファッションショーにおける服は、着る服ではなく「見る服」として機能し、15分間の舞台、つまり時間芸術としての側面も併せ持った総合芸術と分類することができる。絵画と比較すれば、1着の服から読み取ることができる情報は少ない。しかし、数秒間だけ自分の前を通り過ぎていくモデルからデザイナーの真意を読み取ろうとするファッションショーは、作り手と観客が共鳴し、デジタル空間では生み出すことのできない熱を生み出すものなのではないだろうか。

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malamute 2022-23年秋冬コレクション

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