Image by: FASHIONSNAP(Hikaru Nagumo)
白い肌とすらっとした高身長も相まって、そのいでたちは透明感で溢れている。それなのに、画面に映る彼女はいつも少しだけ世の中に疑問を抱いていて、口を開いたかと思えば、確信めいたことをズバッと一言で言い放ち、強烈な存在感を残した後、その場を去っていく。作品の鑑賞中、ずっと感じていたモヤモヤを解消してくれるのは大抵、江口のりこという役者が演じるキャラクターなのだ。その自立した女性像は作品が作り出した産物なのにもかかわらず、江口のりこという彼女自身もさっぱりとした人物なのかもしれない、と観客が錯覚してしまうほどに彼女はバイプレイヤーとして数多の作品に出演している。
取材中「はずかしー」と言いながらポージングを決める彼女。関西弁訛りの話し口から語られるエピソードトークは静かながらも確実な“オチ”がついていて、話を聞いていて思わず笑ってしまうシーンが幾度も訪れた。一方で「キャリア」と「結婚」という切実な問題を投げかけると、はっきりとした自分の哲学を語ってくれる。江口のりこという人は、1本の軸がしっかりと通っているけど、チャーミングで、照れ屋で、少しだけちゃめっ気がある人なのかもしれない。でもその実は、私たちは知る由もない。作品ごとにころころと変わる役どころと同じように。
⎯⎯プライベートで着る服のこだわりはありますか?
買い物をする時に「長く着れるものがいいなあ」と思いますね。だから、ばんばんいろんな物を買う方ではなくて。「良いものを、長く」を考えて選ぶかな。日本のブランドだと、「オーラリー(AURALEE)」が好きです。
⎯⎯俳優とは、ある種の「役を着る(装う)」職業だな、と思います。
それでも結局、「演る(やる)」のは自分ですからね。自分の体と声を使って、人が書いた台詞を言うことで「その人になる」ということをする。芝居をしている最中に、居心地の悪さを感じたり、「おや、うまくいっていないぞ」と感じるのも自分。だから、その役を演じていても、どうしたって自分であるわけで。
でも、私一人で演じているわけでもなく。ヘアメイクさんや、スタイリストさんなどのプロフェッショナルが「その人物」に見えるように手を貸してくれる。ファッション(装う)には、そういう効果もあるとも思っています。だから、なんていうのかな……。みんなの力で「その役に見えてくる」という感じなのかな。いわゆる「変身」ではないかな、と。
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⎯⎯橋口亮輔監督の最新作「お母さんが一緒」で江口さんが演じた長女の弥生は、三姉妹の中で自分だけが一重であることにコンプレックスを抱いています。
私も歳をとって段々と奥二重になってきたんですけど、最初はめちゃくちゃ一重。私に関して言うと、一重は嫌じゃなかったなあ。一重をいじられることもなかったし。どちらかというと、この仕事をしてから台本でいじられることが増えました。「俺の家の話」でも家族写真を撮るシーンで「だめだ、舞だけ一重だ」って言われるとか。「面白いシーンやなあ」と思ったし、むしろ好きな部分でもある。
⎯⎯人は誰しもひとつくらいは自分の好きになれないところがあるのかな、と思ったりもします。
まあでも、好きになれなかったらしょうがない! 一重に限らず、性格も、体の一部分でも「嫌だなあ」と思うところはみんな何かしら持っていると思うし、それを好きになれたらいいけど、なかなかそうもいかないから、諦めるしかないんじゃないんですかね。「しょうがないなあ」「直らないんだなあ」と、好きではなく、諦めにも似た気持ちになるのかな。そういう「開き直る」という手もあると思います。
⎯⎯江口さんは5人兄妹の次女と聞いていますが、逆に弥生と似ているなと思ったところはありましたか?
「お母さんはきっとこの方がいいと思うから」と周りに意見するというか、ペースを自分で掴みたくなるような家族間でのふるまいというのは似ているところがあるかもしれない。私には妹がいますが、妹には対しては「あんた、お母さんにお金を借りているらしいな」とか言っちゃうし。まあでも、弥生ほどではないかな(笑)。
⎯⎯本作のタイトルが「お母さんが一緒」であるように、物語の中心には母親がいるものの、母親の顔は一度も映らず、3姉妹の言動から母親を連想させます。江口さん自身の“お母さん”はどういう人ですか?
やっぱり5人を産んだだけあってパワフルですよ。あと、すごくせっかち。この間も一緒に飛行機に乗ったんですけど、タイヤが地面に着いた瞬間にシートベルトを外していましたからね。大人になってから「この人も一人の女性なんやなぁ」と思うことが増えて、冷静に母のことを見るようになったかも。
⎯⎯自分と似ているなと思うことは?
こうやって喋っていて、「んー」という相槌の打ち方とか、ふとした時に「あ、お母さんと同じ喋り方になってる……」と思う。気が付いたのはここ2ヶ月くらいのことやけど(笑)。
⎯⎯これまで、江口さんが演じられてきたキャラクターは総じて“自立した強い女性”として描かれることが多いように感じています。そして、多くの人がそのパブリックイメージをそのまま、江口さんにも抱いている印象です。パブリックイメージと自分の性格に齟齬を感じていたりはしませんか?
どう思われても仕方がないと思っていますね。役者という仕事をしていて、「この人は、こういう人なんだ」と思ってもらえるのは作品を観てくれているからであって、しょうがないことですよね。だから「本当の自分はこうなのに」とは思わない。むしろ、そこがお茶の間やお客さんにバレてしまったら、俳優としてダメな気すらする。正体がわからない方がきっと面白いと思うから。作品に出演するたびに「江口のりこってこういう人なのか?」と思ってもらえたら、それは悪いことではないんじゃないかな。
⎯⎯本作は、「結婚」「キャリア」「孫」というキラーワードがトリガーになり、アラサーの三姉妹が腹の中に溜めていた感情をさらけ出して激しい言葉をぶつけあいます。実際、キャリアと結婚というのは全ての女性が抱える切実な問題だと思いますが、江口さん自身の考えを聞かせてください。
結婚はしたい人がすればいい。「結婚したいなあ」と思っているなら、今はそういうアプリもあるし、行動することもできますよね。私は結婚をしたいわけでも、したくないわけでもないけど、「そういうのって巡り合わせでしかないでしょ」と思っています。キャリアも同じくで、自分が頑張れる場所に出会えるか、出会えないか。私のそもそもの考え方に「物事のすべては巡り合わせで、結局は予期せぬものが向こう側からやってくる」と思っている節があるのかもしれません。だから極論、結婚もキャリアも自分の力ではどうしようもできないもの、と思っています。
⎯⎯世の中ではそれを「タイミング」と呼んでいるのかもしれませんね。そのタイミングがいつやってくるかわからないから、人は焦ったり、不安になったりしますよね。
もちろん、自分が頑張れるところまでは頑張るんですよ。大雑把な目標を立てるとかもその限りだし、タイミングがやってきた時に「やれますよ」と言える準備がないと物事は引き寄せられないと思いますけどね。物事がやって来る下準備として、日頃から目の前にある仕事をちゃんとやっていることが大事なんじゃないかな。今、目の前にあることや人を「これは嫌いだからやらない」「他のものだったらやる」と言っている人は、いざ他のものが来てもちゃんとできないと思うんですよ。今、自分の目の前にやってきた物事は「やりなさい、という意味なんだな」と思って受け入れれば、出来る気がするし、そのうちに大きなタイミングが向こう側からやって来る気がするんですよね。
Model:Noriko Eguchi
Styling:Naomi Shimizu
Hair & Makeup:Taeko Kusaba
Photographer:Hikaru Nagumo(FASHIONSNAP)
Text & Edit:Asuka Furukata (FASHIONSNAP)
チェックのドレス¥410,300、チェックのパンツ¥166,100、バレエシューズ¥128,700(以上マルニ|マルニ ジャパン クライアントサービス︎TEL:0120-374-708)
■お母さんが一緒
公開日:2024年7月12日(金)
原作・脚本:ペヤンヌマキ
監督・脚色:橋口亮輔
キャスト:江口のりこ、内田慈、古川琴音、青山フォール勝ち
上映時間:106分
配給:クロックワークス
公式サイト
あらすじ
親孝行のつもりで母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹。長女・弥生は美人姉妹といわれる妹たちにコンプレックスを持ち、次女・愛美は優等生の長女と比べられたせいで自分の能力を発揮できなかった恨みを心の奥に抱えている。三女・清美はそんな姉たちを冷めた目で観察する。「母親みたいな人生を送りたくない」という共通の思いを持つ3人は、宿の一室で母親への愚痴を爆発させるうちにエスカレートしていき、お互いを罵り合う修羅場へと発展。そこへ清美がサプライズで呼んだ恋人タカヒロが現れ、事態は思わぬ方向へと転がっていく。「恋人たち」「ぐるりのこと。」の橋口亮輔の9年ぶりの監督作。CS放送「ホームドラマチャンネル」が制作したドラマシリーズを再編集して映画化。
◾️渋谷に位置するユーロスペースで橋口亮輔監督3作品の連続特別上映が決定。
各回上映終了後にリリー・フランキーや、映画評論家の森直人、奥山大史監督らとのトークショーも実施予定。
詳細:ユーロスペース公式サイト
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