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オダカ26AWが肯定する「立ち止まる」ための服 「そうはならんやろ」的な驚きと、隠された“H”の意志を添えて

Image by: FASHIONSNAP(Sumire Ozawa)

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 突然の積雪が明け、街が日常を取り戻し始めた月曜日の昼下がり、「オダカ(ODAKHA)」が2026年秋冬コレクションのランウェイショーをアンスティチュ・フランセ 東京(東京日仏学院)で開催した。ブランド設立から10年を超え、そのクリエイションはもはや「ニットの可能性」という定型句では片付けられない深みに達している。それでもデザイナーの小高真理は、約3年ぶりに開催したショーの理由を「ニットの動きを見せられるのは、やっぱりショーだなと思って」とシンプルに答えた。

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 今回のコレクションでテーマに据えた「Still Life」は美術用語で言う「静物画」だが、小高のそれは「静止」ではなく、むしろ連続的な「動」の中の「瞬間」を意味する。どんなドラマがあろうとなかろうと、人生はモーメントの連続でしかない。自らの手を動かしながら、ニッターとの真摯なコミュニケーションによってニットの多彩な表情を編んでいくオダカのコレクションに、日々の一瞬を愛でるような祈りと共に、静かな執念を感じざるを得なかった。

 昨今、編み物がブームとなっていることは周知の通りだ。AIが瞬時に最適解を導き出す時代において、自らの手で一目ずつ編み進めるという「遅い反復」の中に、己の生を再確認するための救いを見出す人も少なくないだろう。

 編み物の完成形とも言えるニットアイテムにこだわるオダカ。ブランド名をマラミュートから「ODAKHA(オダカ)」へと刷新した際、発音されない「H」には、ブランドの核となる三つの意味が隠されていた。作り手から着る人へと想いを繋ぐ「hand to hand」の精神。ブランドのシグネチャーであるフィット&フレアのシルエットを象徴する「Hライン」。そして、フランス語で「服を着た状態」や「正装」を意味する「habillé(アビエ)」。発音されずとも、そこに確かに存在する「H」。それは、内に秘めた感情や、ニットが持つ強さと柔らかさ(Toughness and Softness)、衣服と身体の間に流れる緊張感を大切にする小高の姿勢そのものである。

 これまでのインスピレーション源には、イヴ・クライン(Yves Klein)やパブロ・ピカソ(Pablo Ruiz Picasso)、サイ・トゥオンブリー(Cy Twombly)といった画家・アーティストが度々挙がっており、彼らの作品の色彩やテクスチャーをニットに翻訳してきた。小高が今回たどり着いたのは、「H」の精神をより深化させた「Still Life(静物画)」という領域だった。

 「Still Life」について小高はコレクションノートで「動いていないように見えながら、内側では確かに力がかかり続けている状態。作用と反作用が拮抗し、いまにも何かが起きそうで、それでもまだ起きていない。ごく短い一時停止の瞬間である。人はときに、感情や意味が追いつかないまま、ただ立ち止まっているように見えることがある。けれどその内側では、迷いや緊張、衝動が、静かに、しかし確かに流れ続けている」と語っている。この言葉からは、生産性がものをいい、立ち止まることさえ許されない現代人の「空白の時間」を鮮やかに肯定する小高のアティチュードを感じる。

 絵画においては、マチエールが視覚作用を大きく左右する。内面から絵具や画材を塗り重ね、微細な立体までも作り上げる作業だ。これまで具体的な作家たちからクリエイションの素地を得てきた小高が今回のテーマを「Still Life」と抽象化したのは、その視線をむしろ具体的な支持体に向けたからではないだろうか。

 アイコンにもなっているジャカードアイテムは、これまで繊細かつ複雑なグラフィックを描いてきたが、今シーズンは着想源となったスコットランドやアイルランドでの旅で小高が目にしたタータンチェックをアレンジ。素材にはブランド定番のポリエステルを採用し、編み立てで立体的なプリーツを生むニットジャカードへ落とし込むことで、ウールとは異なるボリュームでタータンチェックに意外性を加えている。

 定番のジャカードアイテムは、イラストレーターのMaya Shibasakiとのコラボレーションで、荒野に咲く繊細なラベンダーから着想を得た。袖や裾のリブは細やかな編み地で整えられ、多様なニット技法を融合しながら上品にまとめ上げている点にも、ニットの強弱を熟知したオダカらしさが伺える。

 また、チェック柄が違和感なくアランニットと接続したトップス、ケーブル、クロシェ、レース編みが地層のように積み重なるセーターなど、多重的な編み組織によって立体的な絵肌へと変貌を遂げた。小高は兼ねてより「ニットは糸やゲージ、編み方を変えていくと、張りや硬さのあるものを作ることができる。テクスチャーの実験が面白いし、のめり込んでしまう」と誰よりもニットに没頭している。緻密なテクニックに裏打ちされたその表現は、水彩画家・柴崎春通氏の「柴崎マジック」を彷彿とさせる。下地の補色から徐々に絵画が立ち上がるあの魔法のように、一本の糸から思いもよらない景色が紡がれる。思わず「そうはならんやろ」と声を上げたくなるほどの、痛快な驚きがそこにある。

 こうして書き連ねてみると、オダカのクリエイションは静かな感動とドレスアップの悦びを与えてくれるが、その全体像は至って「デイリーウェア然」としたラインナップであることにも気が付く。数シーズン続く、「スブ(SUBU)」とのコラボシューズからは、着脱しやすいワンストラップタイプや、暖かく足元に遊びを添えるルーズソックスをドッキングさせたブーツタイプが登場。モデルたちの「遅刻寸前」で家を飛び出したかのようなラフなヘアスタイルや、そばかすを隠さないナチュラルな肌づくりは、SNSの世界に雑多に存在する整えられた(時に加工も施された)虚構から距離を置き、私たちのリアルで愛おしい生活を喚起させられる。

 緻密なテクニックで編み上げられたキャッチーなニットアイテム群はもちろん、ラメ糸を忍ばせたモヘアドレスは、なんでもない日を密やかに煌めかせ、やりきれない孤独を感じる夜には、その柔らかな厚みで着用者を守る。緩やかに編まれたボリュームたっぷりのドレスは、日光が透けることで陰影で糸の所在が明らかになり、歩くたびに軽やかに揺れる。この一瞬を、小高はショーで見せたかったのかもしれない。

 「Still Life」というテーマで流れる時の瞬間に目を向けた小高は、「重く垂れ込めたの下。湿り気を含んだ空気のなかで、ときおり、ほんのわずかな光が差し込む。景色は大きく変わらない。それでも、その一瞬だけ、世界の輪郭がふっと浮かび上がり、すぐにまた、静かに溶け込んでいく」とも、前述のノートに記載。目の前のニットを編み進めなければセーターが生まれないように、連なる毎日の一瞬を非効率でも少しずつ進めていく。

 今回、海外市場を見据えて、東コレシーズンに先駆けてショーを開催。ブランド名を犬種の意味を持つ「マラミュート(malamute)」からオダカに変更した布石を思えば順当な判断で、今後への期待も高まる。静物画(Still Life)のようにそこに在りながら、その内側で激しく命を燃やすオダカのニット。小高の言葉を借りるなら、「触れた瞬間から、変化を引き受けていくもの」で、それは、感情が追いつかないまま立ち止まる私たちの隣で、静かに、力強く、私たちの「生」を肯定し続けてくれるはずだ。

ODAKHA 2025年秋冬

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ODAKHA 2026年秋冬コレクション

2026 AUTUMN WINTERファッションショー

最終更新日:

FASHIONSNAP 編集記者

平原麻菜実

Manami Hirahara

埼玉県出身。横浜国立大学教育人間科学部人間文化課程卒業後、レコオーランドに入社。国内若手ブランド、国内メーカー、百貨店などの担当を経て、2020年にビューティチームの立ち上げに携わる。ポッドキャストやシューティング、海外コスメレビュー、フレグランス、トップ取材など幅広い観点でファッションとビューティの親和性を探る企画を進行。2025年9月より再びファッションチームに所属。映画、お笑い、ドラマ、K-POP......エンタメ中毒で万年寝不足気味。ラジオはANN派。

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