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【オーガニック・ナチュラルコスメ特集】ラキャルプ代表・新井ミホが語る"今"のオーガニックコスメ

 オーガニック・ナチュラルコスメの今を、さまざまな角度からひも解いていく特集「オーガニック・ナチュラルコスメ」。言葉は聞いたことはあるけれど、「どのブランドがオーガニックコスメ?」「何となく難しそう」「ちょっとストイックかも」——そう感じている人も多いかもしれない。

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 今回、30年近くオーガニック・ナチュラルコスメのPRを担ってきたラキャルプの新井ミホ代表にインタビュー。そもそもオーガニックコスメって何?という素朴な疑問から、業界の歴史と未来まで語ってもらった。

新井ミホ
2012年にナチュラル&オーガニックライフ専門のPR会社 ラキャルプ(LA CARPE)を設立。オーガニックコスメ&フード、マクロビオティック、薬膳、フレグランスブランド、クリニック等に精通し、ウェルネスライフのブランディングやPRコンサルティング、地方創生プロデュース業務に携わる。AMPP認定フィトテラピスト。植物療法士。

特別なものから日常の一部へ オーガニックコスメの30年


⎯⎯ 新井さんがオーガニックコスメと出合ったころは、オーガニック・ナチュラルコスメの認識や定義はどういうものだったのでしょうか?

 私がオーガニックコスメ(化学肥料や農薬に頼らずに育てられた植物を主原料とした化粧品)と出会ったのはもう30年ほど前のことですが、当時はとにかく特別感がありました。「オーガニック認証」を取得しているブランドしか選択肢にないなど、限られた人が選ぶもの、意識が高い人だけが使うもの、という印象です。

⎯⎯ 当時、PRを担当するブランドも、地球や肌に優しいものを選ぶ人たちがやっていたイメージでしょうか?

 はい、そう感じます。オーガニックという言葉に縛られず、自然や環境、人への思いやりを大切にする価値観を持つ方々が集まっていました。

⎯⎯ その意識から、現在はどのように変わってきたと感じますか?

 今も変わらず、人にも地球にも心地よいものを届けるブランドが中心ですが、今ではファッションの延長やライフスタイルの一部として捉えられるようになってきた側面もあると感じます。

⎯⎯ その要因はなんだと思いますか?

 大きく分けると、時代の変化、インフラの整備と日本人のマインドの変化、そして日本国内でのものづくりの進化だと思います。かつては日本でオーガニックコスメを手に入れるのが物理的に難しく、海外に行って自分で購入するしかない状況でした。それが今では、「イセタン ビューティー アポセカリー」や「コスメキッチン(Cosme Kitchen)」をはじめとする専門店が全国の主要都市に広がり、ITの進化でネットでも買えるようになった。入口が劇的に増えたわけです。

 2000年代に入り、「アムリターラ(amritara)」や「シゲタ(SHIGETA PARIS)」など日本人が創設した、自然の植物や文化を生かしたブランドが少しずつ増え、日本独自のオーガニック文化が育ってきました。

アマネ バイ アムリターラ「オイルセラム ブルーローズ」

⎯⎯ マインドの変化という点では、どんなことが転換点になったのでしょうか。

 ロハス(LOHAS)という言葉が1998年頃から欧米で広がり、2000年頃から日本にも広まりはじめたことが一つの転換点だったと思います。"Lifestyles of Health and Sustainability"の頭文字をとった言葉で、健康や環境問題に関心を持つライフスタイルを指します。1980年代、「24時間戦えますか」というCMが流れていたこともあったくらい、働き続けることが美徳という時代がありましたが、そこから徐々に、休息することが必要であると気づきはじめ、ワークライフバランスを意識する時代へと変化していきました。日本が経済成長を遂げた先に、人間らしく生きようという気づきが社会に認められはじめてきたことの現れでしょう。

 そんな気づきがコロナ禍でより確信的なものになりました。自由に外出できなかった状況の中で、多くの人が自分自身の暮らしを見直し、自分軸での選択を作り始めた。より広い意味で自分にとって心地よいものや環境に配慮されたものを選ぶようになったんです。この意識がオーガニックコスメの在り方と近く、手に取る消費者が増えていったんだと思います。自分軸での選択という点においては、人々の中で「オーガニック認証があるもの」という厳格な縛りが外れ、ある意味でオーガニックとそうでないものの境界線がなくなっていったんです。

⎯⎯ そういったことは、PRを請け負うブランド側にも変化を感じましたか?

 はい、ブランドの考え方が変わってきたと感じます。「環境に優しい」「オーガニック認証があ る」ということだけではなく、原料や産地、ものづくりの姿勢、生産者との関係、地域活性化 など、世界観そのものを伝える時代になりました。

認証マークはひとつの"目印" 

⎯⎯ オーガニック・ナチュラルコスメに対する厳格な縛りが外れると、消費者にとって認証マークや成分表示は意味を持つのでしょうか?

 消費者にとって認証は、分からないときの目印くらいなのかなと思います。食品を買うときに、農林水産省が定める有機JASのマークがあると安心できるように、コスメにエコサート(ECOCERT)やコスモス(COSMOS)など、国際的なオーガニック認証マークが付いていると、「第三者機関が定めた厳しい基準をクリアした製品なんだな」という信頼の目印になる。情報が氾濫するこれからの時代に、そういった目印が改めて意味を持っていくのかな、とも感じています。

⎯⎯ 日本独自の認証を設定する流れもあったようですが、どう見ていますか。

 日本発のオーガニックコスメ認証を作ろうという動きはありましたが、なかなか普及しなかったのが実情です。世界の認証が日本で受け入れられている一方、日本の認証が世界に必要とされているかというと、そうではない。であれば、日本ブランドの価値はそこではないのかもしれないと思います。

 日本には、日本ならではの自然環境や農業の特徴があります。だからこそ、海外の基準をそのまま当てはめるだけでは測れない価値もある。生産者の皆さんの工夫、安全で質の高い原材料づくりなど。私はそうした誠実なものづくりにも目を向けてほしいと思っています。

オーガニックは"思想" もっと自由に捉えていい

⎯⎯ オーガニックという言葉そのものが、広がりの壁になることもありますか。

 日本人は真面目なので、オーガニックと言うと、有機認証を取っていなければいけないとか、生活全体をオーガニックにしなければいけないとか、そういうふうに考えてしまいやすいんです。本来は心地よさを求めるための選択なのに、いつの間にかルールに縛られて、強迫観念みたいなものが生まれてしまう。

 本来、オーガニックとは単なる農法や製品規格ではなく、「自然の循環を尊重し、心身ともに健康で持続可能な生き方を目指す」という"思想"なんです。私たち人間そのものが自然の一部、つまりオーガニックな存在であるし、もっと自由に捉えて良い概念だと思っています。ウェルネス・ウェルビーイングという考え方が広まり、オーガニックも特別な人のものではなく、自分らしく心地よく暮らすための選択肢の1つとして受け入れられるようになってきたと感じます。

⎯⎯ そう考えると、オーガニックと打ち出さないほうが伝わる場合もあるのでしょうか?

 国内のブランドの1つに、「オーガニック」ではなく、「心地よく暮らすための選択肢の1つとして」という訴求をしている、良い事例があります。日本では「無添加」「国産」「安心・安全」という言葉のほうが響くんですよね。 文化が根本から違うので、言葉を翻訳するように言い換える必要があるのではないでしょうか。

 また、まずは「なんだか心地いい」「デザインが好き」といった直感で手に取ってもらう、という入口のほうが日本では広がっていく気がします。蓋を開けてみたらオーガニックだった、という体験の積み重ねが、じわりとファンを増やしていくのではないでしょうか。

自由度を高めていく「ラキャルプフェス」の在り方

⎯⎯ 新井さんが主催するラキャルプフェス(オーガニックやナチュラルなライフスタイルをテーマにした体験型イベント)では、オーガニックについての考え方をどのように体現していますか?

 「なんだか心地いい」「このブランドが好き」「使っていて気分があがる」、そんな自然な入り口を作りたいと思っています。そこに並ぶブランドや商品の背景を知ったとき、「実はオーガニックという考え方が根底にあったのか!」と後から気づく。その積み重ねが、本来のファンを作っていく気がします。

 10年前にこのイベントを始めたころは、オーガニック・ナチュラルコスメをとにかく皆さんに知ってもらい、生活に役立てていただきたいという気持ちでした。だからこそ、 正しくお伝えることに一生懸命だったのだと思います。手取り足取り伝えなければという思いがあったんです。でもそれだと楽しくないし、続けられない。オーガニックコスメは決して"一生懸命なもの"ではないのです。

 ここ数年は、「まずは触れてもらう」の魅力を体験していただき、その人らしく感じていただくこと、それぞれの自由でラフな姿勢で臨んでいます。消費者も変わってきていて、今はもっとカジュアルに手に取る方が増えました。当初はtoBのイベントだったものを、5年前から一般の方に参加していただけるようにしたのも、「身近に心地よく感じてもらえたら」「オーガニックやナチュラルを楽しんでもらえたら」という考えからです。その人らしく感じていただくことの意義も成熟してきた気がしています。


⎯⎯ 今年のラキャルプフェスでは、新しい風のようなものを感じましたか?

 サティス製薬とESSという企業と共同で行った「第1回化粧品オーナーコンテスト」の成果を発表できたことも大きなできごとでした。このコンテストでは、"市場にまだ存在しない、本当に必要とされる化粧品をつくる"をテーマに、悩みや体験、想いを募集したんです。初代グランプリには、幼少期からクマに対する悩みを抱えられていた桑畑明穂さんを選出させていただき、彼女とともに作り上げたスキンケアブランド「ベアテミス(beArtMis)」をラキャルプフェスでお披露目できたことは、とても象徴的な取り組みになりました。

⎯⎯ イベントの開催は、サステナブルな仕様を採用されています。

 リアルイベントは多くの魅力がある一方で、人やモノが移動することでCO2などの環境負荷が生じてしまいます。そこで、Jクレジットを活用したカーボンオフセットの仕組みを取り入れることにしました。これは、森林保護や省エネ設備の導入など、他の場所で行われたCO2削減・吸収活動の量をクレジットとして国が認証し、それを購入できる制度です。私たちが排出したCO2の分だけクレジットを購入することで、日本のどこかで行われている環境貢献活動を支援し、結果的に排出量を埋め合わせることができます。環境への配慮も、我慢や制約ではなく、楽しみながらできる方法がある、ということをラキャルプフェスを通じて伝えていきたいと思っています。

※カーボン・オフセットとは、日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、できるだけ排出量が減るよう削減努力し、どうしても排出される温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資することなどにより、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方

市場は微増ながらも確実に日常化

⎯⎯ オーガニックコスメの市場は、今後どのように動いていくと見ていますか。

 衰退はしないと思います。ただ、劇的に拡大するというよりは、微増で推移していくと思います。大事なのは、「オーガニックでなければいけない」という考え方から離れて、暮らしの選択肢のひとつとして自然に日常になっていくこと。食品業界では、かつて専門店でしか手に入らなかった有機野菜が通常のスーパーでも販売され、価格も以前ほど高くなくなってきました。コスメがそこまで日常化するにはまだ時間がかかるかもしれませんが、確実にその方向に近づいてきています。

 若い世代は、「オーガニックだから」という線引きにあまりとらわれていません。「心地いいか、自分らしいか」という感覚で選んでいるのではないでしょうか。その世代のバランス感覚が、市場をより柔軟なものにしていくと期待しています。

⎯⎯ 一方で、課題として残っているものは何でしょう。

 コストの問題と、売り場の問題です。手間暇かけて作るオーガニックコスメはどうしても価格が高くなりやすく、コスパを重視する方には選ばれにくい。また即効性という面も同様です。肌本来の力を引き出しながら、ゆっくりと寄りそい育てていく存在。だからこそ、 その価値をどう伝えていくかはこれからも大切なテーマだと思っています。肌本来の力を引き出すような、じっくり向き合うタイプの製品が多いため、すぐに結果を求めるニーズとは合わない場合もあります。

 売り場については、オーガニックコスメを扱える小売店がまだ限られています。オンライン・ネットでの販売は当たり前になってきていますが、リアルな売り場で実際に手に取り体験しながら買える機会が増えると良いですね。だからこそ、その価値をどう伝えていくかは、これからも大切なテーマだと思います。

競わず比べない、共存の時代へ

⎯⎯ 最後に、オーガニック・ナチュラルコスメがこれからの社会の中でどんな存在であるべきでしょうか? PRの立場として何をすることで、市場に貢献できると思いますか?

 今年のラキャルプフェスでは、初めてアワードを開催しました。「優劣をつけない」「競わない」という特徴でスタートしたんです。それが、これから私たちが生きる上で大切なことだと思いますし、オーガニック・ナチュラルコスメもそういう存在がいてほしいと願っています。大手化粧品に"勝つ"必要はないですし、すべての人に使ってもらう存在にならなくてもいい。気が付いたときに、必要な人の必要な場面にあるような存在であってほしいです。

 私は、オーガニックを無理に広げたいとは思っていません。オーガニックもナチュラルも、ケミカルも、それぞれに役割があります。大切なのは、どちらが優れているかではなく、それぞれの価値を認め合いながら、自分に合うものを自由に選べること。そんな時代になっていくことを願い、このアワードを続けていきたいと考えています。

 もちろん、作り手側はこれからも誠実なものづくりを続けなければなりませんね。疲れた日に植物の香りにほっとする、肌に触れて気持ちが軽くなる、そういった心地よさを感じる小さな体験の積み重ねが、結果として人や社会、そして地球を豊かにしていくのだと思っています。私はラキャルプを通じて、そのきっかけをつくる橋渡し役でありたいです。

photography: Hikaru Nagumo, interview: Akiko Fukuzaki, Hikaru Kimura(FASHIONSNAP)

木村耀

Hikaru Kimura

FASHIONSNAP 編集記者

学生時代に外資系ファッションメディアでアシスタントを務めたのち、大学卒業後、ファッション誌で編集として従事。2025年12月からレコオーランド「FASHIONSNAP」でビューティエディターとして幅広い分野を取材・執筆。プライベートでは坂本裕二や今泉力哉などの脚本家が描く日本語表現が好きで、彼らの作品を何度も見返すオタク気質。趣味は作詞作曲。公私問わず言葉を綴っている。

最終更新日:

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