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Culture#Fスナ映画部屋

映画「秘密の森の、その向こう」は時代の寵児が生み出した "シアマ監督版となりのトトロ"?

 トレンドの最前線を行く者、映画の最新作も気になるはず──。今月公開が予定されている最新映画の中から、FASHIONSNAPが独自の視点でピックアップする映画連載企画「Fスナ映画部屋」

 今回は「燃ゆる女の肖像」で"生涯の一本"とカンヌを沸かせ、時代の寵児となった監督セリーヌ・シアマの最新作「秘密の森の、その向こう」をセレクト。娘、母、祖母の3世代を繋ぐ今作は「シアマ版となりのトトロ」とでもいうべき作品に。編集部員によるゆる〜い座談会付きで紹介します。

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あらすじ
8歳の少女ネリーは両親と共に、森の中にぽつんと佇む祖母の家を訪れる。祖母が亡くなったので、母が少女時代を過ごしたこの家を片付けることになったのだ。だが、何を見ても思い出に胸を締めつけられる母は、一人出て行ってしまう。残されたネリーは、かつて母が遊んだ森を探索するうちに、自分と同じ年の少女と出会う。

【ゆる〜い座談会を行う同い年編集部員2名】

フルカティ:普段はアートやカルチャー関連のほか、東京のデザイナーズブランドなどを担当。
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マサミーヌ:普段はビューティやコスメ関連の記事を担当。
マサミーヌ:普段はビューティやコスメ関連の記事を担当。

「秘密の森の、その向こう」をネタバレ無しで解説!

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個人的には「珠玉の名作」というのはこういう作品なのでは、と思う。

「燃ゆる女の肖像」のセリーヌ・シアマ監督の最新作ということで、期待も大きかったんだけど、期待を裏切らない見事な作品だった……。

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美しい童話みたいだったね……。

コロナ禍で2時間半越えの映画が増える中、今作は上映時間73分と短尺なのも特徴的。

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セリフ量が少ないながらも登場人物の描写が丁寧だし、どのシーンを切り取っても構図としてとても美しく、セリーヌ・シアマ監督の魅力が大爆発している。

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「燃ゆる女の肖像」が好きだったのであれば気にいること間違いなしだね。

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それこそ「燃ゆる女の肖像」のように絵画的でドラマティックな映像ではなく、光や色を誇張しない平坦な画が印象的だったなぁ。

もっと迫力を持たせることができそうなロケーションだったのに。

燃ゆる女の肖像
カンヌで大絶賛、セリーヌ・シアマ監督を一躍時代の寵児にした作品

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これは脱線&個人的な好みの話なんだけど。

SNSの情報速度やインスタントさに慣れた観客を飽きさせないための工夫として、最近の映画は演出が派手だったり、物語のテンポがスピーディーだったり、突飛なプロットが刺激的な作品が多くなっている印象がない?

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たしかに。上映時間が長くなっているのもある意味では「刺激」と言えそうだよね。

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そうそう。

個人的には静かでセリフ量が少なく、俳優の演技で物語が進んでいく映画が好きなんだけど、どうしてもそういう映画が少なくなっている気がしていて。

だからこそ本作は、私好みではあったんだけど、裏を返せば誰かにとっては退屈な映画にもなりうるなと思って。

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なるほど。

わかりやすいこと、わかりにくいこと、どちらかが正しいとは思わないけど、「燃ゆる女の肖像」と同様、劇中何気なく映る"物語を予感させるヒント"に気がつけないとハマれないかもしれないね。

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もし、映画にエンタメ性を少しでも求めるタイプなのであれば、あらすじやポスターに書いてあるキャッチコピー等を読んでしまうと楽しさが半減してしまう気もするから、自分の好みに応じて事前情報なしで観るのもオススメかも。

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私は程よいエンタメ性を求めるタイプなので、オリジナルタイトル「Petite maman(小さなママ)」を知っている程度がちょうどよく、興味をそそられたかな(笑)。

【ここから微ネタバレに注意】

【微ネタバレ注意!】観る前に知っていると2倍楽しめる?もっと「秘密の森の、その向こう」の話

Image by ⓒ2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
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本作のほぼ唯一とも言っていい物語の転換は、森の中で出会った8歳の少女の正体が「幼き日の自分の母親である」ということ。

若き日の親に会うという設定自体は目新しくはないんだけど、タイムスリップのようなSF感が一切なく、日常そのものだったのが新鮮だったなぁ。

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「なんで幼き頃の母親に会うことができたのか」という現象の理屈は早い段階でどうでもよくなっちゃったよね。

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そうだね。

過去と現在の境目が無いし。

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そう言われてみれば、この映画って時代背景が正確には定められていなかったね。

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たしかに。

衣装も、古めかしくも見えるし、現代的にも見えたから違和感がなかったのかも。

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衣装に関してもシアマ監督が担当しているそうだよ。実際に彼女の祖母の服を借りたりしたらしい。

舞台になる森も、彼女が幼少期に実際に遊んでいた森だそう。

Image by ⓒ2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
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自分の幼少期に基づいていたのか!不思議なことが起こっているはずなのに妙に現実的に感じた理由がわかった気がした。

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不思議なことが森で起きているんだけど全く神々しくないな、というのは私も思った!

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主人公であるネリーが、8歳の母マリオンに「秘密があるの」と、自分がマリオンの子どもであることを打ち明ける重要なシーンですら、派手な音楽や演出がなくて驚いたよ。

「え、いまサラッと重要なこと言わなかった!?」って(笑)。

ネリー「私はあなたの子どもなの」
マリオン「そうなんだ。未来から来たの?」
ネリー「ううん、庭から来たよ」

ー「秘密の森の、その向こう」より
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気持ちはわかるよ(笑)。

「未来から来たの?」という問いに対して「普通に庭から来たよ」と答えるシーンは、可愛げもあって思わずクスッと笑えたし、今作の映画としての態度を示すようなセリフだったと思う。

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未来から来たことを否定することできっぱりと「SF映画ではありません」と監督が表明しているかのように感じたんだよね。

ロケーション的にももっとダイナミックでエモい映像を撮れただろうに、それをしなかったのも意図的なのかな、と。

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「あくまで日常の延長として本作を描いています」という監督の意思表示を感じるシーンが多くて、それがまたグッと来るよね。

Image by ⓒ2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
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音楽もかなり効果的な役割を果たしていて、"ある曲"が流れた時だけ8歳の母マリオンが、今後のことを将来の娘であるネリーに尋ねるんだよね。

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それには私気がつかなかったな。未来を感じさせるような役割を音楽が担っていたんだね。

Image by ⓒ2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
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私はなんとなく、森の中で不思議なことが起こるこの映画を見て「となりのトトロ」を思い出していたよ。

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まさに「子どもの時にだけ あなたに訪れる 素敵な出会い」だ(笑)!

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そうそう(笑)。

そしたら、やっぱりスタジオジブリの作品にインスパイアされているらしくて。
撮影中に方向性を見失った時、シアマ監督はいつも自分自身に「宮崎駿監督ならどうする?」と問いかけていたそう。

どちらに進むか迷った時、私たちはいつも子どもたちが選択しそうな方をを選んだ。でもそれは最も過激で、詩的な道を選ぶということだから(それを表現しようと思うと)簡単なことではなかった。子どもたちが映画やドラマを見る時、私たち大人のように文化的背景や歴史的背景に捉われない。今現在の感覚だけで見るから、新しいアイデアや物語に反応する。アニメーション作品は、完全にこのことを理解している。
ーセリーヌ・シアマ監督
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私は、今作は娘と母の関係性を描く中で「女性の生き方」についても考えさせられるなーと鑑賞後に考えたかな。

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どういうこと?

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子どもが産まれてから「母親」になるだけで、私たちのお母さんだって子どもだったんだよな、と。

母親になることで「ママ」という役割にアイデンティティが薄められているという、当たり前だけど重要なことに気がついたというか。

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たしかに、母親も一人の人間として今日まで歩んできたし、その先には「祖母」という道も、そうではない道もあるという当たり前の事実を実感した節はあるかも。

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そうそう。娘と母との間で紡がれる新たな関係性を思わせるラストシーンがとっても良かった。

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子どもの頃は背伸びしてもわからなかったことが、大人になってからわかるようになることってあると思うんだけど

それを差し支えない表現で見事に映像化してくれた感はあるね。

【超ネタバレ注意!】もっともっと「秘密の森の、その向こう」の話

Image by ⓒ2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
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ちなみにどこで「この8歳の少女はネリーのお母さんかもしれない」って気がついた?

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雨でずぶ濡れになった2人が、マリオンの家へ駆け込むまで気が付かなかった。

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ネリーとマリオンが森で遊んでいたら雨が降ってくるシーンの直後だね。

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ネリーにとっても、観客にとっても「見覚えのある部屋の作りと壁紙」だったし、おばあちゃんの遺品整理をしている中でお母さん(マリオン)が教えてくれた「ノート」が映し出された瞬間、確信に変わったかな。

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伏線として壁紙やノートの説明がされるのは一瞬だから、それを見逃すと人によっては退屈な映画に感じてしまうかもしれないね。

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鑑賞後に振り返ってみれば、冒頭から伏線が結構張られていたんだなと思って。

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例えば?

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物語の冒頭でおばあちゃんが亡くなり、遺品整理のために車で実家に帰るシーンとかかな。

車を運転するお母さん(マリオン)に、ネリーがお菓子や飲み物を差し出すシーン。

お母さんだけど、なんとなく子ども帰りしているような雰囲気があって「8歳のお母さんと会う」というのを予感させるな、と。

Image by ⓒ2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
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なるほど。

これは考えすぎなのかもしれないけど、8歳のマリオンは実在はせず、ネリーのイマジナリーフレンドなのかなとも思ったんだよね。

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どこでそう思った?

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マリオンと一緒にご飯を食べているシーンの直後、一瞬でネリーが1人で食事をしている姿に映像が切り替わった時かな。

ただ、今作においては「8歳の母マリオン」が、実在していたのか、イマジナリーフレンドだったのかということはあまり重要じゃないなとも思った。

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観客の好きなように想像させる、映像的な余白を効果的に取り入れているセリーヌ・シアマ監督の手腕に脱帽するばかりだね(笑)。

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■映画「秘密の森、その向こう」
公開日:2022年9月23日(金)
監督:セリーヌ・シアマ
上映時間:73分
公式サイト

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