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森山未來と服によって動かされる身体

Image by: FASHIONSNAP

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森山未來と服によって動かされる身体

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 身体と密接な服。人が服をまとい、朴訥とした顔で歩くランウェイショーはある種パフォーマティブであり、総合芸術的としての側面も強い。

 森山未來は俳優として活躍の場を広げる一方、幼少期から様々なジャンルのダンスを学び、ダンサーとして「関係値から立ち上がる身体的表現」を求めて、領域横断的に国内外で活動を展開している。2020年からはアート専門YouTubeチャンネル「MEET YOUR ART」のMCも務め、第一線で表現を続ける芸術家たちの対話を重ねている。アート、身体、衣服。同じジャンルで括られるようで、異なる3つの領域を縦横無尽に駆け回る森山は、それらの関係性をどのように捉えているのだろうか。

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森山さんは俳優のほかダンサーとしても活動されています。服とパフォーマンス、身体の関係性についてどのように考えられていますか?

 やはり、かなり密接なものだというイメージはあります。パフォーマンスは総合芸術なので、音楽や照明など、様々なものが組み合わさって一つの作品になります。もちろん、衣装も総合芸術の一部として重要な要素です。例えば「この作品のためには、こういう衣装がいいな」「この衣装を着るなら、こういうアプローチができるかもしれないな」ということはよく考えます。

 それこそ、最近仕事で着た服で印象的だったのは「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」の2024年春夏コレクション。未来派の画家で彫刻家のウンベルト・ボッチョーニ(Umberto Boccioni)が設計したブロンズ像「空間における連続性の唯一の形態」を意識した服というのがあって。着ているだけ造形的だったんです。僕は、未来派の作品の魅力は、静的な絵画や彫刻というものに、時間制や速度を持ち込もうとしたところだと考えています。いざ着てみると動きたい欲求が出てきて、服を着ることによって動きが引き出されるという、パフォーマーとしては嬉しい出会いだったなと。今回の「MEET YOUR ART FESTIVAL 2023」で、ハラサオリさんと披露したパフォーマンス「Earth as a Circuit」でも同じ服を着させていただきました。

※未来派:20世紀初頭に起こった芸術運動の一派。伝統的な芸術と社会を否定し、新しい時代にふさわしい機械美やスピード感、ダイナミズムを賛美した。活動領域は絵画や彫刻などの造形芸術だけでなく、写真、建築、デザイン、ファッション、演劇、音楽、文学、政治活動に至るまで広範囲に及んだ。

では、身体性を表現する「踊り」に対して、衣装はどのような機能を担っていると思いますか?

 先ほどのボッチョーニを着想源にした服は、立体的な服の造形性が作用して「服によって動かされる身体」という関係性。一方でもっと単純に、カジュアルな格好をしているのか、フォーマルな格好をしているのかで、「ただ立っている」の性格が変わります。あるいは、Yシャツのような襟や袖をボタンで詰めるというデザインは抑制を促します。「抑制から知性は働く」とも言われていますが、「抑制を促す服」と「インテリジェンス」には相互関係があるのではないかな、とか。

「歩く」という行為は、日常的に行われているパフォーマンスと考えることもできるかと思います。
 歩くということだけではないかもしれないですが、その人それぞれの生き方が反映されているものではありますよね。必然的に「自分がイメージする人間に見られるように」あるいは「“そう”見られないような歩き方をする」というのは、あるんじゃないかな。

 歩くという行為にはテンポが付き物です。山登りなどは特に象徴的ですが、単調なリズムを刻んで足を動かすということで紡がれていくのが「歩く」だとして。その時に起こっている思考というのは、ある種とてもシンプルな気がしていて、頂上を目指して一歩、一歩と歩みを進めることのみに集中する中で、思考も単調になっていく。でも、そんな行為を止めた時に訪れる静寂で思考が回転し始める。例えば、西田幾多郎という哲学者がいますけど、彼が言う「純粋経験」※みたいなものと非常に近いのではないかと思うんです。「自分がこれを美しいと感じているから、これは美しい」ではなく、何かが目に映った時に衝撃を受け、後にそれを反芻した時に初めて「あれを僕は美しいと思ったんだ」と、経験の後にやってくる自我の発露、といったような。これは運動全体に言えるかもしれないですが、能動的に動いている時は、目に映る情報や、身体の感覚で動いてはいるんですけど、歩くという行為はある種逆説的に脳を動かすことなのかな、と。
※純粋経験:哲学用語。主観・客観に分かれない根源的な直接経験を指す。

アート専門YouTubeチャンネル「MEET YOUR ART」のMCを務めて3年が経過しました。森山さんは「アート」というものをどのように捉えていますか?

 「世界に対しての視点を拓く」とでも言えばいいのでしょうか。そういう気付きを与えるものとしてアートはあるのではないでしょうか。

「視点を拓く」というと?

 「世界を眺めるための視点が広がることで可能性がどんどん広がっていく」という感覚が一番近いかな。アートに限った話ではないんですが、様々な出会いによって新たな世界を知り、発見をし、それによって自分自身の主観性や眼差しが豊かになるということはありますよね。古典作品はもちろんですが、今を生きている僕らという意味では、いまの情勢などの同時代性によりコミットしているのは現代アートだなと感じています。アートやファッションに限らず、全ての表現者は「どのように消費されるか、されないか」というのジレンマみたいなものを前提として持っていると思うんです。その問答の中で、現代社会を生きる表現者が、生活を模索し、その営みが垣間見える表現というのが一番生っぽく、作品を受け取った人の視点をより拓いてくれるのでと考えています。

 話は少し脱線しますが、現在の日本を含めたアジア文化への視点というものは欧米の文脈から発見されたことが大きな影響を及ぼしていると思うんです。ファッションを含めたジャパニーズカルチャーに関しても、日本の中でどれくらい意識的に独自性を見出せるのか。実際にはなかなか難しい。「日本人がデザインする服の、こういうところで世界は拓けるよね」という視点は、往々にして外から逆輸入的にもたらされることが多いという印象です。欧米から発見された日本国内の独自性というものに、さまざまな要因から基本的に日本人は無自覚だったし、今もそうなのではないかと思うと同時に、大陸と結ばれていない島国だからこそガラパゴス化が進み、それによって生まれた日本の独創性は、外の世界から見ても面白いだろうし、僕たちもそこをポジティブに自覚しても良いと思うんですけどね。

ーファッションとアートはしばしば二項対立で語られることもあります。特に、現代社会においては「アート」というものは崇高なものとして捉えられがちです。

 アートもファッションも、その昔は殿様や王様らの上流階級の趣味の延長として親しまれてきたものでもあり、特に日本において衣服、陶器などの職人文化は、いわゆる「アート」ではなく、あくまで生活のためであった側面も強いと思うんです。ファッションを「アート」という領域で語るためには、そもそも日本においての「アート」というものを見定めて共有する必要がある、と個人的には感じています。それこそ「職人」としての技術や洗練さのみを「アート」だと考えるなら、その帰着はどうしても造形美になっていくし、服もその限りなのではないでしょうか。

photographer:Yoshinori Iwabuchi
stylist: Mayumi Sugiyama
hair & make-up: Motoko Suga
text & edit:Asuka Furukata(FASHIONSNAP)
Costume Cooperation:ETHOSENS

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