Fashion モードノオト

「モードノオト」の日乗(其の一)

NOZOMI ISHIGURO Haute Couture 2014年秋冬コレクション
NOZOMI ISHIGURO Haute Couture 2014年秋冬コレクション
Image by: Fashionsnap.com

 「あれッ?」と首を傾げる読者諸氏がいたならば、それは幸甚の至りであり、持って回ったような語りに幾ばくかの懐かしさを憶えて頂けたなら、ファッション評論者の端くれとして、かくも有り難いことはない。数年前、他所で「モードノオト」なる短期連載をしていた。ファッションデザイナーのインタビュー取材の折の副産物、私感に根差した雑感を、あまつさえの我流な散文を書き散らしたものだった。いつかは続きをしてみたいと懐っていたが、此度思わぬ奇貨で「モードノオト」の新たな頁をめくることが出来そうである。(文責:麥田俊一)

 

 標題は「ノートブック」と「音」を掛け合わせたもので、どうでも冴え冴え澄み切ったとはいかぬまでも、精一杯に濁りを排した目線でもって、服の作り手が奏でる音を抄(すく)いとってみたい。いっかな耳をすましても聴こぬ音かもしれない。あるいは書き手が野暮すぎて、たまさか拾う不協和音でしかないかもしれない。それでも作り手の内にある蒼白い焰(ほむら)の気配だけは書き残したいのである。ボツにならぬことを只管(ひたすら)願いつつも、これは東京コレクション期間限定「モードノオト」的な日乗の断篇である。

【3月15日 夕刻】
 夕刻、Fashionsnap.comの小湊さんより電話。取材後の打ち合わせの約束を取り付ける。どうやら該媒体への寄稿の話はまとまりそうな予感。


【午後8時50分】
 「ノゾミ イシグロ オートクチュール」のショー会場に到着。受付でQUOTATION編集長の蜂駕亨さんと鉢合わせ。一緒に入場する。会場はライブハウスのような空間だ。劇場の奈落のような穴が幾つもある舞台に向かう人の壁はすでに出来上がりつつあり、若干圧倒されながらも蜂駕さんと「海外の空港で行方不明になった自分のトランク」の話題で盛り上がる。


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【午後9時15分】
 定刻を15分過ぎてショーは始まった。次第にバンドがファンキーなスカのリズムを打ち鳴らす。咆哮するギター、リズムを刻むギター、うねるような管楽器のアンサンブル、機会仕掛けのようなダンサーたち、全身白塗りの前衛舞踏も加わり、(バンドの名前は後で知ったが)「渋さ知らズ」が繰り広げる強烈な律動が発する熱量も相俟って、会場は漸次汗ばむ熱気で膨らむ。その合間を、荒々しく腕でこすって滲んだ口紅のモデルが、涙を流しながら舞台の上を彷徨すると云った塩梅。独特の世界観ではある。

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 服に眼を向けると...裏表に着用出来るジャケットの裏地には、細かなフリルリボンが総刺繍されている。背中を容赦なく切り裂くファスナー、人面瘡のように肘にデザインされた、裁ち出した生地で象った牙のような装飾、生地がひしゃげて蜘蛛の巣のように見える大きな格子模様、つまんだ生地でレリーフのように造形した大きなリボン結び、ギャザーやダーツが生み出す瘤のような布の重なり等々...。どれもが、解体した服の部位を自由な裁量で接ぎ合わせる、石黒イズムの武骨なエレガンスの枠にピッタリと収まった服たち。ハート型のメタルボタンが3つ、波打つ襞を纏ったジャケットに愛らしさを添えていた(招待状には黒いハートが印刷されていた)。

 幾人かの脳裡には「カオス」と云う言葉が浮かんだことだろう。しかし、混沌を素地にしながらも、一切合切が計算され尽くした「想定内」の着地点に見えてしまい、宙ぶらりんな印象は正直拭えなかった。もちろん混沌がそのまま着られる服に結実する道理など毛頭あるはずはない。斯くなる形容は失礼承知、「ここはどうでも無手勝流で乗っ切るに限るわい」と云うクソ度胸式の、ふつふつ滾(たぎ)るような「石黒節」が滲み出て来なかったのは残念である。「渋さ知らズ」がどうこうの問題ではない。しかし、三上寛が唄う『夢は夜ひらく』や、ドクトル梅津の重心の低いサックスのアドリブ、美輪明宏の『ヨイトマケの唄』と云った昭和歌謡の哀歌(エレジー)の渦に頭のてっぺんまでどっぷりと漬かっていた、往時の「石黒節」はとびきりイカレていた。イカしたファッションとはロックンロールのようなものだ。叛逆と少しくの諦観がそこには混在している。薄まっちまったのかなァ。


【午後9時45分】
 ショーが終わる。ある種のカタルシスを迎えたはずの会場は、意外に冷却も速く、斯く云う自分も出口に向かう人の波に抗うことなく会場の外に。無事打ち合わせを終え帰路につく。中途半端にアルコールが入ったせいもあり、腹を作るよりも飲酒への欲求捨て難く、地元のバーに顔を出す。午前0時を迎えようとしているのに、狭い店内には黄色い声が飛び交い居心地、頗る悪し。ジン二杯を啜り、ショバを変えることに。私の眼には綺麗すぎるくらいに映った服のことを反芻しつつも、冷酒に切り替えたがためにすでに思考能力が半減していたが、だからこそ余計に、かの「石黒節」が頭からいっかな離れていかないのであった。

>>【映像・画像】NOZOMI ISHIGURO Haute Couture 2014年秋冬コレクション

(文責:麥田俊一)


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麥田俊一(むぎたしゅんいち)
shunichi_mugita_01.jpg1963年7月神奈川県横浜市生まれ。
1988年玉川学園大学文学部外国語学科フランス語専攻卒。
服飾業界紙記者、ファッション誌編集長、ファッションディレクターを経て
2012年株式会社澁太吉事務所設立。
1990年代よりパリ、ミラノ、NYC、東京各都市のコレクション取材及び
ファッションデザイナーへのインタビュー取材を続け新聞、雑誌に記事を執筆。
現在「QUOTATION FASHION ISSUE」ファッションディレクター。

 (photo by Shuzo Sato)

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