Fashion インタビュー・対談

【インタビュー】「ファッションはそんなに重要だろうか?」信國太志がデザイナーからテーラーに転身した理由

―40歳から新たなステージ、苦労はありましたか?

 10数年修行するのが当たり前の世界なので、当時は失敗も沢山ありましたね。佐々木さんの元で学びながら、天皇陛下の服を手がけるテーラーの服部晋さんのセミナーに参加したりもしました。佐々木さんからはすごくベーシックなものを学び直し、服部さんからは独自のテクニックみたいなものがあったら教えてもらおうと思っていたのですが、結局は教えてはくれませんでした。唯一教わったことは同じ方法論は無いということ。服部さんは自分で考えたテクニックを多用していて、一般的に言われていることと真逆のことをしたりするんです。服部さんの影響もあって、僕も自分で考えるようになり、構築的でありながら軽さがある服を目指すようになりました。

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全て信國氏の手で縫い上げられた顧客のビスポークスーツ

―参考にしている人はいますか?

 ジョン・ピアース(John Pearse)というテーラーがいるんですが、彼はマルコム・マクラーレンやザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)のメンバーの服を仕立てていました。格式を伝えるだけではなくスタイルを、それも音楽などカルチャーと関係があるようなテーラーでありたいという思いを持っています。一見邪道のように思われがちですが、着心地やカッティングについては、テーラー以上にテーラー的に考えている自負がありますし、日々研究もしています。

 今は、様々な人から吸収しながらも、ロンドンやナポリなど、1つのスタイルや方法論に染まらなかった事がオリジナリティを産む結果になったと思っています。僕は世界の誰もやってない方法で服を作っていますからね。僕の根底には海外の服のスタイルを日本人が着せられる、または海外の物を有り難がるという状況に一環して強烈な違和感があり、それがストリートからデザイン、仕立てと今まで遍歴してきた事の一環したモチベーションなのかもしれません。日本人として自分のスタイルで日本人のための物を作ることそのものが。

―信國さんにオーダーするとなったら、いくらでできるんですか?

 以前は若い人にも作ってあげたいという気持ちから20万円以下のパターンオーダーもやっていましたが、中途半端になりどちらにも良くないなと思い、今は30万円以上のフルオーダーから受け付けています。その店のやり方をお客さんに当てはめるハウススタイルを採用するテーラーが普通ですが、僕はハウススタイルを持っていないので、デザインから全てオーダー対応しています。

テーラーにおいて最も重要なテクニックとは?

―テーラー業界の現状について、どのように見ていますか?

 シュリンク傾向にありましたが、今は30代の人がたくさん出てきて面白くなっていますよ。ナポリなどで修行してきた人たちは、インターナショナルに認知されています。アトリエに入った当初は、働いている人が平均年齢が70歳ぐらいで、これはもう無くなる運命にあるのかという不安もあったので、よかったと思います。

―オーダーメイドのスーツは太ったときのことを考えると手を出しづらいという声もあります。

 よくそういう意見を聞くのですが、テーラーメイドの服は縫い代をかなり残して縫うので、体型が変わっても調整できるんです。逆に太っても大丈夫な服というのは、テーラーの服のみだと思いますね。

―縫い代はどれぐらい残しているものなんですか?

 大体後ろの脇で2,5cmずつ、5cmの縫い代があるので前後ろで10cm伸ばすことができます。

―テーラーで一番重要なテクニックはなんですか?

 アイロンです。パンツだったらふくらはぎ部分をふくらませたり、ジャケットだったら肩甲骨や胸の部分にアイロンをかけることで着心地が大きく変わってくる。工場生産の既製品との一番の違いはそこですね。服部さんは、ふくらはぎを膨らませるといった場合アイロンを4分、5分置いたままにします。焦げる匂いがする直前ぐらいまで温めることで、生地が固定されるんですよ。どんな一流ブランドのパターンオーダーでも、アイロンテクニックの面でテーラーとの差が歴然と出てきます。

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約二時間かけてアイロンで曲げられたトラウザーズは歩くごとに足に沿うシルエットに

―一着作るのにどれくらいの時間がかかるんですか?

 1週間以上はかかります。ボタンホールも手でかがるため、1つでだいたい20分〜30分ぐらいかかってしまします。

―テーラーの伝統を引き継ぎたいという思いはありますか?

 もちろんテーラーには生き残り続けてほしいですが、言っても僕はデザイナーなんだと思います。「今度こうしよう」というのが毎回あるからやっていられて、習ったことをそのまま続けていくだけの仕事はできないでしょうね。それにある意味この仕事は伝統を守る事ではありません。過去には革新的だった手法が残ってるだけで僕はさらに新しく既存の手法を覆そうと思っています。

―テーラーの中で新しいことを追求していくということでしょうか?

 そうですね。自分なりのやり方を考えるのが楽しくてやっているだけです。テーラリングはまず第一に芯という内部構造があって、そこに表地を添わせていきます。芯の作り方が無数にあって、テーラーによって方法は変わります。僕はテーラーの仕事を3段階にランク付けしており、Cクラスは芯地が毛芯ではない、もしくは3重の構造が元から出来ている「出来芯」を使っているテーラーで、一流ブランドのパターンオーダーもここにカテゴライズされます。Bクラスは3重構造の芯を独自で作っているレベルのこと。そしてAクラスは表地自体にアイロン操作で立体化させる作業をしていて、それを最大限に膨らませるために芯を作っているテーラーです。服部晋さんやフランスを拠点にしている鈴木健二郎さん、イギリスのエドワード・セクストン(EDWARD SEXTON)はAランクだと考えていて、僕もこのランクで独自性を追求していきたいと思っています。

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独自の方法で3重に重ねられ立体化された芯地

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