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極北の記憶と機能美の対話、「セッチュウ」がミラノの新アトリエで紡いだ原初的な衣服への回帰

2026年秋冬コレクションを発表

SETCHU 2026年秋冬コレクション

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

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SETCHU 2026年秋冬コレクション

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 ミラノの喧騒から少し離れた場所にある、真新しいオフィス。そこには、ランウェイショー特有の張り詰めた緊張感とは異なる、どこか親密で、しかし知的な熱気に満ちた空気が流れていた。桑田悟史が手掛ける「セッチュウ(SETCHU)」は、その新しいオフィスで2026年秋冬コレクションを発表した。

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 今回、桑田が選択したのは、ただモデルがウォーキングを行う通常のショー形式ではなく、デザイナー自らが来場者にクリエイションの背景を語りかけるプレゼンテーション形式だった。「ハウスウォーミングパーティーのようなことをしたかったんです」と、訪れたゲストを招き入れた。その言葉の裏には、刹那的な視覚的インパクトよりも、衣服に宿る哲学と構造を深く伝えたいという、作り手としての真摯な想いが見えた。

 コレクションの深層に流れるのは、桑田自身が体験した、グリーンランドへの旅の記憶である。ロンドン在住時代、釣りのテレビ番組で目にした極北の地。木々さえ育たない巨大な岩塊が広がり、まるで生物の生存を拒絶するかのような不毛の大地。しかし、そこには年に一度、ほんの短い期間だけ信じられないほどの量の魚が回遊する瞬間が訪れるという。「嵐が来るから2時間しかない」と現地のガイドに告げられ、荒涼とした風景の中で釣り糸を垂らしたその原体験が、時を経てミラノの地で一つのコレクションとして結実した。

 桑田が着目したのは、極限環境で生きるイヌイットたちの衣服構造だ。彼らはアザラシなどの動物の皮を余すことなく使い、生きるための「道具」として衣服を仕立てる。そのアプローチは、現代のファッションが陥りがちな装飾過多な美学とは対極にある。例えば、動物の自然な身体のフォルムに沿ってアームホールを内側に配置する構造。これは素材の無駄を省くだけでなく、着用者の動きを妨げない合理性を備えている。さらに、アザラシの皮が持つ浮力を利用し、万が一の落水時には救命具としての機能も果たすという。「彼らは美しい衣服を作ろうというモチベーションを持っています。ただ、私たちのように美しく見せるための余分なステッチを加えるような贅沢はありません」。桑田が語るこの「機能に裏打ちされた美」こそが、今季のセッチュウの核となる。

 その思想は、現代的なワードローブへと見事に翻訳された。象徴的なのは、袖が前身頃へと極端にカーブを描くコートだ。イヌイットの衣服構造をヒントに、人体構造と動作を考慮して設計されたそのフォルムは、静止状態でも動きを感じさせる彫刻的な美しさを持つ。また、ブランドのシグネチャーである「折り」のテクニックも健在だ。山折り・谷折りを繰り返すことで平面から立体へと立ち上がるジャケットやドレスは、荒々しいグリーンランドの風景を想起させる。

 ディテールにおいては、桑田の個人的な趣味である「釣り」と、職人的な素材探求が交錯する。ウエストをマークするのは、釣り道具のモチーフを採用したベルトだ。かつて自らルアーデザインまで手掛けたという桑田の遊び心が、洗練されたスタイリングにウィットに富んだアクセントを加えている。一方で、ジップによって解体・変形が可能なアウターウェアは、多くのバッグがそのままガーメントへと変貌する機能を備えており、「移動」を前提とした現代のノマド的なライフスタイルに寄り添う。MA-1ジャケットは異素材での切り替えが施され、背面で結ぶディテールが加えられることで、ミリタリーの無骨さが中和され、エレガントなドレープを生み出していた。また、一見するとカビや苔のようにも見える独特なテクスチャーの素材や、鋭利なスタッズが打ち込まれたジャケットなど、異質な要素が衝突し合う。しかし、それらは不思議と調和し、セッチュウらしい「和洋折衷」ならぬ、自然と人工、過去と未来の折衷を描き出している。

 そして、この旅の物語はグリーンランドだけで完結しない。桑田の視線は、故郷である日本、特に北日本の雪国へと接続される。足元を支えるブーツのデザインソースとなったのは、北日本を旅した際に出会ったという、左右の区別のない古い靴だ。その形状からインスピレーションを得て、日本の職人が手作業で仕立てたシューズは、遠く離れたグリーンランドの機能美と共鳴する。また、蓑草鞋のアイデアを取り入れたピースも登場し、異なる文化圏に存在しながらも、厳しい自然と対峙するために人類が編み出した知恵が、桑田のフィルターを通して邂逅を果たした。

 「皆にとって何か新しい発見があれば良いと思いましたし、私自身にとってはこのフォーマットが新しい挑戦でした」。プレゼンテーションの最後、桑田は穏やかにそう結んだ。グリーンランドと日本の職人技術、ミラノのサルトリアル。それらを繋ぐのは、装飾としてのファッションではなく、生きるための知恵としての「美」である。セッチュウの2026年秋冬コレクションは、トレンドという表層的な波に抗い、衣服が本来持つべき「機能」と「構造」の美しさを、現代のラグジュアリーとして再定義してみせた。

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SETCHU 2026年秋冬コレクション

2026 AUTUMN WINTERファッションショー

FASHIONSNAP ディレクター

芳之内史也

Fumiya Yoshinouchi

1986年、愛媛県生まれ。立命館大学経営学部卒業後、レコオーランドに入社。東京を中心に、ミラノ、パリのファッションウィークを担当。国内若手デザイナーの発掘と育成をメディアのスタンスから行っている。2020年にはOTB主催「ITS 2020」でITS Press Choice Award審査員を、2019年から2023年までASIA FASHION COLLECTIONの審査員を務める。

最終更新日:

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