新商品を出せば、どれも数十分以内に完売。ポップアップには、平日から整理券を求める人が集まり、会場は盛況を見せる。コロナ禍にスタートしてから右肩上がりに売り上げを伸ばし続けているヘアアクセサリーブランド「ポテテ(POTETE)」のキュートでユーモアのある世界観は、10代から80代まで幅広い世代の女性から高い人気を集めている。
手掛けるのは原宿のヘアサロン「SHIMA」所属のヘアメイクアップアーティストであり、ブランドディレクターのANNA.。「女の子が好きなもの全てに詳しい」との呼び声も高い同氏が、幅広い世代から熱狂的に支持される理由を紐解く。
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手軽さ × 乙女心 コロナ禍に発表したシュシュがヒット
ジュエリーデザイナーの母を持つANNA.は、ヘアメイクアップアーティストを目指して19歳でSHIMAに入社。24歳からヘアメイクとしての仕事を開始した。美容師時代はアシスタントとして先輩の下につき修行をするという鉄板のキャリアを積んだが、ヘアメイクとしてのキャリアは、自然と仲良くなっていった業界の友人たちづてに自然に開かれていったという。自分の好きなファッションを突き詰めることがムーブメントとなった青文字系、ストリート系といった東京を起点としたスタイルが全盛期を迎える2000〜2010年代の原宿で、トレンドを牽引するトップサロンの人気美容師として知られたANNA.は、加藤ミリヤやローラといった著名なアーティストやモデルからも支持され知名度を高めた。
タレントを“完璧に仕上げる”ことに定評を集めた一方で、逆に覚えた「誰もがもっと簡単にメイクをして、手軽に“可愛く”なることができるのではないか」という感覚が、その後のANNA.のキャリアを築き、ポテテが生まれる原体験にもなっている。
雑誌で紹介するようなシューティングは、綺麗にレタッチされ過ぎてしまって、読者にとっては真似しづらいものなのではないか、とYouTubeでメイクのHow to動画の発信を始めた。自身で企画、編集、アフレコを行った動画が友人の編集者の目に留まり、「ヴォーグガール(VOGUE GIRL)」で数年間連載を持っていた。
転機となったのは、2020年に始まった新型コロナウイルスの拡大。リモートでは仕事にならないヘアメイクという仕事上、コロナ禍に発令された緊急事態宣言下で家での時間が増えたというANNA.。自身の“おうち時間”を充実させるため、スタイリストの友人が余らせていた布やミシンを譲り受け、元から興味があったという「自分が欲しいシュシュ」を手作りし始めたのがポテテの始まりだという。ゴムや布のサイズなどの細かな試行錯誤を重ねて完成したシュシュは、芸能人が着用しSNSにアップしたことを機に話題を集め、「誰でも簡単にヘアアレンジができる」ヒット商品となった。
19歳でSHIMAに入社して以来、常に「女の子をワクワクさせること」を得意分野としてきたと自負するANNA.がポテテを通じて発信するのは、「手軽さ」と同時に「女性である楽しさを思い出すような、“乙女心をくすぐる”プロダクト」でもあること。甘さがあるデザインや世界観のシュシュやヘアクリップ、ヘアゴム、コームやミラーなどを、年齢や普段のファッションスタイルを問わず、幅広い女性が手に取りやすい「コスメ」のような肌馴染みの良い色彩で展開している。
大きな什器が好機に? 世界観が“明確すぎる”ポップアップ
毎週100〜150点程度のシュシュを手作りし、ECで販売するD2Cブランドとして始動したポテテは、現在では百貨店でのポップアップを不定期に開催している。シュシュに並び、店頭で人気を見せるのは、アセテート製のヘアクリップ類。現在の主力商品でもあるこれらはシュシュとは違い、発売当初の売れ行きは伸び悩んでいた。
百貨店初出店となった伊勢丹新宿店でのポップアップは、コロナ禍での外出自粛で来店客数も落ち込んでいたタイミングで、出店を希望するブランドが少なかったことも起因してか、デビューまもないポテテに依頼が舞い込んだ。自粛ムードの中でも、初のポップアップ開催という新たな取り組みに期待感を持ち、「張り切って作った大きな什器」は、店頭で世界観演出のツールとして機能。「“バズったアイテム“だけでなく、ブランドの世界観や幅広いアイテムに対して、顧客以外の新たな客層にも関心を持ってもらうきっかけになったのでは」とANNA.は振り返る。
ポップアップの中には、百貨店の用意した無機質な空間とブランドの世界観に乖離が見られるケースもままあるが、ポテテは毎回1週間程度の会期のために旗艦店かのような空間を用意。シックな雰囲気の百貨店のフロア内で異色を放つ色彩の空間には、ポテテを知らない通行人も思わず足を止める。
大きな什器をはじめとした、選ぶ時間自体が楽しくなるアミューズメント的な空間の作り込みも「乙女心をくすぐる」ためのもの。近年は特に、削ぎ落されたシンプルなものが多いからこそ、ポテテの“ワクワクする”ような演出は逆にわかりやすくていいのかもしれないと同氏は分析する。
このほか、単価の安い商品にも愛着を持ってもらうための演出のため「ギフト」をイメージして製作したというパッケージやショッパーも明確な世界観発信ツールとして機能。ショッパーを目当てに来店するファンも多く、ショッパーを目にしてポップアップに足を運ぶ来店客もいた。
インスタグラムから話題を集めたポテテだが、利用者の年齢層が幅広い百貨店でポップアップを開催することで、客層の間口を広げている。中には、娘に付き添った母親の方が熱中して商品を選ぶといったシーンも多く見られるという。こうした世界観は、幅広い世代の女性たちを「女の子に戻ったような気持ち」にさせているようだ。
顧客と長く寄り添う、ジュエリーライン
ポテテを立ち上げて4年目。ブランドの新たなフェーズとして、今年5月にはジュエリーライン「ポテテ ジュエリー(POTETE jewelry)」を発表。コラボ以外でヘアに関わらないアイテムを発売するのは初の試みとなる。
ジュエリーには、昨年発売されたヘアオイルと共通して、「エンジェルナンバー*」といった概念が取り入れられた。コロナ禍に起因し、海外を中心に「自分に優しくなる」という価値観から生まれた“おまじない的”な商品が流行。そういった価値観は、ポテテの「女の子を簡単に可愛くする」という考え方にも通じることから、ポテテの商品にも同様におまじないのようなメッセージを込めたいと考えるようになった、と同氏は話す。
*エンジェルナンバー「444」:「あなたは天から愛され、何千もの天使達からサポートを受けていますので、全てがうまくいきます」という意味。
ポテテジュエリーでは、チャームとチェーンを全て単品で販売している。ジュエリーデザイナーである母の影響もあり、昔からジュエリーデザインへの憧れがあったというANNA.にとって、ジュエリーは「母から譲り受け、長い間身につけることで愛着が育つ」もの。海外で見られる、チャームを足していくことで「自分に幸せが舞い込む」といった考え方や、いいことがある度にチャームを買い足していくといった習慣に着想し、購入者ひとりひとりが人生の節目を共にする「自分で育てるジュエリー」を目指してチャーム式を採用した。
チャームとチェーンの価格は税込3万3000〜22万円と、ポテテで今まで展開してきた数千円のアイテムと比較すると挑戦的な価格設定だ。価格に対しても「やりすぎかなとも思った」というが、長く愛着を育てるためには、歳を取っていく過程で価値観が変わっても着け心地が悪くないものを作るべき、という考えから、素材にはシルバーやK18、トパーズやアメジストなどを使用した。
ジュエリーは受注生産で展開しており、初回分の受付は終了。次回の入荷は7月中旬を予定し、今後開催予定のポップアップのほかオンラインストアでも注文を受け付ける。手軽に購入できるヘアアクセサリーとは異なり、購入ハードルの高いジュエリーを並行して展開することで、長期的に顧客の人生に寄り添い続けることを目指すという。
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