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トレンドの最前線を行く者、映画の最新作も気になるはず──。今月公開が予定されている最新映画の中から、FASHIONSNAPが独自の視点でピックアップする映画連載企画「Fスナ映画部屋」。
今回はグレタ・ガーウィグ監督作品「レディ・バード」に触発されて作られた映画「セイント・フランシス」をセレクト。あらすじだけ見ると「子どもと一緒に成長して行く」という単純でありがちな話を想像するかもしれませんが、決して説教くさくない映画なのでご安心を!編集部員によるゆる〜い座談会付きで紹介します。
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あらすじ
大学を中退し、レストランの給仕として働きながら夏の子守りの短期仕事を懸命に探す34歳のブリジット。自分では一生懸命生きているつもりだが、ことあるごとに周囲からは年相応の生活ができていない自分に向けられる同情的な視線が刺さる。そんな日々を過ごすブリジットが子守り先で出会った6歳の少女フランシスや、彼女の両親でもあるレズビアンカップルと過ごしたひと夏の交流を描く。
【ゆる〜い座談会を行う同い年編集部員2名】
ネタバレなしで「セイント・フランシス」を解説!
理屈っぽい感想を書こうかと思ったけど、素直に「最高だ、この作品に出会えてよかった」という純粋な気持ちが観劇後ずっと続いているよ。
どことなく、グレタ・ガーウィグ監督作品のようだな〜と思っていたら、本作で脚本と主演を務めたケリー・オサリヴァンは「レディ・バード」に触発されて本作の執筆を開始したらしい。
そうだったんだ!とても腑に落ちた。
自伝的要素もかなり盛り込まれているようで、ケリーさん自身が実際に経験した、乳幼児を預かる「ナニーの仕事」と「中絶」から着想を得ているそう。
ちなみに、同作の監督は彼女と私生活のパートナーでもあるアレックス・トンプソンがメガホンを取っている。
重くなりがちな繊細なテーマをテンポよく繋ぎ、それぞれの怒りや悲しみ、不安、喜びを誰一人漏らすことなく丁寧に描いていたのが印象的だったんだよね。確かに、不安と喜びという一見相反する感情は共存し得るよな、と。
「誰一人漏らすことなく丁寧に描いていた」というのは本当にその通りで。劇中に出てくる登場人物はもちろんなんだけど、鑑賞者に対しても同じ態度だったから安心して観れた。
結婚している人も、していない人も、子どもがいる人も、いない人も、全ての女性の気持ちを丸ごと抱きしめてくれるというか。誰が観ても疎外感を覚えないという映画はありそうでなかなかないから。
主人公であるブリジットの話ではあるんだけど、紛れもなく鑑賞者である「私」が主人公の映画だよね。
「自分なんて」と落ち込んだり、満たされない気持ちや不安に苛まれる人は大勢いるはずで。そもそも人生なんてそんなに完璧じゃないし、それぞれに悩みがある。誰だって人に言えない悩みや秘密を一つや二つ、抱えている。社会が決めた見えないルールに振り回されて居心地の悪い思いをしたり、自分の生き方に自信を持てなかったりもする。そんな生きてるだけで不安だらけの毎日を過ごす全ての人に対して「そのままで良い」と言ってくれる映画なのかな、と。
しかも、そのことを説教臭くない展開で言ってくれたのも嬉しかった。やっぱりあらすじだけ見ると「子どもと一緒に成長して行く」みたいな単純でありがちな話なのかなって警戒しちゃっていたから(笑)。
その警戒心、よくわかるよ(笑)。
本来なら"大人"と呼ばれて然るべき年齢なのに、大学を中退して、目標も定まらずふらふらしている。好んでアウトサイダーの道を歩んでいるわけではない、という主人公の状況がまずとてもリアルだよね。本作は、生きる道を選べていなかった主人公ブリジットが、何かによって変わったのではなく、自分に合うものを選択し続ける夏を過ごしたという話に落ち着いているのかな。
ブリジットは自分のライフスタイルや"過ち"について何も恥じていないよね。恥じていないから、誰かに救われる必要もない。
私たちの多くがそうであるように、彼女は自分なりに物事を理解しているだけ。他者からの「理解しよう」という姿勢はありがたくもあるけど、結局痛みや苦しみは本人にしかわからないよね。そういうどこにも当てられない感情というのは、本作のテーマでもある生理、中絶、妊娠などにも当てはまるなーと思いながら見ていた。
生きているだけで、色んな悩みが付いて回るけどそれぞれの自分らしさをまるっと受け入れてもらえるような社会になればいいよね。
ちなみに、個人的には現在公開中の「わたしは最悪。」と対になるような映画だと感じた。ぜひセットで観て欲しい。この2作品があれば、30代に差し迫った人間が抱える巨大感情の大抵を吹っ飛ばせると思う(笑)。
【微ネタバレ注意!】もっと「セイントフランシス」の話
ここからは、同い年編集部員である「フルカティ」と「マサミーヌ」による、ネタバレありきのゆるい座談会をお届け。「セイント・フランシス」観劇後の余韻に浸りながらゆる〜くどうぞ。(本当にゆるいです!)
ここまで細かく生理、避妊、中絶といったトピックスを取り上げる映画はなかったんじゃないかな。
それに、中絶という選択を悲劇的なドラマにしていないというか。
最近だと「17歳の瞳に映る世界」も妊娠・中絶が一つのテーマに添えられている作品だったけど、本作ほど軽やかではなかった印象。
そうだね。
大袈裟なドラマに仕立てられがちな中絶経験も、人によっては淡々と向き合う、という当たり前のことを書いてくれているのが本作かも。
そもそも、この世に「17歳の瞳に映る世界」のような映画と、今作が共存してくれること自体に意味があるようにも思う。
米フロリダ州で人工中絶禁止法が施行され、全世界で波紋を呼んでいるけど、本作ではそういう社会問題をうまく取り入れながら大人だからこその一筋縄にはいかない苦悩と、大人になりきれていないからこそ揺れ動く心情、いまを生きる人たちの本音をユーモアを交えながらナチュラルに伝えてくれているよね。
描かれているのは女性にとってはいつか訪れるかもしれない現実だけど、これ男性が観たら戸惑うのかな。
個人的には、中絶方法が経口中絶薬で描かれていることも驚きだったんだよね。
劇中、はっきりと台詞にはなっていなかったけど言われてみればそうだね。「この血の塊が(胎児)そうかな?」とボーイフレンドに見せるシーンとかもかなりリアルだった。
脚本・主演を務めたケリー・オサリヴァンは「女性に生理がなかったら地球には誰も存在しないのに、若い頃から生理のことは隠すように教育されている」とコメントし、彼女は女性が毎月向き合うにも関わらずタブーとされ、かつ綺麗な部分だけを美化している現状に疑問を感じ「女性の心身の本音をみせたかった」と話している。
そのコメントを聞いてからだと、中絶が物語のクライマックスではなく、ストーリーの一部であることにも意味を感じるね。
生理、中絶のほか、レズビアン夫婦と彼女たちの子どもフランシスという要素も本作では重要。
レズビアン夫婦の話を聞いていて思ったのは、2人共「母」になるのかと思いきや、「夫」役と「妻」役に分かれてしまい、家庭内のいざこざは男女夫婦とあまり変わらないんだな、ということ。
世代や立場の違う3人の女性がそれぞれの悩みが抱えきれなくなり泣きながら不安を吐露するシーンは印象的だった。それぞれ立場は違うけど、大なり小なり不安を抱えているんだよね。
分断の時代に争うのではなく、意見を聞き、差異を認めることがクールというはっきりとしたメッセージ性も心強かった。
「子どもたちの前で意見を尊重するところを見せないと」はいい台詞だったね。
短い対話の中で、鑑賞者も劇中に登場する家族の輪に迎え入れてくれているようにも感じたよ。
ブリジットが、フランシスに対して変に大人ぶったり、子ども扱いしたりせず、あくまで一人の人間として接している姿をみて「私もこうありたいな」と思った。
フランシスとの出会いは「30代なんだから、こうするのが普通だ」という周りの声に押しつぶされないために木を張り詰めていたブリジットを変えてくれたのかな、と。
ブリジットの場合で言うと、中絶からの回復ではなく、自分への自信のなさと人生への諦めからの回復が必要だったのかもしれないね。
■映画「セイント・フランシス」
公開日:2022年8月19日(金)
監督:アレックス・トンプソン
脚本:ケリー・オサリバン
上映時間:101分
公式サイト
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