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2023年6月14日に晴れて開業50周年を迎えた渋谷PARCO。現在、この記念すべきアニバーサリーイヤーを祝う様々な施策が展開されている中、井上嗣也が手掛けた50周年記念ヴィジュアルと並ぶメインコンテンツの一つが、半期に一度の大セール「PARCO GRAND BAZAR」のヴィジュアルだ。
7月1日からスタートする2023年夏の「PARCO GRAND BAZAR」では、往年のパルコのヴィジュアルを彩ってきたことで知られるイラストレータの山口はるみと、グラフィックアーティストやアートディレクターとして多岐にわたって活躍するYOSHIROTTENを招聘。ヨシロットン(YOSHIROTTEN)が全体の舵を切る形で、山口はるみがエアブラシで描いた1979年と1981年のヴィジュアルを2023年仕様にアップデートしている。
一体、この夢のタッグはなぜ実現し、YOSHIROTTENはどのようにプロジェクトをコントロールしたのか。今回、YOSHIROTTEN率いるクリエイティブスタジオYARのアトリエを訪れ、独占インタビューを敢行。彼を中心に、パルコとの思い出から山口はるみとの出会い、肝心の誕生経緯までを語ってもらった。
アートディレクターYOSHIROTTEN、山口はるみとの出会い
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ーまずは、YOSHIROTTENさんとパルコさんの出会いについてお伺いできればと思うのですが、地元・鹿児島にPARCOはなかったそうですね。
そうですね。鹿児島にはなかったんですが高校生の頃から存在は知っていて、パルコさんといえば渋谷PARCOのイメージが強かったです。初めて訪れたのは上京したての18歳の時で、その時はまだ「渋谷PARCO Part3」(注:1981年9月に開館。2016年8月に建て替えのため閉館)もありました。Part1地下の「パルコブックセンター(PARCO BOOK CENTER)」と「パム/パークスアンドミニ(P.A.M./Perks and Mini)」がお気に入りで、レコード屋「岩盤(GAN-BAN)」ではレコードを買って、「パルコミュージアム(PARCO MUSEUM)」のイベントにもよく足を運んでいました。
20代前半の頃、友人たちとパーティーをよく開いていて、そのフライヤーを渋谷や原宿を歩き回って配っていたんですが、ある日、渋谷PARCOの前にかっこいい外国人の方が立っていたので、「今週パーティーがあるからおいでよ」と話しかけたんです。すると、「俺のパーティーも今日あるからおいでよ」と返されて、行ってみたらデザイナーのベルンハルト・ウィルヘルム(Bernhard Willhelm)で、それもすごく覚えていますね。
ー20代の頃は、昼夜問わず渋谷で遊ばれていたんでしょうか?
渋谷だけではなかったんですが、渋谷PARCO前のスペイン坂を下ったとこにあった「ラ ファブリック(LA FABRIQUE)」というクラブでは、エレクトロクラッシュ系のDJが頻繁にパーティーをしていたので2週間に1回は行っていましたね。それに、「オルガンバー(Organ Bar)」や「渋谷チェルシーホテル」というライブハウスでも遊んでいたので、いま思い返すと渋谷PARCO周辺で遊んでいたみたいです。
ーでは、これまでの記憶に強く残っているパルコさんのヴィジュアルはありますか?
山口はるみさんや石岡瑛子さんをはじめ、1970~80年代に女性の方々がメインで制作されていたヴィジュアルの印象は強いですね。グラフィックデザイナーになる前の学生時代からなのですが、当時をリアルタイムで体感できず後から追いかけたことでより憧れていて、時代が変わっても色褪せない魅力があると思っています。その中でも、特にはるみさんはキーパーソン的位置付けでしたね。
YOSHIROTTENがアートディレクションを担当した個展「Harumi's Summer」(2018年)のフライヤーとパンフレット
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ー今回、そんなはるみさんと2023年夏の「PARCO GRAND BAZAR」のヴィジュアルでコラボされていますが、以前にも協業経験があるそうですね。
2018年にはるみさんが個展を開催された際、アートディレクターとしてお声がけいただき新たな角度での「Harumi Gals」を提案し、2020年にも渋谷PARCOのギャラリー「2G」でイラストをリミックスするような形でコラボ展を開かせていただきました。この時、ほぼ全ての作品を拝見させていただいたので、はるみさんと作品への理解が高まったと思っています。
山口はるみがエアブラシでアートワークを描いたICEKREAMのEP「Icekream Soundz Vol.1」。CDとレコードでデザインが異なる仕様とのこと
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ーということは、今回の「PARCO GRAND BAZAR」が3度目のコラボということになるのでしょうか?
実は違うんですよ。2014年に、僕が故DJ Deckstreamさんの手掛けていたプロジェクトICEKREAMのEPをデザインすることになった際、はるみさんがアートワークのイラストを描いてくださったんです。当然その頃はお会いしたことはないし、調べても全く情報が出てこなかったので半ば架空の存在のように思っていたのですが、見つけ出した連絡先に問い合わせたところ直接会ってくださいました。当時、はるみさんはすでにエアブラシでイラストを描かれていなかったのですが、初めましての勢いもあって図々しくも「アートワークをエアブラシで描いてほしい」とお願いしてしまい……(笑)。ただ、熱量が伝わったのか何十年ぶりに描いていただき、それがはるみさんとの初仕事になりました。その後、ありがたいことにはるみさんは僕の仕事を見てくださっていたそうで、2018年と2020年のコラボはICEKREAMでの協業があったからこそ実現したんです。
「Harumi Gals」が40年ぶりにパルコに、懐かしくも新鮮に魅せるアートディレクション
ー素敵なエピソードをありがとうございます。それでは、3年ぶりのコラボが実現した経緯を教えてください。
今年(2023年)の2月に、現在はるみさんが所属されているナンヅカ(NANZUKA)さん経由でお話をいただいたことがきっかけです。
ー率直にどのような感情を抱きましたか?
2つの喜びがありましたね。1つは、はるみさんが「PARCO GRAND BAZAR」に戻ってくるということ。もう1つは、「PARCO GRAND BAZAR」という歴史ある広告を初めて僕らYARが手掛けられるということ。この2つが、同時に押し寄せてきた感じです。
2023年夏の「PARCO GRAND BAZAR」のヴィジュアルベースになった1979年の広告©Harumi Yamaguchi
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ー今回のヴィジュアルは、どのようなコンセプトで制作しましたか? また、2人の「Harumi Gals」にフォーカスしていますが、多くの「Harumi Gals」の中から選んだ理由があれば教えてください。
“「Harumi Gals」が40年の時を超えて「PARCO GRAND BAZAR」に帰ってきた”をコンセプトに、1970〜80年代にパルコさんのヴィジュアルで使用されていたはるみさんの作品を再構築しています。はるみさんが自分にオーダーしてくださる時は、いつも「鮮やかで新しくアップデートしてほしい」ということなので、今回もそれを軸にフレッシュに見せることを意識しました。そして、はるみさんはエアブラシで描いたものに縛っても、パルコさんのために30以上のヴィジュアルを手掛けられていますが、今回は夏の印象が強い「Harumi Gals」を中心に5~6点ほどピックアップし、その中からCGとの合成や平面の状態でもアニメーションとして動いた時に成り立つかどうかも含めて、1979年と1981年の広告をベースに選んでいます。
2023年夏の「PARCO GRAND BAZAR」のヴィジュアル©Harumi Yamaguchi
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ー再構築はどのようなイメージで進めたのでしょうか?
ソーダの中にさくらんぼが沈んでいる1979年の広告を着想源に、1人を気泡がぶくぶくと湧いている水中の底で寝そべらせ、もう1人を水面で泳がせるイメージが最初から浮かんでいました。そして、2人の「Harumi Gals」はもともと別々の広告なので、共通した世界観に仕上げるために気泡とさくらんぼ、メタリックなストローという3つのモチーフをどちらにも取り入れています。また、2つの広告の世界観を繋ぎ合わせる役割としてアニメーションも制作しましたが、どれも基本的に原画自体はいじっていません。全体のレイアウトや気泡の表現、ロゴデザインやCG製作は、YARのデザイナー春原菜津美と大西碧が担当し、アニメーションは同じくYARの渡邉祐貴が担当しています。
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サラマンダは、ヴィジュアルからピンクレモネードをイメージして音楽を制作したという
春原菜津美:エアブラシで描かれたはるみさんの作品とCGのバランスが取れるように、違和感のない質感を作り上げることを意識しました。エアブラシの作品とCGとのミックス自体も初めてで、アナログとデジタルの表現を交えた貴重な機会でした。気泡には「Harumi Gals」を反射させているのですが、このディテールはCGの反射具合を調整できるという特徴を活かしたもので、何よりはるみさんが喜んでくださったのが嬉しかったです。
大西碧:気泡の反射は、リアルを忠実に再現すると作品が変に伸びてしまったり映らない部分が出てきてしまうので、“はるみさんの作品が気泡にどう映れば綺麗に見えるか”を調整して反射させています。ロゴデザインは、今回の広告が水中と水面のシーンなので水に揺られているように波打たせ、現代的なヴィジュアルに対して少しクラシックなフォントを使用することで伝統と改革を表現し、さくらんぼと同様のカラーで世界観の統一を狙っています。
ーアニメーションの音楽には、韓国発の気鋭エレクトロニカ・ユニットのサラマンダ(Salamanda)が起用されていますね。
アニメーションの制作中、音楽に広告の世界観を広げてくれる可能性を感じ、普段から聴いているサラマンダが直感的に合うと感じたんです。彼女たちは、アンビエントから実験的な音楽まで幅広く制作していて、フレッシュな存在感も含めて「PARCO GRAND BAZAR」のテンションにぴったりだと思いオファーしました。
ー水の中にいるような浮遊感を覚えるサウンドですが、オファーの際は明確なイメージを伝えたのか、それとも映像から汲み取ってもらったのでしょうか?
過去の「PARCO GRAND BAZAR」のアーカイヴCMを大量に渡して、「ナレーションをサンプリングしてほしい」とだけ伝えて制作してもらいました。細かく聴くと、気泡が弾けるような音だったり、水が跳ねるような音も入っていて、1発目のデモの時点からイメージ通りの音楽を仕上げてくれましたね。冒頭に「パルコ グランバザール」という声もあるのですが、昔のCMをサンプリングしたのか、彼女たちが録音した自身の声を使用しているのか、最終的にどうなったのかは僕も分かっていないんです(笑)。
ー制作を振り返って、はるみさんの作品に手を加えるという行為にプレッシャーは感じましたか?
変なプレッシャーは全く感じず、割とスムーズにできましたね。はるみさんの作品を新しい角度で表現するアイデアは、不思議とすぐに出るし楽しくて手が進みます。
ー今回のヴィジュアルを、人々にどのように受け取ってほしいですか?
ベースとなった「Harumi Gals」をリアルタイム(1970~80年代)で見ていた人たちが、「あの頃に戻ったのかな?」と思ってくださったら嬉しいですが、サラマンダを起用したりと現代風にアップデートしているので、フレッシュにも感じ取って欲しいですね。あとは、リアルタイムを知らない世代の反応が気になっていて、今回のヴィジュアルを機に「PARCO GRAND BAZAR」の歴史やストーリーを調べてくれたら幸いです。
ー最後に、将来的にパルコさんのヴィジュアルを制作するかもしれない未来のクリエイターやアーティストたちにメッセージがあれば。
パルコさんのヴィジュアルを追っていた学生時代から十数年後、こうして制作に携われたことは未だに信じられないですが、作品を制作し続ければ未来はやってくるはずです。いっぱい作ってください。
■PARCO グランバザール
期間:2023年7月1日(土)~7月9日(日)
※名古屋PARCOは6月30日(金)~7月9日(日)
内容:ファッション、シューズ&バッグ、ジュエリー&アクセサリー、インテリア&雑貨など夏物アイテムが全品50~30%OFFとなる半期に一度のバーゲン。オンラインパルコでも同時開催。
※割引率はショップにより異なる ※一部除外店舗、商品あり
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