
フィレオ・ランドウスキ(Philéo Landowski)
Image by: KEEN

フィレオ・ランドウスキ(Philéo Landowski)
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フランス出身シューズデザイナーのフィレオ・ランドウスキ(Philéo Landowski)は、2019年、17歳で自身のブランド「フィレオ(PHILEO)」を立ち上げ、「サロモン スポーツスタイル(SALOMON Sportstyle)」のクリエイティブコンサルタントや、「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」「キディル(KIDILL)」とのコラボレーションなど精力的な活動を行ってきた。そんな彼が次のコラボレーターに選んだのは、ポートランド発のフットウェアブランド「キーン(KEEN)」だ。
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コラボでの最初のモデルは、キーンを象徴する「タージャー(Targhee)」ハイキングブーツと「ジャスパー(Jasper)」シューズを融合した「タージャー フィレオ(Targher PHILEO)」。U字型のスロートやシューレース構造にはジャスパーの要素を、その他の構造はタージャーをベースに構成した。特筆すべきは、ヒールカウンターの露出やタン部分に見えるレザーの裏面といった“インサイドアウト”のアプローチ。フィレオは、こうした構造の可視化は単なる演出ではなく、「フットウェアが持つ機能的な側面を称えるためのもの」だと語る。独自のデザイン哲学を持つ彼に、 キーンとのコラボや自身のクリエイションについて話を聞いた。

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目次
大事なのは「どこで履くか」ではなく、その靴が「どう機能するか」
⎯⎯今回、キーンとのコラボに至った経緯は?
私からコンタクトを取りました。キーンは、ファッションの影響がほとんど及んでいない領域で活動していますが、非常に実用的で、構造にしっかりと根ざしています。そのような立ち位置は、今の時代ではかなり稀。私たちは「靴づくり」という同じ言語を共有していますが、そこにはそれぞれ異なる“アクセント”があります。時には翻訳が必要な場面もありましたが、その緊張感が結果的に創造的なものへとつながりました。今回のプロジェクトは入口のようなものであり、共にどこまで可能性を広げられるのかを探るためのものでした。そのため、コラボは自然と長期的なものになると思います。
⎯⎯キーンというブランドに抱いていたイメージは?
当初キーンに感じていたのは、機能性に特化した、やや異質な存在という印象です。一般的なスニーカーの文脈から少し外れた、とても独自性の強いブランドだと感じていました。
⎯⎯協業を通して、当初のイメージから変化した点があれば教えてください。
変わったのはイメージそのものというよりも、認識の解像度です。キーンを単なるカテゴリーとしてではなく、一つのシステムとして捉えるようになり、ブランドをより深く知るにつれて、彼らが築いてきたものの密度の高さに気づきました。多様なタイポロジーや構造、デザインアプローチが存在していて、それらは一見して分かるものではありません。

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⎯⎯キーンの持つアウトドア要素をどのように解釈しましたか?
私はキーンのDNAを、風景や自然といった「アウトドア」ではなく、「実用」や「機能」「構造」「保護」に近いものとして捉えました。イメージとしてのアウトドアというよりも、むしろ“工事現場(シャンティエ)”に近い感覚があると思っています。
⎯⎯そうした感覚を今回のコラボシューズに落とし込んだ。
機能を露出させ、構造を可視化しつつも、全体はコントロールされ、精度の高い状態に保つことを意識しました。「どこで履くか」というよりも、その靴が「どう機能するか」に重きを置いています。
⎯⎯フィレオさんは、キーンと同じくアウトドア要素を持つサロモンのクリエイティブコンサルタントも務めています。そこでの経験が、今回のコラボに生きた点はありましたか?
デザインの面で直接的な影響があったわけではありませんが、パフォーマンス重視の環境に対するある種の理解はありました。興味深いのは、それぞれのブランドが持つ「機能」に対する文化が大きく異なる点です。サロモンはパフォーマンスの最適化を徹底的に追求するブランドである一方、キーンはより地に足のついた、どこか工業的とも言えるアプローチを持っています。サロモンでの経験がこのプロジェクトに影響を与えたというよりは、キーンというブランドをより的確に位置づけるための理解につながった、という感覚に近いです。

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⎯⎯コラボを通してキーンの可能性をどのように拡張したと考えていますか?
ブランドのいくつかの側面を、より可視化できたのではないかと思います。キーンのプロダクトはもともと高い複雑性を持っていますが、その多くは機能性やデザインの中に埋もれています。今回のコラボでは、構造や内部のロジックといった要素をあえて露出させることで、プロダクトの見え方に変化をもたらしました。キーンそのものを変えるというよりも、すでに存在しているものに対して、別の読み取り方を提示すること。それが今回の取り組みだったと思います。
「新しさ」は発明よりも”再配置”から生まれる
⎯⎯キーンとは国を跨いでのコラボですが、国の風土がデザインに与える影響について、どう感じていますか?
デザインに対するアプローチやスコープに現れると思います。例えばヨーロッパと日本の間で仕事をすると、ディテールや時間、そして実行に対する向き合い方の違いに直面します。それは美的な違いというよりも、「どのように物事に取り組むか」という姿勢の違いです。私にとってデザインとは、調整(キャリブレーション)のプロセスです。文化的な文脈が最終的なアウトプットを決定するわけではありませんが、そのプロセスをどのように調整していくかには確実に影響を与えます。
⎯⎯普段、どのようなプロセスでシューズデザインを行っていますか?
すべては「構造」から始まります。つまり、その靴がどのように作られ、どのように支えられ、どのように機能するのか。美しさはその結果として現れるものです。私はスタイリングそのものにはあまり関心がなく、むしろプロダクトにおける明確なロジックを定義することに重きを置いています。それが定まれば、他の要素は自然と導かれていきます。

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⎯⎯トレンドを意識することはありますか?
観察はしますが、それを起点にデザインすることはありません。多くの場合、トレンドは表層的なものです。プロポーションや素材、参照元といった要素としては興味深いものもありますが、それが基盤になることはありません。時には自分の取り組みと重なることもあれば、そうでないこともあります。重要なのは、自分自身のロジックの一貫性を保つことだと考えています。
⎯⎯ファッション業界においては、常に新しさが求められるような側面もあると思いますが、シューズデザインにおける「新しさ」とは?
私は「新しさ」を、まったく前例のないものを生み出すことだとは考えていません。靴作りは何千年にもわたる歴史を持つクラフトであり、その形態や機能の多くはすでに探求され尽くしていて、今、私たちが扱っているアーキタイプを形作っています。私にとって重要なのは、「既存のフィールドの中でどのように操作するか」ということです。この歴史を制約、あるいは源泉として捉えながら、ノスタルジーに陥ることなく、どう向き合っていくか。そういう意味での「新しさ」は、発明というよりも”再配置”から生まれるものだと考えています。見慣れたものを、そのプロポーションや構造、可視性といった側面で限界まで押し広げていくことで、再び新しく感じられるようになるのです。
この考え方は、ヴァレリオ・オルジアティ(Valerio Olgiati)が「非参照の建築(Non-Referential Architecture)」で述べている内容とも近いものがあります。「新しさは参照から生まれるのではなく、作品そのものの内的必然性から立ち上がる」という考え方です。私にとってもまさにそれで、意味を積み重ねるのではなく、対象そのものが自律して成立するまで磨き上げていくことが重要だと考えています。
自分が取り組んでいることの構造が明確であれば、一種の“雑音への耐性”になる
⎯⎯フィレオが他のシューズブランドと異なる点はどういったところでしょうか。
「なぜ存在する必要があったのか」という根源的な問いに立脚しているかどうかが、他との違いを生んでいるのではないかと考えています。ある意味では、ブランドはかなりエゴイスティック(利己的)な存在です。私は若い頃、既存のシステムの中に自分の居場所を見出せず、自分自身のシステムを構築するしかありませんでした。フィレオはまさにそのための場所。つまり、学び、試し、自分の立ち位置を確立するための「枠組み」でした。この反体制とも言える態度は、主張として掲げているものではなく、あらゆる要素を形作る前提として存在しています。デザインの仕方や動き方、さらにはプロダクトを取り巻く文脈のつくり方にも表れています。ブランドとは固定されたアイデンティティというよりも、システムの中で、そして時にそれに抗いながら機能するための「方法」なのだと思います。

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⎯⎯「バズ」や「アテンション」が重要視される現代において、世間の潮流に流されず、自身のクリエイションに集中する方法を教えてください。
プロダクトそのものやクラフトに立ち返ることです。トレンドやアテンション、知名度といったものは外部的な要素です。一方で、ものづくりそのものは、はるかにゆっくりで、より精緻なプロセスです。自分が取り組んでいることの構造が明確であれば、それが一種の“雑音への耐性”になります。トレンドを避けるということではなく、それに依存しないことが重要だと考えています。
⎯⎯フィレオさんはまだ20代前半ですが、同世代で共有していると感じるムードはありますか?
ある種の“明晰さ”はあると思います。前の世代が世界を焼き尽くしてしまった部分があるからこそ、私たちは意識的にそれを再構築していく必要がある。システムや生産、流通、イメージといった構造を理解したうえで、それにただ従うのではなく、どう関わり、どう乗りこなしていくかを考えている世代だと思います。無垢さは少ないかもしれませんが、その分、より強い意志や意図を持っているのではないでしょうか。
⎯⎯3年前のインタビューでは、「自分らしさは、自分で考えることではなくて、自分が体験したことや出会った人によってどのように自分が変化していったか、でしかない」と仰っています。この3年間で経験された出来事や出会いを通して、自身に変化はありましたか?
はい。変化はありましたが、それは断絶のようなものではありません。私はこれまでずっと、ブランドを自分自身の“学校”のようなものとして捉えてきました。実践を通して自分自身を理解するために、ゼロから築き上げてきた存在で、継続的に洗練されていくプロセスでもあります。プロジェクトやコラボなど、さまざまな環境に関わるほどに、自分の立ち位置はより明確になっていきます。
そういう意味で、ブランドは表現の場としても機能しています。私にとって重要なのは、ハキム・ベイ(Hakim Bey)が「一時的自律ゾーン(Temporary Autonomous Zone)」と称した「国家と直接対峙することなく……消失のオペレーションとして立ち上がるもの」に近い「システムの内側にありながら、一時的にその硬直性から逸脱する空間」を作ることです。それは、固定観念から離れ、自由に思考し、行動できる場所でもあります。デザイナーとしても、一人の人間としても最終的に大切なのは、何か別のものになることではなく、何をすべきかが明確になっていくことです。

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⎯⎯生活と仕事はどのようにバランスをとっていますか?また、日常からインスピレーションを得ることはありますか?
私の場合、仕事とプライベートは明確に分かれているものではありません。インスピレーションは、特定の瞬間から生まれるというよりも、物や環境、場所といったものを継続的に観察することによって得られるものであり、常に続いているプロセスです。
最も影響を受けるのは、異なる文脈との対峙です。異なる文化や方法に触れることで、自分の立ち位置を理解するための“距離”が生まれる。別のあり方を経験してこそ、自分の環境と本当に向き合えるようになるのだと思います。日常は確かに仕事に影響を与えていますが、それは漠然としたかたちです。本質的な変化は、むしろもっと特異な瞬間⎯⎯予期しない出来事によって視点が大きくずれるような時に生まれることが多いと感じています。

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⎯⎯現代のファッション業界において、問題意識を感じていることがあれば教えてください。
昨今のファッション業界は、まさに「加速」の一途を辿っています。より多くを、より速く生み出すことが求められる反面、本質的な深さやラディカルさが失われつつあると感じられます。
⎯⎯そうした現状に対して、どのようにアプローチしていきたいと考えていますか?
いくつかのプロセスをあえて減速させることが必要だと考えています。私は、時間の中で持続するもの⎯⎯構造的にも、概念的にも耐久性のあるものを築くことに関心があります。
⎯⎯最後に、今後のブランドの展望を教えてください。
常に目指しているのは、プロダクト、空間、体験といった全てにまたがって存在する一貫したシステムを構築することです。最近、パリに初のフィジカルスペースをオープンしましたが、それは必然的なステップだったと感じています。プロダクトだけでは十分ではありません。ブランドは空間の中で存在し、単に「見られる」のではなく、「体験される」必要があります。
私にとってリテールは流通ではなく、一つのメディアです。作品をより正確に理解してもらうための文脈を構築する手段だと考えています。そのため、今後スペースを増やしていくことも、一般的な意味での拡大ではなく、そうした状況や体験の場を増やしていくという意味です。同時に、次のシーズンでは新しいラインも展開していきます。それも同じく単なるアイテムの追加ではなく、同じロジックのもとで異なる領域を探っていく試みです。
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