森永邦彦が手掛ける「アンリアレイジ(ANREALAGE)」が、「Rakuten Fashion Week TOKYO 2023 S/S」のショーで表現したのは、デジタルとフィジカルの融合、という言葉で片付けられるものではなかった。「AとZ」「2次元と3次元」「月と地球」「天と地」といった対極に存在するはずの要素を組み合わせた先に映ったものは、森永が20年間続けてきた「アンリアレイジ」というブランドの過去であり、未来だった。
ショーの舞台は、ベルサール渋谷ファースト。会場には、2022年春夏コレクションでタッグを組んだ映画監督の細田守や東京ファッションウィークのテーマソングを担当した向井太一のほか、多くの業界関係者などが詰めかけ、場内にはこれから開催されるショーへの期待からかどこか落ち着かない雰囲気が漂っていた。
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しかし、そんな観客たちはカウントダウンの後、地鳴りのような轟音とともにスクリーンに映し出された映像作品によって強烈にショーの世界に引き込まれることとなる。半透明のスクリーンの後ろには、映像内に登場しているアイテムとリンクした服装のモデルが並び、そのままステージ上をウォーキング。モデルが着用しているのは、コロナ禍の2年間にデジタルで発表してきた作品たちだ。これまでデジタルでのみ披露されてきたアイテムを、映像と組み合わせて実物を魅せることでリアルのものとして表現し、「映像作品」から1つの「服」として認識を書き換えた。
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
鮮烈に観客の脳裏に焼き付いたショーが一段落すると、場内は暗転。スクリーンに映し出された地球と月が合わさり1つの時計に姿を変える。秒針が時を刻み12時を示すと、表示されている時間が逆行し、ショー冒頭で映し出された映像作品が高速で逆再生。スタート前のカウントダウンまで会場内の時を巻き戻した。何事もなかったかのように同じオープニングムービーが流れると、舞台袖から新作コレクションを着用したモデルが次々と登場し、ランウェイを歩く。ここではデジタル技術を一切使わずに新作を披露した。「何かが少し違うだけで、デジタルはやらずにフィジカルだけで発表を続けていた世界線があったかもしれない」と語る森永は、デジタルの特性を活かして空間ごと時間を巻き戻し、ショーの中で一種のパラレルワールドを表現してみせた。
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
2023年春夏コレクションでは、20年前、アンリアレイジがデビューシーズンで展開したパッチワークのコレクションをアップデートして展開。パターンを使わずに、それぞれを一つ一つ繋ぎ合わせて服の形にしていくというデビュー当初の服作りを再現し、当時のラインナップに近づけたという。「パッチワークというものは、やればやるほど綺麗で洗練された、ルールのあるものに仕上がっていく。一度原点に立ち帰ることでそういった『規則正しさ』を壊したかった」と森永。
クライマックスでは、そんな原点回帰とも言えるコレクションを身に纏ったモデルが一堂に会してフィナーレを迎える。ショーのクライマックスでは激しい曲調の音楽が使われることが多い中で、今回のショーではあえて穏やかな中にも起伏のある旋律のピアノ演奏をセレクト。厳かながらも優しいピアノの音色が、ブランドの全てを見てきた訳ではない観客にもある種の懐かしさや20年という歴史の重みを感じさせた。
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
森永は、20年前のデビュー当初を「20年後に同じパッチワークの服を作っているなんて夢にも思わなかった」と振り返る。「未来に向かって歩いていたら、一周して元の場所に戻ってきた。この先、色々なことがあると思うが、数十年後にまた今日のコレクションに戻ってくる予感がしている」と未来を予見した。
デザイナーの森永邦彦
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
ショーのテーマは「A&Z」。アルファベットの最初と最後の文字であるAとZを、森永は深く結びつくものだと解釈した。「光が強ければ、影は深い。光が弱ければ、影は浅い。日常と非日常の関係も、リアルとデジタルの関係も、同じに違いない」(森永)。「アルファベットが弧を描くなら、AとZは隣同士。Zは終わりではなく始まりだ」と語る森永の考えを推察するならば、デビューから20周年を迎えた現在は、ゴールではなく、アンリアレイジというブランドの新たなスタートラインに過ぎないのかもしれない。
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
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