明円卓
2023年3月に原宿にオープン後瞬く間にSNSやTVを中心に話題になった「友達がやってるカフェ/バー」、チケットが即完売し、同年11月から全国6箇所のパルコを巡回している「いい人すぎるよ美術館」といったバズコンテンツを立て続けに生み出し続けているクリエイティブチーム「entaku」。主宰の明円卓(みょうえん・すぐる)は、電通社員時代に、通信会社KDDIのCM「意識高すぎ!高杉くん」シリーズといった、人の記憶に残るコンテンツを手掛けた売れっ子クリエイターだ。「友達がやってるカフェ」は、Trepo girls(トレポガールズ)が発表する「2023年上半期Z世代トレンドランキング」のコト・モノ部門で第1位にランクイン。同氏が手掛けた作品は、特にZ世代と呼ばれる若年層を中心に高い支持を獲得した。センセーショナルな情報が氾濫する現在のインターネット社会で、温かみのあるコミュニケーションで話題を呼び続けるクリエイターの考えを紐解き、2024年に支持されるコンテンツの在り方を探る。
話題になるコンテンツは0秒で伝わるもの
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ー2023年、めちゃくちゃバズっていらっしゃいましたね。
4月にオープンした「友達がやってるカフェ」と、6月に開催した「いい人すぎるよ展」など大きな反響を頂きました。いろんな楽しい話が舞い込むようになって、たくさんの楽しい実験ができた1年でした。
@m_suguru 新店舗を作りました!訳わからないお店ですが楽しんで頂けますように…。「原宿の友達がやってるカフェ行かない?」と誰かを誘って遊びに来て頂けたらうれしいです!#カフェ #原宿カフェ #お出かけ ♬ Friends - Ella Henderson
TikTokでは「#友達がやってるカフェ」の動画が3530万回以上再生された。
ー「実験」という感覚だったんですね。
世に出してみるまでどんな反応が来るのかわからないし、実際にもらった反応を元にまた新たな実験にチャレンジしてみるという感じです。実験の結果を踏まえて、これは話題になる可能性を秘めているのかも?とか、これは話題にならないかもしれないけど、意味があるから作ってみたいな、などと考えながら新しい企画を作るようにしています。
ー2023年はプロジェクトが沢山ありましたが、企画数の多さにも意図があるんですか?
こういった企画は「entaku」というチームで作っています。個人としてでなくチームとして「すごい勢いがあるな、面白いものを作り続けているな」と思われたくて。そのためには“突出して”目立つ必要があるなと思って、「毎月1つ必ず何かを作る」というのをディレクションの軸のひとつに置いていました。
ー広告を生業とされている自社事業の一環として、体験作りに特化したチーム「entaku」を作られたんですよね。
そうです。広告の仕事が基本にあって、そこで頂いたお金を自分が好きでやってみたい取り組みに投資していくというサイクルを続けています。
ー利益度外視でも体験作りにこだわる理由は?
「広告キャンペーン」って、契約期間が終わるとYouTubeに載せたものも削除しければいけなかったり、無くなっちゃうのが寂しいなと感じていました。でも「お店」は物理的に残り続けるし、「体験」は人の心に残って語り草になったりもする。そんな風にずっと残り続けるものが作りたいなと思い、体験作りにこだわっています。
あと、自分達が作ったものが話題になることで、新しい人たちに出会えたり、いろいろな機会が増えたりするのがすごく嬉しくて。新たなお話をいただく機会も広がっています。自分が作った新しいもので、いろいろな人や機会と巡り会えていて、すごく良い循環が作れているなと思います。
ー明円さんが考える面白い企画の条件とは?
「新しいこと」です。誰でも発信できる時代になって、誰でも面白いものに簡単にアクセスできる時代になった今、本当に人々の目は肥えていて、ちょっとやそっとじゃ驚かなくなりました。なので、これはどう新しいんだろうとか、何が新しいチャレンジなんだろう、と常に立ち返って考えることを大切にしています。「友達がやってるカフェ」の場合は、ちゃんとした接客態度や素晴らしいサービスが溢れている日本で、友達みたいなラフな接客は新しく映るんじゃないかと考えたのが始まりです。
ー新しくあり続けるために実践していることはありますか?
新しいものは常に若い人たちが知っているので、大学生のインターンの子たちにいろんなものを教えてもらう時間を毎週2時間必ずとっています。その内1時間は新しい言葉を教えてもらう時間で、「SNS言葉辞典」というSNSアカウントを作っています。もう1時間は、最近見た面白かったもの、キャンペーンでも映画でも、大学生の方たちにとって面白いものを1時間ひたすら教えてもらう時間です。どんなに忙しくても絶対に毎週欠かさずに2時間は割いて、新しい人たちからインプットしてもらうということをずっと続けています。あとは、日々中毒のようにSNSを見て、「SNS感覚」を常に持てるよう心掛けることで、自分が古くならないように気を付けているつもりです。
SNSことば辞典:SNSに現れた新語や表現を紹介するXのアカウント。
ー話題になるコンテンツを作るために意識していることは?
色々な要素があると思いますが、「0秒で伝わること」が特に大切にしていることの一つです。タイムラインの中でコンテンツに出会って、その続きを見てみたいと思うかどうかを判断する時間は0秒。1秒もありません。パッと見た時に「0秒で伝わる」画作り、アートディレクション、クリエイティブディレクションが今後ますます大事になると思います。
ーご自身の作品以外で、2023年に面白いと思ったものは?
ラスベガスのスフィア(Sphere)という球体のシアターはすごかったです。ああいった誰も見たことのない体験を作りたいし、あの規模でモノが作れるのは純粋に羨ましいです。
ーやはり体験に注目されているんですね。広告というカテゴリーで注目した他社事例はありましたか?
いい広告って、純粋に楽しめるコンテンツとの境目が溶けあっているものだと僕は思います。そうした観点から見ると、メルカリがやっていた「ウチの実家」は、自分たちの言いたいことを伝えながら、体験としても面白いので、お客さんは広告だと思わずに足を運んだのではないでしょうか。
炎上しない、誰も傷つけないコンテンツの作り方とは?
ー新しいことが面白いというお話でしたが、人や企業が発信する上で新しさを追い求めたことで炎上するという事例もよく見かける気がします。誰かを傷つけずに新しいものを生み出すために、発信者が意識すべき責任をどう考えていますか?
とても大事な視点で、誰かを傷つけたり、炎上しないよう、日頃から細心の注意を払うようにはしています。でも、発信をする限りどんなに気をつけていても、思いがけず誰かを傷つける可能性はあると思います。僕がいつもやるのは、新しいコンテンツを発信する前に自分の投稿をすごくネガティブな目線で見て、自分自身で批判コメントを考えてみるということ。できる限りいろんな視点でたくさん批判的なコメントを考えると、ネガティブな要素が客観視できます。以前は、展覧会の情報解禁をする2時間前にネガティブな要素に気が付いて、そのタイミングでホームページも展示物も作り直したこともありました。
ー「ファッション」という領域は、ある種新しいものが歓迎される領域ですが、親和性を感じますか?
ファッションって服だけじゃなく態度の話だと思います。そういう意味で言うと、「自分のスタンスを持っている」ということもファッションなのかなと。僕たちが取り組みのことを「実験」と呼んでいるのは、企画を通して誰かに自分たちの価値観を押し付けたいわけではなく、自分たちが「好きでやっている」に過ぎないことだからです。特に受け取って欲しいメッセージがあるわけじゃなくて、「こんな体験があったら面白くない?」に留めるようにしています。
ー作り手が一番に楽しむことでムーブメントが起こる。
自分で企画展を5年前から主催しています。最初の企画展は身内向けのもので、お客さんも40人ぐらいを招いた小規模なものでした。でもそこから、毎年1本ぐらいのペースで、自分たちの好きな展示を発表し続けていたら、思いがけず色んな人が面白がってくれるようになりました。「いい人すぎるよ展」は2023年12月時点で累計で約4万人の方に来場していただけ、自分でも驚いています。
ー「メッセージ」ではなく、楽しそうな姿が人を動かすんですね。
「人を動かす」ための答えの1つは、「押し付け」でなく「共感」という視点なのかもしれません。発信側が楽しんでいることに共感して人が集まり、応援される、そういう時代なのかなと思います。
ー流行るお店も人気が出るブランドも、同じかもしれません。
「フォローする」という概念って、共感とか応援とか、そのコミュニティに足を踏み入れるという意味もあると思います。まず作り手が純粋に楽しみ、そのスタンスに共感してフォローし、コミュニティが生まれる。そこから発信されるメッセージが広がっていく、というのが話題や流行の始まりなのかもしれません。
(聞き手:橋本知佳子)
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