ロゴはいらない マイキータが追求する“道具としてのアイウェア”

マイキータ創業者兼クリエイティブディレクター モーリッツ・クルーガー(Moritz Krueger)
Image by: MYKITA

マイキータ創業者兼クリエイティブディレクター モーリッツ・クルーガー(Moritz Krueger)
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マイキータ創業者兼クリエイティブディレクター モーリッツ・クルーガー(Moritz Krueger)
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ベルリンを拠点とするアイウェアブランド「マイキータ(MYKITA)」が、欧州以外で初の店舗を東京にオープンしてから15年。2004年9月には東京を舞台に初のプレゼンテーションを披露するなど、創業当時から現在まで日本市場を重視してきた。ブランドの核となる哲学、日本との深いつながり、今後のアイウェアに求められるものについて、創業者兼クリエイティブディレクターであるモーリッツ・クルーガー(Moritz Krueger)氏に聞いた。
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コンセプトを実現する規律的な技術、削ぎ落とすデザイン
マイキータのデザイン哲学の核となる「削ぎ落とすデザイン」は、日本のさまざまな分野における職人たちの素材への向き合い方からインスピレーションを得ているという。
「精密さ、余計なものを削ぎ落とす姿勢、素材への敬意、職人技における規律。こうしたアプローチが生む美しさは、安藤忠雄の建築から、木製家具のディテールといった細部にまで宿ります。完璧な食材と適切な道具を用いて、シンプルな要素で完璧な料理を作り上げる日本食の世界にも通じる美学です」。
優れたプロダクトを構成するのは「丁寧なコンセプト設計が2割、そのコンセプトを的確に実現するための緻密な実行力が8割」と語るクルーガー氏の言葉からは、徹底した職人的精神が感じ取れる。

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日本の文化や工芸、ファッション、デザインに通底する価値観は、長年マイキータのインスピレーション源となってきた。特に「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」「イッセイミヤケ(ISSEY MIYAKE)」が与えた影響は大きい。
クルーガー氏は「過剰な表現が主流だった1980〜1990年代のパリで、彼らはテーマからテーマへと飛び移るのではなく、一貫したコンセプチュアルな表現を徹底して追求しました。素材と技法を探究し、新たなアイデンティティと美を生み出した──その姿勢に強く共感しています」と話す。同様の理由から、「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」からも影響も色濃く、明確なコンセプトへのコミットメントとそれを貫くための規律に則ったデザインが誕生した。
目指すのは「ロゴがなくてもマイキータだとわかるアイウェアを作る」こと。「ブランドのアイデンティティと価値を伝えるのは、ロゴではなく、構造と素材、デザイン哲学です。それはリスペクトしているブランドの服にも通じています」。
日本での成功こそ「真の試練」だった
「どのブランドにも基準となる市場があります。『ニューヨークで成功すればどこでも成功できる』という人もいますが、私たちにとっては日本での成功こそが真の試練でした」とクルーガー氏は振り返る。

マイキータ 表参道店
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ネジを一切使わず、ステンレスのシートメタルを手作業で曲げて仕上げるミニマルなアイウェアを特徴とするマイキータ。「構造」と「素材」に対する強い探究心とミニマルなデザインというブランドのアイデンティティは、日本に根付くデザイン哲学や文化、価値観に共鳴しているからこそ、日本市場にもフィットする。故に、日本の顧客に受け入れられるプロダクトを生み出せるかどうかが、ブランドが“正しい道”を歩めているかの指針だった。
マイキータは、今年4月に九州エリア初の直営店「MYKITA FUKUOKA」を福岡・天神のワン・フクオカ・ビルディングに出店した。これによって日本は、ドイツ、アメリカ以外で唯一3店舗の直営店を構える国になった。日本には、直営店以外で世界で初めてマイキータを取り扱ったオプティカルショップがある。長年にわたりオプティカルショップとの良好な関係性や顧客との信頼関係が築かれているのも日本市場の特色だとし、「日本では、次々と新しいものを追い求めるのではなく、絶えず学び、洗練し、顧客との長期的な関係を育む姿勢が非常に重視されていると思います。日本の顧客たちは、中身のない派手なメッセージだけの製品ではなく、製品の製造方法や原産地、素材、生産者の哲学を理解しようとする傾向がありますし、良い意味で、意識的にトレンドに抗っていると感じます」と話す。束の間のトレンドを追うよりも、長く愛用できる製品を大切にしたいという価値観が強い日本市場には、マイキータのプロダクトはマッチしていると同氏は分析する。

東京店15周年記念モデル
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骨格の壁を超える、“すべての唯一無二な顔”にフィットする構造
アジアと欧米では着用者の顔の骨格の違いから求められるアイウェアのデザインは大きく異なり、世界的に共通して着用できるデザインを生み出すことは難しい。一方で、マイキータでは当初から「すべての顔が唯一無二である」というコンセプトを掲げ、誰しも顔は左右非対称であり、大きさ、形状、プロポーションが異なるという考えに基づき、軽量でありながら、着用者の顔に精密にフィットするように測定値を1/10mm単位で調整することが可能な構造とデザインを追求してきた。

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精密な調整が可能な構造は、身体に完璧なフィット感をもたらすことに重点を置く、日本独自のテーラリングにも通じる考え方から生まれたもので、日本の顧客たちからは特にその快適性とフィット感が高い評価を得ている。実際、日本でマイキータが支持を獲得する一助になったのは、広告や宣伝ではなく使用者たちによる快適性に対する口コミだったという。
「おしゃれは我慢」は論外 医療品としてのイノベーション目指す
ブランド創業から22年。アイウェアに対するニーズはどう変化したのか。「真の革新はあまり起きていない」というのがクルーガー氏の考え。近年のトレンドはクラシカルに回帰し、ヘリテージとレトロデザインが主流になっている。しかし、クラシカルなインスピレーションとヘリテージを尊重しつつも、そこには現代社会に適した最新技術が搭載されるべきであり、「複雑さ、重い素材、過剰な装飾を重視する近年のアイウェアトレンドは、多くの場合快適性を損ないます。“良いものに痛みはつきもの””おしゃれは我慢”といった古い考え方は、特にアイウェアにおいては全く理にかなっていません。快適さこそが基本なのです」と強調する。ファッションアイテムでもありながら、医療機能を持つのがアイウェアの特徴であり、価値であるという考えだ。
スマホの普及に伴い、ブルーライトによる曝露や視覚疲労など、眼への負担が増大している現代において、顧客たちの眼の健康に対する意識も高まっている。マイキータでは、ドイツのツァイス社(ZEISS、光学と光電子工学の分野で世界トップクラスの技術を持つレンズメーカー)などの高品質なレンズを採用することで、フレームのフィット感だけでなく、眼の快適性も重視したものづくりに注力。そして今後も眼の健康は重要分野であり続けるという考えから、現在は眼圧の変化から潜在的な全身の健康サインまで、さまざまな状態の初期兆候を検出し、利用者が医療機関にかかる際の指針になるような、より包括的なアイサービスをツァイスと共に開発しているという。
昨年、マイキータは本社であり自社工房である「マイキータハウス(MYKITA HAUS)」をベルリン中心部のシュプレー川沿い、クロイツベルク地区に移転。デザインイノベーションと製造のための研究開発拠点の誕生によって、さらにビジネスを加速させる。また、2026年6月にはロサンゼルス、同年末までにロンドンとパリに新店舗を出店する予定だ。これらの新店舗は新たなコンセプトやデザイン要素を取り入れた旗艦店として打ち出すという。
アイウェアはいま、ファッションと医療、アナログとテクノロジーの交差点に立っている。マイキータが一貫して見つめてきたのは、その中心にいる「人」の快適さと健康だ。削ぎ落とした構造と精密なフィット、そして見えない部分に宿る技術。日本の美意識と響き合いながら育まれてきたその哲学は、ARやVRといった新たなデバイスが普及する時代においても、“目と顔に最も近いプロダクト”のあるべき姿を問い続けていく。
最終更新日:
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