Image by: FASHIONSNAP
「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)」を手掛ける山縣良和は近年、長崎県に魅了されているように見受けられる。2021年に発表したコレクション「writtenafterwards 12th 合掌 -Hidden Archives-」の一部を長崎県美術館で先行公開したことを皮切りに、今回の新作コレクション「writtenafterwards 12 Isolated Memorie」の展示会は、長崎県の小値賀島に位置する旧小西邸で先行発表された。山縣が書いたキャプションには「2018年に小値賀島に初めて降り立って以来、なぜかこの島々に心が惹きつけられてきました」と綴られていた。
そのこだわりは単純に、彼が長崎県で生まれ育ったからであるという理由だけでは納得できないような信念を感じさせる。山縣は「300年後も残る文化や歴史が小値賀島諸島にはあり、あの土地を基軸に、ファッションデザインと治癒を組み合わせることができないかと考えている」と話し、今回の新作コレクションが長期的なプロジェクトの第1弾であると述べた。
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「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)」と「リトゥン バイ(written by)」は、長崎県の五島列島の北部に位置する小値賀島で開催された同コレクションの展示会から1週間後の1月27日に、杉並区に位置する古民家いせやほりで東京展を開催。今回のコレクションは、小値賀島および隣島である無人島の野崎島、ブランドの拠点 東京・谷根千エリアを結ぶプロジェクト「記憶の島 T-shirts Project」の成果として発表され、東京展では、現地リサーチやワークショップの様子がスライドショー形式で報告された。コレクションルックは現存する五島列島の廃墟で撮影したという。
新作コレクションでは、島で得たインスピレーションや、日本の伝統文化を感じさせるアイテムを数多く展開。山縣は「五島列島でインスピレーションを受けつつ、同時並行で作ったのが今回のコレクション」と説明した。既製服の概念に捉われず表現することに特化した実験的なもの作りが特徴的なリトゥンアフターワーズからは、綿麻に畳を模した柄をプリント素材と布ガムテープをギャザーフリルのように縫い寄せた蓑に似たドレスなどを披露。リトゥンバイからは、ジャケットやパンツのアパレルアイテムをはじめ、スカーフや靴下などの小物アイテムも含む33型が発表された。リトゥンバイの新作アイテムにも、無人島や日本の伝統文化を感じさせるデザインを随所に散りばめており、シルクスクリーンを用いてガムテープを表現したTシャツや、広げると暖簾のような形に変化するトップスなどのアパレルアイテムのほか、錆染が施されたストールや、山縣が骨董屋で見つけたという年代物のレースと新聞紙を実寸代でスキャンしてそのままプリントしたスカーフ、破れた障子を画像として取り込みプリントしたスカーフなどの小物アイテムも展開。破れた障子をプリントしたスカーフは、任意で穴を開け着用することもできる。一方で、黒と白を基調としたシンプルなアイテムも継続して用意。綿生地に和紙をプリントさせたシャツやコートのほか、昨年好評だったつなぎからは、オリジナルのヘリボーン生地を用いた新作などを発表した。
山縣が魅了されている小値賀島は、五島列島北部に位置する人口2000人ほどの小さな島であり、その周辺に位置する野崎島は隠れキリシタンが移り住んだ歴史を持つ。また、中国大陸に最も近い貿易ルートの一つとして、古くは遣唐使の時代から貿易の要として栄えたことから、海のシルクロードとも言われている。山縣は小値賀島をはじめとする諸島を「小さな島々に住む島民の素朴な生活や振る舞いと、群島と本州との交友や西欧と東洋の精神的な対峙と融合からなる壮大な歴史を体験できる場所は世界にも類を見ない」と形容し、「300年後も残る文化や歴史を持つこの群島は、世界遺産として世界的なメッセージを伝えることができる」と話した。
山縣が“世界的なメッセージ”という広義かつ大きな対象へと伝えたいこととは何か。それは「ファッションデザインと治癒の関係性」である。山縣は以前から「ファッションには人間の心を癒す力があると思っている」と方々で話しており、今回のプロジェクトもその信念に基づいた長期的なプロジェクトであると説明した。
「群島の中には、自治体の中で貧困に喘ぐ人を近くの小さな島に移り住ませ、非課税対象にする仕組みが約300年近く続いていたそうです。民俗学者の柳田國男はそれを『自立更生の島』と名付けました。コロナ禍もあり、心がダウンする人が周りにも多くなりました。隠れキリシタンの移住の地でもあり、貿易の要として謂わば『日本のファッションのスタート地点』とも呼べる、自立更生のこの島々だらからこそできる、ファッションデザインと治癒を組み合わせた何かがあるんじゃないか、と。まれびとのような立場で、島に行き、帰り、時には移り住むような服を絡めた壮大なプロジェクトを考えています」(山縣良和)。
小値賀島の歴史や環境と対峙することによって、装いの創造と可能性を引き出し、新たな活動のスタート拠点となることが今から楽しみだ。
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