Image by: FASHIONSNAP
2015年にデビューした「シンヤコヅカ(SHINYAKOZUKA)」は、2018年にTokyo新人デザイナーファッション大賞に選出。その後、2019年秋冬シーズンの東京ファッションウィークに初参加し、翌2022年春夏シーズンにブランドとして初のフィジカルショーを開催。今年の3月にはブランド初の直営店をオープンさせるなど、着実にステップアップしている実力派ブランドだ。しかし、デザイナー小塚信哉は「正直、何をやっていても楽しくない時期があった。ブランド名を変えようと思ったこともある」と明かす。ブランドにとっての転換期はどこにあったのか。同ブランド初の直営店「スモールトレーズ(SMALL TRADES)」で聞いた。
小塚信哉
2013年セントラル・セント・マーチンズファッション学部メンズウェア学科を卒業。日本に帰国後、2015年より自身のブランド「シンヤコヅカ」を立ち上げる。2016年からセレクトショップでのバイヤーや、他ブランドのセールス、生産に携わっていた梶浦慎平が参加。2022年にブランド初となる直営店を南青山にオープンした。
公式インスタグラム/公式サイト
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ー出身は?
大阪です。三人兄弟の末っ子で、兄も姉も10歳近く年が離れているので一人っ子みたいなもんでした。だから1人で遊ぶことのほうが多くて。自分で設定を決めて1人で人形遊びとかをしていましたね。
ーファッションに興味を持ったきっかけは?
高校生の時に仲が良かった友達に「小塚っておしゃれやな」と言われてその気になったのがきっかけですかね(笑)。小学生の頃は、漫画家やゲームデザイナーになりたかったんですよ。なんにせよ「何かしらを作る仕事には就きたいな」と思っていました。
ー高校卒業後は?
東京に上京して専門学校に進学しました。
ー卒業する時にはデザイナーを志していた?
それも周りの人からの一言でその気になったんですよね。卒業する時に専門学校の先生に「大阪に帰って、適当に何かしようと思います」みたいなことを言ったら「そんなのもったいないから、デザイナーになったら?」と言われて。じゃあ、そうします、と。
ー卒業後、セントラル・セント・マーチンズ(Central Saint Martins/以下、セントマ)に進学。
前々から留学したいな、とは思っていて。元々自分に自信が持てない性格だったので「様々な考え方の色んな人に会って、クリエイションを見せつけられて諦めて帰ってこよう」と考えていました。
ー留学先に何故セントマを選んだんでしょうか?
アントワープ王立芸術アカデミーとも迷っていたんですが、当時ちょうど、瀬尾英樹さんや坂部三樹郎さんらのアントワープ卒のデザイナーが注目されていた頃で。僕の天の邪鬼精神が働いてセントマにしました(笑)。
ー「シンヤコヅカ」は、デザイナーの小塚さんと取締役の梶浦慎平さんの2人で切り盛りされています。お二人の出会いは?
ロンドンの語学学校で出会いました。僕はセントマに入るために留学中。梶浦は日本国内の大学を卒業してから就職するか進学するかを検討していて、海外の学校を視野に入れながらロンドンに滞在していたんです。
ーロンドンの語学学校で声をかけたのはどちらですか?
僕です。天の邪鬼だとか、諦めて帰ってこようとか言いながらも誰かと服の話がしたくて。そしたら20人くらいいるクラスの中で1人だけ「メゾン・マルタン・マルジェラ(Maison Martin Margiela)」のニットを着ている人がいたんです。「こいつ多分、服好きやろな」と思って話しかけたのが梶浦だった。梶浦の話では、話しかけられた時のことは全く覚えていない、と。異国の地で日本人同士でつるむのは本意じゃなかったから、あんまり日本人と関わらないようにしていたらしいです。
ーそれが一緒にブランドを運営するまでに。
仲良くなったきっかけはたくさんあって。例えば、ロンドンのロックバンド「ベイビーシャンブルズ(Babyshambles)」がどっちも好きだったり、僕がセントマを卒業してからもニューヨークの道でばったり会ったり、パリでたまたま再会したり。不思議な縁があるな、と。
ー梶浦さんが正式に「シンヤコヅカ」にジョインしたのはいつですか?
2017年秋冬コレクションからですね。その前から、インボイスはどう作るのか、服の値段はどう付けるべきかなどを遠隔で手伝ってもらっていたんです。
ーブランドでの2人の役割分担は?
デザインを僕が、それ以外を梶浦に頼んでいます。対外的なことを全部梶浦に任せているので僕はとっても楽です(笑)。
ーセントマで学んだ最も重要なことは?
僕はあまり自分が着るための服を作らないんですが、その理由はどちらかというとファンタジー寄りな考えで製作をするからで。ここでのファンタジーというのは、とにかく想像を掻き立てられるもの。服を見た時にそれぞれが違うモノを想像するような情緒的な価値を提供する、とでも言えばいいんでしょうか。ポケットの高さを数センチ上にする、というのは物質的価値。物質的価値ももちろん押さえながらも、情緒的価値も提案できたらな、と思っています。
小塚「よく粘土っぽいドローイングだねと言われます。デザインデッサンっぽい描き方も練習したんですけど、上手になれなかったんですよね」
もう一つセントマでの重要な学びは、プロセスを重要視することでしょうか。極論を言ってしまえば、製作のきっかけとなるインスピレーション源はなんでも良いということです。どちらかと言えば、着想源や物事に対して自分がどういうことを考えて、発展させていくかという点を授業を通して教えてもらった気がします。「リサーチ=調べる」ではなく「リサーチ=研究までする」という感覚ですね。
ー調べると研究の違いは具体的にどんなところにあると思いますか?
自分の意志がどれだけ入っているかですね。調べるだけならGoogleで検索すればいいと思うんです。そこに"自分"を付け加えていって、どんどん自分だけのものにしていくのが研究かな、と。
ーシンヤコヅカのブランドコンセプトは「BLUR、VAGUE(ぼかす、曖昧にする)」。
正直、ブランドコンセプトをちゃんと謳おうと思ったのは日本国内でやるからなんですよね。海外発のブランドはコンセプトを大体的に打ち出しているところが少ないし、僕もその路線で行こうと思ったんですけど、日本でやっていくならそれは難しい。それで「自分にとっての核はなんやろな」と考えて出てきたのが現在のブランドコンセプトです。「全部が明瞭じゃなくてもいい、全部がはっきりとしていたらしんどいやん」と。
ーブランドデビュー当初よりも、多様性が訴えられる現在の方がより多くの人に刺さるブランドコンセプトな気がします。
「多様性」という言葉を最近耳にするし、それはとても素敵なことだと思っていますが、どこかで流行語なんじゃないかなとも思っていて。ファッション業界にいる以上、流行は仕方がないよな、と思いつつ「よそはよそ、うちはうち」という気持ちを忘れたくない。より広い視野で物事を考えるということが当たり前になりつつある現在ですが、どちらかというと1つの視点だけで物事を見て欲しくないからやっている節はあります。
ー「よそはよそ、うちはうち」という気持ちはブランドデビュー時からある考えなんでしょうか?
2022年春夏コレクションでブランド初のランウェイショーを行ったタイミングくらいからの考え方かもしれないです。それまでは「どうやったら伝わるかな?」「どうやったらわかりやすくなるかな?」というのを考えながらやっていたんですけど、ショー以降は吹っ切れてしまって。今は、自分に矢印を向けて作っている感覚があります。
ただ、やっぱり着てくれるお客さんあってのブランドだし、世の中に発表するためには色々な人の力を借りなければならない。僕が「クリエイションの着想地点をもっと個人的なものにしよう」と思えたのは外側の面倒を見てくれる人がたくさんいるからなのかもしれません。
ー何故、吹っ切ることができたんでしょうか?
どちらかというと「デザイナーとしてどこまで行けるのかな?」というのを試したくなったんだと思います。吹っ切れる前は「今、自分はデザイナーとして面白くないことばかりをやっているな」という感じで、正直何をやっていても楽しくない時期があったんですけど、やっぱりデザインをすることが好きで、デザインが施されているものを見るのも好きということに気がついた。だったら一度、仕切り直そう、と。本当はブランド名も変えようと考えていたんですよ。
ー仕切り直しで、具体的な変化はありましたか?
2022年春夏コレクションからシーズンアイテムのことを「コレクション」と言わず「イシュー」と呼ぶようにしました。シーズンやコレクションと言うとクリエイションを制限される感じがして自分には合っていない気がして。イシューと銘打っておけば、年を跨いでいくつものテーマを設けられるし、それが3年間続いてもいい。コレクションをやる、というよりかはプロジェクトをやっているイメージですね。
あとは、シンヤコヅカを屋号としながらもその下に5つのラインを設けました。
シンヤコヅカが展開する5つのライン
・スモールトレーズ:イシュー毎のコンセプトを最も色濃く反映させるライン
・ミントコンディション:過去のアーカイブをデッドストックや古着の生地を使用して製作するライン
・アズイットワズ:リサーチをせずに自分の記憶のみを頼りに製作するライン
・ニューカラー:新たな色を加えるコラボレーションライン
・オーディナリーライフ:相対的に普遍性を持ったものを制作するライン
ー物事を主観的に捉えるクリエイションが最も反映されたのは2022年春夏コレクション?
そうですね。その時は、体と布の空間こそがデザインだと思ったんですよね。「余白にもシルエットがあるし、そこを見るのがデザインなんじゃないか」「デザインとは、定義しないという事を定義しているんじゃないかな」という考えが腑に落ちて生まれたのが2022年春夏コレクションです。
ー小塚さんにとって「デザイン」とは?
デザインとは、目に見えないものがなるべく伝わるもの。そこにこそ価値観があるんじゃないでしょうか。
ー日本国内のみならず、海外でも取り扱いが増えています。
2022年春夏コレクションの時点で、スペイン、イギリス、韓国、香港、台湾、中国にある16店舗とお取引させてもらっていますね。
ーそんな中、日本国内でブランド初となる直営店をオープンしました。
フルラインナップを都内で見せられるところを作らなければな、と考えたからです。何故かと言うと、先程から言っているように今の「シンヤコヅカ」はかなり僕の主観で物事を捉えているクリエイションなので、切り取られ方によってはブランドの空気感や世界観が伝わり切らないと思うんです。だったら、お客さんに直接的に語りかけられるようなスペースを作らないと現在のブランドが大事にしていることは表現できないだろうな、と。
ー店名は「スモールトレーズ(SMALL TRADES)」。
実は会社名も同じ名前なんですよ。
ー名前の由来は?
アーヴィング・ペン(Irving Penn)の同名写真集からです。異なる職業の人たちをまとめた作品なのですが、この写真集はセントマの卒業コレクションで発表したアイテムの一番の着想源だったりもします。
ー実際に来店されるお客さんの反応はどうですか?
実際に店頭に立って接客することはないんですが、先日50代くらいの方が来店されて。僕のことを「先生」と呼んでいたと聞きました(笑)。そういうのは直営店をやらないと見えないお客さんとのコミュニケーションだな、と。
ー最後に今後の展望を聞かせてください。
ブランドとしてはパリでランウェイ。業界としても世間としてもそこのステージをやってようやく一人前として認められると思うのでシンプルに目指してもいいかな、と。その下地ができてきた感覚もあります。
デザイナーとしては、バイアスを壊すことができたらと思っています。例えば、服は着ることが前提なのかもしれないけど、その考え方すらもバイアスだったらどうしようかなということは最近よく考えます。だから僕個人としては、美術館ではなくいち個人宅で飾りたいという理由で僕の作った服を買ってもらえたら、それはファッションを超えたかなと思います。
(聞き手:古堅明日香)
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