

日本のオーガニック・ナチュラルコスメ特集。最後は、同市場を牽引してきた小木充氏に、業界の光と影をインタビュー。現在のオーガニック・ナチュラルシーンを作り上げてきた、伊勢丹新宿店のBPQC(現、ビューティーアポセカリー)や、オーガニック&ナチュラルコスメセレクトショップ「コスメキッチン(Cosme Kitchen)」を先導。小木氏のこれまでのオーガニック・ナチュラル市場への関わりから、日本の成分表示ルール、オーガニック哲学、市場の構造的な課題まで。消費者が真に納得してコスメを選ぶための基準と、ブランドと小売業が果たす役割について聞いた。
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◾️小木充(おぎ・みつる)
1997年に伊勢丹入社。オーガニック・ナチュラルコスメを中心に取り扱うライフスタイルショップ「BPQC」の立ち上げに参画。2007年の退社後、2008年よりコスメキッチンの黒字化に向けディレクター契約を結び、吉祥寺店出店などで成功を収める。2010年にマッシュビューティーラボ副社長に就任し、同ブランドを全国規模へと成長させる。2021年退社。2023年にD2Cスキンケアブランド「ニュースケープ(newscape)」をローンチ。日本のオーガニックコスメ市場を牽引し続ける。
目次
2000年代、「オーガニック」という言葉もなかった
⎯⎯ 小木さんがオーガニック・ナチュラルコスメの世界に関わるようになった経緯を教えてください。
1997年に新卒で伊勢丹に入社し、2年目に急遽、新規プロジェクトの立ち上げメンバーに抜擢されました。それが後に「イセタン ビューティー アポセカリー」となるBPQCの始まりです。当時、私自身がアトピーに悩んでいたこともあり、マーケティングのために渡ったニューヨークで、「ホール フーズ マーケット」を訪問しオーガニックが日常にある生活に衝撃を受けました。当時まだオーガニックコスメの概念が未開拓だった日本で、2000年3月、伊勢丹新宿に「BPQC」が誕生。「ジュリーク(Jurlique)」や「ラッシュ(LUSH)」、「ロクシタン(L’OCCITANE)」といった、海外のオーガニック・ナチュラルブランドをいち早く導入しました。



ラッシュ「バレンタインコレクション」

⎯⎯「オーガニック」という言葉が日本で認知されていくのは、この頃からでしょうか?
2004年にコスメキッチン1号店が代官山にでき、2006年頃にサンフランシスコ出身の女性ディレクターが就任したことが大きなターニングポイントになったと思います。彼女はオーガニックが当たり前の土地で育った人で、「必ずこの波が来る」という確信を持っていた。その頃からようやくオーガニックという言葉が日常会話に登場し始め、「なんとなく体にいい」「化学的なものが入らないもの」という程度の認知から広がっていったんです。
コスメキッチン、全国展開への道のり
⎯⎯ コスメキッチンのMDディレクターとして、どのような仕事をされていたのでしょうか。
2008年にコスメキッチンのディレクターに就任し、吉祥寺店などの立ち上げから参画しました。情報感度の高い吉祥寺では、ロクシタンのほか、「ジョンマスターオーガニック(john masters organics)」くらいしか知られていない、オーガニックコスメがまだ未開拓な時代にもかかわらずオープン初日に約100万円を売り上げ、確かな手応えを得ました。
その後マッシュグループ傘下で全国約70店舗へ拡大。一貫して「ここにあるものは間違いない」と信頼されるよう、独自の厳しい選定基準を守り続けました。

ジョンマスターオーガニック「A&Lドライシャンプー」
認証マークは機関により違いがある
⎯⎯ 2010年ごろのインタビューでは、認証を取得していることを重視していたと思いますが、現在では認証の“意義”も変化しているのでしょうか?
オーガニックという言葉が浸透していない中では、認証というのは意味を持ったと思いますが、現在では認知が広がっています。加えて、メーカー側の技術力も大きく進化しており、認証を取らなくても、オーガニック・ナチュラルコスメとして同等のものを出しているところも増えています。
また認証については、機関により基準に違いもあります。例えば、化学合成物が数%の配合を認めているところもあれば、完全に認めていないところもあります。各認証マークの基準を理解することで、本当の意味で自分が求めるものを手に入れることができます。
⎯⎯ 日本独自の認証機関もありますが…。
正直、広がっていないのが現状です。日本においては、さらに問題があります。日本では、ひとしずくでもオーガニック成分のエキスが入っていれば「オーガニック」と名乗っても法律上問題はありません。決してその商品が悪いと言っているのではなく、商品自体はとても良いものだと思います。ただ、欧米ではパッケージに「オーガニックコスメ」と書くためには認証が必要で、そのルールがない日本との差は大きいということです。

⎯⎯ 成分表示についても、消費者が知っておくべきことがあれば教えてください。
化粧品のパッケージなどに記載されている全成分表示は、配合量の多い順に書かれている、というのは広く知られています。ただ、1パーセント未満の成分については順番を自由に決めていいというルールがあることはほとんど知られていません。
つまり、主要成分は配合量による順番で書かれていても、例えばですが残りの成分は、植物エキスの記載を前にすることでオーガニックっぽく見せることができてしまう。だからこそコスメキッチンを運営していた時も、そして今も、私自身がお勧めするものは、「基準のフィルターを通っているから安心」という責任感は、強く持っています。
⎯⎯ コスメキッチンの普及によって、オーガニック・ナチュラルコスメがより身近な存在になったのですね。
「わざわざ探して、ようやく見つかる」という状況だったオーガニックコスメが、コスメキッチンや「ビープル(Biople)」が主要な商業施設に入ったことで手の届く選択肢になった。その状態を作れたことは、ひとつの達成感につながっています。
オリジナルブランド「ニュースケープ」の立ち上げ
⎯⎯ 現在は、独自ブランド「ニュースケープ」をスタートさせています。
立ち上げは娘のニーズからです。オーガニックコスメの香りが苦手だと言って1つも使えなかったんです。それなら香りのない選択肢を作ればいい、と。それでニュースケープは全成分を自然由来で構成しながら、基剤の香りもしない無香料で制作。流通段階での脱炭素を100%実現するなど、今の自分ができることを詰め込んでいます。また原価も公開し透明性も重視しました。

(左から)ニュースケープ「BEAUTY OIL」「SERUM」「RICH BOOSTER」
「クリーンビューティ」台頭の背景と、市場の現在地
⎯⎯ 最近は「クリーンビューティ」という言葉を目にすることが増えました。これはオーガニック・ナチュラルとどう違うのでしょうか。
欧米でコスメキッチンのようなセレクトショップが打ち出すのは、今や「オーガニック・ナチュラル」ではなく「クリーンビューティ」です。理由は明確で、欧米では認証を取得していないものにはパッケージに「オーガニック」と書けないため、認証を持たない商品を多く扱うセレクトショップが「クリーンビューティ」という言葉で発信しているということです。
しかしながら、「クリーンビューティとは何か?」と欧米の業界人に聞いても、はっきりと答えられる人はほぼいないのではないでしょうか。SDGsの文脈で、地球に優しければいいというニュアンスで使われているように感じます。ただ「地球にいいこと」は意味が広い。定義として曖昧であることは否めません。

⎯⎯ オーガニック・ナチュラル市場規模は毎年微増ながらも右肩上がりで推移していますが…。
毎年数パーセントほど伸びていると言われているオーガニック・ナチュラルコスメの市場規模ですが、その中身は懐疑的です。1滴でもオーガニックと謳える日本では、そういった商品もカテゴリーに含まれている可能性があります。だとすれば、感覚的ではありますが、現状のオーガニックコスメ市場は横ばいか、ひょっとすると下がっているかもしれませんね。
この市場が「発展しにくい」構造的な理由
⎯⎯ オーガニック・ナチュラルコスメが市場として伸びにくい背景には、どのような要因があるのでしょうか。
いくつかの要因が重なっています。ひとつは、成分のインキ(INCI)という登録制度の問題です。この制度によって新しい成分をオーガニック認証の基準に当てはめるまでに非常に時間がかかるため、最新成分を素早く取り込める韓国コスメのスピード感にはついていけない。日本におけるKビューティの売上高は現在前年比で約20〜30%伸びていると言われており、2026〜2027年にはオーガニック・ナチュラルコスメの市場規模を抜いてくるでしょう。韓国は国をあげてKビューティを後押ししていることもあり、助成金でポップアップなど販促活動を展開し存在感を示しているブランドもあります。国策として動いている相手と、日本の商業主義から距離を置くオーガニックの作り手たちが正面から競争するのは、難しい構図ですよね。
⎯⎯日本のオーガニック・ナチュラルのメーカーは商業主義から距離を置いている?
人の身体、そして地球に優しいもの、環境に配慮するものなどSDG’sの観点でモノづくりは、どんどん売って売上を伸ばしたいという商業的な考えとは相反するものになるため、規模を大きくするというのは難しい部分がある。
さらにいうと、オーガニック・ナチュラルコスメの先駆者である、哲学者 ルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner)が1920年に創業した「ヴェレダ(WELEDA)」があります。哲学者が作り上げたカテゴリーはどうしても難解で、利益や売上という資本主義の論理となじみにくい側面がある。押し売りや過剰な囲い込みに抵抗感を持つ人が、作り手にも買い手にも多いんです。
これからのオーガニック・ナチュラルコスメ
⎯⎯ この市場が今後どうあるべきだと思いますか?
認証マークを持つブランドや小売りが今やファンドの傘下に入ってきていてます。広告投資が増えることは悪いことではないのですが、広告が増えることと売上が伸びることは必ずしも連動しないかもしれません。本来の役割と資本の論理をどう折り合わせるかは、これからの大きな課題です。
また百貨店やアットコスメ(@cosme)のような大型コスメセレクト業態も、ブランドとより深く組んで一緒に“売る”仕組みを作っていかないと、集客力だけでは限界が来る。オーガニック・ナチュラルコスメの世界でも、小売りとブランドが本気で協業していく形が求められていると思います。商売ベースだけでは続かないけれど、"思い"だけでも難しい。その両方を持てる人やブランドが現れ続けてほしいですね。
photography: Katsutoshi Morimoto, interview: Akiko Fukuzaki, Hikaru Kimura(FASHIONSNAP)
最終更新日:
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