Fashion モードノオト

「モードノオト」の日乗(其のニ)

mintdesigns 2014-15年秋冬コレクション
mintdesigns 2014-15年秋冬コレクション
Image by: Fashionsnap.com
 

 標題は「ノートブック」と「音」を掛け合わせたもので、どうでも冴え冴え澄み切ったとはいかぬまでも、精一杯に濁りを排した目線でもって、服の作り手が奏でる音を抄(すく)いとってみたい。いっかな耳をすましても聴こぬ音かもしれない。あるいは書き手が野暮すぎて、たまさか拾う不協和音でしかないかもしれない。それでも作り手の内にある蒼白い焰(ほむら)の気配だけは書き残したい。これは、東京コレクション期間限定「モードノオト」的な日乗の断篇である。(文責:麥田俊一)


【3月17日(月)午後1時】
 旧山手通りを往く。月曜日の正午過ぎと云うのに街頭の人の多さに面喰らうが、すぐさま浮世離れした我が身を呪う仕儀となる。


【午後1時20分】
 「ラマルク」の会場に到着。東京のショーでは珍しく、席番指定の招待状だ。案内されると隣席にはブロガーのミーシャ・ジャネットが座っていた。スナップ撮影の写真家が彼女に向かい笑顔で近寄って来た。するとミーシャは「仕事している姿が好いですか?」と微笑んだ。私は思わず吹き出してしまったが、「笑わないで!」と彼女にたしなめられる始末。「仕事してないと東京には住めないのよ(笑)」と彼女。気が付くと、会場にはピアノトリオのCDが流れている。ビル・エバンストリオだ。知的なピアノが伴奏を務め、窓から降り注ぐ陽光がワルツを踊っている。ショーが始まるまで只管、この空間に浸る。ランダムにカットした裾、プリーツが生み出すフレアがミニスカートに初々しさと軽やかな動きを与えている。生脚とマスキュリンな靴も、この若やいだ拵えに極めて相性が好い。霜降りのような風合いを見せる、極太ニットで編み込んだ一枚仕立てのコート、編み地を切り替えしたニット等、シンプルだが味のある、落ち着き払ったデザインに好感が持てる。

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 LAMARCK 2014-15年秋冬コレクション


【午後3時30分】
 渋谷駅から道玄坂を上り、百軒店から円山町周辺をうろつく。「キューン」のプレゼンテーションの会場が見つからない。案内の通りに進めば好かったのだが、根がいたってねじくれ者なので、ショートカットを試みたがために、昼日中には似付かわしくない地区を徘徊することになってしまった。おかげで興味深い光景に遭遇する。どう見ても学校に通っていなければいけない十代女子の集団が某所に長蛇の列をなしていたり、訳あり女性に腕を取られながら待ち合いから出てきた初老の男と眼が合ったり(この男、照れた様子が更々ないのだ)...。つくづく今日は社会勉強には吉日らしい。「ナルト」デニムを穿いているせいだろうか。中華の丼に浮かぶ、あの「ナルト」が尻ポケットにプリントされていて、「キューン」のデニムの中でも一等のお気に入りである。人を喰ったアイデアと妙に拘りのあるモノ作りとのギャップが好い。このブランドは、とにかく破顔一笑のパッセージに満ちている。無礼承知で云うなら、どうでも馬鹿馬鹿しい。でも、そこにグッと惹かれるのだ。中毒性があるから、要注意。「ファッションでもなく、ましてやモードとは程遠い、かろうじて服と呼べる代物です」と云うデザイナー兼社長の安田裕紀の言葉は、まさしく至言だ。この余裕が心憎い。独特の間の悪さが魅力のブランド。今シーズンは「バルサン」を題材に採り上げた。燻煙式の殺虫剤の、あの「バルサン」である。ライオン株式会社の登録商標だ。「モノは試しで先方に打診してみたら快諾してもらったんですよ」と云う。「でも、自分では『アースレッド』しか試したことはないんです」。文字通り、おとぼけの煙に巻かれてしまと云うオチがついた。

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【画像】CUNE 2014-15年秋冬コレクション


【午後5時30分】
 「マトフ」のショーまで、南青山のヨックモックに籠もり仕事をする。


【午後7時40分】
 風情のある服だが、前回に比して鮮度が薄れていたなァと、「マトフ」の余韻に浸っている間もなく「ミントデザインズ」の会場に移動。東京では橋桁式のキャットウォークは滅多にない。ここのウチは会場選び、設営に只管拘る、真の意味でコンセプチュアルなブランドだ。迸る勢いを演出したかったのだろう。パンク、テッズ、ロックンロール、そして腕白盛りのませガキをイメージさせる痛快なショーだった。黒のレザーの等身大の「ミントちゃん」ドレスには、小さな「ミントちゃん」型のメタルスタッズが打ち込まれている。ハードコアな皮革をデザインしたのは初めてだが、こちらがニンマリ出来る糊シロをちゃんと用意しているあたりは、流石だ。ショー終了後、間髪入れず舞台裏に激励に行くと、「いつの間に、早いですね」と驚かれてしまった。

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【画像】mintdesigns 2014-15年秋冬コレクション


【午後9時45分】
 今日最後のショーが終わる。幾何学的な位相をデザインに落とし込む「アツシナカシマ」だけに、服を見るために、もう少し明かりが欲しかった。暗闇に映えるのはショー演出のための映像のみ。いっかな服が浮かび上がって来ない。ハレーションにやられた眼には悲しいかな、演出のための虚像しか映らなかったのである。               

(文責:麥田俊一)

麥田俊一(むぎたしゅんいち)
shunichi_mugita_01.jpg1963年7月神奈川県横浜市生まれ。
1988年玉川学園大学文学部外国語学科フランス語専攻卒。
服飾業界紙記者、ファッション誌編集長、ファッションディレクターを経て
2012年株式会社澁太吉事務所設立。
1990年代よりパリ、ミラノ、NYC、東京各都市のコレクション取材及び
ファッションデザイナーへのインタビュー取材を続け新聞、雑誌に記事を執筆。
現在「QUOTATION FASHION ISSUE」ファッションディレクター。

 (photo by Shuzo Sato)

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