PZ Opassuksatit
Image by: FASHIONSNAP.COM

Fashion インタビュー・対談

"酔っ払いサラリーマン"がドーバー銀座に出現、仕掛け人の「PZ Today」ってだれ?

PZ Opassuksatit
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 「PZ Today」という名で活動するアートディレクター PZ Opassuksatit。謎多き存在ながら、ファッション好きなら彼女の作品を一度は目にしたことがあるかもしれない。2015年に加入した「ヴェトモン(VETEMENTS)」では、"YOU FUCK'N ASSHOLE"プリントなどストリートでカルト的人気を巻き起こしたアイテムから、古着の山を展示した高級百貨店のウィンドウディスプレイまで、その強烈なヴィジュアルやアイデアで人々の記憶に残るプロジェクトに携わってきた。4月にドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)が開催したオープンハウスでは、ハイブランドが並ぶフロアに"酔っ払いサラリーマン"のインスタレーションを設置し、来店者を驚かせた。「PZ Today」とは何者なのか?

― PZさんについて事前に調べようとしたら、ネット上ではほとんど情報が見つかりませんでした。なのでまず基本的なことから聞かせてください。出身は?

 タイのバンコクです。1990年生まれで、今年で29歳。

PZ Todayの公式サイトはGoogle風。本人に関する情報はほとんど載っていない。

― どんな家庭で育ったのでしょうか。

 父は建築家で、母は歌うのが大好き(笑)!3人兄弟の真ん中で、姉は建築家、弟はミュージシャンなんです。

― アーティスト一家なんですね。PZさんは、デザインについてはタイで学んだんですか?

 まずファッションデザインをタイで勉強して、卒業後はタイブランドの「グレイハウンド(greyhound)」に就職しました。ウィメンズウェアのデザイナーとして働いていたんですが、ファッションデザインは10代の頃から好きでやっていたので、就職して2年ほど経った頃には新しいことに挑戦したいと思うようになって。イメージデザインやアートディレクションなど、服のデザインの次のステップに関わってみたいと思うようになったんですね。それで、仕事を辞めてパリのIFM(Institut français de la mode)でイメージデザインのMA(修士課程)に進学しました。

― 卒業後に「ヴェトモン」のチームの一員に?

 IFMの審査委員に「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」で20年以上にわたって仕事をしていたニナ・マリア・ニーチェ(Nina-Maria Nitsche *1)がいて、私のプレゼンテーションを見た彼女に「卒業後どうするの?」と声をかけられたのがきっかけですね。「ずっとマルジェラが好きなので働けたら嬉しい」なんて話して、それに対してはあっさり「ノー」と言われたんですが、「ヴェトモンっていうブランドは知ってる?興味があったらメールをしてみなさい」と連絡先を教えてもらって。早速メールを送ると1時間もしないうちに返信が届いて、その次の週にはもう働き始めていました。

*1=マルタン・マルジェラの右腕として知られる人物。2016年9月にはヴェトモンのコレクションディレクターに就任したことが報じられている。

― かなりスピーディーな展開だったんですね。

 そうなんです。チャイニーズレストランで発表した2016年春夏コレクションから参加したので、2015年頃ですね。

― ヴェトモンでは具体的にはどんな仕事をしていたんですか?

 肩書きとしては、イメージ&ヴィジュアルデザインのヘッド。グラフィックのコンセプトやインスタレーション、ヴィジュアルマーチャンダイジングを統括していました。

― では、山のような古着を展示して話題になった「サックス・フィフス・アベニュー」のウィンドウディスプレイも?

 はい。小さなチームだったので、ブレインストーミングから実際にお店に並ぶまで、全てのプロセスに関わることができて、とても楽しかった。チームのメンバーは家族みたいな存在で、今でもよく遊ぶし、仕事で助け合うこともあるんです。

― ヴェトモンを去ったのはいつですか?

 2018年の5月です。本社がチューリッヒに移転して、1年間は私も移住して働いていたんですが、スイスはEU加盟国ではないのでVISAの問題があって。ヴェトモンでの仕事を通してインスタレーションやオブジェクトデザインへの興味が湧いて、もっと追求してみたいという気持ちとも重なったので、良いタイミングかなと思って決断したんです。辞めてからは、VISAを持っているパリに拠点を戻しました。

― それからフリーで活動するようになったんですね。「PZ Today」という名前はどこから?

 PZは本名のファーストネームを略したもの。Todayは......"今日のPZ"だから(笑)!よく企業のウェブサイトで、連絡先の欄に「contact ○○」って書いてあったりするじゃないですか?PZ Todayって名前なら「contact PZ Today(今日中にPZに連絡して)」になるのが面白いなと思って、なんとなく(笑)。

― ノリのような由来だったんですね(笑)。今回販売している枕Tシャツなども、とびきりユニークです。

 これは自分の本にサンプルとして登場した一部なんです。前から関係があった「IDEA BOOKS」から声がかかって作った「PZ World」という本で。でも私に関する本にするつもりはなかったので、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)やキム・チー(Kim Chi)、マーティン・ローズ(Martin Rose)とか、好きなクリエイター55人に声をかけてコラボレーションしたものです。その中から商品化されたピローケースTシャツと「D'heygere」とコラボしたビアコースターイヤリングは、今回のオープンハウスでも販売されています。

「PZ World」はAmazonを彷彿とさせる通販ページのようなレイアウト。"出品者"にはヴァージル・アブローらクリエイター55人が名を連ね、リアル・フェイク問わずランダムな作品のイメージを各人6点ずつ掲載している。

キアヌ・リーブスのファンジンやROMBAUTとコラボしたレタスサンダルなども話題になりましたが、PZさんが関わっていたんですね。様々な仕事を手掛ける中で、特に好きなことは?

 雑誌や本のエディトリアルの仕事は本当に楽しいです。コンセプト作りからアートディレクション、グラフィックまであらゆるパートを体験できるから。

― 自身の作品の世界観を、どのように説明しますか?

 「何にでも美は宿っている」ということかな。ランダムだと思うものでも、ツイストを加えてみることで、新しい一面が見えたりする。......そう、このインスタレーションみたいに(笑)。  

ドーバー ストリート マーケット ギンザに展示されたPZ Todayのインスタレーション

― この酔っ払い達は一体......?

 東京の日常が大好きなんです。夜の渋谷ではこんな光景が広がっていて、本当にびっくり!渋谷のストリートにいた彼らを、ドーバーストリートに連れて来たイメージ(笑)。インスタレーションに置いているビールグラスは箱根のお土産屋さん、ビール瓶は東急ハンズで買ったものです。

 そして販売しているのがビアコースター イヤリングとピローケースTシャツ。ビールと枕......つまり、酔っ払って寝る…...それってよく考えたら、作品のコンセプトにもぴったりだなと思って(笑)。

― しかも参加型で、隣の椅子で項垂れれば誰でも作品の一部になれるのが面白いです。ユニークな作品が多いですが、インスピレーションはどこから来るのでしょう?

 旅先で見つける事が多いですね。旅行をすると、全く新しいカルチャーに触れるから。日本に来なかったら、こんな光景を目にすることなんてなかったので。日常からインスピレーションを得ているから、見る人も「これは私のことだ!」と親しみを感じてくれるんじゃないでしょうか。見た人がリレートできるような、何かしらの関係性を持てる作品になると良いなと常に思っています。

― タイ、フランス、スイスと様々な場所に住んできたPZさんにとって、最も日常だと感じる街はどこでしょうか?

 今はもうパリかな。でも、家族が住んでいるバンコクも親しみはあります。バンコクは人がすごく優しいし、みんな人生に真面目すぎないのが良い。 バンコクのそういう空気感は、私の作品にも影響を与えていると思います。

― 作品には何か共通のメッセージがあるのでしょうか?

 メッセージは常にありますが、それは作品ごとに違います。全ての作品に何かしらのメッセージやストーリーがあるべきだと信じているので。

― では今回のインスタレーションのメッセージは?

 「酒は飲みすぎるな」ということかな(笑)。見た人各々の解釈を持ってほしいので、大声では言わないことにします。

ヘルムート・ラングやヴァージルとの新しいプロジェクトも

― ファッションブランドのロゴブームが続いていますが、カルト的人気ブランドでアイコニックなグラフィックアイテムを作っていたクリエイターとして、どのように感じますか?

 ロゴは飽きやすいですよね。ストリート色もこれから薄まっていくムードですが、ファッションはそもそも行ったり来たりを繰り返すものなので。私個人としては、ストーリーのあるロゴは好き。ヴェトモンで使っていたグラフィックも日常で目にするものからインスパイアされたものばかりでした。ヘビメタやカレッジロゴのようなデザインだったり......どれも見た人の日常に当たり前のように存在していたものだからこそ、注目を集めたんだと思います。

― マルジェラがずっと好きだったとのことですが、惹かれる理由は?

 作品とリレートできることの重要性について話しましたが、私はマルタンにそれを感じるんです。例えば自分がデザインしていたものが、彼が同じタイミングで発表したピースに似ていることがあったり。周りには当時「コピーしたの?」なんて言われましたが(笑)。彼の作品は大好きなんです。

― では「メゾン マルジェラ」以外に好きなブランドを3つあげるとしたら?

 ビアコースターでコラボした「D'heygere」、友人が働いている「バレンシアガ(BALENCIAGA)」、あとは……「PZ Today」!(笑)

― PZさんならではのチョイスですね(笑)。休みの日はどんなことをしていますか?

 旅行や、買い物をしたり、友だちと飲んだり。今回はオープンハウスが終わったら、九州に温泉旅行に行くのが楽しみ!

― 最近ハマってるものは?

 一つに絞るのは、一番好きな娘を選べと親に言うようなものですね…...。テレビ番組だとしたら「ル・ポールのドラァグ・レース」。全エピソード見ているし、番組のインスタグラムは毎朝チェックしちゃう。

― よく見ているインスタグラムアカウントは?

 @uglydesign、@decorhardcore、@idealtd、@archivings.stacks

― 今はどんなプロジェクトを進めていますか?

 「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」のプロジェクトで、夏頃にTシャツを発売する予定です。あとはヴァージルとも、彼がシカゴの美術館で開催する個展に向けて一緒に仕事を進めています。その他だと「MARFA JOURNAL」でエディトリアルを担当しています。

― 次にやってみたいプロジェクトは?

 考えていることはたくさんありますが......一番は「PZ World」に続く自分の本を出したいですね。

■PZ Today:公式サイト

(聞き手:谷桃子)

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