Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)
真っ暗な会場に、モノクロームのルック。
その光景は、予想外のものだった。
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「ヴィヴィアーノ(VIVIANO)」といえば、カラフルな色彩とボリュームのあるチュールドレスを思い浮かべる人は多い。だが2026年春夏、デザイナーのヴィヴィアーノ・スーが披露したのは、その既成イメージを覆す静謐な黒を基調にした世界だった。

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ルックの大半を黒で構成し、わずか8体のみの白いルックが登場。「ヴィヴィアーノを思い出すとき、カラフルでチュールをいっぱい使っているブランドではなく、ヴィンテージ感のあるロマンティックな服のブランドとして認識されたい」というデザイナーの言葉は、ブランドの新たな章の幕開けを決定づけるもの。その思いは、「ネオ ロマンティシズム(Neo Romanticism)」というコレクションタイトルにも反映されている。
AI時代に問う「人の手仕事」の価値

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制作の出発点となったのは、「ChatGPTをはじめとするAIが普及する現代社会において、人間にとって本当に大切なものは何か?」という本質的な問いだった。
「ファストファッションの服は安価で手軽に手に入るけれど、結局は長く残らない。最後に記憶に残るのは『人の手仕事』や『時間をかけたものづくり』。1920〜30年代のクチュールが今なお美しいように、自分もそうしたものを生み出したい」という強い意志が、緻密なディテールに込められている。
客席に置かれた扇子でさえ、ハンディファンが日常となった現代において、アナログならではの美しさを感じさせる演出になっていた。
ランジェリーに宿る親密なエレガンス

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コレクションのベースとなったのは、1920年代から60年代のクチュールや、アンティークの室内着だった。女性のネグリジェやルームウェアは、表に見せるものではないのに、驚くほど繊細なテクニックが詰まっているもの。レースや刺繍、ピンタックの細やかな表現で、プライベート空間に寄り添うランジェリーの親密な美しさを再現した。また、モアレやシフォン、サテンといったクチュール由来のエレガントな素材が、コレクション全体にロマンチックな質感を添えていた。

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レトロスポーツがもたらす軽やかさ

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一方で、1970年代から80年代のスポーツウェアやクラブチームのユニフォームからも着想を得ている。サテンで表現されたステッチラインや、レトロな軽やかさをまとったディテールが、クラシックとモダンが交差するムードを演出した。
ユニフォーム風のトップスは、ツイストした襟やパフスリーブ、バラの手刺繍で華やかさとカジュアルさを融合。胸元や背番号に施された「CIRCOLO 87」は、イタリア語で"クラブ(サークル)"を意味する言葉と、デザイナー自身の生まれ年(1987年)を重ねたもの。これらの要素がノスタルジックな親しみやすさとキャッチーな魅力を添えている。

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無彩色で浮かび上がるディテール

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色使いだけでなく、ブランドの代名詞とも言えるチュールの使用を大幅に減らしたことも特筆すべき変化。これまで強みにしてきた素材に頼ることなく、ブランドの世界観を表現できることを証明したかったという。
実際、色彩を削ぎ落としたことで、職人の手による刺繍や上品な素材使い、立体的なフォルムの造形がいっそう鮮明に際立っていた。

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覆い隠したドレスの意図

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ラストも印象深い演出だった。通常3〜4体制作するステートメントドレスを、今回は白と黒の2体のみに絞り込んだ。フィナーレを飾った黒のドレスは、全身にビジューやスパンコールを贅沢に施しながらも、あえて黒いベールで覆い隠している。
装飾を隠すことで生まれる神秘感は、まさに女性のランジェリーに通ずる「見せるための美しさではなく、隠された美しさ」を体現していた。

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グローバル市場への布石

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ヴィヴィアーノはこれまでユニセックスな提案を得意としてきたが、2025年春夏からメンズコレクションを独立させ、デザインをしっかりと差別化。これによりウィメンズでは、より女性に特化したデザインに集中できるようになり、ブランドにとって良い影響をもたらしている。
同時に海外PRも本格的に始動するため、今シーズンからロンドンのPRエージェンシーであるLobby PRと契約。現地のショールームにサンプルを常設し、貸出対応をスムーズに行っていく体制を整えた。これによって、海外のセレブリティの着用やエディトリアルなどでヴィヴィアーノを目にする機会が格段に増えるだろう。
今季のショーは、ブランドの確かな創造力を示すとともに、海外戦略の布石となり、次なるステージへの飛躍を予感させるものとなった。
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